Cyberpunk: Chrome Joker 作:終うずら
原作:Cyberpunk2077
タグ:R-15 オリ主 残酷な描写 Cyberpunk2077 サイバーパンクエッジランナーズ Cyberpunk: Edgerunners Cyberpunk: RED
そうだぜ、死ぬことだ。
全身クロームだらけの伝説もいりゃ、データの海で消えた幽霊もいる。
名前を挙げたらキリがねぇ。
……今日は、その中でも笑えるやつの話だ。
名前は――クロムジョーカー。
俺の生まれか?
ナイトシティじゃよくある話だぜ。
俺の生まれか?
ナイトシティじゃよくある話だぜ。
名前はディーン・カッター。
スカベンジャーの両親の間に生まれたんだ。
想像の通り、ジョイトイを攫ってサイバーウェアを捌いたり、マニア向けの裏BDを撮ったり――手広くやってたように思う。
俺が両親から唯一学んだことがあるとすれば、無駄なく使うことくらいだな。
肉も骨も、悲鳴も、おまけに命も。ナイトシティでは誰かの金になる。
そんなスカベンジャーの仕事場の隅で、ぶっ壊れたレキシントンで遊んでた時だ。
三歳の誕生日だったかな。
両親の頭が派手に吹き飛んだ。
今でも覚えてる、俺の人生でもTOP3に入るクールな瞬間だ。
理由は簡単。NCPDが踏み込んできたのさ。
周りで銃声が鳴り響く中、俺も真似して壊れたレキシントンを構えた。
NCPDのバッジに照準を合わせたその瞬間、両親の頭を吹き飛ばした刑事に、思いっきりぶん殴られた。
その刑事の名前はロイ。
俺の育ての親だ。
ロイがなんでスカベンジャーのガキを拾ったのかは分からない。
ただ、そっから先、俺はロイと暮らすことになった。
ロイは口うるさくて、よく殴るし、よく酒を飲んだ。
でも銃の撃ち方とストリートでの生き方だけは、やけに丁寧に教えてくれた。
ロイが最初にしたのは、親の形見だった壊れたレキシントンを新品に買い替えることだった。
今考えても頭がおかしいと思う。
ロイが仕事に行く間、俺はその教えをワトソンの路地裏で実践した。
幸いにもロイの教えは本物で、すぐに兄弟ができた。
九歳になるころには、リトルチャイナをデカい顔して歩けるようになってたさ。
マジだぜ?
そんな話をするとロイは嬉しそうだった。
そして決まってこう言うんだ。
「なぁディーン。男に生まれたからには正義を貫けよ。婆に優しくしろってんじゃねぇ。テメェの中の正義を貫くんだ」
ロイの言う正義はよく分からなかったが、ロイが笑ってりゃ、それでよかった。
そんな俺も十七、十八になったころには、当たり前のようにNCPDに入った。
それから五年、俺がパトロールエリアから毎日生きて帰るのを繰り返す間に時間はあっという間に過ぎた。
そして、よく分かったよ。
ナイトシティの“正義”ってのは、ケツを拭く紙切れみたいなもんだ。
その頃にはロイともあまり話さなくなってた。
退職したロイは、当然のように酒に溺れた。
そんな日が続いたある日。
通報を受けて駆けつけた先のコーポに代わってにゴミ捨てしてきた日のことだ。
家に帰ると、そこは更地だった。
黒焦げた鉄くずだけが転がってた。
疲れ切ってたが、久々に大爆笑しちまった。
後で聞けば、隣人がメイルシュトロームと揉めてアパートごと吹き飛ばされたらしい。
俺は帰る家を失った。
笑いが止まらなかったが、ロイがもういないと思うと、すぐにテンションが冷めた。
そっからどうしたっけな。
そうだ、翌日には退職届を出して、退職金で体をリパーに弄らせたんだ。
「エッジの向こう側にでも行く気か?」
「行くなら火星がいいな。火星人と酒を飲んでみたい。そういやリパー、ホロマスクはあるか?」
初対面のリパーは、俺がサイバーサイコにならねぇか気が気じゃなかったと思う。
「あるけど、スカベンジャーのクソ野郎みたいだぜ」
「かまわねぇ。飛び切り笑えるやつを付けてくれ」
第二の人生っていうのかな、それが幕を開けた。
最初の仕事は、フィクサーの依頼で奪われた荷物を取り返すだけだった。
寂れたノースサイドの廃工場。
きっと盗んだ荷物のヤバさに、俺の顔を見た瞬間返しに来る。
そんな甘いことを考えてた。
「ディーン? その体どうしたんだ?」
糞に塗れると、また上から糞が降ってくる。
