「……やっと……会えた……」
白野の瞳に理性の光が戻ったのを確認した瞬間。士郎の張り詰めていた緊張の糸が完全に切れた。
黄金色の世界がガラスのように砕け散り、領域は解けてしまう。いや、もはや維持する力すら残っていなかったのだ。
「……士郎……!」
白野はその名を呼びながら、崩れ落ちる彼の身体を必死に抱きしめた。これまでの激しい戦い。そして直前に自分自身が与えてしまった深い傷。彼が今まで立っていたこと自体が奇跡だったのだ。
その二人の前に領域から解放されたアルトルージュが静かに降り立った。その美しい顔は今まで見せたこともないような憤怒に燃え上がっていた。純白のドレスは所々焼け焦げ、その絶対者としてのプライドはズタズタに引き裂かれていた。
「……人間の分際で……」
「よくもこの高貴なる私に傷をつけたわね……!」
彼女の静かなしかし底知れない怒りが城全体を震わせる。
「もはや許さぬ……! その女も、その腹の子も、もう、いらぬ……!」
「家族仲良く、ここで塵となりなさいッ!!」
アルトルージュの両手に世界の理不尽を全て凝縮したかのような禍々しい黒い太陽が生み出される。それはこの城ごと、この一帯を完全に消滅させるであろう超強力な一撃。
絶体絶命。
士郎はもはや指一本動かせず、白野もまたその圧倒的な力の前にただ愛する人を抱きしめることしかできない。
だがその破滅の一撃が放たれる直前。
ふわり、と。
どこからともなく無数の花びらが舞い散った。
そして士郎と白野の目の前に半透明の光の壁が現れる。
その壁の向こう側で一人の女性が静かに佇んでいた。
青いリボンで結ばれていない美しく流れるような金色の髪。白いブラウスと青いロングスカート。
それはかつて士郎が夢の果てで再会した騎士王の最後の姿。
アルトルージュが放った黒い太陽が光の壁に着弾する。
凄まじい轟音と衝撃。
しかしその絶対的な破壊は光の壁を破ることはできず、完全に防がれてしまった。
その壁は全ての物理干渉を遮断する最強の守り。かつて彼女が手にしていた宝具。
全て遠き理想郷(アヴァロン)。
攻撃を防ぎきった後、彼女は悲しげな瞳で白野の腕の中で意識を失いかけている士郎を見つめた。
「――私はもう見たくない。士郎が傷つき悲しむ姿は」
その凛とした、しかしどこか泣いているような声だけを残し、彼女の姿は光の粒子となって消えていった。
マーリンが起こした一度きりの奇跡。星の内海からのほんの僅かな助け舟。
「……誰……?」
白野は目の前で起きたあまりにも幻想的な光景にただ呆然と呟くことしかできなかった。
一方士郎は薄れゆく意識の中で確かに感じていた。懐かしい彼女の気配を。その温かい光を。
「……俺は……いつも……助けられてばかりだ……」
その小さな囁きを最後に衛宮士郎の意識は完全に闇へと沈んだ。
二人は絶望の淵で心が折れる寸前だった。だがこの最後の奇跡が彼らの砕け散った心をかろうじて繋ぎ止めていた。