セクハラ辞めたらパーティーメンバー全員病んだ。なんで?   作:陽波ゆうい

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第14話 2人っきりの時間が終わるのなら

「私は辞めませんよ? これからずっと……」

  

 ユーガ君の胸に顔を埋めて、離れたくないと言わんばかりに。

 子供みたいに強く抱きついく。

 

 がっしりとした身体つきを感じる。

 体温が伝わってくる。   

 少し早まった鼓動もちゃんと聞こえてくる。

 

「ユーガ君……」

「ま、マルテさん……」

 

 お互いに、頬が少し赤くなっていて……。

 

 ……でも。

 

 それでも。

 

 ユーガ君は、私を抱きしめ返してはくれなかった。

 

 どうして?

 どうしてなんだろう……?

 

 切なさが広がっていく。

 表情も強張ってしまう。

 

 ねぇ、ユーガ君……?

 

 私、こんなにも抱きしめているのに?

 素直になっているのに?

 甘えているのに? 

 なんで、私のことを受け止めてくれないの……?

 

「ユーガ君……」

 

 甘えるように彼の名前を呼んで、自分の身体を押し当てるように、もっと密着するように、抱きしめる。

 

「……」

 

 ユーガ君は……やっぱり何も言わず、何もしてくれなかった。

 

 どうして?

 

 ねえ、どうしてなの……?

 

 昔から、私は甘えるのことが苦手だった。

 

 そして、あの子を引き取って母親として育てていくようになってからはより、甘えられる立場になれなかった。

 

 過去を振り返って。

 

 あんな風になっちゃいけない。

 もっとしっかりしなきゃ。

 ちゃんと、私がやらないと。

 

 そんな気持ちばかりで、私はいつも一歩引いて、周りを見て。誰かの支えになるような側にいた。

 

『じゃあマルテさん。みんなが起きてきちゃう前にいつものアレ、やりますから』

 

 けれど、ユーガ君が……無防備に甘えてきてくれたから。

 

 最初は子供っぽくて、なんだが母性を刺激されて可愛いと思っていたけれど。

 

 思いっきり抱きしめ返すと、そんな母性をくすぐる感覚はなくなって……。

 

 心の底から温かくなくなって私も、自然と甘えることができた。

 

 なのになんで……。

 なんで急に、私に甘えてくれなくなったの……?

 

『申し訳ないといいますか……。マルテさんには魔王を倒した立派な息子さんがいます。そんな彼の母親に抱きついているなんて……。それに、子供がいるなら旦那さんだっていますよね? そっちの方にはもっと申し訳ないというか……』

 

 あの言葉を聞いて、少しホッとした自分がいた。

 

 拒絶じゃないと分かったから。

 私のことが嫌いになったからではなかったから。

 

 何により、私に別に好きな人がいると勘違いしていたみたいだったから。

 

 けれど……距離を感じる。

 

 それだけじゃないような、また別の理由があるような気がするような。

 

 言葉でもそう聞こうとした時……。

 

「はーっ、いい風呂だったなー」

「気持ちよかったね〜」

 

 浴室の方からそんな声が聞こえてきて、こちらに近づく足音もする。

 

 もう、そんなに時間が経って……。

 

 2人っきりの時間が終わってしまう。

 

 誰にも見せたくない。

 誰にも邪魔されたくない。

 他の誰にも味わえない。

 

 そんな、私とユーガ君だけの時間が終わってしまう。

 

 嫌だ。

 いいや……。

 

 2人っきりの時間が終わってしまうのなら。

 

 ま(・)た(・)、(・)作(・)れ(・)ば(・)い(・)い(・)。

 

◆◆

 

「はーっ、いい風呂だったなー」

「気持ちよかったね〜」

 

 遠くからジーナさんとセフィアさんの声が聞こえてきて、

 

 そこで俺は、ようやく我に返った。

 

「ま、マルテさんっ!」

「……。そうですよね」

 

 俺が焦って声を掛けてれば、マルテさんは寂しそうな微笑みを浮かべながらもスッと離れてくれた。

 

 次の瞬間、リビングの扉が開かれる。

 

「ただいまユーガ、マルテ! いやーっ、さっぱりしたっ!」

「ユーくん、マーちゃん。お風呂気持ち良かったよ〜♪」

 

 湯上がりでほかほかした様子のジーナさんとセフィアさんが現れた。

 

「お、おかえりなさい2人ともっ。お風呂良かったみたいで何よりです……!」

 

 なんとか笑みを浮かべて答える。

 

 けど、胸の内はまだ整理がつかないままだ。

 

 だって、マルテさんから抱きしめられたのも初めてだし、あんな切ない表情やどこか色っぽく囁かれたのだって……。

 

 と……思考が変な方向に行きそうなのを頭をぶんぶん振ることで冷静さを取り戻す。

 

「次はマルテが風呂に入る番だな。今入るか飯食ってからにするかはマルテが決めて……って」

「ユーくんは食後の方がいいかなって気は……。あれ? マーちゃん? お昼ご飯作ってないの?」

 

 ジーナさんとセフィアさんの視線がマルテさんとキッチンの方に交互に向けられた。

 

 キッチンにもテーブルにも料理はない。

 

 そこで俺は気づく。

 

『ジーナさん、セフィアさん。お風呂を沸かしてきましたのでお先にどうぞ。ゆっくりしてきていいですからね。その間に私は昼食の用意をしますから』

 

 そうだ。マルテさんは2人がいない間に、昼食を作るはずだった。

 

 でもそれができなかった。

 しなかった。

 

 何故なら、俺に思いっきり抱きついていたから。

 

 いや、もしかして最初から俺と2人になって抱きつくのが目的だったりして……?

 

 俺もマルテさんの次の言葉が気になって、3人の視線が集まる中……。

 

 マルテさんはくすりと笑って。

 

「ごめんなさいジーナさん、セフィアさん。私、ユーガ君とお話しするのが楽しくて、全然手が動いていませんでした」

 

 そう言ったマルテさん。

 

 おもむろに、キッチン近くの棚に移動して……包みを取り出した。

 

「ユーガ君が昨日買ってきてくれた食材で軽くつまめるおやつのようなものは作っていたので、それで少しお腹を満たしてもらえませんか?」

「おうよ! アタシたちはいくらでも待つぜ!」

「マーちゃんのご飯は美味しいからね〜♪ おやつも絶対美味しいだろうし〜」

 

 ジーナさんとセフィアさんが嬉しそうに笑う。

 

 ……マルテさんがさっきまで俺を抱きしめていたなんて微塵も気づいていない。

 

 なんとか誤魔化せたのかと、胸を撫で下ろしたのも束の間。

 

「そんなに盛り上がる話だったのかよー、ユーガっ。アタシにも聞かせろよ〜」

「わたしも聞きたーい! マーちゃんとどんな面白いこと話していたのー?」

 

 2人の視線が俺に集まる。

 

 そりゃ、そうだ。

 あのマルテさんが料理を作ろうと決めて作らなかったことは、今までになかったのだから。

 

 気になるよな。

 しかし、実際には話で盛り上がっていたわけじゃなくて……。

 

「ダメですよ、2人とも」

 

 マルテさんが宥めるように言う。

 

 でもそれは、いつもの気遣いの一言とは何か違っていて……。

 

「私とユーガ君は今から2(・)人(・)で(・)買い物に行ってきますから」

 

 




そろそろヒロインの過去編も書きますかね。

「続きが気になる」や「面白い!」と思ってくださった方は、高評価、感想を頂けると更新のモチベに繋がるのでよろしお願いしますm(_ _)m
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