ちょっとだけ愉快な仮面の冒険者   作:乾燥海藻類

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第10話 「終わりと始まり」

「無事か? メメント・コル」

「余裕だ」

「ふっ、さすが歴戦の冒険者だな」

 

剣を鞘に納めながら、ディランハルトは小さく笑った。

 

「さて、あそこにいるのが大異形ヘルムート……なのか?」

 

巨大異形を退けた先にいたのは、背を向けた大異形と思われるナニカだった。

蟲の脚のような触手が不気味に蠢いている。

 

「あいつの周囲を見て回ったけど、王様はいなかったよ。どこに隠しているんだろう」

「大事なものは肌身離さず持っているものさ」

「なるほど。一理あるね」

「確かに、物陰になりそうなものはあの大異形くらいのものだ。近寄って調べるしか……!?」

 

それまで動かなかった大異形が、ゆっくりと振り向いた。

大異形は体を覆う膜を、まるでマントのようにめくった。

王の姿が明らかになる。

 

「めっちゃ見せつけてくるやん」

「おのれっ! 王よ、今お助けします!」

「あんな見え透いた誘いに乗らないでほしいな……!?」

 

大異形ヘルムートが大きく息を吸い込んだ。

身がすくむような咆哮とともに、上空から岩が降り注ぐ。

 

「まずい! 魔術を使って!」

「団長殿! こっちに!」

「くっ、了解した!」

 

メメント・コルは右手を掲げ、降り注ぐ岩に向かって魔術を発動した。岩が天へと戻っていく。

 

「また君に助けられたな」

「お礼は凱旋した時にまとめてうかがいましょう」

「ふっ、そうだな」

 

ディランハルトが飛び出していく。だがヘルムートのマントの中から現れた騎士団員を目にして足を止めた。

 

「遺体騎士団のお出ましか。彼らはアンデッドではないね。道中の遺体と同じく、触手で操っているだけだ」

「触手で操っているだけだ! 斬り伏せろ!」

「騎士の遺体をもてあそぶとはっ! くっ、許せ!」

 

謝罪の言葉を口にしながら、ディランハルトは騎士の遺体を斬り伏せていく。メメント・コルもそれに続いた。

複数の触手が、それぞれ意思を持ったようにうねる。その一本が、あさっての方向に伸びた。

 

「……驚いた。あいつ、私を狙った……?」

「人気者は辛いな」

「茶化さないで。集中して」

「はい」

 

触手の薙ぎ払いをかわし、騎士を斬り伏せ、ヘルムートの脚を切り裂く。

 

「RoooAaaaa!!」

 

それは痛みによる悲鳴か、それとも怒りの咆哮か。

それでも触手の勢いは衰えない。

 

「チィ、一撃一撃が重いな」

(ひる)むな! メメント・コル!」

「おうさ!」

 

威勢よく返事をしたものの、それぞれが意思を持ったように攻撃してくる触手は厄介だった。

さらにヘルムートはどこからか眷属である蟲を呼び出し、盾としている。

 

「今さらこんな蟲などに!」

 

ディランハルトの剣技は大したもので、王国最強と謳われるのも頷けた。

蟲を斬り伏せ、その剣は大異形まで届いた。確実にダメージを与えている。

 

「GooooAaaaaa!!」

 

咆哮を上げ、ヘルムートが体当たりを仕掛けてきた。

ふたりは間一髪かわしたものの、ヘルムートの腹の中に恐ろしいものを見た。

イヴェール王の首が大きく曲がっていたのだ。

 

「イヴェール王ーーーッ!!」

 

ディランハルトが悲痛な声で叫んだ。

 

「命の灯火が、消えた」

「だろうな」

 

メメント・コルは小さく舌打ちした。

その時、夜鳴鳥の声が聞こえた。

 

「また崩落を起こすつもりだ。魔術の用意を」

「了解。団長殿、戻れ! 戻れぇ! 何やってんだよ団長!」

「ぬぅおおおぉぉっ!!」

 

