岸辺露伴、幻想郷へ行く   作:太平洋クラゲ

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#04「異変」

「誰だそいつ?」

「誰ですかその人?」

 

 心底不思議そうに露伴に向かって聞き返す2人。

 その様子を見た露伴は短く息を吐き、早歩きで彼女達の方へと向かう。

 

「ちょっ、どうしたよ?」

 

「すまないな、少し記憶を読ませてもらうぞ。『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』」

 

 ほんの軽い動作で2人を本にし、腕を掴んでゆっくり地面に寝かせる露伴。彼は額の汗を拭いながら、彼女達のページに手を添えた。

 

「最初からこうしていれば良かったな。やはり僕もほんのちょっぴりだが焦っているということか……いや、それよりもまずは『記憶』だ。彼女達が覚えてなくとも、『彼女達の肉体』は覚えているかもしれない」

 

 『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』はその者の覚えている記憶だけでなく、本人すらも忘れているであろうこれまでの記憶全てを呼び起こす。

 

「霧雨魔理沙、人間でありながら魔法を使える。実の父親に勘当され飛び出した……違う。東風谷早苗、守矢神社の風祝。過去外の世界にて……これも違う。興味はあるが、今知りたいのはこれじゃあない」

 

 体に刻まれた記憶は極上のエンターテイメントたりえるが……残念なことに、今はそんなことを言っている場合ではない。

 

 露伴は彼自身の持つ類まれなる集中力を発揮し、彼女達の記憶を『博麗霊夢』という単語を求めて遡り始める。

 

「───ン?」

 

 そして、ペラペラとページをめくっているうちに、気づいた。

 

「なんだ、これは……早苗君の記憶にあるこれは……」

 

今日は    と魔理沙さんが遊びに来た。暇だった、ということらしい。けど困ったな、    の好きなお茶切らしてるのよね

 

()()、か?文の中に、明らかな空白が……」

 

暇つぶしの一環で、    と軽く『弾幕ごっこ』をすることになった。けどやっぱり    は       だから、悔しいけど遊びでも全く勝てる気がしない

 

「……違う、空白なんかじゃあない。『後から消された』んだ。『消しゴム』でも使ったみたいに、まっさらに『消されて』いる。では、魔理沙の方は……」

 

 目線をそのまま横にずらし、魔理沙のページをめくってみると。

 

いつも通り博麗神社に来たはいいが、何故か  がいなかった。どこかで妖怪退治でもしているのかと思い、適当に時間を潰していると、背後から「              」と声をかけられた。驚きながらも話を聞いてみると、単に人里に寄っていただけとのことだった

 

「なるほど……」

 

 案の定、魔理沙の方にも『記憶の消失』は起こっていた。言われた言葉まで消えているのを見るに、相当強い力により行われているらしい。

 それこそ、『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』にも対抗しうるような。

 

「君たち、起きろ」

 

「ん、んんぅ……?」

 

「……あっれぇ……何で私ら倒れてんだ……?」

 

「いきなりとてつもない強風が吹いたんだよ。けっこう派手に転んでたから、その拍子に軽く頭でも打ったんじゃあないか」

 

「強風……?天狗か何かの仕業か……?まあいいや」

 

 呆れた顔を浮かべて言う露伴に魔理沙と早苗は多少の疑問を覚えつつも、さっさと立ち上がり服をはたいた。

 

「それで、なんだっけ。『ハクレイレイム』って奴の話だっけ」

 

「いや、そっちはある程度予測がついた。それよりも魔理沙」

 

「ん?」

 

「君……空、()()()()?」

 

 

✒︎

 

 

 

「そりゃまた変な事が起きたなぁ……電話ねぇ。何かの妖怪の悪戯か?」

 

「それならまだマシさ。あの電話が与太話って分かれば、僕は何の迷いもなくここを離れられるんだからな」

 

「それはちょっと……じゃなくて、そうだといいですね……にしても露伴先生、よくそんな落ち着いてられますね。()()()()()()()初めてじゃなかったり?」

 

「フン、初めてだよ。ただ、思ってたより安定してたんで拍子抜けしたってだけだ」

 

 幻想郷、上空。

 露伴は今、魔理沙の駆る箒に跨り()()()()へと向かっていた。そして早苗はといえば、生身で飛行し彼らについてきていた。

 

「つーかよく覚えてたよな、初対面の時の話」

 

