マーベルスパイダーマン:ブルーキャンバス   作:ハマチの肉片

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と言うわけで1話です。


スパイダーマン異世界に飛ぶ

夜のネオンが反射して煌めく街の屋上に一つの影。

白と黒のスーツ。胸には大きくクモの紋章。

その瞳は下で行われているロボットと学生の銃撃戦を静かに見下ろしていた。

 

街の空気は焦げた鉄と煙の匂いで満ち、遠くでは警報のサイレンが響く。

見慣れない街、見たことのない制服の子供たち。だが、暴力と混乱の光景だけはどこの世界でも同じだ。

 

「子供たちがロボットと銃を持って撃ち合ってるなんて、こっちの世界は随分教育熱心なんだね。先生感激だよ。まぁちゃんと教師できたのたった1日だけどさ」

 

苦笑まじりに呟き、夜風を受けながら屋上の縁に立つ。

かつての1日だけ教鞭を握った日を思い出す。――やっぱり、ヒーローをやりながら教師の両立は無理だったな。

 

「よーし、科学者、元教師としてロボットには"人を攻撃しちゃダメ"、子供達に"銃なんて持っちゃダメ"って教えてあげなきゃ!スパイディーティーチャーが今行くよ!」

 

軽口とともに屋上から飛び降りる。

夜の風が顔を撫で、下のネオンライトが流れるように過ぎ去っていく。

落下の最中、手首から放たれた白い糸が、ビルの光を切り裂いて一直線に走った。

最前列にいたロボットの銃を地面に縫い付け、火花が散る。

 

「ねぇ!なんでロボットが人に銃を向けてるの?それってロボット三原則に違反してないかな!」

 

冗談めかした声を響かせながら、次々と糸を射出。

インパクトウェブが炸裂し、後方のロボットたちを壁に貼り付けていく。

まるで金属のクモの巣が夜の街に広がっていくようだった。

 

「なっ、何者だ貴様!」

誰かが叫ぶ。

 

「僕のこと知らないの?!えー意外と僕有名だと思ってたんだけどなぁ、ちょっとショックだなぁ…ねぇ、後ろの君たちは知ってるよn――」

 

言いかけた瞬間、スパイダーセンスが背筋を走った。

時間が一瞬だけ引き伸ばされたように感じる。

反射的に横へ飛び上がると、次の瞬間その場を銃弾が貫いた。

 

「ちょっと!君たちのこと助けようとしてるんだけど?!急に撃つなんて危ないだろ!」

 

「そんなピチピチスーツ着てる変態に助けられても嬉しくねえわ!」

 

「ガーン!ピチピチスーツって、いつもはもっとかっこいいスーツ着てるんだよ?!信じて!」

 

「知らねえよ!うわっ、こっちに白いもん飛ばすなよ!」

 

「その言い方だとちょっと語弊が生まれるなぁ!」

 

弾丸が夜気を裂き、スーツの装甲をかすめる。

アンチヴェノムスーツの表面がわずかに波打ち、黒と白の境界が呼吸のように脈動した。

着ているスーツは、この世界に来てから唯一持ち込めたもの。

他のスーツは、全部元の世界に置いてきてしまった。

 

(……それにしても、ここの子たち、引き金軽すぎない?)

内心で苦笑しながら、ウェブを構えた瞬間、街路の向こうから鋭い声が響く

 

「ヴァルキューレだ!止まれ!その場で手を上げろ!」

ライトが一斉に灯り、青白い光が視界を染める。

目を凝らし光の方を見ると青と黒の制服に身を包んだ警察の部隊が現れていた。

「ヴァルキューレ…?」

聞きなれない単語を口にしながら僕は眉を顰める。

部隊が銃口を向けているのはロボットと学生…だけではなく目の前にいる僕。

 

「えーっとさ、もしかしてだけどこれって僕も悪いって見られてるってそんな感じ?」

 

冗談を言っても反応はなくただ無慈悲なレーザーが僕の体を掠めるのみ。

「はぁ、どこにいっても狙われちゃうのか。僕って罪な男!」

 

ため息をつきながらウェブを構える。

銃声。

スパイダーセンスが全身を駆け巡り、僕は飛び上がる。さっきまでいた場所に弾丸が走り、スーツが光を反射する。

 