荷物を盗んだのは、ストリートで育った兄弟だった。
「仕事だ。荷物を返してくれ。それで終わりだ。」
差し出した俺の手を見た後、兄弟は合図をするように右手を上げた。
コパーヘッド、ソル22――何本もの銃口が、俺を囲むように向けられる。
「どういうつもりだよ、ブラザー」
もちろん取り囲んでいるのも、愛すべき兄弟たちだ。
兄弟は目を逸らさずに言う。
「こっちも仕事なんだ、ブラザー。上を目指すんだ。今度は、お前の背中を追いかけない」
ナイトシティはデカいトイレだ。
便器の上に立って糞をする側になるまで、糞が降り注ぎ続ける。
「別れは寂しいぜ、ブラザー」
「俺もさ、ディーン」
強化腱の足でコンクリートの地面を踏み抜く。
続けて鉄骨を蹴り上げた。
俺の軌跡を追うように、ブラザー達の放った弾丸が悲鳴を上げる。
そして――兄弟の眉間に、レキシントンを撃ち込んだ。
ナイトシティに蔓延する疫病を治療する唯一のワクチンが、兄弟たちに撃ち終わったとき。
世界に俺は一人になっていた。
ブラザーが後生大事に抱えていた荷物の中身は、ミリテク製のドローンだった。
足元の水たまりに、ホロマスクの笑顔がぼんやり揺れる。
笑えるほど糞みたいな話だ。
工場を出ると、表にはスーツを下ろしたての女が立っていた。
首筋までタトゥーを入れた、見るからにコーポの人間だ。
背後では重武装の護衛が俺を囲んでいる。
察するに、ミリテクの社員だろう。
コーポの連中の考えることはわかる。俺は“餌”だった。生きて帰る見込みなんて、誰もしてなかった。
「お前、使えそうだな。名前は?」
「コーポ様にはどう見える?」
苛立ちを抑えようともしない俺に、コーポの護衛どもが銃口を向ける。
それを片手で制しながら、女はこう言った。
「クロームだらけのピエロ。クロムジョーカーってとこだな」
「俺が道化師だと? コーポの為に踊るほど落ちてねぇ」
女は振り向かず、呟く。
「ならどうしてナイトシティにまだいる? 愛する友を撃ち殺して、なぜ生きる?」
どうしてだろうか。世界に一人になると分かって、何故俺は戦うのだろうか。
――テメェの中の正義を貫くんだ
「また連絡するよ、クロムジョーカー」
じゃじゃーん。
めでたくしてコーポの道化師クロムジョーカーの誕生だ。
ディーン・カッターよりもクロムジョーカーの名前が広まるくらいには、俺はコーポの為に踊った。
そして俺が躍る度、兄弟の様に夢を追うサイバーパンク達が消えていった。
もっとそこら辺の話がないかって?
現実はずっとドラマチックな訳じゃないんだぜ。
でも、そうだな一つだけ奇妙な縁が出来た。
その日は、コーポの役員が贔屓にしてるジョイトイが攫われたとかいう依頼だったか。
乗り込んだスカベンジャーのアジトで俺は踊った。
ジョイトイはまだ商品に変わる前だった、お陰で俺の首はつながったままで済んだ。
それに安心して気を抜いていたのは確かだった。
スパーン。
耳元を銃弾がすり抜けていきやがった。
久々に焦ったぜ。
大慌てで銃を抜いて振り向こうとした。
いつもだったら視認するより前に引き金を引いていたと思う。
でも、久々に焦らせてきたやつの面を拝みたくて視認するまでは引き金を引かないことにしたんだ。
振り向いて俺はもう一度たまげることになる。
何と俺を撃ったのはまだ下の毛も生えてなさそうなガキの女だった。
ガキは、片手で不細工な動物のぬいぐるみを抱えてもう片方の手には渋いタマユラを握ってた。
「し、しね!!」
カチン、カチン。
凡人にドラマは起きないもんだ、2度目の確実に仕留めるチャンスを弾切れによってガキは失った。
「ならしっかり狙って当てやがれ!」
我ながら大人げない返しだったかもしれない。
俺の正論のフルスイングにガキは泣き出した。
ガキは嫌いだ。
ロイはガキの世話の仕方は教えてくれなかった。
俺は、タマユラを投げ捨てると愛用のレキシントンをガキに握らせた。
「グリップをしっかり握れ、目線はここに合わせろ。引き金を引くときは力むな瞼を閉じるみたいに優しく下ろせ」
「こ、こう?」
俺の素晴らしい指導の成果はすぐに出て、ガキは正しい射撃の方法を身に着けた。
「せいぜい生きろよクソガキ」
「次あったら殺すからおじさん!」
最近のガキは逞しい。
俺は感心した。
え? こういう話が聞きたい訳じゃない?
