神秘が絶えた(?)殺伐硬派な戦記ファンタジー世界で悪役貴族に転生したけど僕だけ人外が視える 作:所羅門ヒトリモン
七日間の野営と三日間の
十一日目の朝。
初日の夕暮れ以降、僕は妙な発言を控えている。
その甲斐もあって、騎士たちはアレを気のせいだったと片付けたようだ。
道中は特に問題もなく。
いよいよミアグレン村に到着する頃になると、ローデリックは若い騎士ふたりを偵察に放った。
僕たちは現在、灌漑農村の北西に位置する森にいる。
森には川が流れていて、ミアグレンはこの川から水を引いて農業をやっているらしい。
だが、隣村の隣村。
一昨日止まった旅籠で耳にした噂話によれば、盗賊たちは川上で毒を流したらしく。
しかも、ミアグレンの井戸には夜のうちにこちらも毒が投げ込まれ、異変に気がつくのが遅れた村人たちはすっかり全滅してしまったようだ。
そのうえ、僕たちが城を出発して、ここまで辿り着くまでの間。
つまり、十日が経つ間に盗賊たちは数も増したらしい。
偵察に行った騎士が帰ってくると、驚くべき情報がもたらされた。
「なに? 二百だと!?」
「二十って話だったはずだぞ!」
「無理だな。一度戻ろう」
「チクショウ! もっとあの村人から、正確に話を聞き出しておけば……!」
「城の書記官ども、ふざけた仕事をしやがって!」
「ダン様……マズイ事態になりました」
「うん。そうみたいだね」
偵察がもたらした情報は、盗賊の数が二十ではなく二百近いという事実だった。
それを聞いたとき、一瞬、これも叔父の陰謀のひとつかと疑ったけど、恐らくそうじゃない。
無学な農民なんて珍しい話じゃない。
識字率もタカが知れている。
村のなかで単純な作業労働者として働いていたなら、十と百の違いが曖昧なまま、二百を二十と間違えて伝えてしまっても不思議は無い。
そのくらい、この世界の文明・文化レベルは低い。
「なるほど。たしかに、盗賊団だ」
あるいは、叔父はその可能性に気がついていただろうか?
気がついていた上で、僕を初陣に臨ませたのか。
こればかりはさすがに、判断に迷うところだね。
だけど、諦めて何もせぬまま帰るワケにもいかない。
「ローデリック」
「ハ、なんでしょう? ダン様」
「それで、作戦は?」
「──は?」
ローデリックだけじゃなく、ほかの十九人の騎士たちもポカンと硬直した。
彼らは耳を疑ったのだろう。
「し、失礼、ダン様……いまなんと?」
「聞こえなかった? だから、作戦はどうするのかな?」
「い、いやいや! ダン様!」
「聞いたでしょう!? 賊は二百ですよ!?」
「初陣を華々しく飾りたいのは分かりますが、さすがに一度戻らないと勝ち目は無いです!」
「
言うと、騎士たちは「ぐっ」と顔を顰めた。
老騎士は眉根を寄せ、壮年の騎士が重く唸るように息を吐き出す。
「ダン様はもしや、我らに邪道働きをお命じになられるおつもりですかな」
「ヤツらと同じように、毒でも使えと申されますか?」
「べつに、そうは言ってない。ただ、もう少し考えてみようって提案してるだけさ」
森のなか。
木陰に潜み、川辺の先の灌漑農村をチラリと見やる。
距離は目測で、だいたい五十〜七十メートルほど。
今日が曇っていて良かった。
木漏れ日でも、太陽を浴びた金マントは森の外から光って見えただろう。
雲越しの朝日を受けて、ミアグレン村では周囲を哨戒中の賊が、槍の穂先を鈍く照らしている。
耳を澄ませば、バカみたいな騒ぎ声も風に乗って聞こえてくる。
村を乗っ取り、略奪を行い、これから周囲の村にも毒牙を伸ばそうとする蛮人どもの歌声だ。
「聞こえるかな? ヤツら、どうしてあんなふうにバカ騒ぎしてられるんだろうね?」
「……はい?」
「それは……そうでしょう」
「ヤツらからしたら、あそこは戦利品です」
「勝利の祝いをしていても、不思議はない」
「ほんとうに?」
僕が再度問いかけると、ローデリックが「……ふむ」と頷いた。
「ひとつ、たしかに妙ですな」
「ローデリック卿、妙、とは?」
「ダン様」
「ああ、そうだね。ヤツら、毒を撒いたんだろう?」
「!」
川の毒は川下に流れて消えたのだとしても、井戸に投じた毒はそう簡単に消えたりしない。
なのに、十日間もずっと村に居残っているのは不自然だ。
まさか盗賊のくせに、毎日川まで足を運んで、水汲みをしていたワケじゃあるまい。
二百人もいれば雑用専門の賊もいるかもしれないけど、自分たちが毒を撒いた川に水汲みをしにいく馬鹿はいないだろう。
農民が無学なら、盗賊だって知れたものかもしれないけど、そこまで愚かならこれだけの規模の盗賊団にはなっていない。
とすると、
「ミアグレンにはこの森の小川と村内の井戸だけじゃなく、もうひとつ何処かに、喉を潤すに足る水の補給線があるんじゃないかな?」
「……では、それを探して?」
「堰き止めて、ヤツらを村から出そうって作戦ですか」
「でもそれじゃ、ヤツらは別の場所に向かうだけでしょう」
「うん。だから、完全には堰き止めない。ヤツらが少し、水の量を不審に思うくらいにしよう」
「──なるほど」
老騎士は頷く。
「たしかにそれであれば、賊も一度に村の外には出ない」
「原因を確かめるため、少しずつ我々に誘い出された連中を、着実に叩いて減らしていくってワケですね?」
「な、なるほど」
騎士たちが感心したように頷き始める。
よし。勇気を出すのなら、ここだろう。
「まぁ、まずは水の出所を探すのが先決かな。悪いけど、金マントと旗、馬も目立つから森に隠しておこう。見張りもつけて、何人かで周囲を探って来て欲しい」
「承知しました。が……」
「なんだい?」
「……ダン様は意外と、冷静なお方ですな」
「頭のキレもいい。将来は名将になれるやも」
「しかしこれは……思わぬ長期戦に……」
「途中でヤツらも気がつくのでは?」
反応は二十人程度でもバラバラだ。
正論も含まれている。
しかし、
「とりあえず、いまの作戦が上手くいきそうかどうかだけでも確かめてみよう。ほら、何もしないまま
間を空けて真顔で問うと、騎士たちは息を飲み込み頷いた。
ローデリックの指示で、何人かが早速行動を開始する。
「僕たちはもう少し、森の奥に隠れていよう」
「聞いたな? 風が冷たい。しかし火は焚けん。なるべく急いで調べるのだ」
「「「ハッ!」」」
老騎士の指揮力もあり、騎士たちの士気はどうにか保たれた。
彼らが従った理由には、叔父への恐怖も含まれているだろう。
けど、使えるものがあるなら何でもいい。
僕はここから必ず伸し上がる。
ミアグレンに第三の補給線があろうとなかろうと、僕にしか使えない武器はさっきから視界にあった。
川の水面の上、わずかに霧を纏いながら佇み続けているソレ。
ソレはずっと、村でバカ騒ぎをしている盗賊たちを血のように赤い眼で睨んで──不意にギュルンッ! とこちらにも振り返る。
〝やつら を よこせ〟