神秘が絶えた(?)殺伐硬派な戦記ファンタジー世界で悪役貴族に転生したけど僕だけ人外が視える   作:所羅門ヒトリモン

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第3話「殺伐硬派な戦記ファンタジー」

 

 

 小説のタイトルは、『Flame and Iron』

 和題だと少し長くなるけど、『炎と鉄の地、神秘の歌』と云う。

 

 もっとも、世間的には『FAI』って略称のほうが広く浸透していたかな。

 

 ジャンルは戦記ファンタジー。

 大まかなあらすじをおさらいしておく前に、ひとつ前置きしておくと。

 この作品は登場人物のほとんどが死ぬ。

 

 第一巻で主人公だと思っていたキャラも。

 重要人物だと思っていたキャラも。

 可愛くて魅力的なヒロインも。

 コンチクショウと憎まれながら、けれどこういうヤツに限って、しぶとく生き残ると思われていた敵役も。

 

 それぞれ次から次に死んでいく。

 

 序盤から登場して終盤まで生き残るのは、ほんのわずかなキャラばかり。

 だからこそ悲劇的でもあり、スカッとする爽快感も怒涛のように押し寄せる名作と、前世ではありがたいことに過分な評価を下されていた。

 

 けれど実際は、ただこの世界が殺伐硬派(ハードでシビア)なだけなんだよね。

 

「……またか」

 

 城門に吊るされた縛り首の死体を見る度、僕はいつも思い知らされる。

 現在ダイアニーシアス家が本拠としている城砦では、処刑された罪人を見せしめにするのが恒例行事。

 精神的にも衛生的にも勘弁願いたい光景だ。

 けど、強盗に殺人者に強姦魔、野蛮な荒くれ者がウロウロしている世情不安定なこの世界では、恐怖こそが治安維持に役立つのだと叔父は知っている。

 

 前任の西部総督とは違って、現在の西部総督は非常に敏腕である。

 

 これでも僕が十歳の頃に比べれば、城門に吊るされる死体の数はかなり減ったほうだった。

 冷酷で血も涙も無いような男だけど、統治者としての手腕はたしかに優れている。

 吊るされた死体はどれも、それぞれの罪に応じて肉体の一部が欠損しているからね。

 

 強盗は両腕を両断。

 殺人者はあの様子だと、ナイフで内臓を掻き出された後だろう。

 強姦魔は当然、両目をくり抜かれてイチモツを切り落とされている。

 

 中世ヨーロッパの暗黒時代かな?

 

 とはいえ、叔父の手腕には僕も感謝を贈るしかない。

 大貴族の一員に生まれただけ。

 ダイアニーシアス家の庇護がなければ、僕が今日まで無事に生命活動を続けているコトは無かっただろう。

 

 あんな祝宴ではあったが、十六回目の命名日を祝われる可能性も極めて少なかったに違いない。

 

 だって、そうだろう?

 

 FAIは戦記ファンタジーだって、さっき触れたけれど。

 そのファンタジー要素はなんというか、()()()()()()なんだ。

 

 夢と希望に満ち溢れた幻想譚は存在しない。

 あるのは炎と鉄、血濡られた大地で歌われる仄暗い神秘譚。

 

 まず、この世界で魔法を使えるのは、限られた血族だけだ。

 

 ──『レストロヴァン』

 

 大昔に大陸を征服した旧王朝の家名なんだけど、この家の血を継ぐ者だけが魔法を使える。

 設定的には、神秘技芸(アーツ)って云う。

 まぁ、それはいったん置いておくとして、普通に考えてみて欲しい。

 

 魔法を使える人間と、魔法を使えない人間。

 

 前者には広大な大陸を支配し得るチカラがあって、後者にはチカラが無い。

 人々は偉大なチカラの前では膝を折る。

 王家の血が神聖視されるのも当然だ。

 

 だから旧王朝は発足したし、王国は樹立された──と云うのが、根幹を担う時代背景。

 

 偉大なる征服王朝の繁栄は千年余り続いたけれど。

 二〜三百年前あたりから、レストロヴァン家のチカラはどんどん小さくなって、最終的には失われてしまった。

 