「オッケー、ねぇまず落ち着かない?僕は別に怪しいものでもピチピチスーツの変態でもなくてーー」

 

弁解をしようと着地をした瞬間弾丸が右腕に当たる。シンビオートが止めてくれなきゃ腕に穴が空いてたかも。

 

「いった!いや、ちょっと待ってよ!一旦話し合わない?!」

 

目の前の警察(にしてはみんな女の子だし若いけど)には迷いがない。

 

「市街地でアンドロイドと生徒の交戦発生、現在正体不明のスーツ男と交戦中。危険人物と判断します。」

 

「いやいや!大体合ってるけど悪意はないんだって!…ってこれは説明しても無理そうか…ハァ…」

 

次の瞬間スーツの表面が蠢き、表面に白い筋繊維のようなものが盛り上がる。着るたびに思い出すのはかつての制御を失いかけたあの夜。ーーでもそんなことは言ってられない。

 

「ちょっと手荒に行こうかな…!」

 

地面を蹴り、ウェブを射出して一人の銃を絡め取って別の子に投げる。

もう一方から壁に向かってウェブを撃ち、跳躍する。反応速度を限界まで引き上げて視界がスローモーションに変えていく。レーザーの光が遅くなった視界で美しい軌跡を描く。

 

「怪我しても怒んないでよ!」

 

数秒後周囲のロボットも学生、ヴァルキューレの隊員までもがウェブに縫い付けられたまま動きを止めていた。

硝煙と火薬の匂いと微かに聞こえるサイレンの音。

スーツの表面の熱が冷めていくのを感じながら僕は肩をすくめる。

 

「ね、これでちょっとはお話ししてくれる気になった?僕ももう結構、ヘトヘトなんだよね」

 

「スーツを着た変態に攻撃を受けている…増援を…」

 

「だから変態じゃないって!まだまだ誤解は解けそうにないね…トホホだ」

次の瞬間、スパイダーセンスが弾ける。

近づいてくる気配を感じ、僕は小さく息を吐く。

 

「ほんと、どこにいっても誤解されちゃう運命なのかなぁ…ま、ヒーローってそんなもん!」

 

ウェブを宙に放ち、闇に溶けるように跳躍する。

ビルからビルへ、合間を縫ってスイングするたび後ろから聞こえる怒号やサイレンがどんどん遠ざかっていく。追撃のドローンやサイレンの光も白くなっていく世界に吸い込まれるように無くなっていった。

やがて夜の闇は消え去り、東の空が淡く青みを帯び始める。

近くのビルの屋上に駆け上がり肩で息をしながら周囲を見渡す。

 

「ふぅ…ここなら大丈夫かな…漸くこのブラック企業よりもブラックな通気性なしのスーツともおさらば!」

 

スーツが蠢き、体の中に入り込んでいく。

その下から現れたのはどこにでもいそうな青年、ピーター・パーカー。

 

「やっぱりどこでも誤解から始まる友情って奴は難しいね」

 

汗でじっとりとした髪をかきあげて軽く背伸びをする。ふぅーっと深呼吸をすると朝焼けの気持ちのいい空気が肺の奥に満ちていく。

 

「それにしてもニューヨークに負けず劣らずのいい朝だね。朝の空気、サイコー!」

 

屋上の柵に肘をつきながら朝焼けを眺める。

さっきまでの喧騒が嘘みたいに静かに感じる。遠くから聞こえる街が動き出す音、どこかから流れてくるアナウンス。

 

『生徒の皆さんおはようございます。登校する前に銃の安全確認を忘れずに、さぁ今日も元気にーー』

 

「銃の安全確認…?」

一瞬聞き間違いかと思った。

でも確かに聞こえたどこかから聞こえてきたアナウンス。

ごく自然に、銃火器を持つことが当たり前かのようなアナウンス。

「嘘だろ、ここって銃火器を持つのが当たり前のなのか?」

見下ろすと、街中を学生服姿の子たちが歩いている。

制服は見慣れたブレザーに見えるけど、腰にはピストル。

中にはロケットランチャーみたいなのを背負ってる子までいる。

「おいおい、子供達が銃を持ってるのが当たり前…?大人は何をしてるんだ」

 

