1/32の峠 ―Drift & Dash―   作:Kataparuto

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こちらの読み切りから本編となりますので読み切りを一応読んでおいてもらえると助かります

下り最速と疾走の双星 ―再起動するレーサーズスピリット―
https://syosetu.org/novel/388000/



本編
ACT.1 WGP開幕!チーム・ビクトリーズ始動!


WGPの開催告知から少しして、正式に外部コーチとなった藤原拓海の日常は変化していた。

昼間の仕事ももちろん続けているが、毎朝の豆腐の配達を父親、文太との交代制となっていた。

理由としては、昼の仕事が休みの日はほぼすべてが土屋博士の研究所に行き、TRFビクトリーズの指導に充てられるためだ。

 

しかし、藤原拓海としては、プロジェクトDが終わりくすぶっていた日々からの脱却であり、ドライバーではない立場で関わるという貴重な経験を得るに至っており、非常に満足している。

 もちろん日々の指導の中で自分の中では結論が出ていることを、小学生のレーサーたちに噛み砕いて説明したり、実践してみせてみたりと翻訳作業を行うのは容易ではない。

 そんなことを考えながら藤原拓海は土屋研究所にある練習用コースを眺めていた。

 先ほどからTRFビクトリーズの面々が各々自由に練習走行をしている。

 具体的な指導をしていないのはまだ日が浅いことと、TRFビクトリーズの強みはプロジェクトDで自分と高橋啓介の下りと上りの専門性を突き詰めたような、一人が万能ではなくそれぞれが特色を持っていることにあると思っているからだ。

 まずは誰がどのような走りが得意なのか、その長所を伸ばし、欠点を少しでも減らす、そのための材料を集めている状況である。

 

「藤原コーチ、もう一度走りを見てもらっていいですか?」

 

そんな拓海に声をかけてきたのはJと呼ばれている少年だった。

TRFビクトリーズではプロトセイバーEVOと呼んでいるマシンを扱う。

性能としては尖った部分はない代わりにこれまでの走行成績でほぼトラブルなしという実に頼もしいマシンだ。

あらゆる路面状況にも対応できるため、チームレースで誰かが抜けたりした場合にすぐにフォローに入れる頼もしいマシンとレーサーだ。

 

「分かった、どこが気になるんだ?」

「えっと、コーナー脱出時のトラクションコントロールです。コーチのラインを参考に組み立ててるんですが……」

「システム的な方も絡みそうだな……博士の見解も聞こう。土屋博士、ちょっといいですか?」

「ん、どうした藤原くん」

「Jくんが、コーナー脱出時のトラクションコントロールのフィーリングが上手くハマらないようなんです。ちょっと一緒に走りを見てもらっていいですか?」

 

 拓海の提案に土屋博士は頷き、先程まで一緒にマシンのセッティングを見ていた烈の方へ振り返る。

 

「わかった。烈くん、すまない一旦J君の方を見るけど、良いかな?」

「大丈夫です博士。よし、豪、並走頼む、ラインをブロックされた時のかわし方を練習したいんだ」

「OK、烈兄貴……!お、藤吉、お前も一緒にやろうぜ、1対1より人数居たほうが練習になるしな」

「そうでげすな……。じゃあ逆にわてが烈くんを後ろから抜きにかかるでげす、ブロックしつつスキをついて抜くのは良い練習になるでげす」

「難易度高いなぁ……。まぁいいや、行こう!」

 

 烈はすぐに豪と藤吉たちとコースへ入る。自主的にレベルの高い練習を行うのは良いことだ。

 レース意識の高い少年たちを見て拓海も気合が入る。

 ブロックとパスの練習を繰り返す三人をよそにJもマシンをコースへ走らせる。その走行を見ながら彼の言わんとする所が拓海には分かった気がした。

 

「確かにJくんの走りはすごく安定している。オレが知ってる走り屋でもあれほど綺麗に丁寧なのは須藤さんとか藤堂塾の人たちみたいなサーキットレース経験者っぽい走りなんですよね」

 

 自分と86との関係を気づかせてくれた須藤京一、一瞬たりとも気の抜けないレベルの高い走りを体験させてくれた藤堂塾の人たち。

 彼らの走りは基本に忠実で、だからこそ速かった。

 