「「空を飛べなくても」……あたかも自分は飛べるかのような物言いをされたら、誰でも印象に残る」

 

「そーいうもんかねぇ、っと……着いたか。今から降りっから、しっかり掴まってろよ?……あ、私にじゃねえからな」

 

「当たり前だ、そんなことする奴なんざいないよ」

 

「はー、ほんとに可愛くねえ」

 

 そんなことを宣いながら、魔理沙は勢いよく降下していく。

 そして極めて雑なブレーキを挟み、彼女達は()()()に着地した。

 

「はい到着ー!」

 

「……君、飛ぶの下手クソだな」

 

「それはお前が慣れてないだけ!」

 

「早苗さん遅れて到着!……で、ここに何の用があるんですか?」

 

 彼女達が着地したすぐ目の前にそびえ立つ赤い鳥居を見上げながら、早苗は露伴に尋ねる。

 

「決まってるだろ。『検証』だよ」

 

 露伴はそのまま、()()()()へと入っていく。

 魔理沙と早苗もそれに続いた。

 

「どう考えても、『博麗霊夢』と『博麗神社』に繋がりがないとは思えない。それに、僕は幻想郷にここを通って入ってきた」

 

「だから何かあるはずって訳か。まあ、あり得なくはない……そういや思ったけど、なんで「博麗霊夢」って書くと分かったんだ?変なやつから言われただけなんだろ?」

 

「そう言われた時、頭の中にイメージが流し込まれるような感覚があった。それだろうな」

 

「ふーん……それで、何を検証するんですか?」

 

「それも決まってる。まずは……『僕が外に出られるのか』、だ」

 

 そして露伴は、迷うことなく神社の裏へと歩みを進める。

 

「幻想郷から出る方法について、僕が考えていた方法は二つだ。一つは、ここに来た時の手順をもう一度繰り返す。そしてもう一つは……()()()()()()()()()

 

「あー……まあ、多分行けるんじゃね?私もあんま詳しくは知らないが……確かこの辺りが『博麗大結界』の中心みたいな話を聞いたことあるし」

 

「でも、気を付けてくださいねー!」

 

「ああ、分かってるよ」(『博麗大結界』……確か外の世界と幻想郷を分ける結界だったか?急いで読んだから、あまり正確じゃないが……これもいずれは調べなくては……しかし……)

 

 背後から声をかけてくる魔理沙と早苗に、考え事をしながら声を返す露伴。考え事とは当然あの電話のこと。

 

(「結界は消え、幻想は現実となる」……これで電話の信憑性が少し増したか。その博麗大結界が消えれば、幻想郷は外の世界と自らを隔てる壁を失い、最終的には幻想郷の住人達が一斉に外に雪崩れ込む事になる。『ネタ』が増えること自体は喜ばしいが……もしそうなれば僕の読者も危険に晒されるだろう。()()()()()()()()()()()()()())

 

 そんなことを考えているうちに、どうやら『境目』に到達したらしい。

 『スタンド使い』としての勘が告げたのだ。ここに壁……『結界』があるのだと。

 

「さて……」

 

 息を整え、見えないが確実にある境目に向かって腕を伸ばしてみる。

 果たして、何事もなく通り抜けるか。それとも……

 

 結界と、指が触れる───

 

「ウグッ!?」

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

 瞬間。まるで雷でも落ちたかのような、巨大な破裂音が轟くと同時に……露伴の手が()()()()()()()()()()()

 

「くっ……!」

 

「露伴先生!?」

 

「おいおい大丈夫かよ!?スゲェ音鳴ったぞ!?」

 

 あまりの轟音に驚いたのか、急いで2人が露伴の元へと駆け寄ってきた。特に早苗の方は、随分驚いていたように見えた。

 

「……ああ、まだ少し痺れているが問題ない」

 

 2人に見せつけるように、露伴は今弾き返されたばかりの右手を握ってみせた。

 

「それならいいけどよ……」

 

「そうですか、良かったぁ……」

 

「……だが、これでほぼ確定したな」

 

 『結界』を見据えながら、露伴は呟いた。

 

「僕はどうやら、外の世界には戻れないらしい」

 

「いや、ここに来た時の手順っつーのがあるんだろ?それはどうなんだよ」

 

「勿論やってみるが……望みは薄いだろうな」

 

 

✒︎

 

 

