岸辺露伴、幻想郷へ行く   作:太平洋クラゲ

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#09-3「風龍」

「『博麗大結界』が崩壊する……?それは一体どういうこと?」

 

 突如として紅魔館の主から伝えられた衝撃の未来(運命)。当然すぐに飲み込める訳もなく、パチュリーはすぐさまレミリアにその詳細を尋ねた。

 しかし肝心のレミリアは頬杖をついたまま空いた手の爪を眺めるだけで、その問いに対し何ら答えを示そうとしなかった。退屈そうにして、今にも欠伸が出てしまうのではないかと言うほどの、冷めた目で。

 

「レミィ!」

 

 痺れを切らしたパチュリーが怒鳴るように呼びかけると、彼女はつまらなそうにため息をついた後、やっと目線だけを動かした。

 

「『卵』だ」

 

「……何ですって?」

 

「鳥や蜥蜴(トカゲ)は孵化するまでの間、卵という名の鎧を纏っている。それにより、未だ成熟していない自身を獣や外の環境から守る事が出来る訳だが……一方で、その卵の中にいる時期こそが最も無防備で貧弱な瞬間でもある」

 

「……一体何を言ってるの?」

 

 パチュリーにとってその言葉は意味不明だったが、レミリアは構わず続ける。

 

「『博麗大結界』が崩壊したのは、卵である間にそれを砕かなかったせいだ。砕くべきだった者たちは力足りず失敗し、後から来た砕くに足る力を持った者たちは皆卵から孵った者に滅ぼされた」

 

「その、お嬢様。大変恥ずかしくはあるのですが、もう少し分かりやすくご教授していただければ幸い───」

 

「あーいいよいいよ、私が説明するから」

 

 頭を下げようとした咲夜の肩を軽く叩きながら、レミリアの言わんとする事を唯一理解していたフランが彼女らの前に躍り出た。

 

「ほら、今起きてる嵐あるでしょ?起こしてるのは……まあ誰か知らないけどさ。で、確か妖怪の山あたりだと竜巻も起きてたよね。お姉様の言う『卵』ってのはその二つのこと」

 

「竜巻と嵐が……卵?」

 

「そ。要はアレ……というか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。『博麗大結界』が崩壊したのは、その弱っちい前座の時にとっとと嵐を起こしてる誰かさんを仕留めとくべきだったのに、妖怪の山とか守矢だかの奴らが仕留められなくて、後から来た仕留められるだけの力があった奴らも皆潰されてゲームオーバーになっちゃったから、って話。でしょ?お姉様」

 

 フランがため息混じりに呼びかけるも、レミリアは無表情のまま一度だけ頷いただけだった。しかし、「要約してやった自分への感謝とかないのか」などとは微塵も思わなかった。「どーせコイツは何も言わないだろう」と、一種の諦めをしていたからである。

 

「なるほどですね……しかし、話によると今のうちに叩くべきなんですよね?でしたら私行って来ましょうか?多分『気』を使えば何とでも……」

 

「駄目だ」

 

「えー、何でですか?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 大図書館に、しばしの沈黙が満ちる。

 無論それはマナーを守るための沈黙ではなく、レミリアが口走った事実を咀嚼するために時間を要しただけである。

 

「……えっーと、話をまとめると。今の嵐はまだ前座で、本命が来る前に嵐を起こしてる人を止めなくてはいけない。それは、本命が来たらほぼ対処出来ないからですよね」

 

「そうよ小悪魔。そして……その本命とやらは後数分以内に来てしまうらしいわね。頭の痛いことだけど」

 

「んー……あれ、詰んでませんか?」

 

「勘違いするな。まだチェックメイトではない、チェックだ」

 

「あんまり変わらなくないですか!?」

 

