MUVLUV ALTERNATIVE the final episode 作:しおんの書棚
【 社 霞 】
2001年10月22日16:20 横浜基地 香月夕呼執務室
白銀武さん。
純夏さんの"たけるちゃん"は、とても暖かくて優しい色をしていました。でも、深い所には悲しみや後悔の色が積み重なり、交じり合って底が見えません・・・・・・。
それなのに溢れそうなほどの希望の色が、光にように眩しく輝いて見えるんです。沢山の人を想い愛する気持ちが色になって、その中には私も含まれていて・・・・・・。私は、一度も見たことのないそんな光景に圧倒されました。
そして、今の私は白銀さんの隣に座り、リーディングの準備として手を握っているんですが・・・・・・。
“頑張れ、霞になら絶対に出来る”
白銀さんは、心の中を信頼の色で満たしながら、ずっと私を励ましてくれています。なにか胸が暖かいような・・・・・・。これが、応えたいという気持ちなのでしょうか。よくわかりませんが、私は役目を果たさないといけません。
「・・・・・・始めます。白銀さん、よろしくお願いします」
「ああ、最初は霞との思い出を一杯プレゼントするからな、辛いものじゃないから安心してくれ」
嬉しいです、思い出沢山欲しいです。頷くと私はリーディングを始めました。
・始めて会う私が白銀さんを怖がってる姿。
・優しい笑顔に恐怖が興味になり、一緒に話している姿。
・純夏さんの思い出のように白銀さんを起こしている姿。
・純夏さんの思い出のようにあーんをしている姿。
・戦術機のシミュレーターで白銀さんと会話しながらプログラムを修正する姿。
・白銀さんの部屋で一緒に暮らしている姿。
・あの部屋で、白銀さんと一緒にあやとりをする姿。
・あの部屋で、純夏さんと白銀さんと一緒にあやとりをする姿。
・あの部屋で、苦しむ純夏さんを白銀さんと一生懸命に慰める姿。
・シミュレーターで、3人で凄乃皇の訓練をする姿。
そこで、思い出の種類を変えるよと声が聞こえたので、目を開けて白銀さんを見ると優しく微笑んでいました。
「前の世界の霞が見えたかな、思い出いっぱいあったか?」
「はい、純夏さんとまた会えるんですね?」
「ああ、そうだ。00ユニットになってしまうけど、純夏には会えるよ。
でも、連続のリーディングが疲れるのは知ってるから少し休もうか。次は、もっと楽しい思い出を見せるよ」
「そうね、少し休憩しましょうか。社、無理は禁物よ」
私は頷くと、休憩することにしました。
【 香月 夕呼 】
「白銀。今見せたのは、どの辺りまで?」
焦っても仕方ないんだけど、気になるものは気になるのよね。
「前の世界で霞と出会ってから、純夏と凄乃皇で訓練する所までですね」
「じゃあ、本当に00ユニットは完成したのね?」
「ええ。ただし、色々と問題があるので、それは後ほどしっかりと時間をかけてお話します。
それよりもこれから見せるのはオリジナルハイブですよ、あそこは地獄なんて表現すら生温い。そんな光景を、なんの信頼関係もなくいきなり見せれば、負担が大きすぎるなんてレベルではすみません。ですから、霞との信頼関係構築によるリーディングの負荷軽減が、なによりも優先されるはずです」
確かに。リーディングは内容が濃くなるにつれ、深い所を探るにつれ精神的疲労が増す。だが、相手の心理障壁と社の心理障壁が薄くなる。つまり信頼関係や友情・愛情などが強くなるにつれ、正確かつ負担が減ることがわかっている。
地獄すら生温い、か。そうとしか表現できない苦痛と絶望に満ちた世界を見せるのなら、極力負担を掛けたくないという白銀の話は当然と言える。
・・・・・・癪な話だけど、いつのまにか白銀に信頼の視線を向ける社の姿に、若干羨ましいと感じる自分を自覚していた。
それにしても、今の社は非常に穏やかで、今まで見えなかった感情も垣間見える。察するに、二人の関係は余程深かったのかしらね。
「ちなみに、社とは何年の付き合いだっけ?」
「非常に言いづらいのですが、年数は膨大すぎて数え切れません。ただ、霞と夫婦だった世界では死ぬまで一緒でしたね。
ちなみに副指令は2ヶ月を数え切れないほどと、恋人として死ぬまでです。
さらに、生まれた世界のことを考えれば二人ともそれ以上ですね」
「社と夫婦? いえちょっと待って。今、私と恋人って言った!?」
社と二人、思わず見詰め合ってしまった。