 結果だけを言おう。

 露伴は、()()()()()()()()()

 

「……クソッ、やっぱりか」

 

「ふむ……思ってたよりめんどくせえ事になってるな。早苗、紫ってまだ見つかってないんだっけか」

 

「そうですね……まだ神奈子様や諏訪子様からは連絡が来ていませんし、恐らくはその通りかと」

 

「だよな……やべぇな、これ結構不味いことになってるかも」

 

「なあ、前々から気になってんだが……その紫って奴は何なんだ?」

 

「ん?ああそっか、早苗には居なくなったってことくらいしか教えてもらってないんだったな。紫は……えー……幻想郷を作った奴の1人で、胡散臭いけどすごい奴。そいつの能力なら幻想郷の外にも自由に行けるんだけど……」

 

「今は失踪中……か」

 

 露伴は腰に手を当てる。

 突如鳴った電話、告げられた事実。

 それらを加味した上で考えれば、このタイミングでそんな能力を持った大御所が行方不明というのは……あまりにもタイミングが良すぎる。

 

「黒幕か、被害者か……いずれにせよ、そいつも『異変』に何かしらの関わりがある。そう見るべきか」

 

「だろうな。けど、今それを考えたって仕方ないと思うぜ。なんせ私たちには情報が少なすぎる」

 

「とりあえず今は、『紫さんが異変に関わっているという可能性が高い』までに結論をとどめておくべきだと思います」

 

「だな。それで露伴、こっからどうする。境内探索してみるか?」

 

「そうだな。大した情報はないだろうが、とりあえずこの辺りはあらかた探索しておきたい。今見れば、また新しい何かが分かるかもしれないからな」

 

「りょーかい」

 

「分かりました」

 

 そこから、3人による博麗神社探索が始まった。

 とはいえ、今更何かが新しく見つかることはない。

 

「んー、なーんもねぇ。早苗、そっちは?」

 

「畳の下とか襖の中とか全部見たんですが、それらしいのは何も……」

 

「僕もだ。元々外周には何も期待していなかったが……?」

 

 しかし、その代わりに露伴はあることに気づいた。

 

(……そういえば、この坂の下にあった()()はどこに消えた……?いやそれ以前に、僕が転がり落ちた跡すらないぞ!?)

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()ことに。

 

「露伴、そんなに覗き込んでどうしたんだ?下には何もなかったと思うが」

 

()()()()()()()()()()()んだ!あり得ない、僕は確かにここから……!」

 

 その動揺ぶりが気になったのか、早苗と魔理沙が露伴の背後から下を覗き込む……が、やはりそこに広がっているのは何ら変哲のない光景だった。

 

「うーん、特に何かあるようにも……」

 

「気のせいかなんかじゃねえの?」

 

「………………」

 

 露伴は2人の顔を見た後、頭に手を当てて考え始める。

 

(間違いない、誰かがここにあった痕跡を『消去』した。これが『記憶の消失』と関係あるのかまでは分からないが……とにかく、ここで喚いたところでこの2人が何も勘付いていない以上、得られる物は少ないだろう……)

 

 『ネタ』を集める上で重要なのは、情報の取捨選択。それを忘れるほど、露伴は愚かではなかった。

 

「いや、いいんだ。僕の思い違いだろう、それよりも何か見つかったか?」

 

「いや何も。収穫ゼロだ」

 

「私もです」

 

「ま、予想通りだな。魔理沙、箒を出してくれ」

 

「おう、別にいいけど……次はどこに行くつもりだ?」

 

「パチュリーさんに会いたい」

 

「……うげ」

 

「おい、なんでそんな顔を浮かべる」

 

 その名を聞いた瞬間、魔理沙の顔が歪んだ。

 嫌いだとかそういう感じではなく、先生に呼び出された中学生のようなめんどくさそうな表情を浮かべていた。

 

「いやさ、あいつから結構本借りてんだけど……ちょっと最近色々あって、気まずくてさ……」

 

「……そういえば、パチュリーさんから「図書館に忍び込むやつがいる」と聞いたし、ついでに美鈴さんが君の名前を寝言で出してたな」

 

 ギクッ。

 早苗は、そんな音が魔理沙から鳴ったような気がした。

 

「確か、「今度こそ捕まえてやる」と言っていたが……君、まさか」

 

