ウィッチャーTRPGは残念なことに日本語訳は販売されていないのですが、遊んでみたらウィッチャー3に似ていて面白かったので、紹介も兼ねて小説にしてみました。
設定などはウィッチャーTRPGのものを踏襲しています。
霧の立ち込める森を抜け、ヴォルフラムは馬を止めた。
長身で細身の体躯が、鞍から滑り落ちるように地面に着地する。
髪は乱雑に切られ、風に揺れるたび、狼の毛のようにざらついた。
身にまとっているのは実用性を追求した狼流派の鎧と、背負った二本の剣。
彼は言葉少なに周囲を見回した。
秘密主義の性格が、こうした沈黙を自然なものにしていた。
ウィッチャーとして、言葉は必要最小限で十分だ。
隣で馬に跨っている太った中年男は、元村長を名乗るダグレッド。
汗だくの顔をハンカチで拭いながら、村の入り口を指差す。
「あそこだよ、ヴォルフラム殿。私の金庫が、あそこの家の中だ。私が村を離れてる間に、住人どもが怪物に怯えて逃げ出したせいで、置き去りに…… 怪物退治の依頼のついでだ、頼むよ。回収を手伝ってくれたら、中身の四分の一をやるって約束だろ?」
ヴォルフラムはただ頷いた。
怪物退治の依頼は確かにある――近隣の領主の名で出された依頼。
村に棲みついた怪物を倒す命がけの報酬がたったの五十クラウン。
羊肉の煮込みとパンにエール、それらを五回食べたら無くなるだけの金額でしかない。
だが、それとダグレッドからの依頼は別だ。
金庫の中身が本当にこの元村長を名乗る男の物であるのか少し疑わしい。
それでも、約束は守る。
それが自分のやり方だ。
村に入ると、中は死に絶えていた。
家屋の扉が開けっ放しで、風に軋む音だけが響く。
ヴォルフラムは馬を繋ぎ、地面を這うように痕跡を探った。
まず目についたのは、地面に空いた無数の穴。
直径二フィート以上、穴は不規則に掘られ、深さもたっぷりとあった。
次に、家の壁――黒く焼け焦げ、酸の腐食痕が泡立つように広がっている。
最後に、納屋の傍で腐りかけた馬の死体。
横腹を大きな牙で噛み切られ、毒の痕跡が肉に染みこんでいた。
「地面に空いた穴。酸の痕跡。毒牙にやられた馬。おそらく、ジャイアント・センチピードだ」
ヴォルフラムは独り言のように呟いた。
百足の巨獣、毒牙と酸の分泌で村人を襲い、追い散らしたに違いない。
ケィア・モルヘンで学んだウィッチャーとしての知識が、即座に怪物の正体へと導いてくれた。
体長十五フィート、硬い甲殻、地下を這い回る習性。
厄介だが、倒せない相手ではない。
ダグレッドが慌てて口を挟む。
「そんな怪物が村に……早く金庫を! 家はあそこだ、急ごう!」
付近にジャイアント・センチピードの気配がないのを確認すると、ヴォルフラムは、黙って元村長の言葉に従った。
次に向かったのは廃村の中心、かつての村長の家だという、ひときわ大きい建物。
ヴォルフラムが扉を押し開けると、中は薄暗く、埃が舞う。
だが、予想外の気配がした。
影から三人の男が飛び出してきた――野賊だ。廃村と見て、荒らしに来た連中。
リーダー格の髭面が、金庫の前にしゃがみ、鍵を開けようとしていた最中だったようだ。
残りの二人は、瘦せた剣士と、メイスを握った巨漢。
皆、壊れかけた鎧を纏い、目がどんよりと欲に濁っている。
「おいおい、誰だてめえら!」
髭面が立ち上がって吐き捨てる。
鍵代わりに差し込んでいた鍵開け道具を上着に仕舞い、ゆっくりとヴォルフラムとダグレッドを値踏みする。
「二人だけか。片方はウィッチャーみてえな嫌な目つきだな。怪物退治のつもりでここに来たのか? 悪いが、もうこの家は俺たちの縄張りだ。さっさとここから失せろ、でなきゃ血の海だ」
ヴォルフラムは動かず、ただ黄色の瞳で三人を睨む。
言葉は最小限。
「その金庫は、この男のものだ。立ち去れ」
瘦せた剣士が嘲笑う。
「へっ、早い者勝ちさ。この金庫はもう俺たちのモンだぜ。てめえの剣なんか、怖くねえ」
腰の剣を抜き、軽く振り回して威嚇する。
「ぶっ殺すぞ、そこのデブから先に」
剣士の脅しの言葉に合わせて、メイスを持つ巨漢が低く唸り、ダグレッドを睨む。
