マーベルスパイダーマン:ブルーキャンバス   作:ハマチの肉片

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ヒーローはどこ?

ヤァみんなおはよう、ピーター・パーカーのキヴォトス二日目だよ!

さて、昨日先生に拾ってもらえたおかげでなんとか野宿をしなくて済んだ僕は、久しぶりにちゃんとしたベッドで眠れた。

おかげで体も頭も軽い軽い。まぁ若返ってるってのもあると思うけど。

…異世界に来て軽くなるって表現もどうかと思うな。嬉しいは嬉しいんだけどね。

 

「さてと、スーパーヒーローから失業者を経て、今日はシャーレの新米職員。人生、何が起きるかわからないな。」

 

ぼそっと呟きながら、支給された制服に袖を通す。

白衣とスーツの中間みたいな制服で、肩のあたりがちょっとキツイ。

どうやらこの世界の標準体型は僕よりも小柄らしい。

鏡に映る姿に少し苦笑して、髪を整える。

最後に見た頃より少し幼く見える顔。……それもそのはず、年齢まで巻き戻ってるんだから。

ほんと妙なことがよく起こる人生だ。

 

「おはようピーター君!起きてた?」

ドアをノックして入ってきたのは先生。

いつもの明るい笑顔で、手にはトーストとコーヒー。

朝の光が差し込む研究室みたいな部屋で、彼女の笑顔だけが妙に現実的に感じられた。

 

「おはようございます、先生。あの、昨日も思ったんですけど……僕の部屋、豪華すぎません?」

「そう?寝袋よりはマシでしょ?」

「うっ……それは、そうですね……」

 

なんと僕に割り当てられた部屋は、広さ的には僕が暮らしてたアパートの約2倍。

ダブルベッドを置いてもまだ余裕がある。

ここが部屋だよと言われた時は目を疑った。

まさか先生と二人で寝るのか?!とか思ったりもしたが、そんなことはなかった。

 

「今日は軽めの作業だよ。昨日言ってた通り、壊れた端末とか通信機器のチェック。

エンジニア部から貸してもらった機材もあるから、慎重にね。」

 

先生はパンをかじりながら軽い調子で言うけれど、僕にとってはかなり重要な任務だ。

なにせ、こっちの世界の“科学技術”がどんなレベルなのかを知るチャンスでもある。

僕の中の科学者魂がちょっとワクワクしてた。

 

「オッケー、任せてください。電子機器の修理ならちょっと得意分野なんで。」

「頼もしいねー。さすが工学科生!」

「まぁ、ちょっとだけ“蜘蛛っぽい”研究とかしてたことありますから。」

「蜘蛛?」

「えっ!?いや、なんでもないです!!」

 

あっぶな……!

完全に口が滑った。

この手の発言、昨日から三回目だ。

隠すの、下手になってるなほんと。

 

それでも先生は深く追及せず、いつもみたいににこっと笑って「無理しないでね」とだけ言った。

……なんだろう、あの笑顔。

人を見透かしてるようで、でも責める感じは一切ない。

ああ、こういう人だから“先生”なんだなって、ちょっと思った。

 

作業場に移動して、壊れた端末を分解する。

中の基盤は見慣れない構造で、見たことのない素材が使われていた。

でも、理屈は同じだ。電気が流れて、情報を伝えて…

「法則が共通してるって、なんて安心するんだろう…」

 

小さく呟いて、工具を手に取る。

慣れた手つきでチップを取り外し、導線を組み直す。

オクタビアス博士のところでやってた作業を思い出す。楽しかったな。

 

そんなことを考えていると、気づけばあっという間に三台修理していて、先生が後ろで目を丸くしていた。

 

「ピーター君、すごいね……!それ、エンジニア部でも一日かかるんだよ?」

「え、そうなんですか?なんか勝手に腕が動いて。」

「ふふ、そういうの“天職”って言うんだよ。」

 

その笑顔に、ほんの少しだけ胸が温かくなった。

……でも、心のどこかでは思っていた。

今の僕は“ピーター・パーカー”として働いているけど、

ほんとは“スパイダーマン”としての自分を隠してる。

また嘘をついてるような感覚。

だけど、先生の前では――それを言えない。

 

「…ん?ピーター君?」

「……あ、いえ。なんでもないです。ちょっと、考えごとを。」

「考えごと?」

「えっと……ここでなら、自分の得意なことをもっと活かせるかなって。」

 

先生は少し目を見開いて、それから優しく笑った。

「じゃあ、これからもそういう仕事いっぱい任せちゃおうかな。あ、もちろん私も手伝うよ?」

 

その一言に、少しだけ肩の力が抜けた。

初めて異世界に来て、誰かに“必要とされてる”と思えた瞬間だった。

 

⸻

 

