神秘が絶えた(?)殺伐硬派な戦記ファンタジー世界で悪役貴族に転生したけど僕だけ人外が視える 作:所羅門ヒトリモン
FAIについて、もう一度触れるべき時が来たようだ。
旧王朝の生き残り。
王女の名前は、レオニア。
レオニア・レストロヴァン。
侍女の名前は、シンリース。
シンリース・セラフォード。
差し当たっては王女が赤髪で、侍女が黒髪だと覚えてもらえればいい。
このふたりは原作開始時点で、王領の辺境に潜伏している。
そう。その辺境というのが、実は
現王家の旗手を務める小貴族、ハーグレイブ家が統治しているドラン峡谷領だった。
横文字と固有名詞ばかりで申し訳ない。
一度にすべてを覚えてもらわなくてもいい。
今から説明するのは、ざっと原作の流れを掴んでもらうためのモノローグだからね。
ドラン峡谷領の統治者、ハーグレイブ家の当主は穏健派だった。
エクター・ハーグレイブ。
彼は先のクーデター戦争で、自分たちが旧王朝の一族を残酷に虐殺してしまったことを悔い、当時はまだ幼かった王女と侍女を密かに匿っていたんだ。
ただし、当の王女と侍女たちには自らが旧王朝派だと偽って、罪悪感から本当の立場を明かすコトはできない老人だった。
そんなエクター・ハーグレイブの庇護のもとで、レオニアとシンリースは身分を偽りながらも穏やかに生活していたワケだね。
だけど、穏やかな時は長くは続かない。
エクターは歳のせいで、病にかかって死んでしまう。
彼の病死を切っ掛けに、ハーグレイブ家では新たな当主がドラン峡谷領を支配するようになる。
新当主の名は、ベリック・ハーグレイブ。
この男は、まさしく
つまり、旧王朝粛清派。
しかも、その過激派でもあり。
ベリック・ハーグレイブが峡谷領を牛耳るようになると、そこではたちまちの内に圧政が始まったんだ。
魔法やら神秘やら、少しでも旧王朝に縁あるものは全て焼き討ちに。
俗に言う、魔女狩り。
中世暗黒時代そのもの。
ベリックは異端審問と称して、次々に領民を磔にしたり火刑に処した。
理由はただ、王国の正教にはない神の名を口にしたからだとか、あやしげな民間療法を広めたからだとか、そんなもの。
ベリック・ハーグレイブは取り憑かれていた。
悪しき迷信を焼き払い、正義の裁きを下す快感に。
当主がそんな男になってしまったから、レオニアもシンリースもさあ大変。
正体がバレれば、命は無い。
当然逃げる。
だが、逃げた先でもまさかの事態が。
領境を越えて、夜のうちに密かに西部の町に入り込んで、少しは安心できるかと思えば。
その町の代官はアッサリ、ドラン峡谷領に寝返ってしまったんだよね。
ベリック・ハーグレイブってコンチキショウは、自身の領内で粛清ごっこをして楽しむだけの男じゃなくて。
長年、先祖が惜しいところで失敗を続けていた領地の拡大政策。
要するに、この肥沃な西部への足がかりを求めて、密かな侵略活動まで始めてしまう男だったんだ。
性格は、冷酷非情。
粛清に快楽を見出す「正義の執行者」
旧王朝の支持者や中立貴族を徹底して狩り、領民への圧政と私刑を繰り返す。
しかしながら、現王朝ベルグラム家への忠誠心というより、自身の出世と恐怖支配に陶酔している危険な男。
そして幸か不幸か、ベリックは優秀な戦術家でもあった。
強力な兵力と野戦指揮力を持ち、他領侵攻にも積極的。
目下の野望は「西部への拡張」
ドラン峡谷領の特徴は、
・採鉱資源に富む険しい地形。
・冷涼な気候、風雨が多く痩せた地域。
・徴税と粛清によって人口が急減。
蓄えを活かし、精強を誇っているのはそれこそ領主の一族とその軍隊くらいだ。
旗印は、黒鉄の斧と燃える十字──磔刑と断罪の象徴。
旗色は灰色地に血濡れの赤。
その格言は、「赦すな、残すな、悔いるな」
ベリック率いるハーグレイブ軍の侵略と包囲。
情勢不利を察した領境の代官のなかからは、恐れをなして裏切る者もそりゃあ出始める。
そして彼らは、粛清過激派であるベリックへの恭順を示すために、自分たちまでもが火刑と磔刑を行うようになり。
先日、叔父が「東のグローヴィスで代官が裏切った」と話した通り。
命からがら逃げてきた他の小貴族たちの集団と一緒に、グローヴィスの代表として、レオニアとシンリースが僕に接触を図るんだね。
もちろん、彼女たちは身分を偽って接触を図るんだけども。
