言われたいんですけど、どのトラックに轢かれたらいいですか?

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1番胸を揉みたいのはチョンユエ


シュウ「私で童貞捨ててみる?」

「死ぬときはでっけぇおっぱいに埋もれて死にてぇよな~!」

 

「うん。酔ってるのは分かったからもう少し声を落とそうか。公共の場所だよ」

 

「今更誰かに聞かれてもどうでもいいんだよクソイケメン野郎」

 

「オーキッドより理不尽だなぁ」

 

 目の前で呆れた顔をしているサルカズの男──ミッドナイトが水を差しだしてくる……が、無視して手元の酒を呷る。飲まずにやってられるかってんだ。

 

「いいよなぁお前は。昔は女の子侍らせてとっかえひっかえヤリまくりモテまくりだったんだろぉ? トップホストだもんなぁ」

 

「酷い偏見だな……俺はちゃんとあの仕事にも女に子達にも真摯に向き合ってたよ」

 

「そんな正論はどうでもいいんだよ! ……なあ、ミッドナイト」

 

 可能な限り真剣な声色と真剣な表情を作る。その甲斐あってか、彼の方もこちらの話に耳を傾ける姿勢を作ってくれた。

 

「おっぱいって……どんな感触なんだ?」

 

「脂肪の塊」

 

 俺は激怒した。必ず、かの邪智暴虐モテ野郎を除かなければならぬと決意した。俺には女体の感触がわからぬ。俺は、只の童貞である。

 

「冗談だからそんな怒るなよ。というか、彼女とかに揉ませてもらったことぐらいあるだろ?」

 

「触れちゃいけない部分があるだろうが……表出ろや……」

 

 彼女いない歴=年齢。酒の味は知っていても女の味……どころか下手したら匂いも知らない。それが俺という生き物である。

 

「もういっそ、そういう店行って来なよ。金さえ払えば揉み放題だぞ?」

 

「もう行った。そんで叩き出された。鉱石病患者はお断りって」

 

「あー……」

 

 良くある話だ。ロドスに来るまでは飯を買うことすらできなかったのだから、それに比べればこの程度笑い話だというもの。とはいえ流石に、非感染者には飛ばせない類のアネクドートだが。

 

「はぁ……俺はこうして童貞のまま、いつか戦場で死ぬんだ……」

 

「悲観主義すぎるだろ。泣き上戸か?」

 

「じゃあなんかいい方法でもあるのか?」

 

「……すまん」

 

「うおぉぉぉぉおおん!!」

 

 

 

 唐突で申し訳ないが、この世界はクソだ。

 

 鉱石病とかいう致死率100%の病気が大体すべてが悪い。よく分からんって奴は罹ったら絶対に死ぬくせに簡単に人に感染するクソッたれな病気があるとだけ理解してくれればいい。

 

 当然、そんな病気を持ってるやつになんて誰も近寄ろうとは思わない。逆の立場だったら俺だってそうだ。だって例えば、ちょっと身体がよろめいてそいつにぶつかったら、うっかりそいつの体表の原石に触れたら。それだけで遠くない将来に死ぬことが確定する。健康な人間からしたらたまったもんじゃない。

 

 それに加えて天災の存在。

 

 暴風や雪害、豪雨、洪水……どころか隕石の落下までも含む。当然そんなものに見舞われた都市は滅茶苦茶になるし、天災がさっき言った病気の媒介物を運んでくるというのもクソさを助長している。

 

 当然。そんな世界で弱者に優しくする余裕なんて誰も持ち合わせちゃいない。みんな、自分の明日の飯を確保するだけでも精一杯なのだから。

 

 そんな中で治療先兼就職先を見つけて、明日の飯の心配をしなくて良くなった俺は幸せな方なのだろう。少なくとも、残飯の残飯を奪い合って、路上の死体を食うかどうか真剣に悩んでいた頃の俺が見たら死ぬほど羨ましがるはずだ。

 

 だがまあ。生活レベルが上がればもっと上をと夢見てしまうのが人間という生き物だ。

 

 安全な寝床、餓死を心配しなくていい食事。寂しさを埋めてくれる異性──なんだか三大欲求の割に最後だけえらく俗っぽい気はするが、俺の求める夢はそんな風に変わっていっている。

 

(まあ、俺の夢が叶うことはないだろうが)

 

 暖かい寝床。美味しい食事と酒。それらを味わえただけでも十分すぎるほどに恵まれている。……わかってる。わかってはいるが。

 