 ちなみに、どちらもチェス用語である。チェックメイトとは『詰み』のことであり、チェックは所謂『王手』。

 つまり、現状は『やりようによっては詰みを回避出来るが、失敗すれば終わる』という重要局面であるということだ。

 本来なら小悪魔のように焦っても何らおかしくない場面だが、不思議なことにレミリアの顔に焦燥の色は一片たりとも無かった。

 

「パチュリー、魔法の用意を」

 

「別にいいけど、何をするの?」

 

「何、チェックメイトを回避するための一手を打つだけだ。確か……『電話』とか言ったか?」

 

 

✒︎

 

 

 紅魔館から少し離れたところにある妖怪の山、上空。

 

「あーもうボロッボロ。露伴君が竜巻の中入った後急に嵐が激しくなってさ。神奈子が空を抑えられなくなった後、私の泥人形もまた焼かれちゃった」

 

「あ、だからそんな感じになってたのな。つーか、じゃあどうすんだよ早苗、どうにか出来んのか?結局露伴の能力も無効化されちゃった訳だし」

 

「あれ、そうなの?」

 

「残念ながらな」

 

 未だ渦巻く竜巻を前にして、露伴達は二度目の作戦会議を行なっていた。一度目と違うところと言えば、魔法使い二人(アリスと魔理沙)鴉天狗()が新たにメンバーとして加わっているのと、諏訪子と神奈子に少しの傷がついているところだろう。

 

「であれば尚更困ったな。どうやって早苗を止めればいい?」

 

「そうだな、どうにかして魔法でいけねえ?」

 

「気に食わないけど、露伴の『能力』は並大抵の魔法を超えてるわ。それが効かない時点でどうにも…………って、あら?雨が……」

 

 その中で、最初に気付いたのは魔法で傘を作っていたアリスだった。

 先ほどまで彼女らの視界を覆っていた雨粒が、徐々にではあるがその数を減らし始めていたことに気付いたのは。

 

「ふむ、弱くなってきましたね。これなら風で防ぐ必要もなさそうです」

 

「いや、それどころか……なんか晴れてきて───」

 

 続いて動きを見せたのは、天を覆う黒雲。まるで蜘蛛の子が散るように細かく分裂し始め、そしてそこから漏れ出た日光の一部が、再び豪雨の暗さに慣れてきていた魔理沙の目を直撃した。

 

「うぐおあああ!?目が、目がああああ!!??ああああああああああ!!」

 

「うるさ、眩しっ。神奈子、何かした?」

 

そんなわけがあるか。だが、(「あああああああ!!いってぇぇぇぇ!!」)何故今になって晴れるなど……実は露伴君の能力(「うるさいわよ魔理沙!」)が効いてたんじゃないか?」

 

 虹が似合いそうな蒼穹の元で、露伴は首を振る。

 

「いや、僕の『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』は確かに無効化された。この目で見たから間違いない」

 

「だったら───いや待て。あれはどういう事だ?」

 

 唐突に訪れた晴天に対し各々が考えを巡らせる中で、神奈子は見た。先ほどまで細かくちぎれて消滅しかけていたはずの黒雲が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のを。

 

「雲が……吸われている?」

 

「というよりは、何というべきか……竜巻が雲を『纏っている』ようにも見えますが」

 

「いてて……あ、やっと治った……って……」

 

 瞬きを幾度と繰り返し、漸く目の痛みを取り除いた魔理沙。しかし、黒雲を巻き取り始めた竜巻を目にした途端、心臓が一際大きく跳ねた。

 

「なあ露伴、これって……」

 

「僕も同じことを考えていたぜ。何が何だか分からんが、とにかく───何か、ヤバイッ!」

 

 魔理沙と露伴の予想通り───竜巻の中で、()()()()()

 

「掴まれッ!」

 

 魔理沙の箒が躍動したのを皮切りに、神奈子達も続々と竜巻と距離を取った。何が起きているのかも分かってないが、とにかく彼女らの『本能』がそうさせたのだ。

 そしてすぐさま、その咄嗟の回避行動が正しかったのだと知る事となった。

 予兆もなく竜巻から飛び出した、腕にも似た何か。

 それが射線上の悉くを薙ぎ払い、扇状のクレーターを生み出したのだから。

 

