【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……   作:しゅないだー

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カーテンコールを何度でも(下)

 

 

 

 それは一瞬のようにも、数時間のようにも思えた。

 

 

 いきなり現れた女性が私と妄獣の間に割って入って、魔法を使おうとして……使えてないし。頭がおかしくなりそうな訳の分からない状況の中で、必死で魔力を流して身体を治す。

 

 がくがくと震える手を何とか握り締める。まだ手は動くらしい。

 なら、足もいけるはず。生まれたての子鹿みたいになりながらも、何とか立ち上がった。

 この一瞬で生まれた僅かな時間のお陰で、あたしも最低限動けるくらいまで回復できたけど、肝心の状況は全く変わってない。

 

 凍り付いていた時間を溶かしたのは、口を持たない妄獣の咆哮だった。

 人の嘲笑にも似たそれと共に、拳が振り下ろされる。

 

「────ッ」

 

 痛む身体を鼓舞して、手を伸ばす。でも、届かない。

 一般人が魔法少女を庇って死ぬなんて、あっちゃいけないのに。

 

 だけど彼女は。

 一般人とは思えない俊敏な動作で振り下ろされる拳を避け、それどころかあたしの首根っこを掴んで後ろに下がる余裕まであった。

 

「ちょ、血! 血出てる!」

 

「あ、大丈夫ですよ。元魔法少女なので、避けるくらいなら何とか」

 

 妄獣の爪が掠めたのか、頬から赤い血を流しているのに。その人はそう笑ってみせた。

 

「いやいやいや、早く逃げて!?」

 

 相手も彼女の動きに普通の人間とは違う何かを感じ取ったのか、警戒して深追いしてこない。けどそれも、いつまで続くか。

 頭数だけで言えば確かに今はこっちの方が有利とはいえ、魔法少女の落ちこぼれと魔法も使えない元魔法少女。

 勝てる訳がない。

 

「智里ちゃんって呼んでいいですか?」

 

「いいけど……って、だからそれどころじゃないんだって! お姉さん、魔法使えないんでしょ!?」

 

「でもあなたは使えるでしょう?」

 

 パニックで、なんであたしの名前を知ってるのか考える余裕もなくて。

 口をついて出たのは、どうしようもない弱音だった。

 

「……あたしの魔法、役立たずだもん。勝てないよ」

 

 魔法が使えるだけ、恵まれている。魔力があるなら、妄獣に勝てる。

 確かにそれは事実だけど。事実という物は、時に嘘より残酷だ。

 

 

 

 ────あー……智里は後ろで待機しといて? 

 

 ────心読まれるとか、ちょっと私無理かも……。

 

 ────妄獣に効かない魔法って、何の役に立つの? 

 

 

 

 あたしの魔法は何の役にも立たなくて、なんなら人から嫌われる。

 魔法少女からは蔑まれて、普通の人からは理解されない。

 逆見さんにさえ吐けない、あたしの本当に弱い心。

 

 あたしは魔法少女なんかに生まれてこなければよかった。

 

 

 

「智里ちゃんは"顔付き"と戦った経験、ありますか?」

 

「……ない」

 

 昔、アイシスリリィが"顔付き"の親玉を倒してからその出現率はぐっと下がったらしい。

 今の魔法少女で"顔付き"を見た事がある子、ましてや戦った事がある子なんて殆どいないはず。

 

「口が付いた個体の中には喋る物もいました。つまり思考が、心があるって事です」

 

 そう淡々と話す女性に視線を向ける。

 その口振りはあたしの魔法について知っているようだった。妄獣に心なんてあるはずないのに、それでもあたしを鼓舞するように話し続ける。

 

「あの妄獣もそうですよ、顔は付いてないですけど。すぐにトドメを刺せばいいのに、あれはあなたを甚振(いたぶ)っていた。つまり合理的でない"悪意"があるって事です」

 

 確かにあたしが撤退しようとするのを、あの妄獣は瓦礫で生き埋めになっている父子を指差す事で牽制した。

 

「悪意も心ですよ」

 

 詭弁と言えば、それで終わり。でも彼女は心の底からそう信じているようだった。

 

「魔法少女の力の源は何か知ってますね?」

 

 こくりと頷く。

 

 欲望。

 

 性欲だとか、独占欲だとか、自己顕示欲だとか。

 とにかく何かを求める感情の動きがあたし達を強くする。

 

「もっと欲して、願って、祈って。ずっとあなたの一番側にいて、あなたを助けてくれたのは。その魔法なんですから」

 

 ずっといらないと思っていたあたしの魔法。

 

「大好きな人を思い浮かべて。その人と生きる明日を想像して。私達は魔法が使えるだけで、他の人と何も変わらないんですから」

 

 あたしの大好きな人。

 その言葉でまず思い出したのは逆見さん。

 そしてあたしを"天地智里"として見てくれた彼の顔が頭に浮かぶ。それはずっと消えないままで。

 

「……お姉さんだったら、あの妄獣に勝ってた?」

 

「ええ。こう見えても私、とっても強かったんですよ」

 