怒りで我を見失っているのか、ディランハルトには制止の声が届いていなかった。俊敏な動きで距離を詰める。聖剣の一撃はヘルムートに深々と突き刺さった。

しかしその直後に、触手の刺突がディランハルトを襲った。彼は盾を構えてその一撃を防いだが、触手の一撃は盾と鎧を貫通してディランハルトの急所を貫いた。

触手の勢いに押されて、その巨躯が吹き飛ばされる。

 

「団長殿!」

「私に構うな! とどめを!」

「くっ!」

 

崩落に呑まれるディランハルトを振り切り、メメント・コルは大きく跳躍する。

 

「イィーーヤァッ!!」

 

そよ風の剣は触手を薙ぎ払い、大異形ヘルムートの首を刎ねた。

 

「倒した……? まさか、本当に大異形を倒してしまうなんてね。大したものだ」

 

ルルナーデは目を見開いて大異形ヘルムートを凝視している。

 

「……ぐっ!?」

 

メメント・コルは強烈な頭痛を感じてこめかみを押さえた。頭の中に、存在しない記憶が流れてきたのだ。あるいはそれは、かつて見た光景であるのかもしれない。

 

「王を連れて街に戻ろう。死体でも、成果がないよりはマシだ」

 

その時、大異形ヘルムートが塵となって消滅した。王と一緒に。

 

「そんな、王が消える……」

 

ルルナーデは消えゆく王の遺体を覗き込んだ。

 

「なるほど。死んだことで吸収されてしまったのか。……最悪だ」

 

ルルナーデは唇をかみしめながら言った。

 

「王は助けられず、騎士団は全滅」

 

崩落を戻してみても、その下にディランハルトの遺体はなかった。おそらく、奈落に呑まれてしまったのだろう。

 

「このまま街に帰ったらどうなる?」

「あなたはがんばったよ。だけど、結果はついてこなかった」

「気遣いが身に染みるね。はっきり言ってくれ」

「こんな結果をギルドに報告しても、ろくなことにはならない。街に戻ったら、すぐに姿をくらまそう。全滅したと思われた方がマシだよ」

「……そうか。東の方に港町があったはずだ。そこに行ってみようか。なに、キミと一緒なら、どこだって楽しめるさ」

「こんな状況でもそんな軽口が利けるなんてね。やっぱりあなたは大物だよ」

「それほどでもない……ぐっ!」

 

再び頭の中に、ナニカが流れ込んでくる。

 

――ことだろう

我らは全滅したと

思われていることだろう

しかし

我らは不滅を可能に――

 

「ちょっと、どうしたの?」

「いや、なんでもない」

「そう。なら急ごう。そこに大ハーケンがある。修復して脱出しよう」

 

メメント・コルは魔術を行使し、大ハーケンを復活させた。その加護を使い、街へと戻る。

しかし、街を脱出することはかなわなかった。

騎士団長ディランハルトからの連絡が途絶えて、すでに一日が経過していた。不安を抱えた騎士たちは探索を開始しており、街へ戻ったメメント・コルはすぐに捕えられたのだ。

彼は奈落で起きたことをすべてを話したが、信じてはもらえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなことになるなら、騎士を斬り伏せてでも脱出すべきだったな」

 

処刑台に続く道を歩きながら、メメント・コルは呟いた。

 

「それはそれで指名手配されそうだけどね」

「仮面を変えれば何とかならないかな」

「どうかな? 仮面の時点で怪しまれそうだけど……素顔を見られたらもっと怪しまれるだろうね」

「どっちにしろ詰んでたってことか」

 

メメント・コルは手枷と足枷をはめられている。この状態から街を脱出するのは不可能だろう。

 

「……ずいぶんとおとなしいね。覚悟は決まったってこと?」

「泣きわめいて命乞いすれば助かるってんなら、そうするけどな」

「まあ、無理じゃないかな」

「だろ?」

「思えば、騎士団の生き残りがディランハルト一人になった時に、もう詰んでいたんだ」

 

ルルナーデは嘆息して、言葉を続けた。

 

「彼をそのまま行かせても、見捨てたということで処刑される。かといって無理矢理連れて帰るのも難しい。騎士が死に過ぎたんだ。あなたの魔術を(おおやけ)にするのも面倒なことになるような気がするし、やっぱり騎士を死なせないようにするのが最善だったね」

