岸辺露伴、幻想郷へ行く   作:太平洋クラゲ

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#07「能力の暴走」

「詳しく説明しますね。

 まず、私がこう考えるようになったきっかけは今より257日前の如月十一……外の世界に合わせるのなら2月12日にあります。

 その日私は小鈴と人里の甘味処にいたのですが、妙に彼女のテンションが高い事が気に掛かっていて、ふと聞いてみたのです。すると彼女は「最近自分でも驚くくらい本を早く理解出来るようになったのよ!私の進化は止まらないのよ!」なんて言い始めまして。

 彼女は『如何なる文字でも理解できる程度の能力』を用いて集めた本を解読しているのですが、どうやら前よりも遥かに速く内容が理解できるようになったらしいのです。とは言え、きっかけはきっかけ。この時点の私はまだ何とも思っていませんでした」

 

「僕からしても、小鈴君が成長したのだろうとしか思わないな」

 

 『能力が成長する』というのは、あり得ない話ではない。それを露伴はこの場の誰よりも理解しているつもりだった。

 決して自惚れではなく、彼の経験から来る自信。人間相手に原稿を見せなければ発動しなかったはずの『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』が今では触れるだけで無機物相手だろうと書き込めるようにさえなったという『経験』が、その考えを強固に支えていた。

 

「ええ、ですがその1ヶ月後、3月12日になると、少々疑問を覚えるようになりました」

 

「疑問?」

 

「彼女の能力が凄まじい進化を遂げていたのです。最初、彼女は本のページに手をかざす事で能力を行使していたのですが……()()()()()()()()()()()()()、その本がどのような文字で何と書かれているのかを完全に把握出来るようになっていたのです」

 

「何だそれ、全然知らなかったんだが私」

 

「その時点で、彼女に能力の進化についてのことを誰にも広めないように言っておいたんです。脈絡のない急激な進化に、どこか違和感を感じたので」

 

(……風見幽香の所に行く前に、彼女の記憶をしっかり読んでおくべきだったか)

 

 切羽詰まっていたとは言え、小鈴に短い文を書き込んだだけで終わらせてしまった事を、露伴は少し後悔した。

 

「そして私はとりあえず霊夢さんに相談しようと思い立ち、小鈴にもその旨を伝えたのです。「とりあえず一度霊夢さんに調べてもらおう」と。しかし……」

 

「そこで、博麗霊夢が消えている事に気付いた」

 

「はい。小鈴に「それ誰?」と言われた時は、タチの悪い冗談を言っているのだと思ったのですが……それが嘘ではないという事は彼女の顔を一目見れば分かりました。それから私は霊夢さんの行方について独自に調べ始めました。そして月日が流れていく中で……この能力の進化というのが、《思ったよりも厄介な物》だと分かったんです」

 

「厄介」

 

 魔理沙の反芻に阿求が頷く。

 

「私が会うことの出来る能力者の方に片っ端から聞いてみましたが、どうやら『全く進化していない人』もいれば『急激に進化した人』もいるようで……その中でも特に進化していたのは、「森近霖之助」さんという方でした。彼は『道具の名前と用途が判る程度の能力』を有していたのですが、道具の使用方法も分かるようになっていたのです……ですが同時に、困ってもいました」

 

「え、あいつもそうだったのかよ!?教えてくれりゃあ良かったのに!……あれ、今『困ってる』って言ったか?」

 

「はい。どうやら最近、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そうで。一度に大量の情報をほぼ常に受け取るようになったせいで、疲労が溜まりやすくなったと」

 

「フム……」

 

 自分が望んでいないのに能力が発動し、それにより疲弊する……なるほど、と露伴は頷いた。

 

「『能力の暴走』、という訳だ」

 

「そうです」

 

「……よく分かんねえけど。まず個人差あれど皆能力が進化してて、最終的には能力が暴走しちまう、ってのは分かった。けどそれが霊夢って奴とどう繋がるんだ?確か『空を飛ぶ程度の能力』とか言ってたよな、それが暴走したところでせいぜいブッ飛ぶくらいじゃねえの?」

 

 魔理沙の指摘に、阿求は一瞬複雑そうな表情を浮かべ……そして気を取り直すように首を振った。

 

「……そうですね、説明しないと分からないでしょう。『空を飛ぶ程度の能力』というのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………あー、哲学の話してる感じ?」

 

「いいから聞いてろ、いちいち話の腰を折るな」

 

「…………続けます。空を飛んでいるということは、()()()()()()()()()。そして彼女は、その能力を使い……『()()()()()()()』ことすら出来るのです」

 

「……?……??」

 

「……この世から浮くと、どうなる?」

 

「簡単に言えば、姿の見える透明人間のような状態になります。その状態の彼女にはどんな能力であろうと干渉出来ないし、また触れることも叶いません。ただし、彼女からの弾幕などは普通に当たります」

 

 ……それはつまり、無敵ということではないのか?