「違う違う!それは誤解だって!私は正真正銘本を借りてるだけだって!……こっそり入って、だけど」

 

「君………………で、それは()()()()()()()()()?」

 

「え、()()()()()()

 

「正真正銘の『借りパク』じゃあないかッ!何やってんだ君!」

 

「はーーー!?ちーがーいーまーすーーー!私が死んだらちゃんと返しますーーー!あっちはほぼ不死みたいなもんなんだから人間の寿命なんて一瞬よ一瞬!」

 

「なんだその屁理屈は……」

 

「まあとにかく、私が紅魔館行ったらめんどくさ……色々混乱するだろうから、私は別のところで聞き込みしとくわ!じゃあな!」

 

「おい、待っ───」

 

「じゃお先、さいなら!」

 

 そう言い残し、魔理沙は目にも留まらぬ速度で空へと消えていった。

 

「─────」

 

 呆れも一周回り、もはや何も言う気にならなかった露伴に対し。

 

「……あの、良ければ私が運んでいきましょうか?」

 

 早苗はおずおずとそう尋ねた。

 

 

✒︎

 

 

「あれ、露伴さんじゃないですかー!もう帰って……早苗さんも一緒なんですか?」

 

「ああ、色々あってな。事情は後で話すから、とりあえず通してくれ」

 

「ええ、構いませんが。お嬢様にも言っておきましょうか?」

 

「頼……ああいや、あなたも来てくれ」

 

「え、いやでも私門番しないと今度こそ咲夜さんに殺され……」

 

「お帰りなさいませ、露伴様」

 

「うわびっくりした、咲夜さん急に背後出てくるのやめてくれません?」

 

 いつの間にやら、美鈴の後ろに咲夜が立っていた。

 ただし、美鈴もびっくりしたという割には表情筋がピクリとも動いていなかったが。

 

「しょうがないでしょ、あなたが門に背向けてるんだから」

 

「まあ、それが門番なんで」

 

「咲夜さん、随分早い出迎えだが……」

 

「はい。お嬢様が能力によりあなたの来訪を予知しておりまして、出迎えてこいと」

 

「ああ、『運命を操る程度の能力』……だったか。応用が効くらしいな」

 

「露伴先生、レミリアさんの能力知ってたんですか?」

 

「朝食を食べている時にあっちから勝手にペラペラと話してきた」

 

「えっ」

 

 今、この男はなんと言ったのか。

 朝食を食べている時?レミリアから?露伴に?

 それって、同席───

 

(……いやいや、何かの間違いに決まってます。そんなことあるわけ……)

 

「ついでに、伝言も預かっております。んんっ……「皆を集めておくわ。あなたの部屋に荷物を置いた後、パチェのところまでいらっしゃい」……とのことです」

 

「えっえっ」

 

 今度は間違いだとは言い聞かせられなかった。

 確実に、紅魔館には露伴の部屋がある。

 そして、それ即ち朝食を一緒に取ったこともほぼ確実だということ。

 

 事実という冷たい刃が、早苗の心を深く突き刺した。

 

「今声真似必要だったか?」

 

「必要です。これだけは譲れません」

 

「……そうかい」

 

「でも案外似てますよね、咲夜さんの声真似」

 

 目の前で交わされる言葉の全てが、その理論を補強するようで。

 脳が破壊される感覚というのはこういう物なのかと、早苗は初めて理解した。

 

「……私の時はすぐ帰ろうとしたくせに」

 

「早苗君?今何か言ったか?」

 

「いいえ、別に。それより早く行きましょうよ」

 

「……君、何をそんなにキレてるんだ?」

 

「キレてません、普通です」

 

「オイオイ、冗談だろ。そんな顔して「キレてない」ってのはいくら何でも……」

 

「いいですから!早く行きますよ!」

 

 我慢の限界だとでも言わんばかりに叫んだ早苗は、半ば走るような形で館の入り口へと進んでいってしまった。

 

「……ったく、何なんだ一体」

 

 一方、何故彼女がそんな行動を取ったのか、残念ながら露伴は一切分かっていなかった。

 

「露伴様、乙女心が分からないのですね」

 

「ちょっと今のはないですねー」

 

「は?さっきから何なんだ、まるで意味が分からないぞ」

 

 そして、咲夜と美鈴の当たりが強くなった理由もまた、露伴には一切理解できなかった。

 

 

✒︎

 

 