ダグレッドは後ずさり、ヴォルフラムの袖を掴む。
「ヴォルフラム殿! こ、こいつら、野盗風情が、私の金庫を……」
髭面が一歩踏み出し、短剣をヴォルフラムに突きつける。
「聞けよ、変異体。俺たちは三年も前からこの辺りを荒らしてる。人間を狩るのが得意なんだ。金庫の中身、金目のものなんだろ? 気が変わった、お前らが開けて中身を寄越せよ。できねえってんなら、てめえらの首を怪物に食わせてやる」
ヴォルフラムは静かに息を吐き、背中の鋼の剣の柄に手をかける。
「最後の警告だ。立ち去れ。さもなくば、お前たちは今日ここで死ぬ」
ヴォルフラムの警告を、瘦せた剣士が馬鹿にしたように笑うと、
「死ぬのはてめえだ!」
と叫んで飛びかかる。
剣が弧を描き、ヴォルフラムの肩を狙う。
だが、ヴォルフラムは身を捻り、つま先で回転して相手の剣を躱しながら、背後に回ると同時に、剣士の背中を切り裂く。
剣士がよろめき、メイスを持った巨漢が咆哮を上げて突進。
ヴォルフラムは床に転がって避け、巨漢のふくらはぎを剣で浅く削る。
メイスが床板を激しく叩き、痛みで巨漢が膝をついた途端、髭面の投げた短剣が横合いからウィッチャー目掛けて飛んでくる。
ヴォルフラムは鋼の剣を構え、髭面の短剣を弾き飛ばす。
戦いは一瞬で始まったが、あっという間にその場は混沌と化した。
髭面が別な短剣を引き抜きながら後退し、
「くそっ、こいつ本物だ!」
と叫ぶ。
瘦せた剣士が、背の傷の痛みからぎこちない動きで斬りかかるが、ヴォルフラムは下げていた剣先をすくい上げ、喉を切り裂く。
血が噴き出し、床に崩れ落ちる剣士。
続いて、巨漢が立ち上がり、滅茶苦茶にメイスを振り回すも、ヴォルフラムは冷静に身を翻し、鋼の剣を胸に突き立てる。
巨漢が口から血をごぼごぼと吐き、ゆっくりと倒れる。
一人だけ残った髭面が、短剣を握りしめ、壁際まで後ずさりながら引きつった声を上げる。
「待て、待てよ! 話せばわかる! 俺はもうこの村から消える!」
だが、その判断は遅かった。
地面が震えた。
戦いの振動が、地下を刺激したのだ。
床板が軋み、ひび割れが走る。
「くそっ、何だこれ!」
髭面が叫ぶ。
次の瞬間、床が崩れ、二体の巨体が飛び出してきた。
ジャイアント・センチピード。
体長十五フィート、赤黒い甲殻が光り、無数の脚が地面を掻く。
口から滴る酸が、床板を焼き始める。
一体が髭面に飛びかかり、もう一体がヴォルフラムを狙う。
酸の飛沫が飛び、髭面の腕を溶かす。
髭面の悲鳴が響く。
「助けろ、ウィッチャー! 約束する! もう金庫はあぎゃぁぁぁ!」
髭面はセンチピードの毒牙の餌食となった。
助けることはもはや無理だが、囮にするには十分。
ヴォルフラムは跳躍し、狼流派の鋼の剣を両手でしっかりと握り直すと、最初のセンチピードの頭部に力いっぱい叩き込む――甲殻が砕け、緑の体液が噴出。
だが、センチピードの巨体は怯まず、その毒牙をヴォルフラムの脚に突き立てようとする。
ウィッチャーは剣を振り回し、センチピードの甲殻に傷をつける。
毒牙が空を切り、酸が肩を掠めて鎧を焼く。
刺激臭が鼻を刺すが、それは無視。
センチピードが体を捻り、体全体を鞭のように振るう。
毒牙がヴォルフラムの胸をかすめ、鎧に一筋の傷が残る。
ヴォルフラムは後退し、壁に背を預け、息を整える。
巨体が再び突進、脚の波が床を削る。
ヴォルフラムは跳び上がり、天井の梁に掴まり、剣を上から突き刺す。
鋼と鉄隕石の切っ先が甲殻の隙間に沈み、内部を掻き回す。
体液が噴き、センチピードが暴れ狂う。
梁が軋み、崩れ落ちる中、ウィッチャーは転がって着地。
巨体が痙攣し、穴に戻るように沈む。
一体目、倒した。
だが、吐き出した酸がガスとなって部屋を満たし、息が苦しい。
二体目が速かった。
酸の飛沫を雨のように撒き散らし、ヴォルフラムを追い詰める。
剣を構え、酸の飛沫を斬り払うが、払い切れなかった滴が足に当たり、皮膚が泡立つ。
痛みが神経を焼く。