「そうか、藤原君には言ってなかったね。J君は大神博士の所で先に走りを学んでるから、基本はサーキットレースに近い王道路線なんじゃないかな」

「大神博士?」

 

 聞きなれない人物の名前に拓海は疑問を返す。

 マシンから目を離さずに土屋博士は続ける。

 

「大神はね、私と一緒にセイバーを開発していたんだ。ただ、レーサー自らがマシンを育てて速くすることを目指した私とは違い、彼は速さだけ、マシンが早ければレーサーはどうでもいいといったような思想でね……仲たがいしてしまったんだ、それから私としてはいまだに良いライバルだと思ってるんだがね……」

「それがどうして王道路線に繋がるんですか?」

「彼の言う速さは当然今あるモータースポーツを基準に作られている。だからサーキットレースの走り方が一番早いという考えも一部あるよう思える。だから、彼の下で鍛えられたJ君の基礎はそこにあるわけだね」

 

 そういわれて改めてJの走りを見る拓海。

 丁寧なブレーキングからのコーナー処理、立ち上がりまでほぼ無駄がない。惚れ惚れするほどの見事な走りだ。

 だが、そこに違和感を拓海は感じた。その正体を自分の記憶の中から探る。

 しのぎを削ってきた峠でのやり取りを思い出していく中でその違和感の正体に気づく。

 Jの走りは至極全う、基本に忠実、だが、その走り方に攻めを感じない、安全策と言うよりは別の何か……。

 

――そうか……だからか。

 

 プロジェクトD時代の遠征、その時はいつも80%ぐらいで練習走行をするように言われていた。それは相手にこちらの限界を探らせないという目的もあったが、そもそも大事な本番前に車を壊さないようにするという至極当たり前の理由もあったように思える。

 そこからJの弱点ともいえる考え方や走らせ方に拓海はある仮説を立てJのこれまでの練習レースなどの成績でのリタイア率の極端な低さを思い出しその仮説が正しいのかもしれないと得心した。

 

「土屋博士、これはあくまで推論なんですが、Jくんは限界まで攻めてませんよね?」

「どうしてそうおもうんだい?」

 

 まるで涼介に質問した時のようになぜ?を返された拓海は一瞬たじろぐが、ここではコーチである以上、この意見はちゃんと言ってみないとダメだと踏みとどまる。

 

「完走率の高さ、マシントラブルの少なさ、オールラウンダー、これらは主役になることを控えてあくまで全体のサポートに徹しようという姿勢から出てると思うんです。マシンポテンシャルはビクトリーズの誰とも劣らないマシンのはずなのにいつも一歩引いた成績であるのは、自分の限界まで攻め込んでいないように見えます。――そう、今のコーナーもプロトセイバーならもうあとワンテンポ早くアクセルを開けても安定して加速し、より早く抜けられるはずです」

 

 素人目に見れば十分に速く抜けていったヘアピン。

 そこもまた拓海から見ればまだ限界ではない、まだあと一歩踏み込んでブレーキングして、もう一歩速くアクセルを開けて次へ行ける。

 培われてきた肌感覚がそう言っているのだ。

 

「藤原くんのその感覚と意見は正しいだろう。私の技術者としての意見だが、プロトセイバーの完成度とそのポテンシャルはまだあの程度じゃないのは間違いない。しかし、彼自身の心象として表彰台を取ることを恐れていると私は思ってるんだ」

「恐れている?」

 

 競争者、レーサーが表彰台を恐れるとはどういうことだろうか?

 負けたら悔しいものだ。拓海自身も走り屋を始めてから何度も負けるかもしれないというシーンは沢山あった。それでも何とか勝ちをもぎ取ったり、リザルトはいざ知らず、個人的には負けたと思ってるバトルもいくつかある。

 だから、競争をするなら勝ちと負けが出る以上、勝ちたいと思うのが筋だ。

 

「大神のレースは速さが全てだと言ったと思うんだが、その中にはいわゆる攻撃的な走行や、装置を使うこともためらわないという意味が入っているんだ。君の話は高橋くんから聞かせてもらっているけど、汚い手を使う走り屋とも何度か走ったことがあると聞いている、そういう手口を直接的に行うようなこともあるのが大神の走りなんだよ」

