世界各地の都市だけが傾いた。
瞬間的に熾された光
それを浴びた奴の1.5%は身体が変わった。
そんなに変化がないやつもいれば、性別が変わる人や、姿形が人では無いものも居たりした。
直ぐに迫害を受けたが……1週間もすれば無くなっていた。
何故か? あぁ、第2の混乱が起こっていたんだ。
こことは違う異界と呼ばれる場所から様々な……人? 怪物? の様な客人がやって来た。
アイツらの持つ技術がどうも凄かったらしい。
あー、まぁ。つまり……世界中の都市は異界と交わったんだ。
10余年。
世界各地の都市が変わった。
都市の空は高密度の謎の光で溢れ、それを浴びた一部の人間は変化した。
変化の程度は様々だ。
殆ど変わらない奴もいれば、俺みたいに性別が変わる奴もいる。
中には、人の姿を失った者もいた。
すぐにに迫害が始まった……が、1週間もすれば鎮静化していた。
何故か?
あぁ、第2の混乱が起こっていたんだ。
こことは違う異界と呼ばれる場所から様々な……人? 怪物? の様な客人がやって来た。
アイツらの持つ技術がどうも凄かったらしい。
あー、まぁ。つまり……世界中の都市は異界と交わったんだ。
$¥$¥$
突然現れた。
玄関のチャイムが無機質に俺を呼び止めた。
「……」
『もしもし、ダリ・グヴィンさん、いらっしゃいますか? 開けてください』
金属製の扉越しに若い女の声が共鳴して震えた。
だが、出ない。出たくない。
音が出ないようそっと窓を開け、最低限の荷物を背負って枠に足を掛けた。
『開けますよー?』
ガチャリと鍵が空いた音が聞こえる。
下を見れば少し高い。
人間で言うところの2階程度高さだな。
「よっ……」
「っ! 逃げんな! 脱税者!」
勢いよく開く扉。
俺はすかさず窓を乗り越えて外に出た。
そのまま少しジャンプして屋根に飛び乗る。
「あぁ! もう! 止まれ!」
「やなこった……」
屋根沿いに走っていく。とにかく逃げるしかない。
「ここにあるのは差し押さえるからなぁ!!」
怒号が聞こえるが、止まってやるものか。
俺は屋根から飛び降りて路地裏へと逃げ込んだ。
「はぁ……っ! はぁ……!」
これだけ逃げればもう無理だろ。
顔を改造して別の場所に……。
「よぉ……」
頭上から降る声。
室外機の上、ちんまい人間の女が座っていた。
「っ!」
俺は咄嗟に銃を抜き、女に狙いを定めたが……。
「おんやぁ? どこ見てんのぉ? こっちだよ、こっち」
「っ……!」
真後ろから聞こえた声に驚き体が硬直する。
「はい、御用改めである〜」
カッシャンと軽そうな金属音が手首に。それと共に、首に何かを巻き付けられる。
「うぐっ……がぁ……!」
銃を落とされ、後ろで手錠をしっかりと掛けられた。
何か太い物でしっかりと押さえつけられ、頸動脈から酸素が通らなくなる。
「はい〜確保〜っ!」
その言葉の後、俺は意識を失った。
「……い……おーい起きろ〜……」
ペシペシと頰を叩かれる感覚で目を覚ます。
目の前に居たのはさっきのちんまい女だった。
「……っ!?」
慌てて飛び起きると、そこは取調室のような場所だった。
パイプ椅子の後ろで手を繋がれほぼ身動きできない。
「よーし、起きたなぁ……死んだかと思った……」
オッサンのようにドカりとパイプ椅子に身体を預け、ペらりと薄い冊子をめくって面倒くさそうに読上げる。
「えーっと……旧ミランダ警告により事前告知すること……あぁ、ここは読まなくて良かったな……えっと……あんたには黙秘権がある。あんたの供述は法廷であんたにとって不利益になる可能性がある。あんたには弁護士を呼ぶ権利がある。あんたは弁護士費用を払えない場合に国選弁護人の手配を求めることができる……と」
ダラダラ言い、説明を終えればタバコを取りだして火をつけた。
「じゃ、まずひとつ。税金の滞納及び脱税による追徴課税……文句ある?」
女は煙を吐き出し、鋭い眼光で俺を睨みつける。
「……ねぇよ」
「そうだよなぁ……ここは世界一平等で公平な国だ。何処で生まれ何処から来ようと構いはしねぇが、払うもんは払わねぇとならねぇ……」
ゆっくりと煙を吐き出して天井に向けて息を吐く。
「よし、じゃあふたつ目」
硝子で出来た灰皿に燃えカスを落とし、パンフレットをめくりながら問いただす女。
そういやなんか角生えてるな……こいつも外から来たのか……?