(夢は、見ちまうんだよなぁ)

 

 そんなことを酔った頭で考えながら、ふらふらとした足取りで自室への道を歩く。

 

 当然、注意力も落ちているし、そもおも目の前をろくに見ていなかったのだから、他人にぶつかるのは当然の話。

 

「あら、ごめんなさい。大丈夫?」

 

 俺より小柄なのに体幹の差で負けた。さては重装オペレーターの誰かか──なんて余計なことを頭の片隅で考えつつ、こちらこそ申し訳ないと謝ろうとして。

 

 時が止まった。

 

「?」

 

「天使……」

 

 初対面の相手だった──のは珍しい話じゃない。広く人材を受け入れているここには、戦闘要員やら医療班やら、果てはどっかの社長やら貴族やらまでひっきりなしに来ているという話だ。そりゃあ面識のない相手の一人や二人も居るというもの。

 

 だがここまでの美人はそうはお目にかかれない。ギリギリ時々見かける銀髪のLungかドラコか分からんあの姉ちゃんぐらいか。『エイガ』とやらを撮るのに付き合わされた思い出ぐらいしかないが。

 

 彼女は銀髪だった。だが目の前の美人は金の混じった銀髪だ。

 

 一面に実った稲穂が夕焼けに照らされて輝いているような……故郷の数少ないいい思い出を呼び起こされるような金色。少し視線を下に向ければほっそりとしつつも華奢ではない肩が露出している。健康的でえっちなことこの上ない──

 

「……もしかして、立てないの? ──はい」

 

 見惚れて呆然としていただけなのだが勘違いを産んでしまったらしい。美人から差し伸べられる手を拒む理由などあるはずも無く、喜んでその手を取り、礼を言いつつ──

 

「──ぁ?」

「──あら」

 

 一つ目は、酔いのせいで足の踏ん張りが利かず、つんのめってしまった俺の間抜けな声。引っ張り上げられる力が想像以上に強かったせいもあると言い訳はさせて欲しいが。

 

 二つ目は……その結果。助け起こした相手が、ぽふん、と自分の胸に倒れてきた美人さんの声。反射的に突き飛ばされなかったのは幸運だったのだろう。

 

 だがまあ、その時の俺はそれどころじゃなかった。布程度しか遮る物のない柔らかい感触と、日向を思わせるような安心する匂い。

 

 酒の回りすぎた意識を飛ばすには十分だった。

 

 

 

 

 

 

 なんとも言えないいい香りで目を覚ました。どこかで嗅いだことはあるはずだが、思い出せない。しかし記憶には引っかかっている。

 

 知らない天井……ではない。ロドスの個室は基本的なつくりはどこも同じだ。人によっては天井まで飾り付けてるかもしれないが。

 

 とはいえ自室でないことは確かだ。ならばここはと昨日の記憶を辿ろうとしたところで。

 

「おはよう。気分はどう? 貴方、いきなり倒れたのだけれど、覚えてる?」

 

 愛らしい声が耳に入った。そちらを見やれば昨日出会った美人の姿。いくら酔っていたとはいえ、流石にこんな相手を忘れるわけがない。

 

「あー……正直、あまり。どうにも、貴女があまりに美しいから記憶が飛んでしまったらしい」

 

 大仰な仕草と共にそんなことを言ってみれば、少なくとも冗談を解してくれる人間ではあったのだろう。クスクスと笑いながら返事を返してくれる。

 

「じゃあ私の胸にいきなり飛び込んできたことは許してあげる。それより、貴方もご飯食べない?」

 

 匂いの元は彼女の食事だったらしい。米と汁物、それと焼かれた魚。一汁一菜……なんて言葉は後で知ったが、ともかく朝飯の時間まで眠りこけていたらしい。

 

「いいのか?」

 

「ええ。ちょっと食堂に行くから時間はもらうけど。それに、今更遠慮なんてもう遅いでしょう?」

 

「? どういう……」

 

 まさか遠慮がなくなるような関係になっていたのか。だとしたら記憶を無くしたのは痛恨の極み──なんて童貞特有の妄想が広がりそうになったが。

 

「人の布団を朝まで占領してくれたじゃない。今更迷惑がどうなんて遅いわよ」

 

「すいませんっした!」

 

 良く考えてみれば自室でないのにベッドで目を覚ますというのはそういうことだ。部屋主を差し置いて自分だけ安眠……というか惰眠を貪ってしまったらしい。

 