「……ハッ。確かに<怪獣大戦争>なんて言いはしたが……マジに怪獣を出して来るとはな。驚いたよ、早苗君」

 

 呆気に取られる露伴達の眼前で、竜巻は大きくねじまき。まるで生物が進化するかの如く、その形を変え始めた。

 

 先ほどまで地面に接していた部分が持ち上がり、鋭く引き締められる。

 中腹辺りから新たに二本の竜巻が飛び出し、まるで鷹の足のように分かれる。

 竜巻全体がその半径を狭め、その背面からチェーンソーにも似た猛々しく連なった背鰭が現れる。

 暴風によって巻き上げられた泥や木や岩が、形取られた肉体の表面を覆い隠す。

 

「……………………おいおい。何だよ、こりゃあ」

 

「……昔どこかで調べたんだが、『竜巻』ってのはその様が『竜が天に昇っていく』ように見えたってのが語源らしい。だからある意味では、『これ』もおかしくはないのかもしれないな」

 

 そして、最後に……竜巻の頂上に開いた穴から、禍々しくも神々しい角を携えた頭部が這い出た。

 

「だが……これはいくら何でも……反則だろう」

 

 そうして形成されたその姿を何と呼ぶのかなど、誰もが理解していた。

 

 

 

『龍』。

 

 

 

 幸運の象徴にして、災厄の根源。荒ぶる自然の体現者にして、人の生み出した化身である。

 

 

Gaaaaaaaaaaa!!!!

 

 

 雷鳴にも似た雄叫びが、蒼穹を切り裂いた。

 自身の誕生を世界に誇示する様な、あるいはこの世界への挑戦の様な、そんな雄叫びだと、露伴は感じた。

 

「あやや……これは本当に想定外です。とりあえず写真撮っておかないと」

 

「撮っとる場合かーッ!」

 

「あいたっ!?」

 

 魔理沙の平手が文の後頭部を引っ叩く傍ら、アリスや神々は目の前の異常事態に焦りを隠せなかった。

 

「ああもう、想定外が過ぎるでしょ!?というか、いくら早苗の能力が『暴走』しているとしてもこれだけの『奇跡』!加えて『竜巻が龍になる』なんてのは普通起こしようがないでしょ!」

 

「うん、いくら何でもこれは常軌を逸してる!私や神奈子でも相当の『信仰』がないとこんな事……………あ」

 

「諏訪子さん、何か心当たりが?」

 

 突然の硬直を不思議に思い、露伴は諏訪子に尋ねた。すると彼女は顔の向きを変えず、納得とも絶望ともとれぬ表情を浮かべながら呟いた。

 

「されてるんだ、『信仰』。皆に」

 

「……何?」

 

「人間も妖怪もさ、自分達の力じゃどうやったって乗り越えられない壁にぶつかった時……そのほとんどが、()()()()()()()()()。「どうかお願いします神様、助けてください」ってね。」

 

 今回起きた天変地異級の大嵐。その被害は生半可な物ではなく。

 既に人里では対処虚しく何軒かの建物が崩れ、怪我人も出た。森や洞窟の中に住んでいた妖怪達も、皆避難せざるを得なくなった。

 そんな混沌の中で、彼らは祈った。毘沙門天の化身に祈った者もいれば、姿を見せぬ聖人(神霊)に祈った者もいる。だが今回、最も多くの者に祈られたのは守矢神社だった。八坂神奈子、洩矢諏訪子、東風谷早苗……この三柱に対し、多くの者が祈り(信仰)を捧げた。