センチピードの毒牙が迫るが、ヴォルフラムは横に飛び、巨漢の死体を盾に使う。
即座にセンチピードは動きを変え、巨漢の死体ごと巨体を巻きつけ、絞め上げようとする。
長い胴がヴォルフラムの腰を締め、骨が軋む音が響く。
ウィッチャーは剣を逆手に持ち替え、脚の付け根を裂く。
センチピードの脚が何本かまとめて切り落とされ、緑の血が噴き出す。
拘束がはっきりと緩んだ。
ここぞとばかりに力を込め、締め上げから解放される。
センチピードは激昂し、尾を振り回す。
尾がヴォルフラムの頭をかすめ、壁を抉る。
ウィッチャーは転がり、立ち上がり、隙を突く。
甲殻に覆われていない腹部の柔らかい部分――そこに狙いを定め、跳躍。
全体重をかけた鋼の剣が沈み、腹部を深く抉る。
ほぼ同時に毒牙が左腕に噛みつき、焼けるような痛み。
血に毒が混じり、視界が揺らぐ。だが、ウィッチャーの血は毒に耐える。
センチピードの体が痙攣し、無数の脚が空を掻く。
ヴォルフラムは片手で剣を捻り、引き抜く。
巨体が倒れ、体液が泡立ち、静かになる。
二体目、倒した。
部屋は血と酸の臭いに満ち、床板が焼けた痕がいくつも空いていた。
息を切らし、ヴォルフラムは剣を拭った。
村は再び静寂に包まれる。
依頼のひとつは果たした。
だが、金庫に目を向けると――空っぽだ。
ダグレッドが、あの太った中年男が、袋を抱えて出口に向かおうとしている。
戦いの最中、こっそり中身を回収し、逃げようとしているらしい。
「おい、待て」
ヴォルフラムの声は低く、冷たい。
長身が影のように近づく。
だが、元村長は振り返らず、慌てて扉を開け、転がるように外へ飛び出した。
ヴォルフラムは舌打ちし、追いかける。
左腕の傷が疼き、毒の熱が体を蝕むが、怒りで身体を動かす。
外は霧が濃く、村の通りをダグレッドが転がるように逃げる。
息を切らし、太った体が地面に足を取られ、よろめく。
「助けてくれ! 怪物がまだいるんだ!」
ダグレッドが叫ぶが、それはただの嘘だ。
ヴォルフラムはしっかりと見ていた――元村長の目が、どんよりと欲に濡れているのを。
一瞬の隙。
ダグレッドが路地に曲がり、隠れようとする。
だが、ヴォルフラムは狼のように素早く、影から飛び出し、元村長の右腕を掴んだ。
袋が地面に落ち、中の金貨や宝石が散らばる。
霧の中で、二人の息遣いが荒く響く。
「ヴォ、ヴォルフラム殿! これは誤解だ! お前が怪物と戦ってる間に、盗賊どもが…… いや、私はただ、守ろうとして……」
ダグレッドは汗と涙で濡れた顔を歪め、必死に言い訳を並べる。
それと同時に、震えている左手で、懐に隠し持った短剣の柄に僅かに触れる。
ヴォルフラムの黄色の瞳が、猫のように輝く。
このウィッチャーは、言葉ではなく、視線で相手を刺す。
「約束は、四分の一だった。だが、お前は全てを自分のものにしようとした。俺が血を流し、怪物に食われかけた報酬を奪おうとした」
ダグレッドは崩れ落ち、地面に膝をつく。
「頼む、命だけは……」
ヴォルフラムは背中の剣を抜かず、代わりに元村長の襟を掴み上げ、顔を近づける。
息が混じり、血の臭いが漂う。
「金庫の中見の半分。断るなら、この村に空いた穴に、お前をその欲の皮ごと埋めてやる。怪物は殺したが、狼はまだ飢えている。お前はどちらを選ぶ?」
ダグレッドは震えながら何度も頷いた。
霧が二人の周りを渦巻き、地面に落ちた金貨の輝きが徐々に鈍くなる。
この世界は、常にこんなものだ。
いずれ怪物が絶滅しようとも、人の欲は永遠に尽きない。
Q:なんでウィッチャーなのに霊薬飲んだり剣にオイル塗ったりしないの?
A:錬金術を完全に捨てたビルドなので、調合に成功しないからです。あと材料費高い。
※おまけのキャラステータス
■ヴォルフラム
種族:ウィッチャー
職業:ウィッチャー
■能力値
【知力】:7
【反応】:13
【敏捷】:11
【体格】:10
【移動】:7
【共感】:1
【製作】:1
【意志】:10
【運命】:3
■武器
狼流派の鋼の剣
狼流派の銀の剣
■防具
狼流派の鎧(胴、腕、足)
■所持品
ウィッチャーのメダル