 少し戯けたような口調ではあるけれど、彼女が嘘を吐いているようには思えなかった。

 強い、ってどんな感じなんだろう。

 あたしが魔法少女であるだけで、この状況から逃げ出す事ができないように。

 この人も、他の魔法少女じゃ敵わないような強い妄獣と戦う事を強いられてきたのかもしれない。怖くても、痛くても。

 

 じゃあ結局、皆一緒なのかな。

 強くても弱くても、自分じゃどうにもならない何かに挑み続けなきゃいけないのかもしれない。

 

「でも私の魔法はもう枯れちゃってますから、あなたが倒すんです。誰でもない、あなたが」

 

 彼女はそう言うと、ただ真っ直ぐ私の事を見つめた。

 

「あなたの番ですよ」

 

 その言葉は、不思議とあたしの心を重圧で押し潰す事はなく。

 折れかけていた心に、小さな火が灯るようで。

 

「あたしの。あたしの番……」

 

 そう小声で呟くと、身体の震えは止まった。なら、後はやるべき事をやるだけ。

 

「あたし、勝つから。赤ちゃんとお父さんがそこの瓦礫で下敷きになってるの、助けてあげて」

 

「ええ、約束します」

 

 その言葉に安心した。なら、あたしが心配する事はもう何もない。

 低く構えて、深く息を吸うと────地面を蹴った。そのまま目の前の妄獣へ組み付いて、とにかく遠くへ押し運ぶ。

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 単純な肉弾戦では勝てない事なんて、さっきの戦いで理解している。

 でもそれは逃げる理由にはならない。

 大砲を思わせる空を切る音と共に放たれた蹴りを、紙一重で避けながら意識を集中する。

 

 

 ずっとあたしの側にいたのなら。

 あたしに応えてよ、"読心"。

 大好きな人と、明日を迎える為に。

 

 

 一瞬、次に妄獣がどう動くのか見えた。

 まるで相手が何を考えているのか、心を読めたみたいに。

 その動きに従って後ろを取ると、腰の辺りに手を回して持ち上げた。

 

「つーかまえた……!」

 

 この妄獣が人型に近い事に感謝した。

 焦ったように何度も肘を叩き付けてくるけど、絶対に離さない。

 渾身の力を込めて、ジャーマンスープレックスの要領で妄獣を硬い地面へと叩き付ける。

 硬い頭蓋が砕ける感触と共に、何度か痙攣した後で抱きかかえていたそれは黒い泥のようになって消えた。

 

「……勝った」

 

 そのまま地面に倒れ込む。

 華もなければ、全く可愛くない泥臭い戦い方。

 けど、これがあたしだもん。

 

 もう動ける気がしなかった。

 絶対あちこちの骨は折れてるし、治す余力もない。本当の本当に全部出し切った。

 ただ眠くて仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 途切れそうになる意識の中で、誰かの足音が近付いてくる。霞む視界に映ったのは、眼鏡を掛けた背の高い男の人だった。

 

「おーい、生きてるか? あの二人は氷織がきっちり回収したから安心しろよ」

 

 目の前で手を振る男の人は、返事すらできないあたしの身体を起こすと背中に背負って歩き始めた。

 

「……魔法少女って大変だよな」

 

 男の人は数が少なくて弱いから、あたし達が守らなきゃいけないのに。その人の背中は大きくて、温かくて、なんだかとても安心して。なんか良い匂いもして。

 いつの間にか眠ってしまっていた。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 美味しそうな匂いで目が覚めた。

 枕にしていた座布団から頭を起こすと、少しずつ意識がはっきりしてきた。

 壁にはメニューを書いたと思しき黄ばんだ札が下がっている。ラーメンとか……炒飯とか……ここ、中華料理屋? 

 

「氷織、お前なあ……もう魔法少女じゃないんだから。後先考えずに飛び出すのマジでやめろよ」

 

「後先ちゃんと考えてますよ、こんな頼りになる後輩がいるんですから。それに少しは分かってもらえました? あのクラゲ型の妄獣に、朔さんが車で突っ込んでいった時の私の気持ち──いった!?」

 

 白髪のお姉さんが、赤ちゃんを抱っこした男の人に思いっきりデコピンされていた。

 それを逆見さんが楽しそうに眺めている。あんな表情、初めて見た。

 

「柊木君……ではなかったな、いつまで経っても慣れん。息災そうで何よりだ、朔君」

 

「ご無沙汰してます、逆見さん。ほら、挨拶しな」

 

 まだ挨拶とかそんなレベルじゃない赤ちゃんが、きゃっきゃと笑いながら逆見さんに手を伸ばす。

 

「子供の成長は早いな」

 

 まるで孫をあやすおばあちゃんみたいに、優しい顔をしていた。

 

 

 ぼんやりとそれを眺めていたあたしに気付いたのか、さっきの女性が隣に腰掛けてくる。彼女が差し出した水の入ったグラスを受け取ると、一息で飲み干した。

 

「起きましたか? 身体は平気そうです?」

 

「うん……あの男の人がここまで連れてきてくれたの?」

 

「ええ、夫です。良い響きですね」

 

 照れているのか、くねくねしながらそう言う彼女にさっきの凛々しさはなかった。

 