「ふふ、ごめんなさい。別に怒ってるわけじゃないの。少しからかってみたくなっちゃって」

 

 それじゃ、あなたの分のご飯持ってきてあげるから。そう言って彼女は部屋を出て行ってしまった。

 

 ひとまず怒らせていなかったということに安堵する。せっかくあんな美人と知り合えたというのに、いきなり険悪な関係性になってしまったら俺は泣く。まだ名前すら聞いていないというのに。

 

 彼女が帰ってくるまでさほど時間はかからなかった。急いでくれた、というわけでもなさそうだし、多分この部屋が食堂からそう離れてはいないのだろう。

 

 持って来てくれたことに礼を言って、早速食事にありつこうとしたところで彼女から制止が入った。

 

「食べる前に、言うことがあるでしょう?」

 

 そう言われて、きちんと礼も伝えたはずだし、いったい何が言いたいんだと考えること数瞬。思いついた言葉を口にする。

 

「……いただきます?」

 

「正解。どうぞ、召し上がれ」

 

 微笑んでそんなことを言ってくれた。可愛い。

 

 しかしながら。出された食事を一口食べた時点で、俺の興味はそちらに移った。生憎美辞麗句を並びたてられるほどの教養が無い俺では美味しい以上の言葉は思いつかなかったが、普段食堂で食べているものよりも数段美味しかった。

 

「口に合ったみたいね」

 

 先に食事を終えていた彼女からそんな一言が飛んできた。がっついている所を見られていたらしい。恥だ。

 

「凄い美味かった……ぐらいしか言えないのが自分でも悲しいが。ともかく美味かった」

 

 素材の良さだとか調理人の腕前だとか、そういったものもあるのだろうが、それ以上に──郷愁を掻き立てられるような、そんな朝食だった。

 そして、やっと気がついた。記憶にあった香りの正体。ゴミを漁って食べ物を探していた時に、ふとそこらの家の窓から漂ってきた『普通の暮らし』の匂い。

 

「──おふくろの味ってやつか……?」

 

「……そこはせめて、お姉ちゃんの味ぐらいにならない?」

 

 そんなささやかな抗議で、今食べた料理が目の目の美人の手料理であったことを知った。

 

 俺が、みんなのお姉ちゃん的存在として有名になりつつあったらしい彼女──シュウとの仲を深める、最初の出会いはそんなものだった。

 

 

 

 

 

 それから、たまに料理をご馳走になる仲にはなれた。兄妹と食事をとる時は邪魔をしないようにと遠慮させてもらっているが(ここにはいない人も含めると全部で12人の兄弟姉妹らしい。大家族だ)、それ以外の時は一緒に食事を摂っている……というか、作ってもらっている。初対面の時の食べっぷりが気に入ったらしい。二人きりの時もあればそうでない時もある。おかげで顔が広くなってきた。

 

 シュウと一緒に過ごすメンツの中で、最近特に流行りだしたものがある……なんて勿体つけるほどの事でもないが、近ごろ占いというやつがロドスでプチブームになっている。

 

 シュウ姉さんは必要になるものを事前に察知するだとか、彼女が成功失敗を事前に言い当てただとか、そんな風聞から始まった流行り。彼女曰く「瓜を植えれば瓜が実り、豆を植えれば豆が実る。これほど単純な道理はないわ」とのことだったが。残念ながら俺達は、目の前の難題をそんな単純な真実に置き換えてみることはできないのだ。

 

 ただまあ、占いというのは俺も興味があった。別にそこまで信心深い性質でもないが、かといって戦場のゲン担ぎなどを馬鹿にするほどリアリストでもない。新年にクジを引くような感覚だ。悩みに対して良い結果を占ってもらえれば自信になるし、悪かったら話のネタにする。その程度のもの。

 

 シュウに占って欲しいことがある、と頼んでみれば、実に容易くOKがもらえた。素面で話すのは恥ずかしい悩みについてと付け加えれば、いいお酒を用意しておくから二人で飲みながら話しましょうかと誘いが返ってきた。もうこの時点でくじを引いたら大吉が出たぐらいには嬉しい話だ。美人と二人きりで飲む酒が不味いわけがないのだから。

 

 

 

 彼女が作ってくれる料理は炎国のものともまた違う。素材の味を活かすような味付け、とか言っていたような気がするが、調味料の作り方などは説明されても覚えきれなかった。

 

 正直に言ってしまえば塩気があって酒が進めば大体の料理を好物と言ってしまえる俺には多分もったいないのだろう。そんな相手にも手を抜かないのはシュウの生真面目さなのか、単純に自分も口にするものだからなのか。

