神秘が絶えた(?)殺伐硬派な戦記ファンタジー世界で悪役貴族に転生したけど僕だけ人外が視える   作:所羅門ヒトリモン

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第11話「焼けずの王女と謎多き少年」

 

 

〝グローヴィスの件で、重要な情報提供者になり得る〟

 

 レオニア王女とその侍女、シンリース。

 謁見の場では偽名を名乗っていたけれど、彼女たちには今晩、影輝砦(モーラグロス)に留まってもらっていた。

 

 これは原作(ビジョン)でも同じだ。

 

 そして原作では、ダンタリアス・ダイアニーシアスがレオニア王女の正体を察知するのも、今夜の出来事が原因だとされている。

 

 というのも、この頃のレオニア王女には魔法の血脈(レストロヴァン)ゆえの問題が起きていて、幼い日に経験した地獄。

 一族が全員、火炙りにされて処刑されるっていう超特大トラウマに起因した『霊障』に悩まされているんだ。

 

 この霊障ってヤツが、ちょっと特殊でね。

 

 レオニア王女はトラウマを刺激されると、必ずと言っていいほど悪夢を見る。

 悪夢の内容は当然、レストロヴァン王家が焼き殺されるクーデター時の記憶だ。

 

 それだけでもかなりキツイものがあるよね。

 

 でも、レオニア王女には魔法のチカラがあって、この悪夢こそが覚醒の兆し。

 悪夢が始まると、レオニア王女は自身もまた火に包まれる。

 

 人体発火現象。

 

 しかしながら、レオニアは燃えない。

 火傷も負わず、肌も爛れず、髪が焦げ付くコトさえない。

 

 原因は単純。

 

 レオニアは自身を責めるあまり、無意識のうちに自分を家族と同じように殺そうとしているけど。

 すでに死んでしまった王家の亡霊たちが、死後強まる念にて魔法をかけて、レオニアを守っているから。

 

 だから大抵は、燃え盛るレオニアをひとり残して、周囲だけが炎に呑まれる。

 

 侍女のシンリースがすぐに異変に気がつけば、ボヤ段階で消火されるんだけどね。

 消火の仕方は、寝る前にバケツに汲んでおいた水を、そのままぶっかけるという極めてシンプルなものだ。

 

 余談だけど、ドラマ版ではこのシーンのせいでシンリースのあだ名が、バケツちゃんになったりした。

 

 バケツちゃんことシンリース。

 彼女はしかし、ただの侍女じゃあない。

 

 正体は旧王朝を影ながら支えてきた呪い師の一族で、神から言霊を託され王家に授ける、そんな役割を負った巫女でもあったんだ。

 魔法のチカラに覚醒した後のレオニアは、シンリースの導きとサポートのおかげで、魔法の呪文や杖(武器)を入手していく。

 

 けれども。

 

(今夜はまだ)

 

 レオニア王女はトラウマに苦悩する少女でしかない。

 寝ているあいだに自分の身体が燃えるのも、ひとりだけ生き残ってしまった自分を恨んで、家族が呪いをかけているからだと考えている。

 実際はその逆なのにね。

 

(ああ、そうだよ?)

 

 僕には謁見の時から、彼女を取り巻く旧王朝の亡霊群が視えていた。

 燃え盛る死者たち。

 

 燎原歩き(フレイムウォーカー)

 

 視える僕には、彼ら彼女らの()が感じられる。

 おかげで、季節は秋だっていうのに、さっきから汗をかきそうだ。

 

「無駄な会話は無しにしましょう。こちらはあなたがたの正体を知っているし、()()()()()()()()にも理解があります」

「──な」

「ッ、いや、えっと、これは違うのですっ、閣下! 私どももいったい、何故あんなコトが起きたのか──」

「シンリース・セラフォード」

「ッ!?」

「それに、レオニア・レストロヴァン」

「!? あなた、なんで私たちの名前を……!?」

「だから、言っているでしょう? そちらの正体は分かっているんです。そのうえで、警戒を解いていただきけませんか?」

 

 夜半に部屋を訪れ、予定通りに霊障を確認した僕は、驚愕する彼女たちにそうしてファーストコンタクトを果たした。

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

「率直に言いましょう。僕もまた、神秘に関する異能を持っています」

「……つまり、それが私たちの正体を見破った理由だと、おっしゃるのですね?」

「ええ、そうです。と言っても、僕はただ視て、聞いて、語る。それだけのチカラですが」

 

 深夜だった。

 女ふたりだけの小さな客室に、男がひとりいる。

 西部総督家、ダイアニーシアスの『若き翼獅子』……

 金髪紫眼に目の下のクマ。

 悪名高いダイアニーシアス家のなかで、どうやら近頃、頭角を表し始めたと噂の少年。

 

