神秘が絶えた(?)殺伐硬派な戦記ファンタジー世界で悪役貴族に転生したけど僕だけ人外が視える   作:所羅門ヒトリモン

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第1章
第1話「未完の傑作へ神作者は転生する」


 

 

 未完の傑作、と呼ばれる戦記ファンタジー小説があった。

 海外でドラマ化もされ、史上最も違法視聴されたTVショーとネット記事が作られるくらい、世界中で人気を博したタイトルだ。

 

 原作小説は最終巻が執筆中で、ただ、ドラマのほうだけ先行して最終章が放送された。内容はもちろんドラマ版オリジナルストーリーだ。

 

 だから、原作のファンもドラマから入ったファンも、原作小説の最終巻が発売される日を、最終回が放送された後もずっと待っていた。

 

 原作者が死んでしまった。

 

 世界はショックと悲しみで大騒ぎになった。

 掛け値なしに天才と呼ばれ、多くの賞を総ナメにするほどの優れた小説家。

 あるインタビュー記事で、彼はこんな答弁をしたコトでも有名だ。

 

 ──これだけ緻密な世界観と複雑な人間関係を描くにあたり、そのインスピレーションの元となっているのは、ズバリ何なのでしょうか?

 ──正直に言うと、自分でも分からない。ただ頭のなかに、突然、注ぎ込まれるように浮かび上がるんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 原作者であり、小説の執筆者に他ならない彼が、何でそんなコトを言ったのかは当時も物議を醸した。

 

 一風変わった謙遜とする説。

 真の天才の証左だとする説。

 あるいはゴーストライターを暗示する説。

 

 様々な憶測も呼び込んで、彼の名誉を貶めるような言説も多く囁かれたが、出版社と編集者はもちろん否定。

 事実を詳らかにしようと調査をしたマスコミも、彼の才能を最終的には讃える方向で調査を打ち切った。

 

 つまり、彼は真の天才だったのだ。

 

 世間はそう捉え、拍手を惜しみなく送り、その死に深い哀悼を示した。

 彼の死因は謎の急病と発表されていて、偉大な作品を完結に導くプレッシャーには原作者、真の天才でさえも耐えられなかった。

 そんなふうに心因性のものだと囁く説も、またSNSにはあがった。

 

 心因性、というのは惜しかった。

 

 彼の死因は実際、()()だったからだ。

 

 これは例え話だが、クトゥルフ神話をご存知だろうか?

 アメリカの作家H.P.ラヴクラフト(1890–1937)を中心に展開された架空の神話体系。

 概要はホラー・SF・ファンタジーの要素を融合させた文学的世界観で、今なお多くの創作(小説、ゲーム、映画など)に影響を与えている。

 

 そのなかに、『クトゥルフの呼び声』という短編小説がある。

 

 詳しいエピソードは割愛させてもらうが、この短編小説の一節にはこんな話がある。

 

 〝世界各地で、芸術家や詩人、感受性の強い人物たちが、共通した奇妙な夢や幻視に悩まされる〟

 

 夢の内容は、異様な都市や巨大神の姿(クトゥルフ)、圧迫感、不安、宇宙的な恐怖をともなうビジョン、知られざる言語や象徴が夢に現れるといったもの。

 ある彫刻家はこの夢の影響が創作・芸術家活動にも現れて、巨大神の彫像を造り始める……

 

 ──要するに、彼は()()と似た事象に遭遇していただけだった。

 

 電波を受信する。

 日本では天然が過ぎる人物を指して、電波ちゃん/くん、などと呼んだりする少々イジワルな揶揄い方があるが、彼はまさしく()()を受信していたのだ。

 外宇宙からの干渉。脳に開かれた第三の瞳。譬え方はいろいろある。

 

 問題は別世界から届いたビジョンを、小説という形でアウトプットしていただけ。

 

 それがある時、不意に、どうしようもないほど直観的に理解できてしまって。

 

 発狂した。

 

 だって、仕方がないだろう?

 

 彼は自分にもアイデアの着想元が分からなかった。

 それでも、作家として文字を手繰り寄せ、言葉を綴ってきた時間は半生に値した。

 周囲からの評価も相まって、そんな気はしないと首を横に振り続けながらも、心のどこかで努力が報われた気がしていた。

 

 すべて、気のせいだった。

 

 彼が手掛けたとされている作品には、彼自身の想像力も創造力も関係ない。

 作家としての才能などあろうはずもないし、オリジナリティなどあるワケも無い。

 

 ビジョンをそのまま描いた。

 

 極論、風景をただ文字という情報に変換して書き起こしただけだ。

 リンゴが木から落ちた。犬が走って転んだ。雨が降って地面が濡れた。

 

 どうだ? これが物語としておもしろいか?

 

 ただ目の前で起こった出来事を、そのままキーボードに打ち込んでいただけ。

 余人の目にはおもしろい作品に映っても、書き手である彼にはそれは自分自身のアイデンティティ否定に他ならない。

 

 絶望だ。

 

 彼は絶望し、発狂し、脳に開いていた別次元の回線(チャネル)との繋がりから──()()()()

 

 誰より知っているはずの物語。

 この傑作を本当に自分が手掛けたのか? と自惚れる夜もあったフィクション。

 

 だが実際は、何も知り得てなどいなかった本物の異世界へ。

 

 物語を作る時、人間は神になる?

 ああ、そうなのかもしれない。

 

「あいにく、僕は神じゃなかったけれど」

 

 発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂──絶叫。

 

 ()()()

 

 

 

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