世の中には同じ顔の人間が三人はいる、と巷説言われておりまして。
私と同じ顔で私じゃない人は、どんな人生を歩んでいるのだろう。ここにいる私よりちょっと信心深いかもしれないし、好き嫌いが多いかもしれない。何にせよ何かに熱心だったり誰かを好きになったりして、一生懸命生きていそう。いつか何処かでバッタリ会って、何処かで見た顔だなーとかお互いに思ったまま無言ですれ違うんだろう。
……なんて、想像を巡らせたりする事もあるけどね。あるけどさ、うん。
まさか実際、道で会うなんて思わないでしょうよ。しかもお互いが――同じ顔の男子を連れているのだから驚きだ。
いや、いやいや。いやいやいやいや、待て待て待て。これは結構な、奇跡ではあるまいか。
揃って人目も憚らず素頓狂な声を上げあい、私と私じゃない私は顔を見合わせていた。
自分にだけ似てるならああそういうこともあるか、と流せたけど同行者まで似てるとなるともう二度見じゃ済まない。
予定を変更して急遽入ったファミレス、そこで私たちは向かい合ってはいるのだけれども。
……なんだろう、この鏡見てるような感じは。落ち着かないな、うん。
とりあえずは自己紹介だな、人間関係の基本だ。
私は
「えー……私そっくりな貴女が、青野波子さんね。私はかのちなつ。えっと、そちらのお連れさんが」
「待機です、でそっちの俺みたいなのが……」
「俺もタイキです、字は違うと思うけど。俺はこういう字で……」
どちらともなく同じ顔同士で紙ナプキンに自分の名前を書きあっている姿は、なんだか可愛い気がする。なんてニヤけてると、かのさんは私にスマホの画面をかざした。そこにあった字は、鹿野千夏の四文字。ああ、こんな字なのね。
これで私たちも同じ名前だったらミラクルだけど、さすがに無いか。
しかしまあさっきから店員さんやお客さんの視線がスゴいな、まあそりゃ同じ顔コンビ×2だもんなぁ。珍しいと言うか不思議だよね絶対。
あと大喜くんと待機くんは顔が同じだけど中身は大分違うらしい、なんだろう目の輝きとか活力が特に。うーん、そりゃ別人なんだし当然だけど。なんか釈然としないなぁ。
――と。
私はふと、考えた。この二人はどういう関係なのだろう、もしかしてもしかして。もしかして、私たちみたいな間柄だったりするのだろうか。親しいのは確定してるけど、付き合ってるのかなどうなのかな。
でも聞いたら失礼かも、というか失礼に決まってる。ここは止めとこうかな、と思った矢先。
「鹿野さんとそっちの俺って、付き合ってるんですか? 俺気になるんすけど」
空気を読めない待機くんが、何のオブラートにも包まず全力でブチまけるものだから、私は思わず持っていたグランドメニューをスパァンと待機くんの顔へと叩きつけてしまった。
初対面でなんて事聞くかな君は失礼でしょ、あとそっちの俺とか言うんじゃありませんっ。
「えーだって読みが同じだから言いにくいし」
本当に待機くんはいつもこうだな、ズレてると言うかなんと言うか。基本受け身の癖に、性格が攻め寄りだから困ってしまう。
ほっとくと何をするやら分かったもんじゃない。ちょっとだけ黙っててもらおうかな。
「ちなみに俺たちは付き合ってます、ラブラブです」
たーいーきーくーん!! 君はもうちょっと考えてからしゃべるようになってくれないかなー!
失礼千万な質問に加えて突然のカミングアウトに一瞬だけ鹿野さんの身体が固まり、でも。そこから動いた表情は、優しく暖かいものだった。
「うん、そうだよ。私たちも、お付き合いをしています」
鈴の音みたいなその声は、羨ましいくらい真っ直ぐで。同じ顔でもずいぶん違うものだ、なんて思ってしまったくらいだ。
それから、それから。色々とぶっちゃけ話を繰り広げた結果、私たちはまるで長年の友人だったかのように、楽しいお喋りを続ける事になった。『ちょっと友達に送りたいから写真良いかな』と鹿野さん――千夏が言うから並んで一枚撮ってみたり、お互いのろけ話に花を咲かせて彼氏たちを困らせてみたり、そんな風に。
ちなみに送った写真を見た友達さんからは、『ほいほい増えんなや、目が滑る』『何また多重影分身してんの』『気軽に幽体離脱するなって言ったろナツ』とツッコミが多数来たそうだ。……前からこんなことばっかしてんのかな、この人。
そして今は別れ際に交換した連絡先を使って、夜の夜中にメッセ飛ばしあっているのだけれど。
深夜テンションのやり取りの中、話はだんだん際どくなってきて。あれやこれやで、正直あんまり宜しくない方向に進んでいく。
いやこれはこれで楽しいけど、後で読み返したら赤面するかも。
あとちょっと複雑な気分なのが、どうもうちの待機くんは……あっちの大喜くんよりもその……そっち方向に奔放だと分かってきたという事だ。
大喜くんは待機くんと違ってすぐ匂い嗅いだり触ってきたりしないし、キスだってハグだって千夏が主導でやったそうだ。むしろ『大喜くん可愛くて我慢できなくなりそうでどうしよう』みたいな状態らしい。
待機くんはすぐそういう事したがるから、男子ってみんなそういうものだと思ってたのに。
どうしよう、自制心持たせるべきかな。でも私が言うことあんま聞かないんだよね、待機くんは……。
まあ、とりあえずそれはまた今度にしよう。今はこのやり取りを楽しむのが先。
私と同じ顔で私じゃない道を生きている、そんな人と出会えたのは信じられない幸運だ。楽しまないと損した気分になってしまう。
人生なんて、どう転がったってなるようになるんだ。奇跡も魔法も、どこかにはきっとあるのさ。この出会いは、その証拠だ。
そしていつかまた何処かで、三人目の同じ顔に会えると期待しようじゃないか。
「あの千夏先輩、電波子ってそもそも何なんです。先輩たちは知ってたみたいですけど」
「深夜時代の電波少年から出たアイドルで、
「いやその番組自体知りませんけど……。何年くらい前の話なんです?」
「えー……確か94年デビューだから……30年前?」