「ふー……公務員である俺に銃を向けた。これは公務執行妨害に脅迫罪、銃刀法違反などいくつか適用される。文句あるか?」
「ねー……」
「ふむ……そうか。素直でよろしい。ご褒美におじさんから飴ちゃんを授けよう〜」
おじさんと言うには女だし若すぎる。
男らしい口調のせいで調子が狂う。
ペッと投げ渡された棒付きキャンディを頬張る。
甘ったるくて嫌いな味だ。
「ふむ。とりあえずこのまま裁判送致……っと。裁判の結果次第では懲役になるぞ」
「だろうな……」
「弁護士は?」
「適当なのでいい……」
「本当、潔いな。なんで?」
「捕まったらもう逃げようねぇだろ」
「はっははははっ! まぁ確かに……はいよ。じゃあ書類揃えるから待っててな〜」
その後書類とやらにサインし、豚箱に詰められた。
$¥$¥$
「ふぅ……終わった終わった」
蛇のような鱗のある長い尻尾を活用して缶コーヒーを振りながら一番端自席に戻ると隣の席から気配を感じた。
「お疲れ様です、先輩」
「おお、セン坊。おつかれー……」
黒褐色の肌に鹿の角。少し幼いながらもいい体格をしているこいつはセン坊。
渾名しか知らねぇ。
どうやら向こう側の偉い人の息子だとか。
縁故で入社したし、名前で聞き取れたのがセンしか無かった故のセン坊だ。
本人も別に気にしてないしな。
「今回の案件も順調でしたね」
「まぁなぁ〜? あの地域の滞納者なん大抵改造も何もしてねぇやつばっかだしなぁ〜」
俺らがしている仕事は簡単に言えば取り立て屋だ。
この国で脱税やら税金の未払いが発覚すれば必ず俺たち税務調査官が赴くことになっている。
身元の確認と逃げた奴がいたら確保しなきゃいけない。
いつ死ぬか分からん場所なんだ、払えない状態なら仕方がないし、五体満足なら払ってもらうしかない。そんな国だ。
「先輩は良いですよね〜。僕は大変なんですよ? 毎日毎日……」
「あーはいはい。どこの管轄か忘れたけど大変そうだな?」
コーヒーを飲み切り尻尾を使ってゴミ箱へ投げ捨てると野太い女の声がオフィスに響く
「こぅらぁ! 誰だゴミを投げ入れる奴はぁ!」
「……」
「じゃ、僕はこれで〜」
「おい! セン坊!」
セン坊は自分の書類を持ちそそくさと逃げていった。
「竜ヶ崎……お前だな……こんな可愛らしい女の子になったのに……全く変わらないんだな……!」
ズンズンとオノマトペが聞こえそうなほどドスの効いた声で歩み寄ってくるのは俺たちの上司である鬼束だ。
今朝の脱税者へ1番最初にコンタクトしたのは彼女だ。
旧友であり、高濃度の光線を浴びて非力になった俺とは違い全盛期にまで若返った奴だ。
「へいへい、申し訳ありません課長」
「全く……次やったら三つ編みの刑だからな!」
「そうカッカすんなって……眉間にシワが出来てるぞ。美人さんが台無しだ」
「っ……! 馬鹿野郎!!」
鬼束が拳を振るうと同時に壁に穴が空いた。
どうにか避けれはしたが……危なかった……。
「……修繕費、出しとけよ? 課長さん」
「う……」
「じゃ、俺は上がるから〜」
「お前なぁ……」
「じゃあな〜」
$¥$¥$
家までの帰り道。
殆ど人の載っていないモノレールに揺られる。
対面の硝子に反射する影を見てみると見慣れた俺自身が映っている。
肩まで揃えた藍色の髪。
頭の上の一対の角。
少し尖った耳。
スレンダーでちんまり。
そして蛇の様な青い鱗で覆われた尻尾。先っぽには毛。
なんというか……日本の怪物、神の龍を彷彿とさせる見た目だ。
外に出ると歳を食ったジジババ様方が拝んで来るくらいにはかなりイメージ通りの龍であるらしい。正直嬉しくはないが……。
「ふぅ……」
……ふむ。今日も一日疲れたな。
家についてすぐベッドにダイブしたい気持ちもあるが、まずは風呂だ。
湯船に浸かりながら今日のことを振り返る。
脱税者の捕縛は順調にいったし、特に問題もなかった。
ただ、あの連中を追い回す日々が続くと思うと気が滅入る。
浴室の鏡に映る自分を見る。
かつてはそれなりの男だったのが、今はこんなにも小柄で華奢になってしまった。
それでも角は威厳を感じさせるが、全体的に弱々しさが漂っている。
嘆いても仕方ない。今の体でできることをするしかないのだ。
風呂から上がり、冷蔵庫からビールを取り出す。今日は奮発してプレミアムなやつを買った。
一口飲むと喉を通る苦味が心地よい。
仕事終わりの一杯は格別だ。
テレビをつけたらバラエティ物が流れていた。最近流行りの空を飛ぶ巨大ワームとか。イルカを一呑みするクラゲとか。そんな話ばかりしていた。
すげーな……
「……もう温いな……寝るか」
シンクに残った酒を捨て歯を磨いて布団に入る。
あぁ、どうか明日は来ませんように。
誰か続きを書いたっていい。