神秘が絶えた(?)殺伐硬派な戦記ファンタジー世界で悪役貴族に転生したけど僕だけ人外が視える   作:所羅門ヒトリモン

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第14話「灰のなかより紅蓮は立ち昇り」

 

 

 カラダが燃えるようにアツかった。

 いいや、違う。

 ほんとうに燃えている。

 

(ああ──どうして? どうしてなの?)

 

 痛い。息ができない。苦しい。イヤ。辛い。こんなにしんどいのに。

 人を火で炙るなんて、どうしてそんなヒドいことができるのだろう?

 

 逃げ出せないように、カラダを動かせないように縛りつけて。

 

 足元から立ち昇ってくる火が、次第に足の裏を、そこから徐々に全身の肌と肉を焼いていって。

 殺したいのなら、もっと違うやり方で殺せばいいじゃない。

 よりにもよって、なんで、どうして、人間を焼こうだなんて思いついてしまったのか。

 

(ねえ、どうして──?)

 

 どうして、それを見て笑うの?

 どうして、そんなにも嬉しそうに手を叩いて指までさすの?

 悪いことをしたのかもしれない。

 大勢の人に、これだけ憎まれているなら、仕方のない罰なのかもしれない。

 

(でも、それでも……!)

 

 生きていた。

 私たちは生きて、同じ人間で、家族がいた。

 祖父がいて、祖母がいて、父と母、兄弟姉妹がいて。

 誰だってそうでしょう?

 誰にだって、同じ辛さのはずでしょう?

 

 こんなの、あんまりにも残酷すぎる。

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。謝ります。謝りますから、どうかそれだけは、もっと違うやり方で終わらせてください──!」

 

 火に焼かれて死ぬなんて、人の死に方じゃない。

 なのに、どうしてもダメなの──?

 

「私たちは、そんなにも……」

 

 この世界に、望まれない命だったのか。

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

「私たちは、そんなにも……」

 

 火刑台に着くと、レオニアは涙を流して意識を失った。

 薬の影響だろう。

 最初はしきりに「アツイ」とうわごとを繰り返すだけだっただが、途中からは過去の壮絶な記憶に対して言葉を出していた。

 

 なんて可愛いんだろう。

 

 一時とはいえレオニアを両腕に抱えられた僕は、庇護欲を刺激されている。

 しかし、状況は少々予想外の展開を迎えていた。

 レオニアを地面に下ろし、シンリースに預ける。

 

「霊感を高める薬、ね」

「ヒッ、まさか、こんなことが……!」

「きっと、血筋のせいなのかな」

「UAaa……!」

 

 火刑台が燃えている。

 燃えて、犠牲者たちが蠢き始めた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 どうやら、レオニア・レストロヴァンが関与すると、人ならざるモノどもはいつも以上に元気になるようだ。

 

 死者の怨念がここまで明瞭に輪郭を持つのを、僕は初めて眼にした。

 火はまだ燃え始めたばかりで、グローヴィスが異変に気がつくのはもう少し先だろうけれども。

 この様子では、じきに兵士だけでなく、町の人間全員が深夜の火事に気がつく。

 

 その前に。

 

「ありがたい。一応、探し物は見つかったみたいだ」

「! お、お待ちください! 何を……!?」

「何って、首が見つかったんだから回収するのは当然だよ」

 

 燃え盛る炎の波を掻き分け、積もり積もった灰と炭の山から。

 ひとつだけ、一際強く紅蓮に染まった髑髏を手に掴む。

 火の粉が頬を焼き、髪先を焦がし、両手はジュウジュウ音を上げた。

 

「閣下……!」

「ああ、アツイね。でもそれだけだ」

「……!?」

「さあ、悪いけど、しばらく隠れていてくれるかな? 僕は彼と話をしてくる」

 

 シンリースは絶句している。

 目を見開いて、何かを言おうとしていた。

 だけど、想定外の展開にこっちも焦っている。

 無言は了承と見なし、もう一度強く命令した。

 

「ありがとう。じゃあ、行くんだ。ほら、行け」

「ッ──承知、しました」

 

 黒髪の侍女は王女を背負いながら、ヨタヨタ火刑台から去っていく。

 その後ろ姿を確認し、曲がり角に消えるところまでを見送って。

 僕も駆けた。

 異常を察した兵士たちの声が、段々と近づいて来ていたから。

 

 目的地は広場。

 

 幸い、グローヴィスは大きい町じゃない。

 火刑台までの道のりも、そう大した距離じゃなかった。

 地面を蹴り付け、ゴウゴウ、パチパチ、炎を握ったまま夜道をひた走る。

 

 が、

 

「な、なんだアレは……!?」

「火、火の玉……!?」

「そこのオマエ! なにをしてる!」

「止まれ──!」

 

 目立つ僕は、当然、途中で見つかった。

 建物の陰に隠れようとしても、夜闇に乗じて隠密行動をするのに炎は目立ち過ぎる。

 しかも、火刑台があった方角では、町が赤く染まり始めていた。

 

「侵入者か!?」

「ヤロウ、火を放ちやがったのか……!」

「捕えろ──!」

 

 勘の良い男どもが、何人か僕を追い始める。

 ……まぁ、こうしていればレオニアとシンリースは安全だろう。

 それに、グローヴィスに残っている兵士たちの全員が、いまこうして突然の事態に完璧に対応できているワケでもない。

 

 最初に訪れるのは、混乱だ。

 

 僕を追う兵士たちの数は次第に増えていくが、その数は背中に浴びる足音の大きさほど驚異的じゃない。

 だったら、

 

「──受け取れ、()()()()()()()()()()ッ!」

 

 広場に到着し、未だに大樹の周りをぐるぐるしている首無し目掛けて、首は投げられる。

 紅蓮に染まった貴公子の髑髏。

 それは舞い散る紅葉に紛れて、奇跡的な放物線を描いて彼のもとへ向かっていった。

 

 僕のコントロール力が優れているんじゃない。

 

 本来あるべきものが、あるべきところへ自然と吸い込まれて行った。

 これはそういう超常現象で、人智を超越した神秘が為す技だ。

 

 紅蓮の髑髏が彼の首元に近づいた瞬間、貴公子は突如として片手でそれを掴む。

 

 そして、ごく自然な動作で。

 彼は髑髏を鎧の首元に添えるように置いて、髑髏は生きていた頃の似姿を(かたど)って。

 燃える首の処刑人が、

 

「──な、なんだありゃぁぁ!?」

「バ、バケモノだ!」

「バケモノが出やがった──!」

「████████████████ッッ!!」

 

 浮かび上がる。

 境界を越える。

 顕現し、この世ならざる叫びをあげて、無念に燃える煉獄の騎士が剣を振りかぶる。

 

 僕は、その剣がまっすぐこちらを向いても恐ろしくはなかった。

 

 だって、彼は僕が言葉をかけるよりも、素早く動いていたから。

 彼が叫ぶ声も、僕にはこう聞こえていたから。

 

〝死を 裏切りの罪に 死の裁きを!〟

 

 兵士たちが両断され、瞬く間に追跡者がいなくなる。

 広場に血と、臓物と、肉片がぶち撒けられた。

 この様子なら、敢えて話をするまでもなさそうだ。

 だけど、僕は一応言っておいた。

 

 すでに僕を通り過ぎ、この町で一番大きい屋敷へと向かい始めた彼の背中に。

 

「それでいい。日が昇る前までは、キミたちの時間だ」

 

 だから決着は、夜の内に片付けるんだよ。

 

 

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