「……それがJくんの話とどう関係が?」

「Jくんはね、大神にそういった走りを出来るマシンと走り方を教え込まれた。だから最初は烈くんや豪くんのライバルとして立ちふさがったんだ」

「……そういうことですか」

 

 今はまっとうなレーサーとして戦っているJだが、昔はそうではなかった。

 環境が許さなかったとしても、一度汚い手に染まってしまっていた以上まともなレースをして栄光を受け取るというのがJとしては自分を許せないのだろう。

 だから前に出ない、いや、出れない。

 せめて仲間をサポートして勝利に貢献する、一緒に走れるということで満足しているのかもしれない。

 難しい顔をする拓海の横で、年長者らしく余裕を持った表情で土屋博士は言う。

 

「コーチとしてこの問題を先送りしても問題はないと思うが、どこかで解決しないといけない問題でもある。だけど、相手は子供、それに仲間もいる。だから知らないうちに彼らの中で解決するかもしれない。よく見ておくんだ、藤原くん。君に求められるのは必要な時に手を差し伸べられることだからね」

「……はい」

 

 拓海はビクトリーズたちを見まわし改めて決意する。

 自分のやり方は正しいかどうかは分からないが、このWGPが終わるまで彼らに寄り添い、支えていかなくてはならないと。

 かつて自分が涼介や、プロジェクトDのチームメイト、そしてスピードスターズの仲間たちに支えられたように。

 気を改めた拓海は自分のセイバー600、いやハチロクセイバーを取り出しJを呼び止める。

 

「よし、Jくん、大体わかった。多分言葉で説明するより一緒に走ってみたほうが分かってもらえると思うから、並走良いか?」

「分かりましたコーチ、お願いします」

 

 こうして拓海はJとそのマシンの限界への挑戦として、Jと一緒にとことん走り込むのであった。他のメンバーも交えながらの練習は実に有意義で、拓海としては手ごたえを感じる一日であった。

 

 

そうして開会式当日を迎えた。

拓海としては今だコーチとしては手探りな中の開催であったが思えば自分自身、全て万事OKの状態でバトルをやってきたではない、当たって砕けろ、やりながら直せ、はいつもの事だと納得しせめてサポートできるように情報を入れていく。

初戦の相手はアイゼンヴォルフ、曰く今回のWGPにおける優勝候補らしい。

 

 ――ヨーロッパ選手権での優勝常連、圧倒的な強さを誇るらしいけど……。

 

日本と同じでモータースポーツ大国出身というだけでもノウハウの量が違う、警戒すべき相手だと拓海は気を引き締めた。

レース開始前のブリーフィング、ビクトリーズのメンバーは各々準備を進めていた。

WGPとはいえこれまでグレードジャパンカップなど国内大会の上位成績者たちだ、肝が据わっているのを感心しつつ区切りのいいところで拓海はメンバーを集めた。

拓海はコースを俯瞰してイメージしたラインを簡潔にまとめてそれぞれに伝える。

峠と違い一目でコース全体が見渡せるのはこういう時には便利だと思いつつ各レーサーの得意どころと苦手どころに合わせたポイントを伝えていく。

豪とリョウはロングストレートで仕掛ける、烈と藤吉はテクニカルセクションで、Jはコース全体がテクニカル多めのため豪とリョウのサポートへとアドバイスした。

システム面では土屋博士が各マシンをチェックしお墨付きを出す。

 

「しかし、当初は開会式当日にGPチップが納品予定で肝を冷やしたよ」

「後から聞きましたけど、何とかうまくいって良かったですね」

「あぁ、その代わり新型のアトミックモーターが今回初投入となったがね……」

 

実を言うとグランプリマシンたらしめるGPチップの導入はこの開催直前になりそうだったという裏話がある。

これはWGPの開催告知と日本参加決定が遅れてしまい手配が遅れたのだ。

しかし、藤吉の親が経営する三国コンツェルンの緊急出資と、どこからか聞きつけたモータースポーツ界隈の重鎮たちの働きで早期納品ができ、マシン特性へ合わせたGPチップの慣らしと教育が十分な時間を取れたのだ。

 

――そういえば秋山さんとバトルしたときもぶっつけ本番みたいなもんだったな……。

 

――1万1千まできっちり回せ、か。

 