 彼らは知らなかったのだ。この嵐を引き起こしたのが、東風谷早苗の『暴走した能力』である事を。自らの信仰が、嵐を止めんとする神奈子と諏訪子への力になるのと同時に……『能力の暴走』を起こしている早苗にとっての、さらなる燃料となることを。

 

「それでさ……例えば嵐で死にそーって時に、急に嵐が消えたと思ったら、目の前に巨大な龍が現れた……そんな時、死にかけてた子達はどう思う?」

 

「……「祈りが通じた」と思うんじゃあないか」

 

「そう。「祈りが通じたんだ、救われたんだ」って思って、その龍に感謝する。『信仰』するんだよ、全身全霊でね」

 

 そんな中で突如嵐が止み、視界が晴れたかと思えば龍が天に姿を現し、あまつさえ雄叫びを上げた。信仰を捧げていた者達は考えるだろう、「祈りが通じたのだ」と。そして彼らは感謝するのだ。化身に、聖人に、神社の神々に……そして、天に浮かぶ龍に。

 

 「ありがとう、これで救われました!」……なんて、笑いながら。

 

「ははあ、いわゆる『マッチポンプ』という奴ですか……しかし、なおのこと妙ですね。『能力の暴走』という割には随分と考えられて───」

 

 

「おい、そんな事悠長に言ってる暇は無いみたいだぞ。さっきからあの龍、ずっとこちらを見てやがる」

 

 魔理沙の指摘通り、龍の双眼が確かに露伴達を見据えていた。生物としか思えないような、生き生きとしていて───それでいて、敵を見据えるような鋭い眼光が彼らを照らす。直後、龍は体を捻り……弾けるようにして飛び出した。

 

「マッズ!こっちに来るぞ!」

 

 ……だが。

 

「……あれ」

 

 魔理沙の悲鳴にも似た警告とは裏腹に、龍はそのまま彼女らの頭上を通り過ぎ。速度を活かして急反転することで尻尾をしならせて────思い切り、幻想郷の端(『博麗大結界』)に叩き付けた。

 衝撃が結界の全体に響き、次いで打撃により生まれた衝撃波が幻想郷に吹き荒れる。しかし龍はそれでは飽き足らないようで、今度は巻き上げた岩石で築き上げた凶悪な牙と顎で結界に噛み付いた。

 

「何だあいつ、どうして結界をあんなに───」

 

 最初こそ意味不明な行動としか思えなかったが、執拗に『博麗大結界』に傷を付けようとする龍の姿を見れば、誰もが心の底から理解出来た。

 

「……まさかあいつ、()()()()()()()()()()()()()

 

 このままでは、幻想郷が崩壊すると。

 

「らしいな!何故かは知らんが、このままだとマジで取り返しの付かないことになるぞッ!」

 

「とにかくまずはあれを止めないと!」

 

「ではひと足先に!」

 

 文が単独で音の壁をぶち破って飛び抜け、その後を露伴達が追っている間にも……龍は爪を突き立て、固めた拳をぶつけ、頭突きを繰り返し続けていた。しかもさらに悪いことに、龍が攻撃をする度に結界の『揺れ』が僅かに強くなり始めていたのだ。

 

「しかし何故だ!?『能力の暴走』と言っておきながら、あの行動には明らかに『意志』があるぞ!?」

 

「知らないわよそんな事!単純に早苗が何かおかしくなっただけじゃないの!?」

 

 既に文が弾幕を用いて龍との戦闘を開始した中、神奈子が眉を顰めながら放った『意志』という言葉。それが、露伴の脳内回路を即座に活性化させる。

 

「………………そうか、そういうことか!」

 

 火花の散る音が、頭の中で響いた。

 

「どうした露伴!?内緒話ならせめて私の耳元でしてくれないか!?」

 

「違うッ!分かったんだッ!()()()()()()()()()()()()!」

 

「何だって!?」

 

「さっきも言っただろう、「『奇跡』に『指向性』がある気がする」と!最初は何らかの基準があるかと思ったが、そうじゃあない!単純に『()()()()()()()()()()()()』んだッ!」

