神秘が絶えた(?)殺伐硬派な戦記ファンタジー世界で悪役貴族に転生したけど僕だけ人外が視える   作:所羅門ヒトリモン

10 / 16
第10話「影色に輝く砦、恐怖の椅子で」

 

 

 FAIについて、もう一度触れるべき時が来たようだ。

 旧王朝の生き残り。

 

 王女の名前は、レオニア。

 

 レオニア・レストロヴァン。

 

 侍女の名前は、シンリース。

 

 シンリース・セラフォード。

 

 差し当たっては王女が赤髪で、侍女が黒髪だと覚えてもらえればいい。

 このふたりは原作開始時点で、王領の辺境に潜伏している。

 そう。その辺境というのが、実は西部(うち)から見た東の峡谷地帯。

 

 現王家の旗手を務める小貴族、ハーグレイブ家が統治しているドラン峡谷領だった。

 

 横文字と固有名詞ばかりで申し訳ない。

 一度にすべてを覚えてもらわなくてもいい。

 

 今から説明するのは、ざっと原作の流れを掴んでもらうためのモノローグだからね。

 

 ドラン峡谷領の統治者、ハーグレイブ家の当主は穏健派だった。

 

 エクター・ハーグレイブ。

 彼は先のクーデター戦争で、自分たちが旧王朝の一族を残酷に虐殺してしまったことを悔い、当時はまだ幼かった王女と侍女を密かに匿っていたんだ。

 

 ただし、当の王女と侍女たちには自らが旧王朝派だと偽って、罪悪感から本当の立場を明かすコトはできない老人だった。

 

 そんなエクター・ハーグレイブの庇護のもとで、レオニアとシンリースは身分を偽りながらも穏やかに生活していたワケだね。

 

 だけど、穏やかな時は長くは続かない。

 

 エクターは歳のせいで、病にかかって死んでしまう。

 彼の病死を切っ掛けに、ハーグレイブ家では新たな当主がドラン峡谷領を支配するようになる。

 

 新当主の名は、ベリック・ハーグレイブ。

 

 この男は、まさしく()()()()()()()()()だった。

 

 つまり、旧王朝粛清派。

 

 しかも、その過激派でもあり。

 ベリック・ハーグレイブが峡谷領を牛耳るようになると、そこではたちまちの内に圧政が始まったんだ。

 

 魔法やら神秘やら、少しでも旧王朝に縁あるものは全て焼き討ちに。

 

 俗に言う、魔女狩り。

 中世暗黒時代そのもの。

 

 ベリックは異端審問と称して、次々に領民を磔にしたり火刑に処した。

 理由はただ、王国の正教にはない神の名を口にしたからだとか、あやしげな民間療法を広めたからだとか、そんなもの。

 

 ベリック・ハーグレイブは取り憑かれていた。

 

 悪しき迷信を焼き払い、正義の裁きを下す快感に。

 

 当主がそんな男になってしまったから、レオニアもシンリースもさあ大変。

 正体がバレれば、命は無い。

 当然逃げる。

 

 だが、逃げた先でもまさかの事態が。

 

 領境を越えて、夜のうちに密かに西部の町に入り込んで、少しは安心できるかと思えば。

 

 その町の代官はアッサリ、ドラン峡谷領に寝返ってしまったんだよね。

 

 ベリック・ハーグレイブってコンチキショウは、自身の領内で粛清ごっこをして楽しむだけの男じゃなくて。

 長年、先祖が惜しいところで失敗を続けていた領地の拡大政策。

 

 要するに、この肥沃な西部への足がかりを求めて、密かな侵略活動まで始めてしまう男だったんだ。

 

 性格は、冷酷非情。

 粛清に快楽を見出す「正義の執行者」


 旧王朝の支持者や中立貴族を徹底して狩り、領民への圧政と私刑を繰り返す。


 しかしながら、現王朝ベルグラム家への忠誠心というより、自身の出世と恐怖支配に陶酔している危険な男。

 

 そして幸か不幸か、ベリックは優秀な戦術家でもあった。


 強力な兵力と野戦指揮力を持ち、他領侵攻にも積極的。


 目下の野望は「西部への拡張」

 

 ドラン峡谷領の特徴は、

 

・採鉱資源に富む険しい地形。

・冷涼な気候、風雨が多く痩せた地域。


・徴税と粛清によって人口が急減。

 

 蓄えを活かし、精強を誇っているのはそれこそ領主の一族とその軍隊くらいだ。

 旗印は、黒鉄の斧と燃える十字──磔刑と断罪の象徴。

 旗色は灰色地に血濡れの赤。

 その格言は、「赦すな、残すな、悔いるな」

 

 ベリック率いるハーグレイブ軍の侵略と包囲。

 

 情勢不利を察した領境の代官のなかからは、恐れをなして裏切る者もそりゃあ出始める。

 そして彼らは、粛清過激派であるベリックへの恭順を示すために、自分たちまでもが火刑と磔刑を行うようになり。

 

 先日、叔父が「東のグローヴィスで代官が裏切った」と話した通り。

 

 命からがら逃げてきた他の小貴族たちの集団と一緒に、グローヴィスの代表として、レオニアとシンリースが僕に接触を図るんだね。

 