注文が多すぎるぜ。
じゃあ、もう最後の話に行こうか。
その日もいつもと同じ仕事だった。
名前はなんだったか忘れちまったが、最近名前を上げてきている若造がターゲットだった。
「どうせすぐ燃え尽きる」
そう思ってた。
だが、奴らの動きは――中々だった。
義体の閃光が目の前をかすめ、視界が歪む。
俺は強化腱を軋ませ、ホロマスクの笑顔のまま弾を撃ち返す。
いいチームだ。
数を減らさなきゃ行けない。
ソロの女にカーネイジをお見舞いする。
だが、引き金を引いても弾が出やしない。
「ネットランナーか・・・」
「うちはネットランナーが売りのチームでね」
リーダーっぽい小僧が俺にそう呟く。
名前を挙げている理由も良く分かった。
小僧の入れているサイバーウェアはまともな代物じゃない。
速い。
いや、速すぎると言っていい。
だが、若い。
その体に掛かる負荷はとんでもないだろう。
そこまで言ったところで、飛びかける意識を抑制剤で引き戻す。
そうだな、俺も相手のことを言える立場ではないな。
クロームだらけの体が、水たまりに反射して見えた。
「どこまで行くつもりなんだお前」
らしくないことを質問してしまう。
それもこれも、ナイトシティの明かりのせいだ。
「約束があるんだ」
「勿体ぶりやがって、普通はどんな約束か教えてくれるもんじゃねーのか? こういう時」
俺の言葉に小僧は笑う。
「そろそろ帰んなきゃなんだ。終わらせようぜ」
「賛成だ」
小僧が飛び込んでくる。
視界が伸び、時間が溶けた。
俺も反応系統をオーバークロックする。
血管が焼けるように痛い。
強化腱が悲鳴を上げ、心臓が三倍の速さで打ち始める。
世界が針の穴みたいに細くなった。
一瞬一瞬が永遠みたいに伸びる。
小僧の動きは美しかった。
無駄がなく、真っすぐで、まるで――“自分の正義”を信じてるやつの動きだ。
俺は笑った。
「いい目だな、うざったいほどに」
そんな小僧の眉間に、弾丸を放とうとしたその時。
小僧の背後にあるミラーに、映り込んだ。
忘れもしない不細工なぬいぐるみ。
あの時のガキだ。
どんくさすぎる、どうしてこんなところに。
気が付けば、俺の研ぎ澄まされた体は引き金を引かずにガキの前に身を投げ出していた。
小僧の腕から、大口径の銃口が覗く。
凡人の人生にドラマは起きないものだ。
――テメェの中の正義を貫くんだ。
そんな声が聞こえた気がして、力が抜けて口角が上がった。
「てめぇのせいだぜ。ロイ・・・」
こうして、ディーン・カッターの人生は幕を閉じた。
動かなくなったクロムジョーカーの亡骸をデイビットは見つめていた。
「平気かデイビット~」
レベッカの声が聞こえる。
「あぁ・・・」
「それにしても、コイツ最後なにがあったんだろうね」
キーウィが不思議そうに通話越しにそう呟いた。
「コイツを守ったように見えた」
デイビットはクロムジョーカーの背後にあるぬいぐるみを拾い上げた。
「うわ、ぶっさいく!」
レベッカの言う通り、不細工すぎる。
こいつは、エッジの向こう側で何を見たのだろうか。
「ルーシーに持って帰るか」
「趣味悪いぜデイビット―」
笑えるだろ?
最後の最後に、クロムジョーカーはぬいぐるみをガキと見間違えたのさ。
それでも、ディーン・カッターは最後の瞬間久々に生きていたんじゃないか?
俺はそう思うのさ。
全て失ってそれでも見いだせなかったものを、糞に塗れたこの街で最後の最後に見つけたんだからな。
笑ったふりをし続けた道化師は最後に本当に笑ったのさ。
貴方は彼の人生をどう思いますか?