 

 一汁三菜。酒のアテの分おかずが多いのは有り難い。しかも今回は料理上手な彼女が言う『いいお酒』があるのだから、期待も高まるというものだ。

 

 いただきますと乾杯の挨拶を済ませ、早速酒を口に運ぶ。独特な匂いは気になったが、不味いことはないだろうと──

 

「────!?」

 

 その酒精のキツさにむせかけた。意地と根性で飲み込んで彼女の方を見やれば、少々呆れた顔をしているような気がする。

 

「貴方……いえ、これは私が悪かったわね。このお酒、そんな一気に飲むようなものじゃないのよ」

 

 お猪口でもあればよかったのだけど。と口にする彼女の喉元を見てみれば、確かに少しずつしか動いていない。

 

「ウルサスの酒……とは匂いが違うよな? 炎国産か? 火つくんじゃないか?」

 

「独特だからキツく感じるかもしれないけど、そこまで強いお酒じゃないわよ。ついでに言っておくと、私の自家製。お米から作ったお酒なのよ? これ」

 

「ほう」

 

 手作りと聞けば飲まないわけにもいくまい。とはいえ少量を口に含むまでに留めておいたが。

 

「美味しい?」

 

「……分からん。初めての衝撃の方が大きくて、味まで判断できない……から」

 

「から?」

 

「もっと飲む」

 

 我ながら最高に頭のいい判断だ。そもそもとして、素面ではしたくない話をするための飲酒なのだから。そんな言い訳と共に飲み進めていき──

 

 

 

「それで、結局何を占って欲しいの?」

 

「恋愛運! 具体的には死ぬまでに恋人ができるかどうか!」

 

 恥ずかしげもなくそんなことを言えるぐらいには酔いが回ってくれた。

 

「そんなに恥ずかしがらなくてもいい悩みじゃない。ヒトとして健全な悩みだもの。それじゃあ──」

 

 占い、と一口に言っても色々とあるらしい。タロットというカードを使うもの、水晶玉を覗き込むもの、そしてもっとお手軽な──

 

「相術?」

 

「手とか顔とか……そういったものにも運命は現れるものよ?」

 

「顔を見ただけでそんなことが分かるものか?」

 

「あら。私達だって野菜の色だったり魚の目だったりで美味しいか判断するじゃない。そういうものよ」

 

 そう言われればそんな気もしてくる。酔って頭が働いていないだけかもしれないが。ともあれ手だの顔だのを見せればいいだけならお手軽だ。とりあえずということで手を差し出す。真剣に俺の手を覗くシュウを、もう少し前屈みになってくれたらおっぱいが見えないだろうかと思いつつ待つ。

 

「うーん……恋愛運、だったわよね」

 

「ああ。大凶とでも出たか?」

 

「えっと……分かりやすく言うのだけれど。努力は報われるとは限らない、と出てるわ」

 

「つまり?」

 

「モテようと頑張っても恋人ができるとは限らない」

 

「クソがよ!」

 

 思わず叫んだ。なんとなくこちらを鼻で笑って小馬鹿にしている神様が見えた気がする。

 

「でも、ほら。努力が実るか分からないなんてどんなことでも同じよ。種をまいて、丁寧にお世話してあげても枯れてしまうことはあるのだし」

 

「こっちは種すらまけないんですがね!」

 

「……そんなに恋人を作りたかったの?」

 

「こんな世の中で、こんな身体で。誰かに受け入れられたいなんて、おかしくもない夢だろうよ」

 

 酔いと落胆で口が回る。

 

「はあ……せめて人肌の温もりが知りたかった……童貞のまま死ぬのか……寒い人生だったな……」

 

 的中100%の占い師に恋人が出来ないと宣告されれば拗ねたくもなる。できるとは限らないだったか? まあどちらでも同じ様なものだ。おっさんになってから急にモテるなんて有り得ないだろうし

 

「悲観するのはまだ早いんじゃない?」

 

「実らなくても努力してみろって?」

 

「違うわよ。今貴方の目の前の話」

 

 意図がつかめず、首をかしげる。

 

「そんなに気にしてるなら、私で童貞捨ててみる? ってこと」

 

 恐らく、彼女も酔っていたのだろう。そうでなければ彼女のような誰からも慕われる人間が俺のような者を相手に選ぶはずがないのだから。しかし。

 

「……いいんですか」

 