ピーターは肩をすくめ、街の看板に目をやる。

書いてあるのは日本語、歩いている子供達もよく見ればみんなアジア系の顔だ。

 

「日本ってこんなに治安悪かったっけ…?僕の知ってる日本はもうちょっと平和だったはずだけど…」

 

苦笑して肩をすくめながら、スマホを取り出す。幸いWi-Fiは繋がるようで地図アプリを起動すると見覚えのない地図と地名、そもそも日本語で書かれているせいでほぼ読めないが。唯一読めた文字は

 

「“キヴォトス”…って場所?聞いたことないな。日本語なのに、全部知らない地名ばっかり」

 

ふと、昨夜の戦闘を思い返す。

銃を持った学生、ヴァルキューレと名乗る警察、そしてロボットの群れ。

どれも“僕の知る現実の日本”ではありえないものだった。

 

「……なるほど。言葉は通じるけど、文化も法律も倫理も全部違う。

これ、ひょっとして……異世界、なのか?」

 

朝の光を浴びながら、ピーターはため息混じりに笑う。

 

「異世界転移かぁ。人生で一度はやってみたいリストの上位には入ってたけど、いざやると現実味ないね。

……ま、ヒーローやってる時点で現実味なんてとっくに捨ててたけど」

 

軽く首を回して伸びをする。

空の色も、空気の匂いも、どこか現実離れしている。

それでも――どんな世界でも、困ってる人がいれば助ける。それだけは変わらない。

 

「さてと…まずは情報収集。何事も、まずは見てみないとね――“新入りピーター・パーカー”としての一日目、スタート!」

 

 

さて、街をぶらぶら歩きながら目についた情報を整理すると

ここの名前はキヴォトス。いろんな学園が合体してできてる超巨大学園都市。

銃を持ってるのが当たり前で持ってない人は全裸で街を歩く人より少ないくらい。

人の大人が今は一人しかいなくてその人はみんなに先生と呼ばれているみたい。

他の大人は猫とか犬の他にオートマタ…昨日僕がロボットって呼んでた人たちね。

 

「そして何より個人的な問題なのは…」

 

窓に映るなかなかにイケメンな男の顔を見る。

「若くなってるよなぁこれ…」

 

大学を卒業するちょっと前くらいの時まで若返っている自分を見る。

「通りで"僕も大人だよ"って言った時に変な顔をされたわけね…」

腰の痛みもなく、動きも軽い。

試しに屈伸してみて、思わず笑う。

 

「戦ってる時は気づかなかったけど腰の痛みもなくなってるし、体の状態が若くなってるのか?ふん…たいして変わってないと思ってたけど老いってあるんだなぁ…」

 

しみじみと若くなった体を眺めて歩いて、ふと喉の乾きに気づく。近くの自販機に近寄より、財布を開いた。

 

…そしてそこで一番最初に気にするべきことに気づいたんだ。

 

「大事なこと気にするの忘れてたぁ…」

 

近くベンチに座って頭を抱える。手元の財布には5$と8セント。

「我ながらなんとも寂しい財布だけど…そんなことは大した問題じゃないんだよな」

 

そもそも自販機の値段設定は$ではなく"円"

ここでは$が全くの無価値。

 

「ガッデム。」

 

目の前では学生達が電子マネーを使って楽しそうに飲み物を購入し雑談に興じている。

それをみてピーターはため息をつく。

 

「いくらスパイダーマンでもお金がなきゃ何もできないんだなぁ…」

 

(お金を稼ぐ手段を見つけておかないと、何かガジェットでも作って売ろうか…いや、流石にマズイかな…)

 

そんなことを考えていると後ろから元気な声が響いた。

「あーっ!男の子ーっ!!」

「…え?」

 

振り向くとそこには白い外套とスーツを着たーー

大人とも子供とも言える微妙な背丈の女性が嬉しそうにこちらを指さしていた。それもものっすごい笑顔で。

「君どこから来たの?外から?私もそうなんだ!」

「あ、そうなの?」

 

じゃあこの子が先生か…随分若く見えるけど…

 

「ヘイローない人が私以外にもいて良かったよ!あ、私先生!よろしくね!お名前は?」

「あ、え、うん。よろしく、僕はピーター。ピーター・パーカー…です。」

 