「数多の世界を繰り返しているんですから、誰とそうなってもおかしくはないでしょう。因果律量子論においては、それこそ無限に可能性の世界があるのではなかったですか?」
何がどうしたらそうなるのよ、私は年下は性別認識外・・・・・・のはずよね。とりあえず、そこは意識の隅に追いやり、私はもう一つの気になる話を聞くことにした。
「そうね。とりあえず、今、その話は良いわ。
ところで生まれた世界、元の世界って奴よ、そこの私はどうだった?」
別の世界の自分に興味が沸いたのよね、どうなのかしら。
「此処と同じ場所にある学園の物理教師で、自他共に認める天才。ただし、反権威的な言動・行動から、まあ平たく言えば学会から煙たがられているって所ですね。専門は、やはり因果律量子論でした。
愛車はストラトスで、行動は自由奔放、傍若無人、実家がそこそこの金持ちでもあるのでやりたい放題。学園の職員全員の弱みを握ってるので誰も逆らえません。
神宮寺まりもとは親友、彼女も学園の英語教師で、副指令にいいように振り回されています。
姉妹のモトコさんは脳の専門医、ミツコさんは世界的カメラマン。伊隅ヴァルキリーズを含むA01および現在の訓練生は、学園の生徒もしくは卒業生。
世界の類似性がご理解いただけるかと」
「なるほどねぇ。確かにBETAがいなかったら、そんな世界もありえるのかしら。類似性が多すぎて、信憑性があるわね。
で、なんであんたはこっちの世界に来たわけ?」
「G弾ですよ。
横浜ハイブの反応炉に繋がっていた純夏は、俺に会いたいと願い続けていた。そこにG弾による影響と、反応炉を通して増幅された純夏の思いによる負のスピンが発生。あらゆる並列世界からシロガネタケルの要素をかき集めて、純夏にとっての分岐点2001年10月22日に収束。その結果、俺がこちらの世界に現れたというのが前の世界での副指令の推察です。
ちなみに、横浜ハイブのG元素が少なかったのは、俺を再構成するのに使ったからとも言ってましたよ」
「2001年10月22日って何があったのかしら、あんたは原因がわかってるの?」
「純夏と俺の関係が変わる切欠がその日にあるからです。
それまではただの幼馴染で毎朝お越しに来てたんですが、その日は御剣が勝手に俺のベットに潜り込んでいた。しかも学園に転校してきて、俺の両親の許可を取り付けて同居を始めるんです。
俺の世界の御剣家は、世界に名だたる大財閥。常識知らず世間知らずのお嬢様が、俺の家・学園で様々な騒動を巻き起こし、それを副指令が面白がって助長。
その結果、あらゆる人間関係が変化し、最終的に純夏が俺に選ばれない世界が多数発生した。
そんな俺と結ばれなかった世界の純夏達の強い思いが作り出した存在、それが俺ですよ。」
「思いの強さが世界を変える・・・・・・、やはり因果律量子論は間違いないのね。
そして、その結果から言っても鑑純夏以上に00ユニットの適性を持つ者はいないということ。
まあ、あんたには不満なんでしょうけど。」
「00ユニットの必要性に疑いはありませんし、純夏がそうなることもすでに納得しています。
それと人の愛情を甘く見るのはいただけませんね。純夏が人であろうが00ユニットであろうが、愛し護ることに変わりありませんし、俺が純夏を愛せなかったら、00ユニット鑑純夏は完全稼動しないと判明しています。
それはそれとして、副指令には00ユニットから人間に戻す方法を考えて貰いたいものですね。
ご存知ないでしょうが、BETAは人間を自由自在に変化させ新しい器官を発生させることさえできます。さらに言えば、BETA自体がクローニングで生まれていますから、細胞一つあれば全身クローニングも可能なはずです。
そんな機能がハイブには存在していて、必要となればいつでも再生することができるからこそ、人間の脳髄だけで保存していたんですよ」
「なんですって!? 人間の調査をしていたとは思ったけど、そこまでの技術を持っているなんて驚きね・・・・・・。でも、どうやってそんなことを知ったの?」
「これも純夏の記憶からです。
あいつはBETAに陵辱の限りを尽くされました。感度を調整され、快楽漬けにされ、性器や性感帯を変化させられて、自我が崩壊する程のことをね。
そして、最終的に脳と脊髄さえあれば他は不要とみなされて少しずつバラバラにされる。しかし、それすらも快楽だったそうです。
それでも俺に会いたいという思いだけで生きていてくれた純夏は、凄い奴です。副指令も女性なら、それがどれほど過酷なことかわかるでしょう?