 どんな手を使っても博麗霊夢には干渉出来ず、また博麗霊夢からは自由に攻撃ができる……そんな物、誰だって勝てないに決まっているだろう。

 レミリアや幽香などの人間をはるかにぶっちぎった存在と戦い、その力を体感した露伴でさえ、彼女達がそうなった博麗霊夢に勝てるビジョンは思い描けなかった。

 

「いやズルくね?無理じゃん、絶対勝てないじゃん。私そんな最強の奴と親友だったのかよ」

 

 露伴は心の中で何度も頷いた。

 

「ええ、そうです。最強かはともかく、無敵の能力です。この世から浮いていながら、この世に干渉出来るのですから……………ですが、考えてみてください。《そんな能力が進化を遂げたらどうなるか》?」

 

「そんなの、ただでさえ強い奴が強くなるだけだろ」

 

「それはどんな風に強くなるのだと思いますか?」

 

「んっ」

 

 その切り返しに魔理沙は言葉を詰まらせた。大方、そんな詳しく聞かれるなどとは思っていなかったのだろう。子供のように目を泳がせながら唸り続け、やがて口を小さく開いた。

 

「……まあ、『浮く』能力が進化……今よりもっと浮いて、()()()()()()()()()()とか?ほら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にさ」

 

「……はい、その通りです」

 

 阿求は魔理沙の答えに満足そうに笑うと……一気に顔を引き締めた。彼女が纏う覇気が、先ほどよりも遥かに重くなる。

 

「そして、彼女はすでに()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何?」

 

「霊夢さんの能力は進化した矢先暴走し、()()()()()……今やこの世からだけでなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まさしく、風船のように」

 

「……あー……」

 

「フム、辻褄は合っているな」

 

 露伴は、博麗霊夢に関する記憶について『まるで消しゴムで消された』ようだと形容した。だが実際は、彼女自身が『浮きすぎて見えなくなった』……空へと飛んでいった風船がやがて人の目に認識されなくなるように、人々から『存在が認識されなくなった』のではないか……阿求の言いたいことはそういうことらしいし、正直露伴も否定は出来なかった。

 

「だが、そこまで分かってんだったら誰かに伝えとくべきだったんじゃあないか」

 

 その指摘に、阿求は悔しそうに口を噛み締める。

 

「勿論私もそう考えたのですが、残念なことにこの結論に至ったのは()()()()()のことだったんです。信頼できる相手を探していた所で、私の能力も暴走してしまって……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その重みに体や精神が耐え切れなかったんです。」

 

「ふーん……なんだっけ、本当は転生する度に記憶の大部分がリセットされんだっけ」

 

「はい。見た物全てを覚えられると言っても、容量には限りがありますから……ですがそれも、皆様の尽力のおかげで解決されました。今ではもうすっかり元通りです」

 

「…………」

 

 解決された。そう、解決されたのだ。鈴仙の薬と、露伴の『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』によって。

 ───しかしそれは、露伴の意図した解決の仕方ではなかった。輪廻の記憶を再び消す……露伴はそんなこと一文字たりとも『書き込んでいない』のだから。

 

(彼女の発言から考えると……あの時記憶が消えたのは、僕が『命令を書き込んだ』ことによって彼女の能力の暴走が収まり正常な状態に戻った、というのが妥当だな。まあ、何故そんなことになったのかは今でもサッパリだがね……)

 

 露伴としては一刻も早くその理由を知りたい所ではあるが、おそらく阿求にこの事象を説明したとて、望む答えは得られないだろう。

 

(というか、能力の暴走を起こしている奴に僕が同じように『書き込んだ』場合、そいつはどうなるんだ?彼女と同じように能力の暴走が収まるのか?)