 彼は話がしたいと言って、堂々と扉に寄りかかった。

 

 悪趣味な砦の玉座で、無表情で嘆願を聞き届けていた時とは少し様子が違う。

 その眼は私たちを見ているようで、不意に背後の壁や天井のあたりを向くコトもあった。

 シンリースが私の前で、いつでも背中のナイフを抜けるように油断なく構えている。

 

 正体を見抜かれたと分かり、私もシンリースもさっきは凄く動揺してしまった。

 

 だけど、目の前の男がひとりで、しかも丸腰だと分かった時から。

 シンリースも私も、いざとなれば二人がかりでと無言のままに考えていた。

 

 分かっている。

 

 動揺のしすぎで、咄嗟にとんでもない思考を巡らせてしまった。

 けれど、それくらい冷静さを保てない状況に、いまの私たちは追い込まれているのだ。

 シンリースが表立って会話を引き受けてくれなければ、私なんてとっくに暴走している。

 

 ──ありがたい。

 

(この子はいつも、頼りになる……)

 

 黒髪の侍女がいなければ、あの晩、領境を越えるコトなど決してできなかった。

 常日頃、シンリースは私に、特別なチカラがあると繰り返す。

 けれど、いつも思っていた。

 特別で強いチカラを持っているのは、シンリースのほうだと。

 シンリースがいなければ、私はとっくに死んでいたに違いないから。

 

 レオニア・レストロヴァンは、それくらいシンリース・セラフォードを信じている。

 

 なのに、そんなシンリースがいま、常に無いほど動揺し悩んでいる様子だった。

 原因はゆったりとした姿勢を装いながらも、注意深く扉を塞いでいる男。

 

 名前はたしか、ダンタリアス・ダイアニーシアス。

 

 この半年ほど、西部の噂はドランにも届くほどだった。

 特に有名なのは、初陣でたった二十人の騎士だけを連れて、二百人の盗賊団を討伐した逸話。

 ドランの騎士たちはとんだ大ホラ吹きだと信じていない様子だったけれど、行商人を中心に民たちのあいだでは真しやかに囁かれていた。

 

 事実だとすれば、この若さでとてつもない傑物。

 

 そんな男がいま、私たちの前で次から次へと驚愕を禁じ得ない言葉を並べ立てていた。

 

「暴王ゴドリック十二世は正しかった。ただ、彼にはチカラが無かった」

「……レオニア様の前で、不敬な発言ですよ……」

「事実を言っています。僕にチカラがある理由は分かりませんが、しかし、これもまた視えるのだから仕方がない」

「人ならざるモノが視える、とは……具体的に?」

「ご想像の通りですよ。幼い頃、乳母が寝物語に聞かせてくれた御伽噺。絵本を読んだコトがあれば、その挿絵をイメージしてくれて構いません。だいたいああいったモノが現実に存在しているんです」

「……にわかには、信じられません」

 

 そう。にわかには信じられない話だった。

 神秘に縁深いシンリースや私でさえ、そんな存在をハッキリ目にした経験は無い。

 夢のなかでならまだしも、オバケやモンスターが日常の一部になってしまうなんて、ひどい冗談のように聞こえる。

 

「ですが、僕の噂を少しでもご存知なら、納得できるんじゃありませんか?」

「と、おっしゃると?」

「僕がこれまで挙げてきた戦功の数々には、荒唐無稽な話も混ざっています。それはあちら側の存在が関与していたからです」

「! で、では……閣下は人外を使役したと……?」

「使役? まさか。とんでもない。僕はただ、彼のモノたちと話をして、その望むところを叶える手伝いをしただけです。人間に使役できるような存在じゃあないんですよ」

 

 人智を超越しているがゆえに、そこを傲岸にも思い違いしてしまうと痛い目を見る。

 少年は戒めるように言った。

 深夜の静けさに染み入るように、その声はこちらへゴクリと唾を飲み込ませる迫力を備えていた。

 だけど、シンリースは当然疑うようだ。

 

「証拠を見せてください」

「証拠?」

「閣下は先ほど、私どもに危害を加えるつもりは無いとおっしゃいましたが、ダイアニーシアスは先の戦争でベルグラムについた者たちです」

「我が家だけに限らず、あの戦争では多くの貴族が暴王に叛旗を翻しましたが」

「だとしてもっ、裏切り者の言葉をやすやすと信じるとでも……!?」

 

 私の霊障を目撃しても、少年は眉ひとつ動かさなかった。

 暴王……父の圧政のせいで、いまの王国では神秘にまつわる事柄がひどく厭悪されている。

 にもかかわらず、少年は自らもまた神秘の(ともがら)なのだと告白し、会ったばかりの私たちに信じられない言葉を囁く。

 

