神秘が絶えた(?)殺伐硬派な戦記ファンタジー世界で悪役貴族に転生したけど僕だけ人外が視える   作:所羅門ヒトリモン

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第2章
第9話「斯くて開幕を告げる運命の少女」


 

 

 あっという間に一年が経った。

 ミアグレンでの盗賊団退治を皮切りに、西部総督領内での僕の評判は、良い感じに狙った通りのものになっている。

 

 二百人の盗賊団をたった二十人で討ち取った、若き翼獅子。

 

 その噂を聞きつけ、嘘か真かはさておきながらも、僕のもとには次第に様々な嘆願が寄せられた。

 大半は盗賊などの荒くれ者を討伐して欲しいという依頼だったけど、なかには変わり種もあって。

 

 奴隷密猟者の捕縛。

 暴徒化した異教徒鎮圧。

 小砦の哨戒などなど。

 

 ダイアニーシアス家に仕える複数の小貴族から、時には直接名指しされるコトもあった。

 彼らの狙いは当然、僕の能力の品定めと噂が真実かの確認。

 もちろん、そういったすべての件で『成功』を収めたワケではないけれど(人外が関わらないケースもあった)。

 

 大まかに言って、僕の評価はこの歳にしては上々と言える賞賛を集めている。

 

「ダン様……いえ、ダンタリアス様はたしかに〝ダイアニーシアス〟でした」

「彼もまた翼ある獅子……」

「肝心なとき、どう考えても奇跡としか言いようがない〝時の運〟を彼は味方につけている」

「いや、時の運などではない」

「今でこそエヴァンドル様が後継だが、本来の正嫡は……」

「そうだ。金髪紫眼(黄金と豊穣)の一族に相応しい先見の明が! ダンタリアス・ダイアニーシアスには宿っている!」

「だがほんとうに、それだけなのか……?」

「あの若者の周囲では、不可思議なモノを見たとの報告も……」

「何を言う! そんなもの、迷信に決まっておろうが!」

「戦場の混乱ゆえよ」

「う、うむ……」

 

 などなど。

 主に前任の西部総督によく仕えてくれていた小貴族を中心に、僕は後ろ盾も得た。

 筆頭はやはり、金葉城(ファーンサンク)を預かっているモールウッド家なんだけど、あそこのオジサンはいまだに自分の娘と僕との婚姻を諦めていない。

 

 それとなくその気は無いコトを伝えてはいる。

 

 だけど、僕はまだ若い男。

 やりようによっては、いくらでも婚姻を叶える方法はあると考えているらしく。

 一時は断石砦(クラグホルン)に、娘を送り込もうとするほどだった。

 

 恐らく、ハニートラップでもさせるつもりで。

 

 モールウッド以外の他の家々も、だいたい似たようなものだ。

 気づけば僕の周囲には、原作よろしく複数の異性が訪れそうになっていたので。

 彼らの機嫌を損ねないように配慮しながら、どうしても断りがたい相手の娘とだけ文通を行なっている。

 

(中には本当にこの家の娘なのか? と疑う者もいるし、絶対に違うと断言できる娘もいるんだよね)

 

 特に、原作でも登場していた美少女に美女たち。

 これも天上の主の思し召しなんだろうけど、彼女たちとの関わりをゼロにする方向には、運命ってやつを進められなかった。

 

 とはいえ、確実に原作通りの展開ではない。

 

 僕は叔父に服従の姿勢を貫いている。

 原作のダンタリアスには分からなかっただろうけれど。

 いまの僕は叔父に少なからず評価されているし、だからこそ折を見て、叔父が僕を貶めるのも理解できているからね。

 

 エヴァンドルとマリセアについても、同じだ。

 

 従兄殿は少々、戦功を挙げ始めた僕に焦りのような感情を抱きつつある。

 けれど、こちらは知略と超常現象頼りで戦功を挙げているのに比べて、向こうは純粋な武力で戦功を挙げている。

 

 男らしい戦い方、雄々しい勝利の仕方には支持者・信奉者が多い。

 