何台か修理を続けていると、シャーレの中にはない工具が必要になってしまった。

「先生、ちょっと僕買い物に行ってきてもいいですか?」

「いいよー!あ、支払いは昨日渡したシャーレのカード使ってね。あと領収書もお願い。」

「分かりました、ちょっと行ってきますね。」

「気をつけてねー。」

 

さっきまで着てた作業着の上着を脱いで、シャーレの外套を羽織る。

ネームプレートの中にカードは入ってるから大丈夫。

外に出ると、やけに青い空が広がっていた。

空に浮かぶ天輪を見ると、ここが自分の知る世界ではないんだなと再認識してしまう。

 

「えーっと…工具が買えるようなところって…あぁ、結構歩くんだな。シャーレがあるのはDU市?の郊外とは言われてたけど、ここまで遠いのか。」

 

一瞬スイングしてパパッと行ってしまおうかとも思ったが、せっかく異世界に来て安心して歩ける初日だし、ちゃんと自分の足で歩こう。

昨日は緊張してて、ちゃんと街の雰囲気を掴むこともできなかったしね。

 

しばらく歩いて大通りに入ると、昼休みなのか学生たちが和やかに買い物をしているのが見える。

まぁ背中には銃を背負ってるわけで、その時点で物騒ではあるけど。

 

「フン、どこ見ても銃器があるのはやっぱり慣れないな。」

先生はよくこんな状況であんな明るくいられるな。肝っ玉が大きいんだろう。

「さて、早いとこ買い物終わらせて戻らないと。」

 

そう呟いた瞬間だった。

 

―――パンッ。

渇いた銃声が向こうの通りから響いた。

 

「ちょっとマジ?」

思わず足が止まる。周囲の学生たちが悲鳴を上げながら慌てて物陰に隠れる。

呆然として立ち尽くしていると――

 

「ちょっと何突っ立ってんの?!」

近くにいた学生に首根っこを掴まれて物陰に引きずり込まれる。

「あぁ…ありがとう。」

「あなた昨日ニュースになってたピーター?さんでしょ?ただの人間なんだから気をつけないと危ないよ。」

 

「私たちは平気だけど」と呟きながら、向こうの通りを見る彼女。

僕も恐る恐る同じ方向に目をやると、宝石店?かな。

ヘルメットを被った集団が押し入って、中のものを取ろうとしているのが見える。

 

――強盗だ。

 

どこの世界にもやっぱりいるんだなと心の中で苦笑すると、隣にいた生徒がため息をつく。

「またヘルメット団か…最近多いな。」

「ヘルメット団?」

「そ、学校辞めたり退学させられた生徒が集まった不良集団だよ。ああやっていろんなところに迷惑かけてるの。

シャーレができた最初の頃は少なかったんだけど。」

「なるほど…」

「まぁすぐヴァルキューレが来るよ。宝石店みたいな店だとすぐ来てくれるから。」

 

「た、助けてくれー!」

「うるせえな!ただ店のもんよこせって言ってるだけだろ!」

 

強盗の一人が怒鳴る。

店員の犬獣人は怯えながら両手を上げている。

周りに助けを求める怯えた目を見て、胸の奥がチクっとする。

 

……ダメだ。

昨日は事情を知らなかったから戦えたけど、人間の男が僕しかいないと知った今、派手な動きはできない。

それにここは僕の世界じゃない。この世界にはこの世界なりの秩序があって、このルールがある。

下手な干渉は取り返しのつかない問題を起こしかねない。

 

自分に言い聞かせるように唇を噛み締める。

だが、次の瞬間。

 

「チッ、めんどくせぇなぁ!撃っちゃえ!」

 

その言葉を聞いた瞬間、体が動いてしまった。

 

「助けてくれてありがとう、でも急ぎの用事があるからまたね!お礼はまた今度!」

隣にいた学生が「え?」と顔を上げた時には、すでに僕の姿はなかった。

 

⸻

 

近くの屋上。

風が彼の頬を撫でる。

白い触手が体を包み込み、不気味な光沢を纏う。

――アンチヴェノムスーツ。

昨日ぶりの感覚に、思わず小さく息を漏らす。

 

「…ヒーローは休めないってね。」

 

通りの上に飛び降り、宝石店の前の道路にド派手に着地する。

 

「ワンちゃんをいじめるのは愛護団体が黙ってないよ!」

 

ガラスの割れた店の中に飛び込み、近くにいたヘルメット団を壁に貼り付ける。

突然現れた白い人影に、強盗たちがどよめく。

 

「なっ、なんだこいつ?!」

「白スーツ?!昨日の奴だ!撃て!」

 

銃声が鳴り響く。

けれど放たれた銃弾が彼を捉えることはなかった。

ピーターはすでに天井に飛び上がり、照準を定めていた。

 

