神秘が絶えた(?)殺伐硬派な戦記ファンタジー世界で悪役貴族に転生したけど僕だけ人外が視える   作:所羅門ヒトリモン

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第12話「赤煤の町に首無し貴公子は彷徨う」

 

 

 昨夜は少し、事を急ぎ過ぎてしまった。

 レオニア・レストロヴァンが、思っていた以上に『レオニア・レストロヴァン』だったので、つい感情が溢れて片膝を着いてしまった。

 

 FAIを執筆していたとき、何を隠そう僕の一番のお気に入りは彼女だった。

 

 理想の推しキャラが目の前に現実化したんだ。

 僕が知っている〝原作知識〟なんて、どこまで正しいものなのか分からない。

 

 所詮は幻視、ビジョンに過ぎないから、彼女が実際には違う人間である可能性も考慮に入れて、そのひととなりを探った。

 

 そしたら、まんま理想の通りだった。

 

(参ったね)

 

 レオニアを手に入れるのは、ただ単に今後を考えてのコトだったんだけど。

 これじゃあほんとうに、抜け出せないところまで深くのめり込んでしまいそうだ。

 

 さすが運命の少女(ヒロイン)

 

 意思が強くて、恐怖を抱きながらも気丈に脅威と立ち向かい、戦う心を持っている。

 悲しいのは、そんな彼女が目下危険視しているのが、ベリック・ハーグレイブと僕だという点。

 

「……」

「……」

「……」

 

 同じ馬車のなか、グローヴィスへ向かう道中。

 レオニアとシンリースは警戒した様子を隠しもせずに、僕からは対角線上に座っていた。

 昨夜の出来事を踏まえれば、まぁ、当然だろう。

 

(もっとも)

 

 夜中のうちに逃げ出さず、例の件も口外していない様子なので。

 ひとまず最初の心理的ハードルは越えられたらしい。

 信頼は築くに難く、失うに易し。

 僕は言葉を尽くして絆を育むよりも、行動を共にして友情と親愛を勝ち取るつもりだった。

 

「しっかし、あんたがた……ほんとうにグローヴィスへ行きたいんかい?」

 

 馬車の御者が、「やめておいたほうが、いいと思うけどね〜」と親切に忠告する。

 

「あそこはもう、『赤煤の町』って呼ばれてるんだ。それでも、どうしても行くのかい?」

「ええ。どうしても、用がありまして」

「……そうかい。まあ、こんなご時世だ。事情はいろいろだぁね」

 

 御者は嘆息混じりに肩をすくめ、それきり深くは詮索しなくなった。

 そう。僕たちは町人に扮して、グローヴィスへ潜入する。

 

(グローヴィスが重要な拠点なのは、敵だって承知しているからね)

 

 金マントと紫の旗がはためけば、ベリック・ハーグレイブも軍を動員してグローヴィスを守ろうとするだろう。

 それは少しばかり面倒だ。

 だから、だいたい一千くらいの軍を後方に控えさせ、今はまだハーグレイブ家の旗が飾られているグローヴィスに、潜入した僕たちがもう一度ダイアニーシアスの旗を飾る。

 

「……正気? こんなの、絶対に上手くいきっこないわ……」

「信じられません……やっぱり昨夜のうちに、逃げればよかったんです……」

 

 レオニアとシンリースは、小声で後悔を口にする。

 彼女たちからしたら、たった三人で何ができると言ったところだろう。

 それでも、僕に不安は無かった。

 旗を変えたら、それを合図に付近で潜んでくれている精鋭が突入する手筈になっているし、彼らも僕の無茶な作戦には慣れている。

 何より、今朝方から先行させて、グローヴィスには陽動作戦を開始していた。

 

 中に潜んでいる敵軍を誘き出し、注目を外に逸らしてもらっている。

 

 そして、赤煤の町──グローヴィスには。

 

()()()ね」

「お客さん、眼がいいねぇ。そうだよ? あそこが、グローヴィスだ」

 

 御者が馬車の速度を緩める。

 気の良さそうな中年は、意図して言及したワケではないだろう。

 だが僕の眼には、たしかに映っていた。

 

(──首無し貴公子、か)

 

 さまよい歩く死者。

 鎧纏いの亡霊。

 人ならざるモノ、この世に未練を残した魂が。

 

 グローヴィスの入り口。

 

 門の向こう側の広場で、紅葉の大樹の周りをウロウロ歩いている。

 しかしその片腕には、処刑用の大剣が握られ、地面に引き摺られていた。

 背にはドレイブモントの紋章が描かれた外套。

 

 報告は聞いている。

 

 当主は情けない男だったが、息子は気高く忠勇の貴公子だったそうだ。

 裏切り者の代官を処刑するため、ドレイブモント公の息子はグローヴィスに出陣した。

 

 その結果、彼はああして首を落とされてもなお、裏切り者の処罰のために現世をさまよっているに違いない。

 

「……ねえ、もしかして、なにか視えてるの?」

「っ、この町、前よりも……」

 

 レオニアは僕の視線に気がつき、シンリースはやはり霊感があるのか、少し顔を青ざめさせる。

 僕は唇に指を当て、口を噤むようにジェスチャーした。

 

 市井の民というのはたくましいもので、戦争が始まっても、それならそれでと日銭を稼ごうとする。

 

 相乗りさせてもらった馬車は、グローヴィスへ食糧を運びに来た行商人のものだ。

 行商人自体は、金で御者を雇って荷物を運ばせるだけで、ここにはいないけど。

 僕らはその御者にまた金を払って、運送のついでにちゃっかりグローヴィスまで足を運んだワケである。

 

 そろそろ馬車を降りて、日没を待つ時間だ。

 