 

「おい露伴、どうした。なんか考え事か?」

 

「……いや、何でもない」

 

 今推測を話した所で、いたずらに場を乱すだけ。そして、それは露伴の望む所ではなかった。

 

「ちなみになんだが、その能力の暴走は『偶然』だと思うか?それとも、『口封じ』だと思うか?」

 

「残念ながら、今は分かりません。ただ先ほども言った通り、私は『悪意のある何者か』が存在していると思っているので……口封じだとしたら、その方による物でしょう」

 

「悪意ある何者か……ねぇ。まあ異変だし、いない方が珍しいか」

 

 力無く首を振る阿求を見ながら、魔理沙は納得した。

 

「……なるほどな、じゃあ最後の質問だ。君は博麗霊夢が何処にいるか、見当はつくか?」

 

 その言葉に阿求は目線を落として考え込み始め、およそ3分後。

 

「断言は出来かねますが……博麗神社か、でなければ地底や冥府にいるかも、といった感じです。ちなみにですが、彼女は黒髪で、恐らく赤い巫女服を纏っているはずです」

 

 阿求の紡いだ言葉に何度か頷くと、露伴はソファから腰を引き上げた。

 

「そうかい。色々と教えてくれてありがとう、助かったよ」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。霊夢さんのところに行ったとして何を……」

 

「簡単だ。風船が人の眼に認識出来ないところまで『浮いてしまった』としても……『望遠鏡』を覗けば、風船は『見え』る」

 

「「……『望遠鏡』?」」

 

 その言葉に阿求と、隣で聞いていた魔理沙が首を傾げる。

 

「その、『望遠鏡』とは……?」

 

「なに、そう難しい話じゃない。僕にもちょっとした『()()』があるってだけだよ。じゃ、失礼する……オイ、行くぞ」

 

「え?あ、ああ」

 

 それから少し遅れて魔理沙も立ち上がり、彼の後を追って部屋を出て……振り返って阿求に軽く頭を下げ、静かに襖を閉じた。

 2人分の足跡が部屋から遠ざかって行き……やがて何も聞こえなくなった。

 

「……ふぅ」

 

 阿求は軽く息をつき、先ほどからかなり崩れた姿勢でソファに沈んだ。

 

「疲れたわ、色々と……あ、そう言えば」

 

 思い出したように声を上げると、彼女はその姿勢のままソファ横の棚に手を伸ばし、ヨガのポーズのような姿で中身を漁り始める。そして数分の苦戦の後、中から小さな本を引っ張り出した。

 

「これ、見せるの忘れてた……まだ検証中とは言え、ほぼほぼ答えは出てたのに」

 

 『幻想郷内における妖怪と妖精の目撃数の著しい低下について』と無骨に記された表紙を見ながら、阿求は独り言を呟いた。

 

「今ならまだ間に合うでしょうけど……そんな気分じゃないなぁ」

 

 もしかしたら、伝えておくべきなのかもしれないが……まだまだ自分は起きたばかり。恩人の前では気丈に振る舞っていたが、流石にもう限界だ。

 

「……次会った時には、必ず……渡さないと……」

 

 体の奥底から溢れる眠気に身を任せ、阿求はゆっくりと目を閉じた。

 

 

✒︎

 

 

 一方、稗田邸から出てきた露伴と魔理沙は早くも博麗神社へと飛び立とうとしていた。

 

「うっし、とっとと行くか露伴!」

 

「分かってるよ、いちいち急かすな」

 

 人の邪魔にならないよう道の端で箒の上に跨った魔理沙に急かされながらも、露伴は彼女の箒の上に腰掛けようとして……

 

「おーおー、元気じゃのう」

 

「……?」

 

 横から響いた声に、動きを止めた。

 振り返って見てみると、そこには1人の老人が立っていた。80代ぐらいの随分と歳を召した爺さんで、丸まった背中と髪のない頭が目立っている事に加え木製の杖をついていた。

 

「誰だ、あんた」

 

「ん?なんじゃ、こんな老耄に興味があるのか?」

 

「いきなり横から声を掛けてこられたんだ、そうなるのも当然だろう」

 

「それもそうか。しかし、こんな道中で男女で箒に跨っているよう所を見たら、それこそ誰だって声を掛けたくなるじゃろうて」

 

「…………まあ、それはそうか」

 

 箒にかけていた手を離しながら、露伴は改めてその老人の方に向き直った。

 

「爺さん、名前は」

 

