神秘が絶えた(?)殺伐硬派な戦記ファンタジー世界で悪役貴族に転生したけど僕だけ人外が視える 作:所羅門ヒトリモン
カラダが燃えるようにアツかった。
いいや、違う。
ほんとうに燃えている。
(ああ──どうして? どうしてなの?)
痛い。息ができない。苦しい。イヤ。辛い。こんなにしんどいのに。
人を火で炙るなんて、どうしてそんなヒドいことができるのだろう?
逃げ出せないように、カラダを動かせないように縛りつけて。
足元から立ち昇ってくる火が、次第に足の裏を、そこから徐々に全身の肌と肉を焼いていって。
殺したいのなら、もっと違うやり方で殺せばいいじゃない。
よりにもよって、なんで、どうして、人間を焼こうだなんて思いついてしまったのか。
(ねえ、どうして──?)
どうして、それを見て笑うの?
どうして、そんなにも嬉しそうに手を叩いて指までさすの?
悪いことをしたのかもしれない。
大勢の人に、これだけ憎まれているなら、仕方のない罰なのかもしれない。
(でも、それでも……!)
生きていた。
私たちは生きて、同じ人間で、家族がいた。
祖父がいて、祖母がいて、父と母、兄弟姉妹がいて。
誰だってそうでしょう?
誰にだって、同じ辛さのはずでしょう?
こんなの、あんまりにも残酷すぎる。
「ごめんなさい。ごめんなさい。謝ります。謝りますから、どうかそれだけは、もっと違うやり方で終わらせてください──!」
火に焼かれて死ぬなんて、人の死に方じゃない。
なのに、どうしてもダメなの──?
「私たちは、そんなにも……」
この世界に、望まれない命だったのか。
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──
「私たちは、そんなにも……」
火刑台に着くと、レオニアは涙を流して意識を失った。
薬の影響だろう。
最初はしきりに「アツイ」とうわごとを繰り返すだけだっただが、途中からは過去の壮絶な記憶に対して言葉を出していた。
なんて可愛いんだろう。
一時とはいえレオニアを両腕に抱えられた僕は、庇護欲を刺激されている。
しかし、状況は少々予想外の展開を迎えていた。
レオニアを地面に下ろし、シンリースに預ける。
「霊感を高める薬、ね」
「ヒッ、まさか、こんなことが……!」
「きっと、血筋のせいなのかな」
「UAaa……!」
火刑台が燃えている。
燃えて、犠牲者たちが蠢き始めた。
どうやら、レオニア・レストロヴァンが関与すると、人ならざるモノどもはいつも以上に元気になるようだ。
死者の怨念がここまで明瞭に輪郭を持つのを、僕は初めて眼にした。
火はまだ燃え始めたばかりで、グローヴィスが異変に気がつくのはもう少し先だろうけれども。
この様子では、じきに兵士だけでなく、町の人間全員が深夜の火事に気がつく。
その前に。
「ありがたい。一応、探し物は見つかったみたいだ」
「! お、お待ちください! 何を……!?」
「何って、首が見つかったんだから回収するのは当然だよ」
燃え盛る炎の波を掻き分け、積もり積もった灰と炭の山から。
ひとつだけ、一際強く紅蓮に染まった髑髏を手に掴む。
火の粉が頬を焼き、髪先を焦がし、両手はジュウジュウ音を上げた。
「閣下……!」
「ああ、アツイね。でもそれだけだ」
「……!?」
「さあ、悪いけど、しばらく隠れていてくれるかな? 僕は彼と話をしてくる」
シンリースは絶句している。
目を見開いて、何かを言おうとしていた。
だけど、想定外の展開にこっちも焦っている。
無言は了承と見なし、もう一度強く命令した。
「ありがとう。じゃあ、行くんだ。ほら、行け」
「ッ──承知、しました」
黒髪の侍女は王女を背負いながら、ヨタヨタ火刑台から去っていく。
その後ろ姿を確認し、曲がり角に消えるところまでを見送って。
僕も駆けた。
異常を察した兵士たちの声が、段々と近づいて来ていたから。
目的地は広場。
幸い、グローヴィスは大きい町じゃない。
火刑台までの道のりも、そう大した距離じゃなかった。
地面を蹴り付け、ゴウゴウ、パチパチ、炎を握ったまま夜道をひた走る。
が、
「な、なんだアレは……!?」
「火、火の玉……!?」
「そこのオマエ! なにをしてる!」
「止まれ──!」
目立つ僕は、当然、途中で見つかった。
建物の陰に隠れようとしても、夜闇に乗じて隠密行動をするのに炎は目立ち過ぎる。
しかも、火刑台があった方角では、町が赤く染まり始めていた。
「侵入者か!?」
「ヤロウ、火を放ちやがったのか……!」
「捕えろ──!」
勘の良い男どもが、何人か僕を追い始める。
……まぁ、こうしていればレオニアとシンリースは安全だろう。
それに、グローヴィスに残っている兵士たちの全員が、いまこうして突然の事態に完璧に対応できているワケでもない。
最初に訪れるのは、混乱だ。
僕を追う兵士たちの数は次第に増えていくが、その数は背中に浴びる足音の大きさほど驚異的じゃない。
だったら、
「──受け取れ、
広場に到着し、未だに大樹の周りをぐるぐるしている首無し目掛けて、首は投げられる。
紅蓮に染まった貴公子の髑髏。
それは舞い散る紅葉に紛れて、奇跡的な放物線を描いて彼のもとへ向かっていった。
僕のコントロール力が優れているんじゃない。
本来あるべきものが、あるべきところへ自然と吸い込まれて行った。
これはそういう超常現象で、人智を超越した神秘が為す技だ。
紅蓮の髑髏が彼の首元に近づいた瞬間、貴公子は突如として片手でそれを掴む。
そして、ごく自然な動作で。
彼は髑髏を鎧の首元に添えるように置いて、髑髏は生きていた頃の似姿を
燃える首の処刑人が、
「──な、なんだありゃぁぁ!?」
「バ、バケモノだ!」
「バケモノが出やがった──!」
「████████████████ッッ!!」
浮かび上がる。
境界を越える。
顕現し、この世ならざる叫びをあげて、無念に燃える煉獄の騎士が剣を振りかぶる。
僕は、その剣がまっすぐこちらを向いても恐ろしくはなかった。
だって、彼は僕が言葉をかけるよりも、素早く動いていたから。
彼が叫ぶ声も、僕にはこう聞こえていたから。
〝死を 裏切りの罪に 死の裁きを!〟
兵士たちが両断され、瞬く間に追跡者がいなくなる。
広場に血と、臓物と、肉片がぶち撒けられた。
この様子なら、敢えて話をするまでもなさそうだ。
だけど、僕は一応言っておいた。
すでに僕を通り過ぎ、この町で一番大きい屋敷へと向かい始めた彼の背中に。
「それでいい。日が昇る前までは、キミたちの時間だ」
だから決着は、夜の内に片付けるんだよ。