実際の試合をCGに落とし込み、ゲームの様に表現する事で、それまでそのスポーツに興味を持っていなかったターゲットにも興味を持ってもらえる。その技術を知った地方サッカーリーグの広報担当者の選択は如何に!

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超次元サッカー

実際のスポーツをCGに落とし込み、リアルタイムでゲーム画面の様に変えて放送すると言う技術があり、子供達を中心に市場は着々と拡大しているという。

この話を聞いて、地方の弱小サッカーリーグの広報担当をしている俺は目を輝かせた。

 

俺の働いている地方リーグは解散の危機にあった。

沢山のファンの要望で立ち上げられたリーグだったが、立ち上げ当初からファンであるサポーターの人数はさほど増えていない。むしろ高齢化によって減りつつある。ガチのサッカーファンは中央の全国リーグや海外チームを応援する。気軽にテレビでそれらの試合が観られる時代に、わざわざ地元の一段劣る選手の試合を見る為に労力とお金を費やしてはくれないのだ。やはり地方リーグには地元愛が必要と、子供の取り込みも頑張ってみたが、ゲームや動画サイトで刺激的なもの慣れた子供達の肥えた目を引くことは叶わなかった。いわばジリ貧だった訳である。

 

実は俺自身、サッカー経験ゼロだ。もちろんサッカー自体は知っているが、全てアニメやゲームの知識だ。そんな俺がこの仕事についたのは、そのゲームで、特にめちゃくちゃハマったサッカーゲームがあったからだ。アニメ化もしたそのゲームは、スポーツゲームなのにRPGという異色のそれは、各キャラクターに必殺技があり、ド派手な演出とともに技を繰り出し、点を決めるという内容だった。その必殺技が痛快な上、転校制度というシステムで、負かしたチームの選手を自分のチームに転属させた上、そのキャラとしか出来ない協力技という必殺技まであったから、以前のライバルが味方になるという王道パターンにすっかり夢中になったものだ。

そんな俺に取ってサッカーとは熱く、痛快なものだった。

そのサッカーで俺以外の人にもこの楽しさを味わって貰いたい!

と思いこの仕事に就いた。

しかし、実際に働いてみて感じるのは熱さでは無く、これじゃ無いという物足りなさだった。

我がリーグのサッカーの試合は、なんと言うか、地味なのだ。

確かに地方の弱小サッカーリーグという事で、世界で活躍選手達と見比べれば派手さが無い。でもぶっちゃけそんな技術の差なんて本質的な問題では無い。うちのリーグの選手だって、世界で活躍するまでには至っていないが、日本全体で見れば全国のサッカー選手の上位一握りに入るだけの実力者なのだ。試合もそれなりに良い試合をしている。なのに人気が出ない。

その理由がそのリアルタイムでゲーム画面の様に変えてみせるという技術の存在によって明白となった。

これは我がリーグだけの問題ではなかったのだ。

むしろ、逆に選手達の知名度が低いおかげでその理由に気づけた!

現実のサッカーそのものが、あのゲームと比べて、地味なのだ!

 

その事実に気づいてしまった俺は早速、実家の俺の部屋に行き、当時使っていたゲーム機とゲームを引っ張り出す。

そして、ゲームのキャラのステータスや必殺技をまとめ上げると、自分のサッカーリーグの選手に当てはめていった。

そうして資料が全て揃うと、そのデータを持って、このリアルサッカーをゲーム画面に変える技術を行う企業に連絡を取り、会いに行く。

話し合いは予想以上に上手くいった。

相手の経営者も私と同意見だったのだ。

あのゲームのドキドキと興奮を、現実のサッカーで受けられていない側の人間だったのだ。

そこからは商談と言うより、最早ゲームの思い出を言い合う幸せな時間を過ごす。その話し合いの中で、特に話題になったのが、試合における必殺技の重要性である。この必殺技をどうやって入れて、どう言う演出を行うのか。実際の試合では一瞬で決まるシュートだが、必殺技の演出を入れると十数秒はかかるのだ。それに刻一刻と繰り広げられる競技の中で、今のプレーに必殺技の演出をつける、つけないを判断する猶予も必要となる。そういった演出の為に必要な時間と実際に行われている試合との時間の差をなんとかしなければならないのだ。そういう事が話し合われた。

 

結果、実際の試合とゲーム加工版を時間差で放送することにする。

開始時間の10分後にCG版を流すことになる。

完全にリアルタイム派とCG版視聴層を分ける事だ。

CG版のターゲットは動画サイトといういつでも視聴可能な環境に慣れた子供達世代だったので、多少の時差にこだわるより、必殺技の演出にこだわった方がいいだろうという判断だ。

 

方向性が決まった俺は早速企画書にまとめ、本部の上層部と掛け合った。

はじめは渋っていたお偉いさん達も、元々解散秒読みという危機的状況で何もしないよりはマシだと承認してくれる。まあ、CG会社の社長が趣味の延長だから制作コストをかなり抑えてくれたことと、試合とは別枠のネット回線を使った放送なので予算的にも安かった事も彼らの背中を押してくれたのだろう。注文としては洗車をできるだけディフォルメでは無く、リアルな姿に描いて欲しいという事だった。選手にも生活があるので、ちゃんと試合での活躍を残してやりたいという親心だろう。