 

「はあ!?」

 

「『奇跡』が起きるのは『()()()()()()()()()()()()()』者だけだ!だから諏訪子さんの巨人は馬鹿みたいな量の雷で焼かれたし、僕は撃ち落とされたッ!」

 

「だから、そん時も結局お前はあの中に入れただろ!?」

 

「それは僕が『脅威ではなくなった』と判断されたからだ!『能力の暴走』による進化が追いつき、僕の『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』を無効化出来る様になった!あの中でチンタラ早苗君の記憶を読めたのもそれが理由ッ!奴は既に物事の『優先順位』すらも決められるようになっている!」

 

「長い、端的に説明して!!つまり何が起きてるの!?」

 

「『自我』だッ!まさに『奇跡』としか言いようがないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!人間が自らの意思で動くように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!」

 

「何ですって───!?」

 

 露伴は、似たような存在を知っていた。

 それは彼の数少ない友人である『広瀬康一』。彼の持つスタンド『エコーズ ACT3(アクトスリー)』はスタンドそれ自体に『自我』があり、自立して行動する。

 今も結界にしがみつく龍が、露伴にはそれと同じ様に見えて仕方がなかった。

 

「けど、早苗本人が全部やっている可能性はないの!?」

 

「いいや恐らくそれはない。この目で見たから分かる、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり彼女は今眠っている!寝相が悪いじゃ済まないがね!」

 

「眠っているだと───」

 

「神奈子、前!」

 

「ああ!?───チッ!!」

 

 龍が周りを飛び回る羽虫()を叩き落とそうと振るった右腕が、そのまま神奈子達の進路を叩き潰す。

 だが彼女らは寸前それを躱し、舞い上がった土埃を隠れ蓑に龍の頭の上まで飛び上がった。

 

「話は後だ、今はとにかく龍を結界から離さなくてはッ!」

 

「だな!お前の話と今の文を合わせて考えるに、弾幕くらいなら『脅威』とは思われねえらしい!つまりは───」

 

 魔理沙は露伴を乗せたまま急降下し、龍の眼前にてその動きを止め振り向いた。

 

「何をッ───」

 

「ド派手な弾幕で気を引きゃあいい訳だ!魔符『ミルキーウェイ』ッ!」

 

 その宣言と共に彼女の周囲に現れた、無数の星形弾。それらがまるで銀河のような螺旋状の形で渦巻きながら龍に殺到、炸裂した。

 当然ながらその火力は龍の纏う地盤を砕くには至らず、精々爪楊枝で刺されるに等しいダメージしか与えられていない。しかし、想像してみてほしい。顔を延々と爪楊枝で刺され続けた時、生物は基本どうなるか。

 

『─────!!』

 

 当然、怒り狂う。

 魔理沙の狙い通り、龍の血走った眼が彼女に向けられた。

 

「ほらほらこっちだぜ!食い殺せるもんなら食い殺してみろよ!」

 

 彼女の挑発が効いているのかどうかまでは分からないが、とにかく。龍は山脈にも似た牙を備えた口をあんぐりと開け、一直線に飛んで来る。そして魔理沙はその光景を前に、口角を釣り上げた、

 

「来るぞ魔理沙ッ!」

 

「分かってるよ!にしても……ありがとな、馬鹿みたいに口開けてくれて!行くぜ───彗星『ブレイジング・スター』ァァァーーーッ!」

 

 再び、魔理沙の箒から光が迸る。

 箒の何倍もあろうかという大質量の光柱が彼女らを押し出し、それと同時に龍の口内を虹色に染め上げた。

 

「よっしゃ───」

 

 あまりにも綺麗に決まったので、魔理沙はガッツポーズを決めそうになったものの……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、慌てて両手で箒を掴んだ。

 

「んだよ!全然効いてねえじゃん!」

 