「ピーター君か!よろしくね!で、何か困ってる顔だったけどなにかあった?先生に相談してみてよ!」

 

少し笑いながら肩をすくめる。

 

「困ってるって言うか…この世界でお金が使えなくてね。喉が渇いたのに飲み物一つ買えないんだ」

「え?あー!もしかしてそれ現金?」

 

先生が不思議そうに覗き込む。僕は財布の中からくしゃっとした札を取り出してみせた。

 

「そう、5ドル札と8セント。これが僕の全財産って訳。」

「えっ、ドル?!うわードル紙幣だ!」

先生は目を丸くしながらまじまじと見つめる。

「いやー旅行とか行ったことなかったからさ、実物初めてみたよ!こんな感じなんだー!」

「ハハ、お金見せてそんな反応されるの初めてかな」

「だってこれアメリカのやつでしょ?私日本から出たことないもん」

「うーん、アメリカ人の一般的な寂しい財布の中身なんだけどね」

 

先生は興味津々で紙幣を見ながら、小首をかしげる。

 

「ねえピーター君、アメリカから来たってことはさ…なんでそんな自然に日本語喋れてるの?」

「え、あれ?僕いま日本語喋ってる?」

 

「うん、すっごい流暢、発音も完璧!」

「嘘だろ…僕英語で話してるつもりだったんだけど…」

 

思わず口元を押さえて何個か単語を発してる。

発音も文法も頭の中では英語なのに、耳に届く発音は昔映画で見た完璧な日本語だった。

 

「…なるほど…これもこの世界に来た影響ってことか」

「あー、翻訳的な?そう言う便利機能あるのかも!犬と猫の言葉わかるし!」

 

なるほどな…異世界に来た混乱で気にしてなかったけど犬と猫の言葉がわかるのもおかしな話だよな。

 

「多分そんな感じかな。まぁ色々変なことは経験してるから対して驚かないけどさ。」

「変なこと?」

 

「うん、まぁ…蜘蛛に噛まれちゃってから人生いろいろ変わったよ…ほんとにね」

「蜘蛛?うーんなんか難しいねピーター君」

「ハハッ」

 

先生はクスクスと笑って、少し柔らかい目で僕をみる。

 

「でもさ、そのお金キヴォトスじゃ使えないね。ここ、電子通貨でしか支払いできないから」

「やっぱりか、お金入れるところもなかったし。学生達みんな"ピッ"だったもんな…」

 

「そうそう、ここではもう現金支払いなんて死語なんだよー死語!」

「うーん…世界の進化に取り残されてる気分…」

 

先生は笑いながらこちらに体を向ける。

「ねぇピーター君。もし行く宛がないならさ。ーーシャーレに来ない?」

「シャーレ?」

 

「うん。キヴォトスで起こる色んなトラブル、事件を調査して解決する組織。私もそこで働いてるんだ。もし困ってるなら一回来てみてよ。もしかしたら助けになれるかもしれないし、あとヘイローが無い同士仲良くしたいし!」

 

 

「…そうだね、結局行くあてもないし。もしお邪魔していいなら」

「良かった!大歓迎だよ!」

 

「じゃあ決まり!」

先生は満面の笑みで手を差し出す。

"ようこそキヴォトスへ!ピーター君!"

 

その手を握り返しながら僕は少し笑った。

"別の世界でもこうやって誰かの手を取ることになるんだな。"

胸の奥にそんな言葉が静かに響いた。

 

 

「ピーター・パーカーさんですね。正しい身分証明書の提出をお願いします」

「いやだからそれがないんだってば!!」

 

窓口で僕は目の前の書類や前から向けられる好奇の目線に辟易していた。身分証に書かれてる年齢は25歳、でも目の前にいるのは高校生。

見た目は高校生、心は25歳。

このギャップはどこにいっても面倒臭い。

 

「外部から来た方の口座開設には、先生の紹介状と居住証明書、あと指紋データが必要になります」

「えーと、紹介状は先生から貰ったけど、居住証明書って……」

「え、住んでる場所がないんですか?」

「今朝まで別次元に住んでたんだけど、それじゃダメ?」

 

「…は?…」

 

「……ですよねぇ」

 