「ふむ……そうじゃなぁ。名前というのは大切じゃから、あまり軽々しくは教えたくない。かと言って何も言わぬのは礼儀に欠ける……であれば、そうさな。ヒサゴ、とでも呼んでおくれ」

 

「じゃあヒサゴさん、あんたが声を掛けてきたのは本当にそれだけが理由なのか?」

 

「ほう?」

 

 その言葉に、ヒサゴと名乗った老人はわざとらしく首を傾げた。

 

「何か、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……露伴?」

 

 魔理沙の声を無視しながら、露伴はヒサゴに意識を集中する。

 

(阿求君から今起きている異変についての話を聞いたタイミングでの邂逅……正直、かなり()()()。コイツ、まさか……)

 

「……カカッ、カカカカカッ。これだから若人というのは困る。老人の考える事を易々と見抜きおって」

 

「…………」

 

「そうじゃ、儂がお主らに声を掛けたのには別の理由がある。それは……」

 

 既に『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』を発動する用意は出来ている。一般人が多いためあまり使いたくはないが、かといって容赦する気など当然ない。もし何かしてくるようなら、すぐにでも……

 

「ズバリ!」

 

「……!」

 

「………………道教えてくれん?」

 

「「は?」」

 

 思わず口から漏れた素っ頓狂な声が、往来する人々によってすぐさまかき消された。

 

「いやなに、儂も呆けてきてのう、里の構造などてんで覚えとらんのよ。それで困っておった所に、変な事をしとる二人組が目に写ったのでな」

 

「………………」

 

「なーんだ、そういうことか。急にマジな顔し始めるから何かと」

 

「まあそういうことじゃ。誰だって歳を取れば悪戯の一つくらいするわい。特に儂は面白い事や物が好きじゃからな、カッカッカッ」

 

「……ったく。人騒がせな爺さんだな」

 

 呆れたように、というか実際呆れた露伴は『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』を引っ込めた。同時に、こんなやつ相手にちょっとでも真面目に応対しようとしたことを自省した。

 

「で、何処に行きたいんだ」

 

「えーと、確か『鈴菜庵』だったか。そんな感じの名前のところに行きたい」

 

「あー、それならここを真っ直ぐ奥に行くだろ?んで、突き当たりを右。そうすっとそのうち看板見えてくっから」

 

「おお、そうかそうか、済まなかったな」

 

 ヒサゴは満足そうに頷くと、何度か頭を下げながら歩いて行き、やがて人混みの中に消えていった。

 

「……にしても変な爺さんだったなー。何か掴みどころなかったし」

 

「こっちにもいるんだな。暇で暇でしょうがないのか知らないが、こっちの事情も考えずに声掛けてくる老人ってのは」

 

「まあいいんでね?元気ってのは良い事よ」

 

「鬱陶しいとも言い換えられるがな」

 

「何でそう捻くれたこと言うかね。まあいいや、とっとと行こうぜ」

 

「分かってる、早く箒を」

 

「へいへい」

 

 魔理沙は露伴が箒に跨った事を確認すると、普段と同じ要領で空へと飛び上がり、博麗神社の方角に向けて駆け出した。

 

 

✒︎

 

「イヤッフゥ───────ッ!!」

 

「うるさいぞッ!もっと静かに飛べないのかッ!」

 

「しょーがねぇだろぉ!何かめっちゃ調子良いんだからさぁ───!」

 

 何処ぞの配管工のような声を発しながら、魔理沙の駆る箒は飛翔する。先ほどから彼女の大声に悩まされていた露伴も、その速さ自体には驚くばかりだった。

 

「……だがまあ、これならとっとと着くだろうな」

 

「ったりめーよ!あと八分以内には着いてみせるぜ!」

 

 彼女の調子の乗りように思う所はあるが、しかし実際このまま行けば八分……いや、五分と待たずに博麗神社に着くであろうことは、露伴の目から見ても明らかだった。

 

(そんな事はどうでも良い。今考えるべきは、天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を使っても博麗霊夢を認識出来なかった場合だ……つってもまあ、正直そうなったらお手上げな気もするが)

 

 『望遠鏡(ヘブンズ・ドアー)』が機能しないという最悪の場合に備え、何か対応策を捻り出そうとする露伴。では魔理沙はと言えば、上機嫌に鼻歌を歌いながら体を揺らしていた。

 

「〜〜♪……〜〜〜〜♪」

 