「だろうなッ!そもそも竜巻の時点であの硬度だ、易々とダメージは与えさせてはくれないと考えた方がいいッ!」

 

「ほんとめんどくさいな!露伴、今どんくらい近づかれた!」

 

「もう目と鼻の先だ!距離は大体……1kmもない!追いつかれるぞッ、もっと速度を上げろッ!」

 

「やってるわ!つーかもうこれ以上速くなんねえんだよ!もし速度上げたら、その前に箒がぶっ壊れる!」

 

「チッ───!」

 

 このままではまずいと、露伴が自分と魔理沙を『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』でブッ飛ばそうとしたが───その必要はすぐになくなった。

 

「!?」

 

 龍の両目に光線が数十本単位で突き刺さり、その痛みに耐えかねた龍が大きく仰け反ったためである。

 

「神奈子!諏訪子!」

 

「よそ見しない!さっさと離れて!」

「よそ見するな!そのまま離れろ!」

 

「悪いな、助かった!」

 

 目を狙われた怒りからか、左右に浮かぶ神々に標的を変えた龍。その者たちに魔理沙が感謝の意を伝えた直後。

 

「魔理沙ーーー!」

 

 上空から、アリスの声が響き渡った。

 見上げてみると、彼女は腕を振っていた。どうやらこちらに来いと促してきているらしい。

 当然魔理沙に断る道理はなく、勢いのまま飛び上がってアリスの側で停止した。

 

「まったく!あんたはどうしてそうゴリ押ししか出来ないの!?」

 

「いーだろ別に、目的は達成できたんだし。死にかけはしたけど」

 

 

 

「それに僕が巻き込まれていなかったら良かったんだがな」

 

「いやまあ、それはちゃんとごめん」

 

「はあ…………まあとにかく、これで結界から離せはしたわね」

 

 眼下に広がる天狗と神々の共闘戦線を眺めながら、アリスは少し安堵した様に息を吐いた。とはいえ、その顔は依然暗い物であったが。

 

「だが、状況は何も変わっちゃあいない。どのみち、僕らはあの龍をどうにかする事が出来ないんだからな」

 

「それだよなぁ……けど多分、『能力の暴走』をどうにかしないとダメなんだろ?」

 

「ああ、だが僕の『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』は無効化された。恐らく、『書き込んだ』という事実を『取り消された』んだろう」

 

「……何それ。もしそうだとしたら、もう『奇跡』とかそんな言葉には収まらなくないかしら」

 

「今更だな。そもそもあの龍に感情や感覚が芽生え始めている時点で『奇跡』とかそういうレベルの話じゃあない。それにこのままいけば、奴は完璧な『生命』になるだろう。そうなった場合、中にいるであろう早苗君がどうなるかは分からないがな」

 

「がな、じゃないでしょ。どうするのよ」

 

「どうするのつってもな……なあ露伴、()()()()()()()()()()()()?早苗の能力に勝てるくらいにさ」

 

 それは半ばヤケクソで吐き出した言葉であり、発言者である魔理沙自身何かが変わることを期待して放った訳ではなかったのだが……

 

「……『強化』………………………もしかしたら、出来るかもしれない」

 

「えっマジ?」

 

 奇妙なことに、その言葉こそが露伴の脳に差し込む光となった。

 

「正攻法で勝つってわけじゃなく、不意打ちの様な形だけどね。 ───アリス君」

 

 横にいるアリスを見て、露伴は言った。

 

「初めて会った時、君は君自身の精神に罠を仕掛けていたよな。どうやった」

 

「はあ?なんだって今そんな事───」

 

「いいから教えろ。どうやった」

 

 その声には、妙な重みがあった。

 露伴も肉体・精神共に疲弊している事を加味したとしても、不思議な重みが。

 少しの逡巡の後、アリスは口を開いた。

 

「……精神干渉の魔法を使ったのよ」

 