「知らない。その名前が書いてある本にも心当たりはない」

 

「そうか……」

 

 それから数分後。

 露伴が『博麗霊夢』の名を尋ねてから1秒も経たずに、パチュリーはその答えを返した。

 ついでに露伴は振り返り、他のメンバーの様子も伺うが……

 

「んー、知らないわね。咲夜はどう?」

 

「残念ながら、私も」

 

「私もです。これでも一応門番ですから、ある程度は記憶力あるんですがね」

 

「パチュリー様が知らないことを使い魔の私が知ってるわけもありません」

 

「んー……覚えてないや」

 

「……フン」

 

 やはり、その反応は予測を超えなかった。

 

「件の通信機器を調べてみたけれど、確かに魔力は確認できた。だからその電話があったこと自体は本当よ」

 

「というか、何よその内容。「運命は乱れ」って、私に喧嘩売ってる?」

 

「僕に言われても困る……それで、まだやりたいことがあるんだが」

 

 露伴がそういうと、レミリアがやれやれとでも言いたげな顔で首を振ってみせた。

 

「はいはい、記憶読みたいんでしょ。あんたの考えてることくらい分かるわよ」

 

「……何それ、私知らない」

 

 口をとんがらせて呟く早苗。

 その事実が意外だったのか、レミリアは「あら」と声を漏らした。

 

「あなた、そうなの?実は露伴って人の記憶読めるのよ……っていうか露伴も言っときなさいよね、そんぐらい」

 

「言う機会が無かっただけだ、そのうち早苗君にもちゃんと説明するつもりだったさ」

 

「そう言って結局ギリギリまで言わないタイプでしょ、あんたは」

 

「やーい、ロハンのあんぽんたーん」

 

「心外だな、僕がそんなことするわけないだろう」

 

「自覚ナシですかぁ」

 

「やーい、ロハンのおたんこなすー」

 

「言っとくが君の声全部聞こえてるからな」

 

「やーい、ロハンのじごくみみー」

 

「はいはい、分かったから。露伴、やるなら早くして。まだ読みたい本があるの」

 

 目の前で繰り広げられる茶番に飽きたのか、パチュリーは露伴を急かし始めた。机を指でトン、トンと何度も叩きながら。

 

「分かってるさ───『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』」

 

 露伴が手を振った直後、その場に立つ皆───早苗を除いて───が椅子や床に一斉に倒れ込んだ。

 

「あー……きもちわる。というかあんたのそれ、やっぱずるいわよ。やろうと思えばノーモーションでこれでしょ?」

 

「うえ、なんか変な気分する。ロハン、これどうにかならない?」

 

 そして2名ほど、その状態から声をかけてくる吸血鬼もいた。

 

「……君たち、意識あるのか」

 

「ええ、意識だけならね」

 

「体はあんまり動かないし、せいぜい動かせたとして目と口くらい?」

 

「え、何これ。露伴先生こんなこと出来たんですか?」

 

 さらに、背後の早苗が興味深そうに隣にいた咲夜のページをしゃがみながらペラペラとめくっていた。

 不機嫌の後ろで好奇心が手を伸ばしているような、そんな微妙な表情で。

 

「まあな、僕のスタンド(能力)は『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』と言って、対象を『本』にしたり、命令を『書き込む』ことができる」

 

「……ふーん、そうですか」

 

「まあ、本当はもっと早く言っておくべきだったんだが……あの時は焦っていたんだ。悪かったと思ってるよ」

 

「……まあ、それなら、別に」

 

 そっぽを向いて表情を隠したまま、静かに早苗は頷いた。

 それを見た吸血鬼姉妹は「それでいいんだ」と内心思ったが、空気を読み、口を閉じた。

 

「さて……ここからだ。とりあえず君たちの記憶を読ませてもらうからな」

 

「はいはい、拒否権ないんでしょ」

 

「私は別にいいけど、あんまり昔のはやめてね。今と違って、()()()()()()()()()()()()()

 

「………………」

 

「何その顔。いやマジでやめてね、ほんとに。冗談で済まないから。というかやったら殺すから」

 

「…………分かってるよ」

 

 どこかつまらなそうな声でフランの要求に応じる露伴。

 いつもならそんな面白そうな記憶、何がなんでも読もうとするところだったが……多分今のフランにそれをやったら鬼ごっこの時のレミリアのようにプッツンして、無理やり『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』を突破してくるだろう。そうなれば待つのは死のみ。