「なんで敬語なのよ」

 

 生憎、酔いに付け込むことに躊躇するほどの善人はここにはいなかった。

 

 

 

 

 

「──それで、初体験はどうだったのかしら?」

 

 一つのベッドで、さっきまで自分の上に跨っていた美人と会話をする。あまりに自分に都合が良すぎてまるで現実感がない。

 

「……衝撃の方が大きくて夢心地が抜けない」

 

「ふふっ、さっきも同じようなこと言ってたわよね? 私はお酒と同じ様なもの?」

 

「現実を忘れさせて、天国へ連れて行ってくれるところは」

 

「あらお上手。それじゃあ、この後は?」

 

「勿論、理解できるまで味わわせてもらう」

 

 据え膳食わぬは男の恥。仮に毒が仕込まれていようと、これほど上等な膳なら皿まで食らうしかあるまい。

 

 

 

 何度交わったかはもう覚えていない。少なくともお互いの身体で知らない所が無くなったのだけは確かだ。童貞を捨てるという無理難題に思えた夢は、酒の力か実に理想的に叶ってしまった。だが、疑問が一つ。

 

「なんでここまで良くしてくれたんだ?」

 

 酒の勢い、と言ってしまえばそれだけの話であるのかもしれないが、出来れば何か特別な理由が欲しかった……というのは、童貞故の浅ましさだから許してほしい。

 

 無粋な質問に、シュウは少し考えて一言。

 

「放っておけなかったから、かしらね」

 

「そんなに惨めだったか?」

 

「自分を卑下しすぎ。そうじゃなくて……そうね、ほっとけないぐらい可愛いかったから、って言い直させてもらおうかしら」

 

「俺じゃなくても、同じような奴がいたら……同じ対応をしていたのか?」

 

「どっちだったら嬉しい? 貴方だけが特別なのと、誰にでも優しくしてるの」

 

「前者に決まってる」

 

「そういうところが可愛いのよ。……それに、ヒトの営みに興味もあったし。長いこと一緒にいても、こういうことはしたことなかったから」

 

 彼女の言葉が嘘なのか本当なのか、見抜けるほど俺の頭は良くはない。

 

「……少なくとも、俺にとってはシュウは特別だ。独り占めしたくなるぐらいに」

 

「一度肌を重ねただけで、惚れっぽすぎじゃないの?」

 

 一度ではないか。と言う彼女は平然として見える。彼女の言う通り、俺が単純で惚れっぽいのかもしれない。

 

「いいだろ、別に。どうせ老い先短い命なんだ。どうせなら、優しくしてくれた相手の為に全部使いたい。そして俺は……クズだから、それに見返りを求めてしまう。俺のものになって欲しいって」

 

 思考が整理されないままに言葉になる。呆れられても文句を言う権利が無いような妄言を、彼女は優しく聞いてくれる。

 

「そうねぇ……貴方のモノにはなってあげられないけれど。代わりに一つ約束をしましょう」

 

 どうやら振られたらしい。とはいえ仕方の無い事だろう。こればかりは理屈ではなく感情の話なのだから。

 

「約束?」

 

「ええ。貴方が寂しい時、私が温めてあげる。貴方が死ぬ時には、私が骨を拾ってあげる」

 

「それは……つまり……」

 

「死ぬまで独りじゃなくなる約束をしましょう?」

 

 あまりにも魅力的な提案だった。その一言だけで、ずっと抱えていた心の重みが軽減されるぐらいに。

 

「その……なんだ。嬉しい、としか言えないぐらいに舞い上がっているんだが……この気持ちをどう表現したらいいのか分からない」

 

「簡単よ? お姉ちゃんがお手本を見せてあげる」

 

 そう言って、ごく自然に。すっと唇を重ねられた。行為の中でキスをしなかった訳ではない。だけど今回のこれは欲のままに貪るようなそれとは違って、体の芯から温まっていくようなもので。

 

「理解できた?」

 

「──少しは。……復習してもいいか?」

 

「いい心がけじゃない。熱心な生徒は素敵だと思うわ」

 

 もう一度、今度はこちらから唇を重ねる。愛おしさと、慈しみと、喜びと……伝わるかはともかく、想いを込めて。

 

 愛してる、なんて言葉を口にするのは今更野暮すぎる気がして。

 

 ただ、目の前の彼女を思い切り抱き締めた。

 

 





Q「なんで俺の物にはなってくれないんだ?」

A「だって私はみんなのお姉ちゃんだもの」

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