「そうか……なら、その魔法は具体的にどうやるんだ。()()()()()()()()()()

 

「はああ?……本当に、本ッ当に教えたくないけど、状況が状況だから教えてあげる。自分と対象両方にその魔法をかけて対象の精神、というか『心』に干渉して弄れるようにするのよ。『心に扉を作って入る』って言えば分かりやすいかしらね。というか、何でこんな事を───」

 

「『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』」

 

 露伴は唐突にアリスを『本』にし、浮力を失った彼女を掴んで引っ張りあげた。

 

「えっ何してんの」

 

「時間がないんだ、こっちの方が早いだろ」

 

 意味不明の行動に戸惑う魔理沙だったが、露伴がそれに構うことはなく。ペラペラとページをめくり、つい先ほどの記憶が刻まれたページを見て、満足そうに笑った。

 

「案外、上手く行ったな」

 

 そのページにはアリスが口頭で伝えた物よりも何倍も細かい『精神干渉魔法』の説明が記されていた。それこそ───()()()()()としても使える程に。

 

「フム、これが詳しいやり方か」

 

「……お前さ、もしかしてはなからこいつの話聞くつもりなかった?」

 

「ああ、当然だろ。『貴方の記憶を読ませてください』と馬鹿正直に頼んだところでアリス君は応じないか、応じたとしても時間がかかるだろう。それならこれでいい」

 

「うわあ」

 

 加えて言えば、アリスに魔法を解説させたのはその魔法が露伴にとって有用を確認する為にすぎない。勿論、この行動をとった露伴に一切の罪悪感なし!

 

 とは言え時間は変わらず惜しいので、露伴は自身の腕を本に一文書き込むと、アリスへの能力をさっさと解除した。

 

「と、僕が抱えてたらまたキャンキャン騒ぐだろうな。魔理沙、抱えてくれ」

 

「はあ!?」

 

「何してんだ、早くしろ」

 

「お前さ、ほんとお前さあ!」

 

 流石にちょっとキレつつも、何となくアリスが露伴の事を嫌っていそうな事を察していた魔理沙は、渋々ではあるが露伴の代わりにアリスを抱えた。

 

「ん、んん……?」

 

 そして、アリスは目をこすりながら起き上がり……眼前の魔理沙と目が合う事となった。

 

「きゃああああ!?」

 

 お手本のような悲鳴を上げながらアリスは飛び退き、再び宙に浮かぶ。そんな彼女の目線からは、『信じられない』という文脈しか読み取れなかった。

 

「あー、ようアリス、大丈夫か?」

 

「大丈夫なわけないでしょ!?貴方、一体何を……!?」

 

「あーいや、お前が急に気失ったから助けてやっただけだゼ。ウン」

 

「分かりやすい嘘を!大体───」

 

「露伴君!」

 

 あまりにもわざとらしい棒読みをした魔理沙に、アリスが詰め寄ろうとするも……予見していた様なタイミングで飛んできた神奈子によって阻止されてしまった。

 

「何なのよ本当に……」

 

「はぁ……はぁ……さっきから一体、何を話しているんだ?出来る事ならば手を貸して欲しいんだが」

 

「ああ、そりゃ悪い……というかなんかお前、随分疲れてるのな」

 

「弾幕の威力を調整するのも楽じゃないんだ。強すぎると『脅威』と見なされるかもしれんし、かといって弱すぎると意味がないからな……それで話を戻すが、一体何を?」

 

「……まあ作戦会議の様な物だ。それで、唐突なんだが……」

 

 汗を拭いながら首を傾げる神奈子。そんな彼女に、露伴は毅然とした口調で話した。

 

「神奈子さん、貴方の力を僕に分けてもらうことは出来るか。前みたいに」

 

「ああ、別に構わないが……?というか、わざわざそんな事を言ってくるということは、もしや?」

 

「考えてる通りだよ。『今の僕』なら、龍を……早苗君を止められるかもしれない」

 

