むかしむかし、空の上のインターネットという国に、
「王羽ルカ(おうば・るか)」という名前の王さまがいました。
王さまはとても美しく、やさしく、いつも笑っていました。
きらきらひかる王冠をかぶり、星のような目でみんなを見つめるのです。
けれど、この王さまは少しふしぎ。
ほんとうの体を持たず、光の粒と音の波でできていました。
つまり——配信(はいしん)という魔法で、
みんなのモニターの中にだけ現れる王さまだったのです。
◇
ルカ王の王国には、たくさんの民がいました。
彼らはリスナーと呼ばれる人々で、
毎晩、王さまのお話を聞きに集まります。
王さまが笑えば、みんなも笑い、
王さまが歌えば、みんなも歌い、
王さまが「おやすみ」と言えば、
画面の前で一斉に「おやすみ〜!」と声をそろえました。
「ルカさま、今日もすてきです!」
「ルカさま、世界でいちばんかわいい!」
コメントの光が夜空の星みたいに流れます。
すると王さまの王冠が光り、
国じゅうが明るくなるのです。
——そう、そこはまさに光と音の王国。
電波でつながった、あたたかな夢の国だったのです。
◇
けれど、ある夜のこと。
いつも通り王さまが登場しようとしたとき、
ぴしっ、と小さな音がして、
王国の空にひびが入りました。
画面がゆらりとゆがみ、
きらきらの髪がほどけてゆきます。
そして、一瞬だけ——
モニターの奥に、人の顔が見えました。
少し疲れた目をした女の人の顔。
王さまの声が止まり、王冠がふっと消えました。
みんなはびっくりして、
コメントがしんと止まりました。
「……い、今の、なに?」
「誰? 王さまじゃないの?」
「……まさか、王さまの中の人……?」
でも、そのときです。
画面がぱっと明るくなり、ルカ王が戻ってきました。
王さまはすぐに微笑み、言いました。
「みんな、見なかったことにしてね。
これは、王様のまほうだから。」
そう言って、にっこり笑いました。
その笑顔があまりにきれいだったので、
その声があまりにやさしかったので、
誰も何も言えませんでした。
そして、一人のリスナーが書きこみました。
「もちろんです、ルカさま。王さまは、王さまです。」
王国の空は、ふたたび明るくなりました。
◇
次の日、インターネットのあちこちで
「王さまのほんとうの姿を見た」といううわさが流れました。
けれど、王国の人々はみんな言いました。
「いいえ、そんなことありません。
王さまは、王さまのままです。」
誰も王さまの素顔を話題にしませんでした。
だって、もしそれが本当でも、
信じる心がなくなったら、王国そのものが消えてしまうのです。
そしてみんなはもう一度、夜に集まりました。
王さまの声を聞くために。
◇
数日後、ルカ王はまた配信をしました。
白いローブをまとい、金の王冠を輝かせて。
「王様はね、たとえ裸でも、冠があれば王様なの。
みんなが見ていてくれるかぎり、私は王様でいられるのよ。」
すると、チャットがまた光りはじめました。
「ルカさま、ばんざい!」
「ずっとついていきます!」
「今日も世界でいちばん輝いてる!」
王さまはうれしそうに笑い、
画面の向こうの民たちは涙を流しました。
◇
誰もがうすうす知っていました。
あの王冠がデータの光でできていることを。
あの笑顔の裏で、人間の息づかいがあることを。
けれど、王さまが語るたびに、
みんなはそれを忘れるふりをしました。
「王さまは今日も美しい。」
それだけを信じることで、
王国は今日も輝きつづけるのです。
◇
こうして、王羽ルカの王国は、
今もインターネットの空の上で続いています。
誰もが王さまの衣を見ているけれど、
誰も「見えない」とは言いません。
みんなで、王さまの服を縫い続けるのです。
「見えないけれど、ちゃんとある。」
「感じるから、本物だ。」
——だって、それがいちばんきれいな服だから。