高校でもバンドを組めなかった後藤ひとり   作:大日小月

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最終話 社会人になってバンドを組めた後藤ひとり

 ライブの前日、結束バンドの四人は大学祭を見て回っていた。

 一般的な高校の数倍はある敷地に校舎や研究棟、図書館など様々な用途の建物があり、敷地を贅沢に使っているためそれらの間隔は広々としている。

 平時なら余白の多い敷地も大学祭の時ばかりは屋台と行き交う人で賑わっている。

 

「わー!すごい人ですね!屋台も沢山!」

「きっ喜多さんが一杯⋯⋯」

「後藤さん、それってどういう意味なの⋯⋯?」

 

 通りすぎる人はみな楽しそうにしており、笑い声が上がるとひとりはつい肩をひくつかせてしまう。

 

「屋外はステージが二箇所と屋台があって、構内は展示がメインだね。体育館が屋内ステージになってるよー」

「あ、ワッフルありますよ!食べましょう!」

 

 流れに沿って歩きながら、つぶさに観察していく。

 サークルや同好会、ゼミなど様々な単位で出店している。

 屋台の通りを抜けると、芝生の広場に屋外ステージがあった。

 

「屋外ステージはダンスが多いですね。私たちもダンス取り入れませんか!?」

「ドラムしながらは無理かなー。あっでもMVでやるならありじゃない?」

「後藤さんはどう?」

「むむむむむ無理です」

「一夜漬けみたいなキレのないダンスになるだけ」

 

(ドジョウ掬いくらいしか知らない⋯⋯)

 

「バトントワリングもあるんですって。これならドラムでもできるんじゃないですか!?」

「喜多ちゃんなんかいつにも増して輝いてるねー」

 

 ドラムスティックをバトン代わりに宙に投げ、落ちてきたところを見事に掴む虹夏を想像して興奮する喜多。

 普段抑えられている陽キャパワーが大学祭の熱気に当てられて増しているようだ。

 

「構内は展示だけじゃなくて演奏もあるんですね」

「吹奏楽とか軽音楽部とかジャズ研とか色々あるからね」

「外で演奏してた人たちはまた別ですよね?音楽やってる人って多いんですね」

「私もこんなにあるのは今初めて知ったよ」

 

 校舎の中は大規模な講義室から少人数用の会議室まで様々で、それぞれの展示や演奏の規模ごとに分かれて使用している。

 

(虹夏ちゃんや喜多さんだけじゃなくて、他の人も大学に行きながら音楽やってるんだ)

 

 ギターに、とりわけロックバンドに傾倒していたひとりにとってその他の音楽活動をしている人を間近で見るのは初めての経験だった。

 掛け持ちでやっているのは自分たちだけではないという当たり前の事実を再確認し、対抗心のようなものを覚える。

 特に三人の目を惹くものがなかったのか、軽く見るだけで通り過ぎて体育館へと向かう。

 

「ここが私たちが演奏する体育館だよー!」

「広いですね!それに盛り上がってます」

「バンドのライブでペンライト振り回すとか」

 

 体育館内ではバンドの演奏が行われていたが、ひとりが動画で見たような光景が広がっている。ライブハウスでの熱気とは違う種類の盛り上がりだ。

 虹夏と喜多は然程気にしていないが、リョウはペンライトを振り回して応援する観客にしかめっ面をする。

 

(私たちも負けないように盛り上げないと)

 

 ひとりは陽キャオーラに当てられそうになるが、密かに心の内で炎を燃えたぎらせる。

 

 

 

 

 

 翌日、本番前のリハーサルにて最終確認が行われていた。

 

「ぼっちちゃん、サングラスとマスクなしでも大丈夫?」

「はっはい最近は少し慣れてきたので」

「後藤さん頑張ってるものね!」

 

 前回の初ライブでの経験から、顔になにも装着せずに練習していたひとり。

 まだ完全とは言わないが、それでも人前でもある程度弾けるようになっていた。

 

「みっみなさんもすごく上手になってます。きっ喜多さんが特に」

「本当!?嬉しいわ!」

「私が教えたから」

「あっリョウさんが教えたんですか?」

「ちょっと先輩、それはまだ秘密ですよ!」

 

(喜多さんの上達が早いと思ったら猛練習してたんだ⋯⋯)

 

 喜多の演奏に時折違和感を覚えていたが得心がいく。

 