 死んでしまっては漫画が描けなくなるので、露伴は()()()読まないことにした。

 

「まずは私?いいけど、変なとこ触んないでよ?」

 

「ハッ、こっちから願い下げだね」

 

「え?」

 

 驚いたようなレミリアの視線に突き刺されながら、露伴は彼女のページをパラパラとめくり始めた。

 

「……どう?なんか変なこと書いてたりしないわよね」

 

「静かにしてくれ、集中出来ない」

 

「…………つれないやつ」 

 

「……なるほどな。次は君だ、フラン」

 

「ん。この状態けっこう気持ち悪いから早めに終わらせてね」

 

「分かってる」

 

 そこから露伴が全員のページに目を通し、本化を解除するまでには、さほど時間は掛からなかった。

 

 

✒︎

 

 

「それで、分かったことはあった?」

 

 手元の魔導書に目を通しながら、パチュリーは尋ねた。

 

「ああ。やはりだが、君たち全員に『記憶の消失』が起きている」

 

 そしてその言葉を聞き、彼女は視線を露伴に移した。

 

「記憶の……消失?」

 

「そうだ。記憶の一部が消しゴムを使った時のように消え去っている。そしておそらく……それは『博麗霊夢』に関する物のはずだ」

 

「記憶から消える……ね……」

 

 パチュリーは顎に手を当てて考えてみた。

 自らの記憶に、『博麗霊夢』と言う者が入り込む余地があるのかを。すでに完結した物語に、その者が登場出来るのかを。

 

 そして、それ程しない内に結論は出た。

 

「……確かに、()()()()()

 

「あー……なんかまあ、言われてみれば何か足りないような気がしないでもない、わね」

 

「うわー、なんかあれみたいですね。あの、なんか大事なことを忘れたときのようなもどかしい感覚。あれがします」

 

「けどこれで、一歩進んだっぽいね」

 

「その通りだ。「知らない」と「覚えていない」とでは根本的に異なる。前者ならどうしようもないが……後者ならいつかは思い出すかもしれないし、そもそも()()()()()()者もいるかもしれないからな。それが分かっただけでも大きい」

 

「じゃあ、あと必要なのは『忘れていない』者ということね」

 

「でも、パチュリー様が忘れちゃってるんですよね。だったら忘れていない人なんて……」

 

「あ」

 

 不意に早苗が声を出した。

 皆の視線が、彼女に集まる。

 

「早苗君、なんだい今の。明らかに「何か思いつきましたよ」風の「あ」だったが」

 

「は、はい。その……いるんです。人里に1人、()()()()()()()()

 

 

✒︎

 

 

「じゃあ露伴先生。私はこれで」

 

「ん?ここでか?」

 

 紅魔館の面々に一度別れを告げたあと、露伴は早苗に人里へと運んできてもらった。

 そして、いざここからその人に会いに行こう……というところね、早苗が帰ると言い始めたのである。

 

「はい。その……流石に、これ以上神社を無人のままにするというのは……」

 

「ああ、それもそうか。まあいい、世話になったね。今度、直筆サイン入りの新刊、持ってきてやるよ」

 

「ほんとですか!……あ、ありがとうございます」

 

「いいんだよ、じゃあまた……それと」

 

「?」

 

「次、守矢神社に行く時は……神々にだけじゃなく、()にも取材させてもらうとするよ」

 

「……はい!それでは!」

 

 心底嬉しそうに頭を下げると、そのまま早苗は浮かび上がりどこかへと消えていった。

 

「……さて」

 

 露伴は彼女を見送ると振り返り、ある屋敷を見据えた。

 人里の中でも存在感のある、巨大な屋敷を。

 

「ここか。()()()()()()()というのは」

 




ほんとはね、紅魔館でフランに「皆霊夢のことを忘れてる」っていうのを推理してもらって、露伴もそこで気付くって感じだったんですよ。
というか、あと1.2話くらいかけてじっくりやるのも良いかなって感じだったんです。
けど気づいたら露伴がいきなり早苗と魔理沙にヘブンズドアーしてて、なんか勝手に察したんで、ボツになりました。この能力ズルくない?
あとついでにボツ話すると、阿求が「くしゃがら」を知ってしまうってのをやろうと思ったんですけど、普通に詰むのでやめました。
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