慣れないエンジンでいきなりバトルというあれと同じ状況になりかけていたと思えば個人のバトルならともかく、世界大会でやっていい状況ではないなと拓海は苦笑し、時間目いっぱい使って準備を整えたビクトリーズたちに拓海は声をかけた。

 

「レース中ごちゃごちゃ言われるのは嫌だと思うし、俺も嫌だ、だから後は任せる。信じてるからな」

 

短い激励、これまで拓海は彼らの走りをみてきたし、一緒に走ってきた。だからこそ、世界の壁がどうあろうともその走りは通用すると思っている。

あとは彼らがやり遂げることを信じるだけだ。

 

レース前コースわきへ集合する選手たち。

最後の最後までマシンチェックをしていた烈が合流したところで、アイゼンヴォルフの選手がビクトリーズへ声をかけてきた。

 

「ギリギリまでマシンの調整、大丈夫か?走ってる最中に分解したりしないだろうなぁ?」

「恥ずかしい奴だぜ」

 

その言い方は心配する様子と言うよりは煽りだった。

 

「烈兄貴は心配性なんだよ、ほら見ろ、世界中に恥をさらしちまったじゃねーか」

「ミニ四レーサーとして恥かしく無い姿を見せるために調整してたんだ、これぐらい恥とは思わない」

「……それもそうか、よし、頑張ろうぜ、兄貴」

「あぁ!」

「そういや藤吉、お前ツインモーターとかやろうとしてたけど結局どうしたんだ?」

「コーチからメカニカルな新しい事は練習の時だけにしろって言われたでげす。まぁ上手く走らなかったら本末転倒でげすからな、終わってから試すでげす」

 

 

烈たちビクトリーズは拓海からレースへの心構えを教えられていた。

曰く、闘争心以外の感情を持ち込むなという物だった。

むしゃくしゃしたフラストレーションを持ち込めばマシンを壊すような結果になる。

でも勝ちたい、負けたくないという感情は忘れてはいけない。

今のような煽りに対しては、答えるのではなく結果で答えを示すということだ。

結果で示す、勝っても負けてもそれが答えでしかない。

 

「それでは始めるぞ!!このサーキットを5周すればゴールだ!みんな準備は良いな!?スイッチオン!」

 

司会のミニ四ファイターの合図で全員がマシンのスイッチを入れる。

 

「レディ!ゴー!!」

 

シグナルが赤から青へ、マシンたちが一斉に飛び出す。

 

「良いぞ、皆!」

「いけー!!あんちゃーん!!」

 

土屋博士とリョウの弟、次郎丸がガッツポーズを取る。

スタート直後、ビクトリーズのマシンたちは烈を除いて前を取った。

初投入のアトミックモーターもできる限りブレークインを行い最高潮とは言えないが十分な性能を発揮している。

先頭をリョウ、J、豪、藤吉、アイゼンヴォルフの4台そして烈とアイゼンヴォルフの最後の1台が最後尾と言う状況である。

ソニックのポテンシャルならもう少し前についていけるはずだ。

拓海はその状況に若干の不安を覚える。

 

――峠では後追いが有利だ、それにこちらの走りを初戦から見せていいのか?

 

冷静に状況を分析し、相手の様子を見る。

マシンスペックはヨーロッパ選手権の常連チーム。こちらのスペックも十分鍛えているがスタートで後れを取るだろうか?

 

――涼介さんと一緒か!?

 

かつて秋名の下りで初めて高橋涼介とバトルをしたときの記憶が蘇る。あの時圧倒的格上の涼介が後ろからぴたりとついてくる恐怖。

突き放そうとしても距離が変わらない焦りは相当のものだった。

後から聞けばこちらの走りを分析しあえてまねて抜き去ることで精神的なショックを狙ったものだったと言っていた。

アイゼンヴォルフがそれを狙っているかは分からないが、すくなくともこちらの走りの観察をしている可能性はある。

ゆえに1周、2周と周回を重ねても特段、差が開いたり逆に縮まるような様子もない。

 

「博士、勝負は5周目です。そこで動きます」

「藤原くん、どうしてそう思うんだい?」

「相手はこちらのマシンスペックやラインの取り方など、とにかくデータ収集する走りです、勝つことをあきらめているわけではないので仕掛けは5周目、そろえたデータでこっちの弱点をとにかく攻めてくるはずです」

