面積26k㎡の小さな島、それがその国の国土の全てだった。
標高平均2m、最高でも4.5mという珊瑚礁に浮かぶその島は、毎年上がっていく海の水位に悩まされていた。
この50年で約20cm。
水位が上がる理由は温暖化が原因だとか、海水の熱膨張だとか、重力の影響だとか言われているが、世界規模で起きている現象だ。
平均2mしか高さのない国で毎年水位が上がれば、数世紀以内には全て水に沈んでしまう事になる。しかも、周りが海である為波の影響も無視できない。2050年には居住区に浸水して来る。2100年には日常的に浸水が全土で見られるという。そうなれば、農作物をはじめとする植物は育たなくなるし、住環境としても住み続けることは困難となるだろう。
もちろん、対策があればやっている。
しかし、数百m珊瑚が堆積した地表の上にある島では出来ることは限られている。
埋め立てようにも珊瑚の地盤は脆すぎて崩れてしまう。下手をすれば島の地盤沈下を進めてしまい、水位の上昇とダブルパンチを喰らう事になる。これでは本末転倒だ。
地盤が緩いなら基礎工事を行って地盤の強化をしてはどうかと考えた人もいたが、しっかりとした地盤のある火山の地層までは少なくとも1000mはあり、基礎工事を行うのはかなり困難なのだ。もはや博打に近い。成功率が極端に低い上、費用も兆円を超える額が必要な工事。国家予算が50億円程度のこの国に出来る工事ではなかった。
オランダのようにポルダーという干拓方法で水位の上昇に対策してはどうかという意見もあったが、いくら海と陸の間に防波堤を建て海水の侵入を防いでも、地盤が隙間だらけの珊瑚礁な為、地面から海水が入って来てしまう。
日本の魚釣島の様にコンクリートで囲む方法もあるが、国土全体となると流石に広く、かつ重くなってしまう。出来たとしてもわずかなスペースとなるだろう。それすらも設置工事や維持に多くのお金が必要になってしまう。
最早、八方塞がりとも言えるこのような状況で、近隣の国土の大きい国が移民政策を援助してくれたり、国として名前だけでも残そうと、仮想空間に国を建てて、デジタル国家としての方向性を模索したり、国が沈んだ後の対策に奔走した。
しかし、自分の国がなくなってしまう事をそう簡単に容認できるものでは無い。なんとかして沈ませないで済む方法はないか。
そこにダム建築の専門家が手を挙げる。
彼がダムの水漏れ防止に使っているビニール系ライナーを使ってみてはどうかと提案したのだ。
分かりやすくいうと溶接可能なビニールシートといったところだ。
彼の案を簡単にいうとこうだ。
このビニールシートを島全体に敷き詰め、ビニールの端は海に浮かぶブイや積み上げたテトラポットなどで持ち上げる。これで常に海の上にシートがある為水が入らない。
利点はなんと言ってもその軽さだ。
1ha(100m×100m)分で20トン、というと重い様に感じるかもしれないが、中型のテトラポットたったの1個分だ。しかも1haという広さがある為、地盤にかかる負担はかなり少ない。地盤が緩いと言っても島には3階建てのビルも建っている。だいたいビルの面積200㎡だから0.02ha。このビル1棟で400トンと言えば20トンという重さがいかに地盤に優しいか分かって貰えると思う。
狭い所だと横幅数百mと細長い島であった事も幸いした。小さいとは言え、一つの国丸ごとである。工事は何百回にも分けて行う必要がある。既に人だって住んでるし、建物も建っている。そこを掘り起こしてビニール系ライナーを敷くのだ。当然、人々の反感は計り知れない。
でも細長い島の形のおかげで端から少しずつ沈まないエリアが作れた。諦めかけていた沈みゆく祖国に、少しずつ沈まない場所が出来ていく。この事が国の人々を協力的にさせた。
急ピッチで進められる工事に人々は文句も言わず全面的に協力する様になる。自ら工事に参加するものも後をたたなかった。
そして、工事は1年とかからず完工した。
工事の完工を迎え、人々は歓喜した。
働きに働いた事もあって1週間完工パーティーを楽しんだ。
最終日には神も祝福しているかの様に、晴れ渡る空にスコール。その後に大きな虹まで出た。人々は大歓声をあげて神に感謝した。
スコールはそのまま、数日降り続いた。
ビニール系ライナーの上に土を数mは積み上げていたにもかかわらず地面がグチャグチャに水浸しになっている。
そこで人々は気が付く。自分達が敷いたものがダムに使用されるものである事に。
徐々に大きくなる水たまりに、なす術もなく、というか最早精も根も尽き果てたという様に人々は立ち尽くした。
一部の居住区を残して雨に沈んだ島を、人々は名残惜しみながら移住先へ移動していった。
それから数年後…
海の真ん中に浮かぶ、真水で出来た大きな湖は周辺の国々にとって貴重な水の補給地点として、また、海のレイクサイドアイランドとして人気の観光地となっていた。
島に戻って来た人々はひっきりなしに来る観光客を相手にしつつ、思わず訪れた好景気を満喫するのであった。