(注):飲酒描写がありますので、未成年の方は絶対に飲まないで下さい。20歳になってからです。
「Admiral、晩酌しない?」
「晩酌だと?何でなんだ?」
「理由なんてないわ」
「そうか・・・・。それにしても君が晩酌に誘うなんて珍しいな」
普段通り、執務終わらせて自室で窓際の景色を眺めていた。すると、ドアを開ける音がし振り返ると、そこにロドニーが目の前にいた。そして、満面の笑みで赤ワインを片手にしているロドニーを見て首を傾げた。イギリスの艦娘はそれなりに飲酒をする者が多い印象ではあるが、ロドニー自体にそのイメージがなかったのか、少し意外そうな顔をしながらも提督はすぐにコップを2つ持ってきた。
「つまみ作ろうか?」
「良いの?ありがとう」
本を閉じてコップを持ってきた提督に目を輝かせていたロドニーは、そのまま冷蔵庫を覗いている提督の言葉に更に目を輝かせた。彼は料理も完璧だ。手際よく進む提督にロドニーの内心は安堵しているようだった。もし、これが磯風だったら彼女の腹の中は大変な事になっていただろう。提督に任せて良かったと気持ちが軽くなっていた。
「・・・・チーズとビーフジャーキーで良いか」
「定番ね」
冷蔵庫の中を眺めて食材を確認していた提督の言葉に苦笑しながら、ロドニーは変な物を作ろうとしないだけましかと考えて盆を取ってコップと赤ワインを乗せて縁側へと移動した。既に、山の木々が色を変えた葉を地面に落としきるような季節になっているので、縁側に出るだけで寒さを感じた。しかしロドニーは、不思議と提督が後ろで料理をしている所を見ただけで心が温かくなっていた。冬は空気が澄んで星が見えやすくなっているが、戦艦娘として目がすこぶる悪いロドニーには、人間では目視出来る微弱な光さえ視認出来ない。頑張って意識すれば普通の人間と同程度の視力に追いつけるが、意識しないで見つめると戦艦娘にはただの夜空のままで満点の星空へ変えるのは少し困難である。それでも彼女は、夜の風景が好きだ。提督が来るまで自分だけが楽しめる満点の夜空を眺めていたロドニーは、後ろから近づいてきた提督の足音に反応して笑顔のまま振り返る。
「お待たせ。先に飲んでなかったのか?」
「そうよ。だって愛しきAdmiralとこうしてじっくり飲みたいんですもの。待つに決まってるじゃない」
笑顔のままコップに赤ワインを注いでいるロドニーを見ながら、その程度かと納得した提督は2人分のフォークを皿に乗せて空を見た。
「星が綺麗だな」
「そうね。Admiralももっと見えるようになったら良かったのに・・・・」
「もっと鍛えないといけないな、俺の体」
どれだけ頑張ってもロドニーの様に星の光を全て見ることなどできない。戦艦として他の艦種より余裕のあるロドニーのように、と条件を付けると、どんな高額な手術をしてもモノにしないだろうと思いながら注がれたコップを持った。
「じゃあAdmiralと一緒に居れる日常に乾杯っ」
「・・・・なんか微妙な気分になったけど乾杯」
そんなことの為に乾杯して良いのだろうかと思いながら、提督は美味しそうに赤ワインを飲み干すロドニーを見ていた。喉を鳴らして赤ワインを飲む姿に感心しながら、提督もコップに口をつけて飲んだ。彼女の母国・イギリスで作られる特有のまろやかさを含んだ味にどこか故郷の懐かしさを思い出しながら、提督は4口で赤ワインを飲み干した。
「ん~!やっぱり生まれた国のお酒は口に合うわぁ・・・・。Admiral?」
「そうだな。俺もやっぱり故郷の味は忘れられないよ」
提督は、ロドニーの言葉に苦笑しながら昔は田舎で友人達と釣りをしたり、クラリネット演奏をしていた過去を思い出して少しだけ悲しそうな笑みを浮かべていた。ロドニーは提督が浮かべるその表情の先にどんな過去があるのかを深くは知らない。艦娘は生まれた時から今の姿であり過去が存在しないのだから人間の本質を理解するには提督同士の信頼関係を大事にしなくてはならない覚悟が必要だ。
「Admiralは、イギリスに残してきた家族とかはいないの?」
「いないよ。みんな戦争とは関係ない所で早死にしちゃってたから、日本に出向って目的で出されたんだけど」
親族の繋がりの無い人間ほど、同盟国への出向として出しやすい人間は相当少ないものだ。提督もその辞令が下された時はそう納得しながら、昇進と称されるその出向を甘んじて受けたのだ。海軍の思惑に振り回されながらも、今となってはイギリスでの提督という立場なのだから人生踏んだり蹴ったりだなと苦笑しながら、ロドニーに注いでもらった赤ワインをもう1度飲み干す。
「そうなの・・・・。じゃあ、今Admiralの家族は結婚した艦娘だけ?」
「・・・・そうなるかな?多少多い気がするけど」
提督が用意したビーフジャーキーを口にしながらロドニーは指輪をわざとらしく見せつけて提督の腕に手を伸ばした。
「零れるよワインが」
「えー・・・・。なら、私が移動するわ」
「ワインはいいのか?」
「Admiralが飲ませて」
ロドニーが伸ばした手を、2人の間に大皿とワインボトルがあるからと提督が避けた。気持ちよく、一番最高の雰囲気で手を伸ばしたというのに、避けた提督の姿に頬を膨らませたロドニーは立ち上がって提督の右隣へと移動し提督の右腕に自分の左腕を絡めて、頭を肩に乗せた。
「飲ませるってどうやるんだよ」
「ん~・・・・。コップ口持ってきてよ」
「はいはい」
口移しで、と言おうとしてから恥ずかしさで顔に熱が集まって行くのを感じたロドニーは、コップを要求した。酒盛りをしようと言い始めた本人が我儘を言っていることに苦笑しながら、2人分のコップに赤ワインを注いだ提督は、零さないようにゆっくりとロドニーの前まで運んだ。
「どうぞ」
「ありがと」
コップを渡されたロドニーは、自分の顔に上がってきた羞恥心を赤ワインと一緒に流し込むように一気に飲み干した。少し豪快な彼女を見るのは初めてだった。そんな、ロドニーの様子を見て苦笑した提督は自分の手にあるコップを見た。
「ロドニー・・・・。おかわりいるか?」
「もちろんよ」
頷いたが、当のロドニーは提督の方を見ていない。それを見た提督はロドニーの方に近づき、肩掴み唇を奪った。そしてそのまま赤ワインを口移しで流し込んだ。彼の予想外の行動で、思考が停止したロドニーは、赤ワインと一緒に入り込んできた提督の舌に身体を震わせながら快感を享受していた。
「・・・・美味しい?」
「うっ・・・・、うん。もっと頂戴」
唇を離した提督の顔を見て放心していたロドニーは、顔を真っ赤にしながらコップを持つ提督の手を見て、数秒間考え込んでから頷き再びおかわりを要求した。