数時間の格闘の末なんとか口座開設に漕ぎつけた僕はぐったりとした顔で銀行のソファに沈み込んでいた。

 

「あ゛ーどこの世界でも銀行のソファって言うのは快適なんだね…」

「お疲れ様、ピーター君時間かかったねー」

 

先生がコーヒーを差し出してくれる。

 

「ありがとう…まぁちょっと事情がね。…このコーヒー現金じゃ買えないんだなって考えると時代を感じるよ」

「ふふ、ようこそキャッシュレスの世界へ」

 

一口飲んでホッと息をする。

この世界に来てからずっと緊張していた体が少しほぐれたような気がした。

 

「で、ピーター君。せっかくだし、これからどうするの?」

「とりあえず稼がないとね。学生に混じって働ける仕事でもあれば……」

「じゃあさ!」

先生が唐突に身を乗り出してくる。

「うちのシャーレで働かない?外から来た人ってだけで興味津々な子も多いし。ほらここって頻繁に銃撃戦起きるでしょ?何かあった時に近くに入れたほうが何か安心なんだよね」

 

「なるほど、確かにひとりでいるよりはそっちの方がいいか…」

「本当?!よかったあ。断られたらどうしようかなって思ってたんだ。君みたいに落ち着いてて、行動力がある子がいると私も安心できるよ!」

「確かに結構忙しないよね、先生」

「むっ、そんなことないよー!」

二人でコーヒーを飲みながら笑い合う。こんなにすぐ安心して話せる人も久々だ。

 

「あ、せっかくだからシャーレでこんなことしてみたいよ!みたいなものある?」

先生が紙コップを片手に首を傾げる。

 

「そうだなぁ…人に何かを教えたりするのは得意だよ。前の世界でも教師みたいなことしたことあるし」

「へぇ、先生タイプなんだ!私と一緒!」

「まぁ、人の話を聞くのは好きだし教えるのも嫌いじゃないよ。あと…科学関係なら割と、発明とか分析とか。そう言うの得意だよ」

 

「最高じゃん!ちょうど機材のメンテナンスとか解析担当とか外注してたから。これで人件費節約できる!」

「いやいや、節約って言葉出すのやめない?」

 

「まぁ、シャーレってそんな感じだから」

先生の目が一瞬で死んだ。

 

「…ブラックの香りがするんだけど」

「大丈夫大丈夫!残業は…多分多いけど!気のせい気のせい!」

「多分って言ったね今?!」

 

「まぁ…でも頑張るよ。折角ここまでやってくれた訳だし。」

「うん、いい返事!」

 

 

「じゃあ、正式にシャーレの職員になるにはまた書類と睨めっこしなきゃだけど。これ仮の身分証明書ね!」

 

先生がカードを渡してくれる。

そこには達筆な手書きでこう書かれていた。

 

仮!

連邦捜査部シャーレ/技術顧問

ピーター・パーカー

 

「技術顧問って…だいぶ盛ってない?」

「響きがかっこいい方がテンション上がるでしょ?」

「うん、それはそうかも?」

 

カードを見ながらようやくこの世界でも居場所を見つけられたような気がする。

 

ーーその瞬間

 

「先生ー!クロノスが!クロノスが来てます!!」

銀行の職員がドタバタと足音を立てながら近寄ってくる。ドアの向こうにはカメラを構えた生徒達。

 

「シャーレに新職員の噂が出てますが噂の真偽は?!」

「もしかしてその隣に男性ですか?!すごい若い!」

「名前がピーター?!なんか英語っぽい!イケメンじゃん!!」

「もしかして異性とーー」

 

「はぁ、どこの世界でもこう言うのってあるんだね…」

 

コーヒーを飲み干し立ち上がる。

 

「取り敢えず笑顔で対応で切り抜けるか…」

 

先生がクスクス笑いながら肩を叩く。

 

「第一印象大事だよ?ピーター先生?」

「先生はやめてよ、まだ新人なんだからさ」

 

カメラのフラッシュが光り、その日僕は「もう一人の大人」として正式迎えられた。

 

幸先はまぁーー不安しかないけど。

それでも少しだけ、悪くないような気がした。

ネオンの光があたらしい世界での幕開けのように街に広がっていった。

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