「……ノンキだな、ほんと」

 

 だがまあ、先程のような大声を出されるよりか何倍もマシだろう……そう思い、露伴は再び思索に耽ろうとして……()()()()()()()()()()()()()()()事に気がついた。

 

「ン?」

 

 思わず目をやると、山の頂上付近が光っているのが見えた。そして、その輝き方には見覚えがあった。例えるならば……そう、アリスの光弾とか、幽香が放っていた光線のような……

 

「……オイオイ、まさか」

 

 さらにもう一つ、気付いたことがあった。その輝きは()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまりは───

 

「魔理沙ッ!左だッ!」

 

「あ?……って、おっと!」

 

 ()()()()()()()()()()に気が付いて魔理沙は急ブレーキをかけ、その場に踏みとどまった。件の光弾はそれよりもいくらか前方を通り過ぎ、地平線へと消えていった。

 

「……っぶねぇ、あのまま進んでたら絶対当たってたわ。ナイス露伴……って言いたい所なんだけど、後の方が良さそうだな」

 

「ああ、是非そうしてくれ」

 

 危機を乗り越えたばかりだというのに、2人の表情は変わらず……否。先ほどよりも遥かに真剣な物に移り変わっていた。だが、それも無理はないだろう。

 

「いやーすごいね、今の躱せるか」

 

「私たちとしては、是非当たって地面へと堕ちていってくれるとありがたかったのだが」

 

 光弾───弾幕の飛んできた方向から、二人の女性がやってきたのだ。片方は大層なしめ縄を背負い、片方は目のついた帽子をかぶっていた。

 

「…………」

 

 露伴は、彼女の姿を見たことは一度もない。だが、そうだとしても……身体が、脳が、経験が……一斉に直感した。

 

 この者たちは……紛れもない『神』であると。

 

「おお、まあまあ久しぶりだな?ここらにいるってことは、紫は見つかったのか?」

 

「いや?埒が空かないから捜索を切り上げて来たってだけ。正直普通に冬眠してるだけな気もするけどねえ」

 

「へー、それは大変だな。早苗も寂しがってたから早く帰ってやれよ」

 

「余計なお世話。というか、既に会ってきたわ」

 

「あっそう、そりゃ良かった。じゃ私らはこれで……」

 

 魔理沙が言い終わらぬ内に、彼女達の前方と後方に二柱……八坂神奈子と洩矢諏訪子が立ち塞がる。

 

「行かせないよ」

 

「はぁ?神様が通せんぼかよ、ないわー」

 

「そう言わないで……()()()を置いて行けば、すぐ通してあげるから」

 

 神奈子がそう言いながら指差したのは、この場における唯一の男……岸辺露伴、その人だった。

 

「……なぜ僕を?」

 

「貴方には、色々と聞きたいことがある」

 

「その聞きたいことを言ってもらわない事には、この場にとどまる事なんて到底出来ないね」

 

「悪いけど、それは私たちも一緒。貴方がこの場に残らぬ限り、貴方に聞きたいことを話すわけには行かない」

 

「ハッ、かなり強引だな。早苗君から聞いていたイメージと全く違う」

 

「……貴様」

 

「ちょいちょい、待てよ。露伴に聞きたいことがあるってんなら、こっちの用が済んだらいくらでも……」

 

「駄目、今」

 

「えー……」

 

 どうやら、何を言ってもこの二柱(ふたり)には無駄らしい、と魔理沙は認識した。だが、かと言って露伴を置いて行きたくもなかった。何故か知らないが……今の二柱(ふたり)はかなり真面目モードだ、それも警戒度マシマシの。そんな彼女達が何をするか……一切の予想がつかない。

 

「なあそれ、ほんとにしなきゃダメか?」

 

「うん。というか、早くして欲しいくらいかな。実力行使するのは簡単だけど、このままだと魔理沙、あなたまで巻き込んじゃうよ」

 

「ふーん……ちょい待ってな」

 

 魔理沙は振り向き、露伴の耳元で囁いた。

 

「お前さ、こいつらの話に乗るつもりある?」

 

「あるわけないだろ、こっちから願い下げだ」

 

「だよな……なら、逃げるか?」

 

「そのつもりだが、どうやる。彼女達を振り切れるのか」

 

「いやー、お前乗せてたら無理。ただ……」

 

 先ほどよりも近づき、そして小さな声で、魔理沙は露伴にこれからのことを伝えた。露伴はその話を無言で聞き……()()()()()()