 誰かに聞かれれば、狂人と思われても仕方がない内容ばかりだ。

 

 これがドランだったら、間違いなくベリック・ハーグレイブに密告が届けられる。

 それは頭では理解できたけれど、シンリースも私も他人を信じるにはいささか疲れ過ぎていた。

 親のように思っていたエクターに騙されていたショック。

 エクターの死を切っ掛けに、ひどいコトばかり起こっていく。

 女である私たちには、他人を警戒しすぎるくらいがちょうど良かった。

 

「シンリースの言う通りよ。そもそも、あなたは私たちにそんな話をして、何が目的なの?」

「ふむ」

「危害を加えないって言われても、その代わりに何を望んでいるの?」

「目的。それに望み、ですか」

「ええ、そうよ。こんな夜中に女の部屋にやって来て、乱暴目的じゃなさそうなのは安心したけど」

「レ、レオニア様……」

 

 シンリースは背中で、まだナイフを握りしめている。

 私だって、袖の内側にはフォークがあった。

 少年は依然として無表情で、何を考えているのか見透せない。

 私は言ってやる。

 

「これまでの話が全部嘘で、迷信に狂った暴王の娘を揶揄って、且つ罠に嵌めるための(たばか)りだったら?」

「……」

「悪いけど、そんな簡単に他人の言葉を信じられるほど、私たちの人生は楽じゃないのよ」

「ですが、正体についてはすでにそちらも、自白したようなものなのに?」

「ええ。だから、これが罠なら今すぐあなたを殺して、私たちは夜に紛れて逃げるわ」

「無謀ですね」

 

 簡潔なリアクションは、正論でしかなかった。

 仮にも西部総督名代を殺してしまえば、ベリック・ハーグレイブだけじゃなく、あのヴァルドリック・ダイアニーシアスまで敵になる。

 夜に紛れて姿を眩ませても、西部は彼らの土地。

 逃亡が成功する確率は極めて低い。

 

 剣呑な脅しにもかかわらず、少年はやはりピクリとも眉を動かさなかった。

 

 それどころか、首を僅かに傾げて、やや顎を上にし。

 喉元をさらしながら、堂々とこんなコトまで言う。

 

「では、正直に打ち明けましょう」

「っ」

「たしかに、目的はあります。望みはあります」

「……それは、なに?」

「将来についてです」

「……将来?」

 

 シンリースとふたり、思わず顔を見合わせてしまう。

 すると、少年はここで初めて逡巡した気配を見せた。

 扉から背中を離し、不意に片膝を着いて、

 

「……え?」

「……」

「……あ、あの?」

「すみません、やっぱりいまのは無しで」

 

 困惑するこちらに無表情のまま、すっくと立ち上がると元の姿勢に戻る。

 ただ、ちょっと距離が近づいた。

 思っていたより、背が高い。

 けど、そんな彼はすぐに後ろ足で一歩、二歩と下がっていく。

 

「とりあえず、あなたがたの身の安全は保証します」

「ちょ、ちょっと?」

「不安に思い、僕を信じられないようでしたら、先ほどの話を誰かに話してくれても構いません」

「それは……どういう……」

「分かりませんか? 僕らは互いに、他人に知られたらマズイ秘密を握り合ったんですよ。だから、僕の秘密をバラさない限り、僕もあなたがたを保護します。そういう関係から、初めていきましょう」

 

 何の利益があって、そんな提案をするのかまるで分からなかった。

 だいたい、レストロヴァンの生き残りを見つけたのなら、ダイアニーシアス家としては真っ先に殺すか捕まえるかするべきはず。

 

(だって、そうでしょう?)

 

 これは簒奪者ベルグラムに功を認められ、望んだ報酬を手に入れられる絶好のチャンスなのだから。

 なのに、少年はそもそも供も連れずに私たちを訪れた。

 丸腰で、不可解な話ばかりするだけで、自らの弱みを晒すような真似までして。

 

 しかも、つま先を反転させて、いまやほんとうに部屋を出て行こうとしている。

 

 シンリースの様子を見ると、同じように困惑していた。

 扉を開けて、身体を半分ほど外に滑らせて、そこで。

 

「ああ、そうだ」

「! な、なに?」

「あなたがたには申し訳ないんですが、明日から僕らはグローヴィスに向かいます」

「──え?」

「短い間でも、あの町に滞在していたあなたがたの協力が必要なので、すみませんが少々付き合っていただきますので。それでは、夜分に失礼を」

 

 言うだけ言うと、少年は何ら未練も無さそうな様子で扉を閉めてしまった。

 

「ど、どういうコトなの……!?」

「っ……」

 

 私たちは呆然とし、混乱し、そして眠れなくなった。

 

 

 

 

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