「尤もな意見だな。だが無意味だ」

「今ごろ言ってもって気持ちはわかるけどね」

 

民衆のざわめきが大きくなった。ルルナーデはふわりと浮き上がり、周囲を睥睨した。

 

「先に処刑されるのはランドルフらしいよ」

 

ランドルフは武器屋を経営しているドワーフである。偏屈ではあるが、腕は良いと評判だ。

 

「ふむ。理由は?」

「罪状は……ディランハルトに依頼されていた『聖者の盾』を修理できなかったみたいだね。材料の希少金属が手に入らなかったみたいだ」

「簡単に手に入らないから希少金属なんじゃないのか?」

「そうだね。要するに難癖つけてるだけだよ。あなたと同じだ」

「ランドルフとはあの世で美味い酒が飲めそうだ。王家と貴族の愚痴を(さかな)にな」

 

小さく悲鳴が上がった。ランドルフの処刑が終わったのだろう。

 

「歩け!」

 

後ろの騎士から槍で叩かれ、メメント・コルはゆっくりと処刑台の階段を登り始めた。

 

「共に風に吹かれし時、共に奈落を歩みし時、ふと思うことがあったんだ。キミと俺は、遠い昔ひとつの魂だったのではないかと」

「それはない」

「はい」

 

ひとつの魂だったことはないが、遠い昔に、共に冒険していたのではないかという既視感は、ルルナーデにもあった。

そんなことを思い、ルルナーデは相好を崩した。

 

「あなたの軽妙さ、嫌いではなかったよ。最期まで貫いたのは、大したものだと思う。怖くはないの?」

「死は怖くない。怖いのはキミの美しい声が聞けなくなることと、キミと会話ができなくなることかな」

「……そう。最期だから、素直にお礼を言っておくよ。ありがとう、悪い気分じゃない」

 

メメント・コルの罪状が読み上げられる。

 

「この冒険者は、ギルドにて王の救出依頼を受けた。しかし、騎士団長を見捨て、王もまた見殺しにし、自分だけがおめおめと逃げ帰った。その罪は明白である!」

 

街の人々から悪意に満ちた歓声が上がった。

 

「よくも……アルバーノを見捨てたな……!」

 

処刑台の上に立つ貴族の男が、メメント・コルを睨んでいる。

 

「アルバーノの身内かな。まあ、今さら関係のないことだけど」

「俺が死んだら、キミはどうなるんだ?」

「さあ? 奈落に戻されるか、天に召されるか、もう少ししたらわかるよ」

「すまないな」

「いいよ、私とあなたの仲でしょ。じゃあ、またどこかで」

 

メメント・コルの視界が、闇に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

……………

…………

………

……

 

ほほから伝わる冷たい感触で、メメント・コルは目覚めた。

水たまりに映るのは、仮面ではなく、屍人の顔だった。

周囲を見回す。冷たい石の床、石の壁。

 

「奈落……? いや、ここは……」

 

気づく。ここは、最初の部屋(・・・・・)だ。

木製の扉を開けて外に出る。石の回廊。ここも、覚えがあった。

奈落の地下一階。少し進むと、奈落が動いた。

 

「道を塞ぐ茨の呪い……か」

 

声が聞こえる。つい先ほど聞いたような、遠い昔に聞いたような。

だが決して忘れはしない。歌うような、透き通るような声。

足は自然と駆けだしていた。メメント・コルの表情が、見る見る明るくなっていく。

 

角を曲がると、宙に浮く少女の姿が見えた。

彫りの深い凛とした顔立ち。少しくすんだ色合いの金髪。真っ白な肌に、吸い込まれるほどに美しい翠眼(すいがん)

決して、見間違うことはない。

 

「……ルルナーデ」

 

もう二度と会えないと思った人が、目の前にいる。

 

「ルルナーデ!」

 

夢なら覚めないでくれ。そう思いながら、メメント・コルは目の前の少女の名を叫んだ。

 

 

 





というわけで完結です。
感想・評価・誤字報告、ありがとうございました。

ゲーム的にはここまでがチュートリアル、ここからが本番って感じですね。
続きが気になる人はゲームをやってみよう!

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