 

「内緒話は終わったか?」

 

「ああ、終わった。私らの結論は───」

 

()()()()

 

 そう吐き捨てると同時に、露伴は()()()()()()()()

 

「身投げ……!?愚かな!」

 

「させないよっ!」

 

 当然、神奈子と諏訪子はすぐさま反応する。人間の自由落下の速度よりも、二柱の飛行の方が遥かに速い。露伴はすぐさま捕まるだろう。だが、それは───

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「───魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 

 魔理沙を中心として、七色の星形弾幕が無数に美しく広がり……彗星のように、そして露伴を包むようにして神奈子達に降り注いだ。

 

「チッ!」

 

「あーもう!」

 その流星群を神奈子達は不愉快に思いながらも、しかし軽くかわしていく……だが、魔理沙にとってはそれで良かった。これで少なくとも、露伴が地面に落ちるまでの時間は稼げたのだから。

 

 露伴の姿が小さくなっていき、やがて森の中に沈んだ。

 

「貴方……」

 

「悪いが、今のこわーいお前らにあいつを渡すわけには行かねえな。何するかわかんないし」

 

「だからって身投げさせる?普通」

 

「そりゃ、お前らに渡すよりかマシだろうよ。だからあいつもそうしたんだ」

 

「はあーあ。これだから人間は……まあ良いや。まだギリギリ生きてるでしょ、あの人間。とりあえず治して、シロかクロか見極めないと」

 

「『瀕死の』人間がシロかクロかも、なんだったらその基準すらお前らが決めれるんだろ?それは狡い、だからその前に弾幕ごっこで私と白黒つけようぜ。今私は絶好調なんだ、まとめてかかってこいよ」

 

「……はっきり言って無視したい所だが……そうしたら、貴方はずっと追撃してくるのだろうな」

 

「うーん……仕方ない。早苗の友達とは言え、数日間は寝込んでもらうよ」

 

「けっ、舐めやがって。お前らは一度───人間の秘める底力ってのを味わうと良いぜ!」

 

 その啖呵を合図として、一人と二柱は弾幕を放ち───幻想郷の青空に、巨大な七色の星空が誕生した。

 

 

✒︎

 

 

「魔理沙……出来るだけ耐えてくれると良いが」

 

 森の中を駆け抜けながら、露伴はそんなことを呟く。

 先程身投げした彼だが、『その体に傷はない』。それもそのはず、彼の能力ならば例え高所から落下したとしても、地面に当たる直前で自身に『浮く』とでも書き込めばいいのだから。

 

「博麗霊夢の能力を聞いて思いついたが……案外便利だな」

 

 この世から浮く……なんて大層なことは出来ないだろう。しかし、ただ浮くだけならば簡単だ。

 

 上空では、相変わらず凄まじい轟音が鳴り響き続けている。どうやら、今回の『弾幕ごっこ』とやらは随分と派手らしい。

 

「余裕があれば、見ておきたかったが」

 

「ええ、是非そうした方が良いと思いますよ」

 

「ッ!?」

 

 突如前方から届いてきた声に驚き、露伴は足を止める。彼の前には、制服とスカートを纏った黒髪の女性が立っていた。

 

「あやや、驚かせてしまいましたか」

 

「誰だ君は」

 

「これは自己紹介が遅れました。私は射命丸文(しゃめいまるあや)と言う者です。以前は新聞も出してたんですが、諸事情で休刊中です」

 

「そーかい、とっととどいてくれるか」

 

「うーん……私も貴方が無実だと分かればそうするんですがね」

 

「……あの神々といい、さっきから一体何を言ってる?というか君はあいつらの仲間か?」

 

「ああいえ、仲間と言うほど仲良くはないんですが……まあ、諸事情ありまして」

 

 柔らかな物腰だが、こちらに情報らしい情報は一切渡してこない。加えて、彼女の立ち振る舞い……これまでの経験から、文が相当の手練れであることを露伴は即座に見抜いた。

 

「言っておくが、そこをどかないなら僕も手加減するつもりはない」

 

「それは怖いですが……どっちみち、私は貴方を捕らえなければならないんです」

 

 一際強い風が、森を吹き抜けた。

 

「大人しく着いてきてくれると助かるんですが……特に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




新年あけましておめでとうございます。
露伴が容疑者らしいです。
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