「…………ふむ」

 

 神奈子は露伴の瞳を無言で見つめた。

 嘘偽りのない、真っ直ぐな目。それを見れば、彼が内心何を考えているかまでは分からずとも───彼のその言葉に根拠があるのかどうかは容易に読み取れた。

 

「いいだろう。この短時間で何があったのかは知らないが、とりあえず算段はついたのだな?ならば、断る道理などないさ」

 

 神奈子が手のひらを露伴に向け、願い通り彼女の持つ神力を流し込もうとした時……まるで鏡合わせの様な形で、露伴も手のひらを神奈子に向けた。

 

()()()()()

 

「何?」

 

「力を貰う前に、貴方……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「言ってみろ」

 

「今、この瞬間から───()()()()()()()()()()()

 

 直前に追加された新たな願いに、神奈子は眉間を寄せる。

 

「……先の話と食い違わないか?『脅威』と見做されれば『奇跡』が起きるのだろう?」

 

「全くもってその通りだ。そして、()()()()()()()()()()

 

 先程の話と噛み合わない様な頼み事をしてまで、露伴は一体何がしたいのか。神奈子は最初見当もつかなかったが、これまでの彼の行動や思考を振り返ってみると……何となく、その単語が頭の中に浮かんだ。

 

「……『陽動作戦』……か?」

 

「あの龍は既に僕を警戒していないはずだ、『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』を()()()()()()()()からな。その油断こそがあの龍に付け入る隙となるんだが……」

 

「今いきなり君の力が跳ね上がると、龍に変化がバレて警戒され、隙がなくなるかもしれない。だからこそ、君よりもはるかに力のある私達が全力を出す事で、君に流れ込んだ神力を誤魔化すと」

 

「そういうことだ。ま、綱渡りどころの話じゃあないが」

 

 実際、彼の理論も作戦も結局は全て推測に基づいている。

 彼は龍の知能は高くて人間の八歳児ほどだと見積もっているが、既に人類の知性を超えているかもしれないし、何だったら今この瞬間も彼らの動向を『奇跡的に把握している』可能性すらある。

 そもそも、先の行動が『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』の強化に繋がるかも分かっていない。少なくとも露伴は()()()()()()にはなると見込んではいるが……加えて、それが成功していたとして『奇跡』に勝てる保証はどこにもない。

 故に、これは綱渡りよりもはるかに危険な行為なのだ。露伴もそれは重々承知の上で……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……そして。

 

()()()()

 

 この場にいる誰もが、同じ事を考えていた。

 

「諏訪子!!文!!」

 

 龍の気を引き続ける為弾幕を放ち続けていた彼女達に向け、神奈子は叫んだ。

 

「今から全力を出せ!!露伴君をもう一度早苗の元まで行かせるぞ!!」

 

「────へえ」

「────なるほど」

 

 神奈子の呼びかけを聞いた、その時。

 「さっきと話が違わないか」とか、「露伴を行かせたところで何が出来るのか」とか……彼女達の脳裏には確かに一瞬、そんな事が重い浮かんだ。

 

 しかし同時に、そんな迷いはすぐさま捨てた。意味がないからだ。露伴達のことだ、何か考えがあるのだろう。であれば、()()()()()()()()()()()()

 

 ───せいぜい、本気で暴れてやろうじゃないか!!

 

「迅符『無双風神・サルタクロス』ッ!」

「開宴『二拝二拍一拝』ッ!」

 

 その宣言と共に、彼女らは手加減を『辞めた』。

 

 

 

 これよりは、最終局面。

 幻想郷が滅ぶか否かの、運命の分かれ道。露伴達は今、そこに立ったのだ。

 




魔理沙「ウオオオオ!日光が私の目に!!龍!これは一体……」
龍くん「知らん…何それ…怖」

予定通り進めば後二話程。三月中には終わらせたい。
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