 潜入経路は、レオニアとシンリースが知っている。

 

 

 

 

 ──夜になり、無事にグローヴィスへ潜入できた。

 

 辺りはすっかり静まり返り、町の人々は自身の家で息を潜めているようだ。

 外を出歩いているハーグレイブ家の兵士は、やはり少ない。

 事前に夜になったら陽動作戦を激しくするよう命じてあるので、まんまと誘き出されているのだろう。

 

 夕方、その様子は自分たちの目でも確認できた。

 

「……簡単に、戻って来れちゃった」

「さて。ではさっそく、広場に向かいましょう」

「! 広場に? 何故でしょうか、閣下」

 

 シンリースは広場に近づきたくないのか、やや抵抗感のある様子を見せる。

 どうでもいいけど、見目麗しい少女に閣下って呼ばれるのって気持ちいいものだね。

 レオニアとシンリースに期待していた役割は、無事にグローヴィスに潜入できた時点でほとんど果たされている。

 だから、ここで無理に広場へ連れ出す必要は無いんだけど。

 せっかく手元に転がり込んできた宝石から、目を離すほど僕も無欲じゃない。

 

「昨夜、キミは証拠を見せろと言ったね」

「……もしや、()()のですか?」

「お察しの通りだよ。キミは霊感が高いみたいだ。僕には日常に過ぎないけれど、あの広場に凄まじい怨霊がいるのを感じていたんだね」

「怨霊? ちょっと待って。シンリースは繊細なところがあるの。もしあなたの言う通り、そんなモノがいるのならだけど、危険は無いんでしょうね?」

「ご安心を。僕が用があるのは、その怨霊とはべつの霊なので」

 

 一応、人目を忍びながらも先頭に立って歩き出すと、ふたりは半信半疑ながらも大人しく着いて来てくれた。

 グローヴィスはそんなに広い町ではないので、五分程度で広場に出る。

 

 季節は秋。

 

 紅い葉をつけた大樹が、広場の中心では聳え立っていて。

 立派な幹と太い枝には、吊るされた死体。

 根元の周囲には磔のための十字が何本も埋められ、杭打ちされた死体から大量の血が大地を濡らしていた。

 

 死体の一部は、燃やされて全身が焦げているモノも。

 

 空気も焦げ臭い。

 舞い散る紅葉はまるで、赤い煤のようだ。

 私刑による磔刑と火刑の暴虐。

 大樹は呪われ、少し頭上を見上げると怨霊が呻き声をあげている。

 

 その真下では、夕刻と変わらず首無しの貴公子がぐるぐる。

 

 無辜なる民の怨みを背負って、重い足取りでさまよい続けている。

 

「あ、あの……」

「ん?」

「どんな……光景なんでしょうか……?」

 

 シンリースには、感じられるモノがあるんだろう。

 僕以外には視えない光景。

 それでも、人はふとした瞬間にあちら側を垣間見るコトもある。

 垣間見ずとも、霊園や遺跡などでは自ずと厳かな気持ちになったりもする。

 霊感って言うのは、そういう感受性を鋭敏にした先にあるシックスセンスなんじゃないかな。

 分からんけど。

 

「視えないなら、それに越したコトはない光景さ」

「それで、どうするの? 証拠を見せるって」

「話をして来ます。あなたたちには僕がひとりで、虚空に向かって話しているように見えるでしょうが、あまり奇妙に思わないでくださいね」

「……」

 

 レオニアは無言だったが、「それはきっと、かなり難しい」と表情で語っていた。

 今夜は月夜だ。

 月光に濡れて冴え冴えと照らされる少女たちは、とても美しかった。

 物陰にふたりを待たせ、首無し貴公子のもとに向かう。

 

 彼は同じ周回軌道を描いているので、その軌道上に立って正面に来るのを待った。

 

 大抵、こうして僕が近づくと、人ならざるモノは向こうから話しかけてくる。

 が、

 

「……」

「……?」

 

 首無し貴公子は声を発さなかった。

 それどころか、どんどん僕に近づいてきて正面衝突しそうになる。

 

「っ、と」

 

 慌てて避けるも、そうすると貴公子はもう一周目に入ってしまった。

 怪訝に想い、後を追いかける。

 

「我が名はダンタリアス・ダイアニーシアス。忠勇の騎士よ、汝はドレイブモント公の息子だろう。何故そのようにこの広場を回り続けるのか?」

「……」

 

 それっぽい口調でコンタクトを図ってみたが、首無し貴公子からのレスポンスは無い。

 僕はふたりのもとに戻った。

 

「えっと、それで? 話は上手くいったのかしら……」

 

 レオニアは言いながら、自分で何を言ってるんだろうという顔になっている。

 僕は首を振った。

 

「ダメですね。こっちの声が聞こえてもいなければ、姿も見えてないみたいです」

「……えーっと? それって、つまり?」

 

 仕方がないので、少々説明する。

 

「首が無いんです。首が無いから、彼には何も見えないし聞こえない」

「──!」

 

 シンリースが息を呑んだ。

 レオニアはまだどういう状況なのか掴みかねているのか、それとも僕の一人芝居だとでも思っているのか、怪訝げだ。

 

 とはいえ、こんなふうに手間暇かけて作戦行動を始めているのに、まだ嘘を吐き続けているのだとしたら、それこそ僕は狂人になってしまう。

 

 疑いたくなる気持ちが強いけれど、さすがにそれは無いかと理性で否定しようとしている感じだね。

 

「では、首を探して差し上げましょう」

「え?」

「シンリース?」

 

 僕が怨霊のほうにコンタクトを取ろうかと検討していると、黒髪の少女が意を決したように言った。

 

「閣下。私とレオニア様に、お手伝いをさせてください」

 

 

 

 

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