 王家の記録をまとめてある歴史書には、最後に魔法を使えたレストロヴァンのチカラは、蝋燭に火を灯す程度でしか無かったと云う。

 

 でだ。

 

 時は経って、現代。

 十六歳のダンタリアス・ダイアニーシアスからしたら、ちょうど祖父と親世代がノリにノッていた時代。

 

 レストロヴァン王朝最後にして無力なる王は、暴王だった。

 

 暴王ゴドリック十二世。

 

 彼は先祖のチカラに焦がれ、古代の神話的冒険譚に傾倒していた。

 今日(こんにち)では迷信や御伽噺の存在だと信じられているモノが、世界にはまだ残っている。

 息を潜めて隠れているだけで、人ならざるモノを見つけさえすれば、自分にも再び魔法が取り戻されると強く信じ込んでいた。

 

 暴王は胡乱な理屈を並べ立て。

 ありもしないものを臣下に探すよう命じ。

 従わない者が現れれば、時には生贄の儀式と称して死刑を申し渡した。

 

 狂っているとしか思われない。

 

 そんな残酷な所業を数々繰り返し、結果として各地から反乱が勃発。

 

 暴王は討たれ、レストロヴァン王家は火炙りにされ、現在は新たにベルグラム王朝が大陸を統治している。

 

 が、実のところレストロヴァン王家には生き残りがいて、暴王の娘である王女が今なお魔法の血脈を保っている。

 

 そして彼女は、何もかもを失い名さえ偽り、密かに成長を続けていたが、潜伏中の辺境で旧王朝粛清派という過激派貴族に正体がバレて、殺されそうになる。

 

 命の危機に陥った彼女は、魔法のチカラに目覚める。

 

 と同時に、彼女の覚醒を切っ掛けにして大陸各地で()()が蠢き始め、暴王が信じ続けた人ならざるモノの鼓動が世に再び音を鳴らすように。

 怨霊、精霊、怪異、零落した神の成れの果て、ナニかの落とし仔といった存在が超常・怪奇現象を引き起こし、事件を起こし始める。

 

 一方その頃、ベルグラム王朝では王が()()()

 

 空白の玉座を巡って、東西南北の総督職を預かる四方名家が野心と同義心の狭間で揺れ動きながら、次第に内乱へ。

 

 戦乱の激化に伴い、神秘の脅威も高まっていくなか、真に人の世を守るためには『レストロヴァン』が必要だとも判明していき──

 

(──終盤は未完ッ!)

 

 FAIは群像劇に近い作品だけど、メインとなるキャラクターはダイアニーシアス家を含めた大貴族の面々と、主に王朝関係の人物になる。

 

 ところで、僕ことダンタリアス・ダイアニーシアスの役柄と運命だけど、ぶっちゃけて告白すると王女の敵だ。

 

 原作、と呼ぶのはもはや空虚な未練でしか無いけれど。

 今のところ、僕が知っている出来事は寸分違わず現実に訪れている。

 だからこれも、恐らくそう遠からずして現実になるんだろうね。

 

 僕は王女に殺される。

 

 理由?

 

 簡単だよ。

 魔法のチカラに目覚めた王女は、悪役貴族である僕に見つかって、保護の代償と正体を秘密にする引き換えに結婚を強制される。

 だけど、僕にはすでに愛人が何人もいて、女性に対して紳士的とは言えない態度を取っていた。

 

 しかも、結婚を拒む王女に対して、その侍女を人質にまでして言うことを聞かせようとするんだよね。

 

 時期的には、ちょうど今から一年後くらいになるのかな。

 思うに、十六回目の命名日での件が後を引いて、原作のダンタリアス・ダイアニーシアスは女性を憎み、支配しようとする人間になってしまったんだろう。

 

「無理もないよな」

 

 と、城門の死体を見て思うよ。

 叔父に怒りをぶつけ、反抗的な態度なんか取ろうものなら、ああしてぶら下げられているのは自分かもしれない。

 

 ただの人間、原作通りのダンタリアスなら、そうして過ごしていく内に鬱々と歪んでしまうだろうからさ。

 

 

 

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