「ぼっちちゃんが頑張ってるから、負けないように練習してたんだよ!」

「まだ全然だから恥ずかしいです⋯⋯」

「あっいやかなり上手になったと思います」

 

 皆がバンドのために練習していたことを改めて知り、ひとりは嬉しさが込み上げる。

 

「結束バンドのみなさん、準備お願いします」

「あっ行こうか」

 

 舞台袖に移ると客席のざわざわとした声が届き、緊張感が増してくる。 

 

「ぼっちちゃん大丈夫?」

「あっはい、今日は徳を積んできたので大丈夫です!」

「徳?」

「しっ渋谷のタバコを吸ってる人を、はっ排除してきました。だっだからトラブルは起きないです!」

「どういうことなの⋯⋯」

「ロックだ」

「後藤さんは偉いですね」

「納得しちゃうんだ」

 

 緊張を味わいながらも、それに負けることなくリラックスとした雰囲気の四人。

 

「よし、じゃあ左手を出して!」

 

 虹夏の掛け声で円陣が始まる。

 

「ぼっちちゃんそれ右手。気を取り直して」

「頑張ろう!楽しもう!せーの」

「「おー!」」

「おー」

「おっおー」

 

 そしてライブが始まる。

 

 

 

 

 

 ステージに立つと、スターリーとは比較にはならない程の人がいた。

 準備が終わってもガヤガヤと騒々しいままで普段と客層が違うのがわかる。

 足が竦みそうになるが、ぐっと堪える。

 

「初めまして!結束バンドです。私たちは普段学外で活動してるのですが、今日は私たちにとってもみなさんにとってもいい思い出になるように頑張りたいと思います」

 

(喜多さん、MCも上手くなってる)

 

 喜多の成長した姿を見て、ひとりは不思議と気持ちが楽になる。

 

「それで、もしよかったらライブハウスにもライブを見に来てください!」

 

 客席を落ち着いて見る余裕が出てくる。

 両親の姿が。前回は来られなかった妹が。

 星歌とPAも、会社の人も来てくれている。

 友達一人もいなかった去年までが嘘のように交流関係が増えていることを実感する。

 

「それじゃあ聞いて下さい、「忘れてやらない」」

 

 

 

 

 

  

「今日はよかったね!」

「はい!私もほとんどミスしませんでした!」

「あっ私も」

 

 無事にライブを終えた結束バンドの四人は打ち上げをしていた。

 

「先輩方はなに頼みます?私はアボカドのクリームチーズで」

「私は酒盗」

「リョウ何歳だ」

「あっフライドポテト」

 

 性格がバラバラで個性があるが、注文するものにもそれが現れている。

 

「今日見てくれた人から、一人でもライブハウスに来てくれたらいいですね」

「そうだね。あっフライヤー配ればよかった!」

「ペンライトを振り回す客はちょっと」

「リョウは固いなー」

 

 普段メンバー間の空気が重いということはないが、本番を終えて気が抜けたということもありいつもより緩い雰囲気に包まれている。

 

「次のライブの予定って決まってるんですか?」

「うーん、無難にハコでやるかな?」

 

「ぼっち、新しいギターどこで買ったの」

「えっ通販で買いました」

「それは勿体ない。実際で店舗で見て買わないと」

「あっでもなんか怖そうだから」

「それなら私が一緒に付いていく」

「こらー、またそうやってたかろうとしてるでしょ」

「心外」

 

「リョウ先輩ってバンド以外だと作曲のお仕事されてるんですよね?どんな曲作ってるんですか」

「BGMとかインストが多いかな」

「そうなんですね!カッコいい!」

「気に入らないの断るから全然仕事ないじゃん」

「ポリシーがなくなったら作曲家として終わりだから」

 

(バンドで演奏してる時もいいけど、こういう時間も楽しいかも)

 

 灰色の学生時代を送ってきたひとりにとって、この半年は青春を取り戻すかのような濃密な時間だった。

 忙しくもあるが充実した毎日を過ごしていると実感する。

 

「明日も仕事かぁ⋯⋯」

 

 ポツリとこぼした言葉は、店内の喧騒に紛れて消えた。

 

 

 

 

 




 これにて完結です。ありがとうございました。
 正史より三年遅れの分、登場人物がそれぞれがこう成長しているだろうと想像して書かせていただきました。
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