「どうする?彼らに伝えるかい?」

 

土屋博士の言葉に拓海は逡巡する。

ここで相手の目論見を伝えてやるのがコーチの仕事かもしれない、だが、彼らは彼らの意思で走っている。

自分の事を振り返れば一度峠に出てしまえば後は自分の判断で走るしかなかった、目論見を暴き、たとえ不利になっても覆すまであきらめない。

そうして成長してきたんだ。

だから拓海はレースを映し出すモニターから目を離さず、はっきりと言った。

 

「いえ、最初に言いましたから、彼らを信じると。それに、多分烈くんは偶然ですけど相手の目論見を崩せるかもしれません」

 

 集団から少し遅れて追い続ける烈とソニックだったが、ショートレースではあまりやらないピットインを行いバッテリーを交換する様子が見える。

 

「わざと弱ったバッテリーで走ってブレークインをレース中も続けていたのか」

 

土屋博士は烈の考えを見抜き感心する。

コースの全長とブレークインの完了タイミングを見極め、チャンスを待っていたのだ。

 

「そして多分ですけど、相手は一人を除いてこちらを完全に格下に見ています。付け入るスキはそこです」

 

5周目目に入ろうかと言う所でアイゼンヴォルフの全員が速度を上げビクトリーズを抜きにかかる。

彼らは見事なフォーメーション走行を行い、それを前提にレースを組み立てている。

だが……。

 

「へっ!こちとら散々ブロックの練習してるんだ!今さら抜こうったって遅いんだよ!」

 

豪が言うように、自由自在にマシンが動けるレースとなればブロック技術は必須だ。涼介からコツを聞いた拓海は自身の経験と合わせてビクトリーズの面々にそれを教えていた。

時にハチロクセイバーでブロックし、逆に後ろからブロックを崩したりと様々な練習を行っていた。

 一見ビクトリーズの走りは各々が自由に走っておりフォーメーション走行は行っていないため隙だらけに見える、だが、拓海の1対1のバトル経験から作られている駆け引きのテクニックを教えてもらっているため、単純なマークからやり合う場合は相当に手ごわい。

 ばらばらに走っている不慣れな連中と侮っていればそれぞれが巧みにブロックしてくる、そうしているうちにアイゼンヴォルフ側のフォーメーションが崩れていきまともに走れなくなってくる。

そんな中でJがヘアピンへと突入する、Jは今だと思ったブレーキングをわざと遅らせる。普段ならラインを外すような速度だと思っていたが、EVOのタイヤは路面に喰いつき、今までにない速度でコーナーをクリアしていく。

立ち上がりもさらに早くアクセルを開ける。

圧倒的に速い、コーチに見せてもらったEVOの限界を軽々と超える踏み込んだ攻めの走り、表彰台へ立ってはいけないといった強迫観念すら置き去りにする速さだった。

それには後方からアタックをかけていたアイゼンヴォルフのマシンは全く追いつけなかった。

 

――アイゼンヴォルフは自分たちのフォーメーションのセオリーに自信があった。だが相手の個の駆け引きの能力の高さが織り込まれていなかったのが誤算だった。

 

――そしてもう一つの誤算が。

 

猛然と追い上げてくるソニック。

ばらばらになっていたアイゼンヴォルフのブロックはもはや機能していない。

烈はその隙を突いて一直線に駆け抜けていく。

マークしていた一台が何とか追いすがるが、ここまでに磨き上げてきたソニックのコーナリングにまるで追いつけない。

慌てる相手の焦燥、そして崩れていた自信、その隙へ赤い一閃がトドメを指した。

全く意を介さずに先頭グループへ返り咲いたソニックの姿はアイゼンヴォルフのレーサーたちの闘争心を打ち砕くには十分だった。

 

――派手にやったな。

 

拓海はゴールへ飛び込んでいく面々を見ながら苦笑した。

こちらのマシンスペックを余すところなく見せつけた派手な開幕戦になってしまった。

これで、各チームのビクトリーズへの評価は厳しくなるだろう、だが、それでこそやりがいがある。そうして拓海はゴールしたビクトリーズを労うためにブースを博士たちと共に出るのだった。

 

 

――これからは追われることになる……だけど、望むところだ。

 

ハチロクセイバーで良かった?

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