純夏は世界中の誰より幸せにならなければいけない。副指令には00ユニットとしての純夏が早急に必要でしょうが、その後にすべきことぐらい判って貰えると思います」
・・・・・・悔しかった、ただひたすらに悔しかった。
白銀は淡々と語るが、どれほどの思いが渦巻いているのか想像を絶する。
たかが生体機械如きにいいようにされる愛する人。
それを知ってなお前に進み続ける男。
利用するしかない矮小な自分。
たとえ彼女が00ユニットとして生まれ変わり、BETAを滅ぼす存在になるとしても、彼女自身は本当にそれを望んでいるの? 私が勝手に、自分の目的が彼女の復讐にでもなると思い込んでるだけじゃないの?
そう考えた時、ただ只管に惨めだった。00ユニットさえ完成すれば世界を救えるなどという考えが、すでに甘かった。
白銀は、その先にこそ戦いがあると言う、私の償うべき道があると言う。
正直、00ユニットが完成して成果が出れば、殺されてもやむを得ないとずっと思っていた。でも、それじゃあ駄目なのね。責務を放棄するだけで、自分が楽になるだけの行為だということを今はっきりと気付かされた。
「夕呼さんとあえて呼びますね」
「え?」
穏やかな、そうとても穏やかな声で白銀が語りかけてきた。
「夕呼さんの罪を俺は知っています。ですが、それを一切否定しません。なぜならその道を共に歩み、オリジナルハイブを攻略したのは、間違いなく夕呼さんの功績であり、俺の罪でもあるんです。それが無ければあの世界は滅んでいた。
確かに数多の世界は滅びましたが、その苦しみを俺だけは知っています。夕呼さんが泥酔し、喚き散らし、俺如きに抱かれるなんてそれこそ想像を絶しますよ。
でもね、夕呼さん。その前々回の失敗の結果が、前回の世界の俺を作り出し、AL4は初めて成果を挙げたんです。
なら今回、前回以下の結果なんてありえない。いや、俺の知る香月夕呼がそれを許しはしない。
そのために夕呼さんには、一人の限界を知って欲しかったんです。だから失敗の話だけをして、あの場を設けて貰った。
実は、純夏の再構成には重大な欠点、恋愛に関する記憶経験を抹消するという現象が付いて回りました。そのために過去の経験は、完全に私の記憶から消去された。
しかし、前々回の夕呼さんを抱いた世界では、俺は誰とも恋愛関係にならなかったから、夕呼さんを抱いたという記憶以外全てを持ち越せた。そして、前回の世界で初めてAL4は成果を挙げたんです。
今回、おそらくこれは純夏による再構成ではありません。なぜなら数多の知識や経験、愛した女性との思い出があるからです。
今ここにいるシロガネタケルは過去最高の知識・経験・覚悟・思いを持つ白銀武。
そして、霞には前回の知識がリーディングされて、成長を促すでしょう。
加えて、日本の重鎮には私のことを話し、全面的に協力して貰うつもりでいます。そうしなければ前回の失敗を生かせないからです。
夕呼さん一人で背負うのは無理でも、死人の俺なら一緒に背負って行ける。霞だってそうなりたいと思っているんですよ。わかりますか、夕呼さん」
社を見る。穏やかだけど、見たことのない真剣な顔で、こくりと頷いた。
知らなかった、誰かが自分を理解してくれているなんて。
思ってもいなかった、共に背負う覚悟を持った人間がいるなんて。
ただ、天才と。孤高な存在として生きて、目的を果たしたならのたれ死ぬだけだと思っていた。
でも、本当の理解者を知ってしまった。それは親友のまりもでも、部下の伊隅でもなく、今日現れた白銀武という男と、今までずっと共にいた社霞。
気がつけば、ありえないことだが涙が頬を伝っていた。いつ以来になるのか、枯れたと思っていた涙が。
そして、私は真の理解者を二人も手に入れた。だから、オリジナルハイブ攻略戦のリーディングは、必要になるまで取り止めることにしたのよ。
なぜなら、今すぐ確認する必要などすでにないのだから・・・。
リメイクしだすと気になる点が出過ぎて、作業がなかなか終わりませんが、気長にお付き合いください。