バシュッ、と鋭い音と同時にウェブが放たれ、銃を床に貼り付ける。

もう一度ウェブを撃ち、相手の足を吊り上げる。

 

「ちょっと!こんな狭いところで撃って!跳弾が危ないだろ!」

 

軽口を叩きながらウェブを撃ち、店にいた強盗をどんどん叩きのめしていく。

強盗たちは壁に貼り付けられたり、殴られて気絶して床に転がっている。

一瞬にして、強盗たちは制圧された。

 

吊り上げられた強盗が暴れているのを見上げながら、スーツの中でピーターは小さく呟く。

「なんだかんだ、こうしてるの落ち着くかも…。」

 

遠くからパトカーのサイレンが鳴り響く。

先ほどの生徒が言っていた通り、すぐヴァルキューレが来たようだ。

その前に逃げないと、捕まって面倒になるだろう。

 

「そろそろヴァルキューレが来るから安心して!

あ、ウェブは3時間くらいで溶けるから気にしないで!じゃあまたね!」

 

店から飛び出そうと、向こうの壁にウェブを撃ち込み飛び上がろうとするピーターを、店員が呼び止める。

「なぁ!助けてくれてありがとう!ピチピチ白スーツ!」

「なっ、はぁ?!」

その呼び名に思わずずっこけるピーター。

「僕の名前はスパイダーマン!テレビの人にもそう言っといてね!恥ずかしいから!」

 

スーツの下で笑みを浮かべながら、スパイダーマンは街の中に消えていった。

 

なんとかその後買い物を終わらせてシャーレに帰ってきた僕。

先生からは「やけに遅かったけど大丈夫?」と聞かれたが「ちょっと道に迷ってて」となんとかやり過ごした。

大きな機械の修理は終わったから今は先生の書類整理を手伝っている。

そんな中、先生がふとテレビのニュースを指差す。

「見て、ピーターくん」

モニターに流れたニュースにはさっき僕が助けた宝石店の映像が流れていた。

 

『DU市内で発生した強盗事件は、謎の白い人物によって被害が最小に抑えられました。被害を受けた店主はピチピチ白スーツと呼ばれると呼ばれる謎の白い人物に感謝の言葉を___」

 

「ピチピチ白スーツ、あぁいやスパイダーマンが助けてくれたんだ!ありがとうスパイダーマン!」

 

『ヴァルキューレは昨日の銃撃戦と今回の事件に関与したと考えられるスパイダーマンの情報を求めているとのことです。』

 

……。

口を引き攣らせながら、まとめていた書類を箱にしまう。おいおい、あんまりにも情報が早すぎるぞこの世界。ジェイソンだって翌日にしか騒いでなかったってのに。

 

「…今日の昼の出来事が夕方に流れるって、ここの世界って報道早すぎない?」

「まぁ、熱心な生徒が多いからね…にしてもスパイダーマンかぁ…かっこいい名前だね!」

 

先生は笑顔でニュースを見つめながら、おおー!と感嘆の息をを漏らした。

その直後、ハッと気付いたようにこちらに椅子ごと滑ってくる。

 

「ピーターくんちょうどそのあたり通ったんでしょ?スパイダーマンどんな感じだった?!」

キラキラとした目をしながら肩を掴まれる。

 

「あーいや、ちょうどその時迷ってて前通ってないんだよね…見たかったなぁ…」

「そっかぁ…」

 

残念そうにトボトボと机に戻る先生、スパイダーマンのことを知った子供たちもこんな感じだったのだろう。

そう思うと、なんだか少しくすぐったい様な気がする。

 

窓の外、橙色に染まる街には生徒たちが放課後を楽しむ姿が溢れていた。

友人たちと笑い合う生徒の姿。

___僕の友人…ハリーやMJとの放課後。

歩んできた遠く昔の青い日々、ここにはそれが溢れている。

 

夕陽が目に刺さる。

 

「ヒーローはどこの世界でも休めない…か」

 

彼の声を先生は背中で聞いていた。

軽く笑いながらも、どこか遠くを見つめている。

まるでなにか大きくて悲しいものを抱えているように。

 

「…」

ピーターがこちらに気づく前に、先生は目線を目の前の書類に戻した。

机の上に散らばる書類を纏めながら先生は呟く。

「ピーターくんって、時々"大人"の顔するよね。」

 

聞こえる様に言ったつもりだった。だが返事はなかった。

振り返ると、彼は椅子にもたれ、静かな寝息を立てていた。

「ヒーロー…か」




と言うわけで2話目です。ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期な投稿にはなりますが気長にお待ちいただけると幸いです。
今回も結局生徒出せなかった…次回こそはちゃんと出します。ほんとです。

ピーター!私はお前が心の奥底で愛に飢えてるのを知ってるぞ!愛だよ愛!
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