 もちろん、彼女たちは身分を偽って接触を図るんだけども。

 

 その目的は、このままでは何処まで逃げても命を狙われると思って、ベリック・ハーグレイブを西部総督──ダイアニーシアスの手で討たせようというもの。

 

 加えて、故エクター・ハーグレイブの教えゆえか、はたまた生来の血がそうさせるのか。

 

 プリンセス・レオニアには民を思いやる気持ちがあった。

 暴虐と圧政を繰り返すベリックを見過ごせない。

 レストロヴァンであるレオニアからすれば、他人が磔にされて火炙りにされる光景は、自分のせいにも感じられる光景だったんだね。

 

 その光景に責任を感じる必要なんて無いのに、レオニアは自分の口で嘆願を届けるコトにこだわった。

 

 理性的な侍女が「レオニア様が訴えずとも、西部総督家は間違いなく動き出します」と説得をしても。

 人並外れた責任感から、せめてこれくらいの罪滅ぼしはしたいと、グローヴィスの代表まで勝手に名乗って。

 

「……」

「それで、どうされましょう?」

 

 夜。

 嘆願の謁見を一通り終えて。

 僕は椅子に座り、隣に立つ側近になんと答えたものか考える。

 

 場所は断石砦(クラグホルン)から東に、やや南方面。

 

 ダイアニーシアス家が新たに築城中の要塞、影輝砦(モーラグロス)

 ヘイルガーデンの最果てとも言っていい。

 

 そのすぐ眼前には、今はまだ西部に含まれるドレイブモント領。

 荒れ狂う山地の名が指し示す通り、ここはハーグレイブ家のドラン峡谷領とほんとうに隣り合わせだ。

 

 幾つかの町や荘園、村を越えられたら、あっという間に西部に進軍されてしまう。

 グローヴィスを奪われたのもここだ。

 

 横にいるのはモールウッド家が寄越した騎士で、この一年、右腕のように働いてもらっている青年である。

 その後ろには、西部総督名代軍の指揮を預かる老騎士ローデリックもいる。

 

 現在、ドレイブモントは三箇所から切り崩されており、その三箇所から同時に奪われたのがグローヴィスだと分かった。

 

 このあたりは険しい山々が多いから、敵が進軍できる道も限られている。

 ベリック・ハーグレイブの戦術は、極めて理に適っていた。

 

 最初に領境の小拠点を三つ奪い、そこから軍を進める。

 軍は三叉槍の穂先から柄の連結部に向かうように、グローヴィスを三方向から囲い込む。

 

 グローヴィス、恐れをなして裏切る。

 

 でだ。

 

(現状、敵はグローヴィスからドレイブモント各地の要塞を攻め落としに来てる)

 

 ドレイブモントの領主(小貴族)は、さっきまで情けないコトに助けを乞うばかりだった。

 あれでは戦場の指揮など務まるはずもない。

 ひとりだけ前線から逃げてきたのも最悪だ。

 

「とりあえず、ドレイブモント公は処刑だろうね」

「ダンタリアス様が、沙汰を?」

「いいや。名代だからといって、そこまで面倒を引き受ける気はないよ。刑の執行はのちのち、叔父上がやるだろうし」

 

 あのヴァルドリック・ダイアニーシアスが、腑抜けた配下を無罪放免にするはずもない。

 では、僕が引き受けるべき面倒とはすなわち?

 

「グローヴィスだね。やっぱり、どう考えてもグローヴィスを取り返すしかない」

「同感です」

「ローデリックも、異議はないかな?」

「ハッ! 異存ありません、が……」

「そうだね。グローヴィスよりこっち側に来てる連中を、放置しておくワケにもいかない」

 

 原作のダンタリアスも、たしかここで有能な配下に援軍の役割を任せていたはず。

 ドレイブモント各地の要塞を落とされても厄介なので、ここはローデリックとモールウッド家にその任を引き受けてもらおう。

 

「ですが、ダンタリアス様は?」

「まさかおひとりだけで、グローヴィスを奪還するおつもりでしょうか?」

「多少の手勢は残しておいて欲しいよ」

「いえ、それは当然ですが……側でお仕えする者が」

「ああ。大丈夫だよ」

 

 言い切ると、彼らはドキリと一瞬固まった。

 この一年で、僕がこういうふうに直観的めいた断言をする際、彼らはその後に起こる展開を知っている。

 

〝ダンタリアス・ダイアニーシアスには、人智では推し量れない戦場の未来が見えている〟

 

 実際には違うモノを視ているだけなんだけど、どうあれ信憑性を持たせるくらいに戦功は挙げて来た。

 今回の戦では、少なくないアドバンテージも持っている。

 

「僕がグローヴィスを取り返す。そうしたら、ヤツらは西部侵略のための重要な要所と補給線を同時に絶たれる」

「グローヴィスさえ奪還が叶えば、あとの三つは数でどうとでもなりますな」

「うん。だから、ヤツらに思い知らせよう」

 

 と同時に、僕はここでレオニア・レストロヴァンを手に入れる。

 そのための行動を、早速今晩から開始しよう。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。