その目的は、このままでは何処まで逃げても命を狙われると思って、ベリック・ハーグレイブを西部総督──ダイアニーシアスの手で討たせようというもの。
加えて、故エクター・ハーグレイブの教えゆえか、はたまた生来の血がそうさせるのか。
プリンセス・レオニアには民を思いやる気持ちがあった。
暴虐と圧政を繰り返すベリックを見過ごせない。
レストロヴァンであるレオニアからすれば、他人が磔にされて火炙りにされる光景は、自分のせいにも感じられる光景だったんだね。
その光景に責任を感じる必要なんて無いのに、レオニアは自分の口で嘆願を届けるコトにこだわった。
理性的な侍女が「レオニア様が訴えずとも、西部総督家は間違いなく動き出します」と説得をしても。
人並外れた責任感から、せめてこれくらいの罪滅ぼしはしたいと、グローヴィスの代表まで勝手に名乗って。
「……」
「それで、どうされましょう?」
夜。
嘆願の謁見を一通り終えて。
僕は椅子に座り、隣に立つ側近になんと答えたものか考える。
場所は
ダイアニーシアス家が新たに築城中の要塞、
ヘイルガーデンの最果てとも言っていい。
そのすぐ眼前には、今はまだ西部に含まれるドレイブモント領。
荒れ狂う山地の名が指し示す通り、ここはハーグレイブ家のドラン峡谷領とほんとうに隣り合わせだ。
幾つかの町や荘園、村を越えられたら、あっという間に西部に進軍されてしまう。
グローヴィスを奪われたのもここだ。
横にいるのはモールウッド家が寄越した騎士で、この一年、右腕のように働いてもらっている青年である。
その後ろには、西部総督名代軍の指揮を預かる老騎士ローデリックもいる。
現在、ドレイブモントは三箇所から切り崩されており、その三箇所から同時に奪われたのがグローヴィスだと分かった。
このあたりは険しい山々が多いから、敵が進軍できる道も限られている。
ベリック・ハーグレイブの戦術は、極めて理に適っていた。
最初に領境の小拠点を三つ奪い、そこから軍を進める。
軍は三叉槍の穂先から柄の連結部に向かうように、グローヴィスを三方向から囲い込む。
グローヴィス、恐れをなして裏切る。
でだ。
(現状、敵はグローヴィスからドレイブモント各地の要塞を攻め落としに来てる)
ドレイブモントの領主(小貴族)は、さっきまで情けないコトに助けを乞うばかりだった。
あれでは戦場の指揮など務まるはずもない。
ひとりだけ前線から逃げてきたのも最悪だ。
「とりあえず、ドレイブモント公は処刑だろうね」
「ダンタリアス様が、沙汰を?」
「いいや。名代だからといって、そこまで面倒を引き受ける気はないよ。刑の執行はのちのち、叔父上がやるだろうし」
あのヴァルドリック・ダイアニーシアスが、腑抜けた配下を無罪放免にするはずもない。
では、僕が引き受けるべき面倒とはすなわち?
「グローヴィスだね。やっぱり、どう考えてもグローヴィスを取り返すしかない」
「同感です」
「ローデリックも、異議はないかな?」
「ハッ! 異存ありません、が……」
「そうだね。グローヴィスよりこっち側に来てる連中を、放置しておくワケにもいかない」
原作のダンタリアスも、たしかここで有能な配下に援軍の役割を任せていたはず。
ドレイブモント各地の要塞を落とされても厄介なので、ここはローデリックとモールウッド家にその任を引き受けてもらおう。
「ですが、ダンタリアス様は?」
「まさかおひとりだけで、グローヴィスを奪還するおつもりでしょうか?」
「多少の手勢は残しておいて欲しいよ」
「いえ、それは当然ですが……側でお仕えする者が」
「ああ。大丈夫だよ」
言い切ると、彼らはドキリと一瞬固まった。
この一年で、僕がこういうふうに直観的めいた断言をする際、彼らはその後に起こる展開を知っている。
〝ダンタリアス・ダイアニーシアスには、人智では推し量れない戦場の未来が見えている〟
実際には違うモノを視ているだけなんだけど、どうあれ信憑性を持たせるくらいに戦功は挙げて来た。
今回の戦では、少なくないアドバンテージも持っている。
「僕がグローヴィスを取り返す。そうしたら、ヤツらは西部侵略のための重要な要所と補給線を同時に絶たれる」
「グローヴィスさえ奪還が叶えば、あとの三つは数でどうとでもなりますな」
「うん。だから、ヤツらに思い知らせよう」
と同時に、僕はここでレオニア・レストロヴァンを手に入れる。
そのための行動を、早速今晩から開始しよう。