「焦らずとも、僕はエヴァンドルの脅威になり得ませんよ」

「……オマエ、そういうの面と向かって言うんだな」

「だって実際、西部総督なんて気苦労のほうが多そうじゃないですか」

「コイツめ。俺がうっすら、実はそうなんじゃないかと思ってたコトを抜け抜けと言いやがる」

「でも、逃げられませんよ?」

「なんでだよ」

「将来、マリセアが王宮に入ったとき、何か困ったことがあれば助けに行けるのは西部総督だけですから」

「……」

 

 叔父は確実に、マリセアを王妃に据える。

 王家にはダイアニーシアス家の血が取り込まれ、西部は安泰になる。

 そういう目論見だし、原作でもたしかにそうなった。

 僕が死んだ後でも、叔父とエヴァンドルとマリセアの物語は続いたのだ。

 しかし、そんなふうに従兄殿と会話をしていると、従姉様がこう言った。

 

「あら。何も将来の西部総督だけが、私を()()()()()とは限らないわ」

「マリセア。どういう意味だ?」

「少しは考えなさいな。エヴァンには西部をしっかり守ってもらうけれど、いざって時に間に合わないコトもあるかもしれないじゃない?」

 

 クーデターが起こったばかりの王国だ。

 王宮が安全だと思い込むほど、マリセアも愚かではなかった。

 

「ダンタリアスには将来、私のそばで目を光らせてもらいましょう」

「なるほど。そいつはいい」

「……まぁ、叔父上の差配次第でしょうけどね」

「違いないわね。お父様がご健勝であられるうちは、私たちは彼に従うだけよ」

 

 奇妙に思われるかもしれないが、これが我が家の結束の仕方であり、特有の連帯感の共有方法でもあった。

 ヴァルドリック・ダイアニーシアスの存在感は、身内だからこそより強大。

 こういう会話をする時、僕たちはたしかに心を通わせている。

 

 さて。

 

 季節が巡り、再び秋を迎えたある日のこと。

 

「反乱ですか?」

「そうだ。東のグローヴィスで代官が裏切った」

「僕に鎮めて来いと?」

「折悪く、王が私をお呼びだからな」

「では、叔父上の代わりとして? エヴァンドルは?」

「あいつも一緒に連れて行く必要がある」

「となると、マリセアも一緒なのでしょうね」

「そうだ」

 

 ()()が始まった。

 叔父の命令で、僕は一時的に西部総督の名代になる。

 すなわち、旧王朝最後の血脈にしてFAI世界の命運を握ると言っていい王女様が、ついに姿を現す日がやって来たのだ。

 

 反乱を鎮めるため、物語の舞台に足を運んだ僕は。

 

 反乱に手をこまねいて嘆願を叫ぶ小貴族たちに紛れて、一介の町人を装った少女を見つける。

 フードを目深に被った彼女は、自身の侍女にして親友を傍に伴って。

 必死で、声を掻き消されそうになりながらも、訴えていた。

 

「ダンタリアス様だ」「おお」「西部総督家が来た」「閣下」「お助けを」「軍の動員を」「ダイアニーシアス家のお力を」「若き翼獅子よ」「どうか」「どうかお力添えください」「救っていただきたい」「我が領地を」「防人たる我らを思うならば」「お救いください」「ぜひご威光をお示しに」「助けてください」「どうか」「ダンタリアス様」「西部総督家」「ダイアニーシアス」「どうか」「故郷が」「家族が」「ああ、あんまりにあんまりで」「焼かれたのです」「息子が」「娘たちが」「復讐を」「お願いします」「我らが忠誠の代価を」「今こそ」「さあ」「ご裁定を」「どうか、どうか──」

 

()()()()()

 

 不思議と、その声だけはハッキリ耳元に届いた。

 ゆえに、フードの下の顔を覗かなくとも、直観的に理解できた。

 

 一介の町人に扮しようと、王たる星のもとに生まれた者には王聖が宿る。

 

 ただひとり、真っ先に民のためを想い嘆願を発したその姿。

 いや、その心根。

 

(──ああ)

 

 まさに、運命の少女と言う他ない。

 

 

 

 

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