───【緋を呑む迷宮】、その名前は以前聞いたことがある。【黒の防人】が人生最期に訪れる迷宮。"熱"を溜め込む『浄化』を課された彼らが、限界を迎えた際に生命諸共解放するための空間。
言ってしまえばオニキスフレアの
「───その存在は耳にしていましたが、まさか西部全域を覆う程の広さだとは・・・・・・」
「初代アガットランド当主が直々に生み出した迷宮だそうですぜ?一階層しか存在しない代わりに、馬鹿みたいに広い・・・・・・しかも元々用意した空間をぶち壊して広がってるそうで。どんだけ凄ぇ爆炎だったんでしょうなぁ?」
「・・・・・・歴代当主の末期であれば、あり得る話でしょうね。おそらく許容熱量も、溜め込んだ時間も規格外ですから」
"マウス"と名乗る、自称西部冒険者ギルドの一員の案内で迷宮を進んでいく。怪物も罠も存在しない、ただひたすら広大な空間は足が疲れるけど気が楽だ。
無断で墓を荒らしてるようで気分は良くないけど、テロリストに追われながら進むのに比べればマシだった。
「しかし、この空間は一般に利用されるものなのですか?」
「いやいやまさかっ!?西部で一番ヤバい連中の縄張りですぜぇ?相手が旦那方じゃなけりゃ自殺も同然でさぁ」
「・・・・・・と、いうことは俺たちが誰か知ってるんだな」
まあそれは想定内だ。【
怪しさに拍車が掛かりはしたが、今のところコイツに何かされた訳じゃない。寧ろ助けられてるんだから余計な詮索をするつもりはない。
「ひ、ヒヒッ・・・・・・もちろんご存知でさぁ。オニキスフレアに目ぇ付けられた新たな犠牲者。そんでもって、最上位の『要暗殺対象』だって」
「・・・・・・・・・マジで?」
「大マジですよぉ、まあ肝心のオニキスフレアが大コケしたんで取り下げられやしたけど。そんな訳で旦那は結構こっちじゃ有名人なんですぜ?」
し、知らなかった。もしオニキスフレアにとっ捕まってたら、予想外の方向から始末されてた可能性が・・・・・・?こ、怖ぇ・・・・・・!?
まあ現実にならなかった可能性は置いておいて、よくよく考えてみれば不思議な話だよな。つい最近まで頭痛の種だった連中を頼る形になるってのも。
「けどまあ、そのお陰で一番乗り出来たのは幸運ですわ。こうして安全に進めてる訳ですし、たっぷり貸しにしといてくだせぇよ?」
「ああはいはい、分かった分かった・・・・・・実際役立ってるから文句言えねぇしな。流石に連中も此処まで追ってはこれないか」
「追ってきたところで、少しでも騒ぎになればすぐオニキスフレアが駆けつけるでしょうから。短期決戦が可能なら最初の時点で投入している筈ですし」
それもそうか・・・・・・にしても本当に意味が分からん。自慢じゃないが、連中の幹部である『大蛇衆』とは三度もやり合ってるんだ。俺たちの戦力もある程度計れてるだろうに、どうして三下しか寄越さない?
多分本気で仕掛けてくるとしたら、自治区の目前にある『ブラック・オパール子爵領』だろうな。それまではこっちの削りに徹するって考えは理解出来る。だけど本気で潰す気なら、幹部を複数投入するもんじゃないか?【黒星事件】の時ですら二人も割いたってのに。
「だ、旦那方・・・・・・見た目に反して大した健脚ぶりですなぁ。そろそろ休憩って訳にはいきやせんか?」
「そうですね、幾らオニキスフレアの縄張りでも過信は禁物です。カーツさん、此処で一休みしませんか?」
「賛成だ。『連合』のお陰で一息つけたとはいえ、次はいつ休めるか分かったもんじゃない。休憩は小まめに取ろう」
ただでさえ物資不足だからな。早く進みたい気持ちはあるが、無理をしてもリカバリーが効かないんだ。焦っても良いことなんてない。
手持ちのドライフルーツや水筒で疲れを取る。"マウス"にも分けようとしたが、丁重に辞退されてしまった。自前の食糧もなさそうだけど大丈夫か?
「───それで"マウス"さん、私たちはこのまま進めば地上の何処へ出るのでしょう?」
「へぇ、順調に進めばブラックオパールとブラックトルマリンの境に出ますがね。ですがそれより先にオニキスフレアに見つけてもらえるでしょうな。そっちの方が旦那方には都合が良いでしょう?」
「そりゃまあ、そうだな。今の連中なら交渉が出来るし、護衛なり囮なりやってもらえるなら言うことなしだ」
もし必要なら、クイン達の治療法として考えてる施術を幾つか試しても良い。他の貴族はともかくとして、【浄血】に関しては俺自身が交渉材料になれるからな。出たとこ勝負でも何とかなるだろう。
「あれ、でもそういえばアイツら結構好戦的だったよな?見かけた瞬間燃やされるって可能性はないか??」
「ああ、その点はご安心を。この外套があればいきなり仕掛けてくることはない筈です。我々の魔力が浸透しているので、【浄血】同士であれば暗がりでも認識が出来るんです」
あ、そんな機能も付いてるのかコレ。特注だって聞いてたがなるほどな。道理で此処を通るのにクインが反対しなかった訳だ。
この場所はオニキスフレアにとっても重要な筈だし、侵入者を検知する魔導具くらい設置してあるだろ。そうなれば───噂をすれば何とやら、だな。
「おや、お早いお着きですね。お陰で助かりました」
「───来訪の知らせは聞いていないのだがな。しかもよりにもよって貴様らか」
「おいおい、随分とご挨拶だな。つい最近まで俺の尻追っ掛け回してた分際でよ」
「誤解を招く表現は止めろ」
いや、自分らがやろうとしてたこと胸に手を当てて振り返れば?対して間違った表現じゃねぇだろ。
声を掛けてきたのは黒い外套を纏った病的に白いガリガリの青年。だけど北で見た連中と違って髪は艶のある黒髪だな。
「はぁ・・・・・・オニキスフレアの防人を監督しているデュッセルだ。取り敢えず屋敷まで連行させてもらうぞ。丁重に扱うつもりだが、一応貴殿等は不法侵入者だからな」
「はいはい、仰せのままにってな。頼むから変なことしないでくれよ?」
「・・・・・・お望みなら解剖して一点物の魔導具に加工してやるが?」
いや怖ぇよ、冗談に聞こえないんだよお前らが言うと。何か思った以上にあっさり話が進んだな。取り敢えず、【