 

選手達もノリノリで、一部に抵抗感を持つものもいたが、おおむね子供達向けの放送という事で納得してくれた。中にはCGにしやすい様に髪型や服装を変えてくれる選手もいた。

 

こうして着々と準備は進み、ついに放送初日の試合を迎える。

CG会社の社長は知り合いのアニメ制作会社から演出家の方を呼んでくれていて、技やカットインのタイミングはその人に委ねる方になった。

試合が始まると、出だしから一気に敵陣営にドリブルを決める選手、演出家はすかさずそのドリブルにドリブル技「旋風走り」の演出シーンを入れる。しかし攻め手は敵ディフェンダーにボールを奪われる。すると今度は「the金網(フェンス)」の演出が入る。ディフェンダーはそのボールをキーパーにパスし、キーパーは敵陣に走るオフェンス陣にロングパス。そのパスを受け取ったエースが一気に強烈なシュートを放ちゴールを決める。その試合展開に演出かはもちろんシュート技の中でも有名な「フレイムハリケーン」の演出で盛り上げつつ、敵キーパーの「悪魔の触手」で威力を相殺、キャッチされる。まさに必殺技の応酬。

こんな感じで試合を丸ごとゲームの様にしてみた。

はじめはポツポツと言った形で若年層の視聴がいたが、試合が進む事に加速度的に視聴は増えていった。前半戦終わった頃には、某有名な動画サイトや短い動画を上げるサイトにはリアルで一見みただけではCGと分からない我がリーグの選手が、重力や何やらを無視した必殺技を繰り出しているシーンが切り取られてアップされていた。その動画が増えるのと比例して、視聴数もぐんぐん伸び、最終的には地方局でしか放送していない実際の試合の視聴者数を大幅に超えるほどだった。

 

放送後も動画サイトへ動画があげられる為、全国のメディアでも取り上げられる様になる。

それまでは地方限定の活動だった為、スポンサーも地方の企業が中心だったが、ネット放送で注目を集めた事で、多くの企業からスポンサー希望のオファーが来る。

運営上層部は、ウハウハである。

逆に、困ったのは選手達。

地元で定期的に行っていた子供達とのサッカー交流会で、やたらと必殺技をやってくれとせがまれる様になったからだ。

せがまれるのが嫌で交流会に参加しない選手まで出て来た。

しかし、そんな時に選手の1人が、空中で横に一回転しながらボレーシュートを決める。彼は中学までバレエをやっており、それなりに期待されていたのに、サッカーに転向したという異例の経歴を持つ選手だった。バレエの振り付けにこれに近い振り付けがあったので、サービス精神で子供達に見せてあげたのだ。

これをみて子供達は興奮する。炎のエフェクトはなかったにせよ、先日の試合で観た「フレイムハリケーン」と似ていたからだ。

それを見て中学から同じチームでプレーしている名コンビが、1つのボールを左右同時に蹴りシュートを決める。「Xフレイム」というコンビ技を真似したのだが、これも子供達にウケる。

子供達もあれがCGだと分かっているのだ、それが分かってからは選手達は気が楽になり、交流会をボイコットする選手はいなくなった。逆に自分が試合で使った必殺技に寄せた技を披露して子供達に見せるという事が流行りだし、そのサービス精神に子供達のファンも増えていった。

 

面白く無いのは中央のサッカー協会である。

模倣の道も探ったが、こちらはサッカーそのもののファンが多い事からCG化は反対されて出来なかった。

はじめは曲芸サッカーと馬鹿にして溜飲を下げていたが、地方リーグの選手達が技をやる様になると、テレビウケが良い為、中央の選手のテレビの仕事が減っていた。選手の知名度の低下はそのうち協会全体のスポンサー収益にも響いて来た。

このままでは堪らない。

協会は地方リーグを「サッカーでは無い」と正式に非難したのだ。

地方リーグもサッカーでは無いという侮辱には徹底的に争うとの声明を出し、いがみ合いがはじまりそうになる。

 

 

この事態を救ったのが、

「いがみ合うよりサッカーで勝負したら?」

という一言である。

この一言をきっかけに、地方リーグ対サッカー協会の試合が行われる事になる。リアルの試合としては実力的に地方リーグが苦戦していたが、既にエンタメを理解した地方リーグ選手は絶対強者に抗う自分達を演出した為、なかなかに見所があった。思わず皆んな「地方リーグ頑張れ!」と応援していた。

逆にネットによるCG放送では、数々の必殺技にも動じず、通常のプレーのみで地方リーグを圧倒するその強者っぷりに子供達は心を奪われた。

結局、どちらも旨味があった事でこの対抗試合は毎年行われる様になり、どちらの懐もあったまる事になるのであった。

 


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