「何はともあれ、お疲れ様でした。さすが魔法少女ですね」

 

 そう褒められて思わず首を振る。流石って言われるような出来の良い子じゃない。

 

「い、いや……あたしなんかだめだめだから。好きな人には振られるし……使える魔法も役立たずだし」

 

 余計な事まで言った、と気付いた時には顔から火が出そうだった。

 でも彼女は笑う事なく、寧ろ真剣な表情であたしに囁いた。

 

「好きな人に振られた、と。なら魔法少女の特権を使って、無理矢理自分の物にしちゃえばいいじゃないですか」

 

「え、い、いや……そんなの駄目でしょ!?」

 

 そんなの思いも付かなかった。でも仮にそうできたとして……そんな事、したくはなかった。

 それを受けて彼女は「いいですね」と心底嬉しそうに微笑んだ。自分が提案したのに、変なの。

 

「お前よりよっぽど人間できてるんじゃないか」

 

「朔さんは黙っててください。魔法少女付きの教育が良いんですね、きっと」

 

 少し拗ねたようにそう呟いた言葉は、どこか当て付けのようにも聞こえて。

 

「ああ。長女よりは次女の方が要領良く育つらしいしな」

 

 逆見さんがそうにやにやとしながら返すのを無視しながら、彼女はあたしの肩を励ますようにぽんぽんと叩く。

 

「大丈夫です、あなたの魔法は伸びしろがありますよ」

 

「いや……妄獣に心なんてないから、やっぱりあたしの魔法は駄目だって」

 

 まあ、あの猿の動きが最後の最後で読めたような気もしたけど。

 

「そうでしょうか、案外彼らにもあるかもしれませんよ。なんというか……誇りとか?」

 

 どこか懐かしむような、そんな口振りで彼女は呟いて。

 

「おっといけないいけない、今のは聞かなかった事にしておいてください」

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

「では改めて。はじめまして、守名氷織です。魔法少女アイシスリリィ、の方が通りが良いかもですね」

 

 薄々そんな気はしてたけど、そう名乗られると否が応でも緊張する。

 彼女はそんなあたしにお構い無く、今回あたしと会う事にした理由について語り始めた。

 

「つまりまとめると、実験的ではありますけど。元魔法少女がメンター(助言者)として、現役の子を導こう。そういう制度を始めようとしてまして」

 

「つまり、その……師匠的な感じですか?」

 

 思わず敬語になってしまうあたしに「そんなに堅苦しくしないでいいんですよ」と氷織さんは軽く手を振った。

 

「そんな大した物じゃないですよ。たまに会って、こうやってご飯を食べましょう。逆見さんに言い辛い事があるなら私に相談してください」

 

 魔法少女にしか分からない事もありますよね、としみじみ呟く氷織さんの顔が一瞬少女のように見えて。

 この人もきっと、全部が全部上手くいった訳じゃないんだってそう思えた。

 

「あたしも、氷織……さんみたいになれる?」

 

 優しく頷く氷織さんに、安心して小さく息を吐く。緊張の糸が一気に解けた感じがした。

 

「なんかこう、なんて言うのかな。話に聞いてた感じと違ったから。氷織さんってもっと厳しくて強気な人だと思ってた」

 

「じゃ、今の私はどんな印象ですか?」

 

「ええ……えっと、清楚って感じがする」

 

 あたしがそう言った瞬間、店内にいた人全てがじっとあたしの顔を見つめた。

 氷織さんも、朔さんも、逆見さんも、厨房で料理を作ってる女の人も。

 なになになに、怖いんだけど。

 

「逆見さん、智里ちゃんに言いました?」

 

「言う訳ないだろう、悪影響を与えたくない。お前達みたいなのがこれ以上増えると思うと頭痛がする」

 

「残念でしたね、これからみっちり仕込みますよ」

 

 そんなよく分からない会話をした後、くすりと笑って氷織さんはあたしに訊ねた。

 

「少し聞いてみるんですけど、智里ちゃんは清楚ってどういう意味だと思います?」

 

「……上品でお淑やか、みたいな?」

 

 間違っているとも合っているとも言わずに、彼女は胸に当てた。

 

「自分がそうでありたい、理想を思い浮かべてみてください」

 

 そう言われて、考えてみる。

 強くて、優しくて、可愛くて……なんだかぼんやりとしてまとまらない。でも理想って案外そんな物なのかも。手を伸ばしても届かないからこそ、憧れて足掻く物。

 

「それが清楚って事ですよ」

 

 ……違うと思うけど。

 ただ、そう言える雰囲気ではなかった。

 黙り込んでしまったあたしを見て、氷織さんは納得したように頷いた。

 

「ええ。私があなたを、清楚なお姉さんにしてあげます」

 

「清楚なお姉さん……?」

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 ■■■■年■月、守名氷織(アイシスリリィ)が現役時代から提案していた相互扶助制度が試験的に導入された。

 

 審査を通過した元魔法少女に、現役の魔法少女を精神的にサポートするメンターとしての役割を与えるという物である。

 

 魔法少女の抱える鬱屈とした感情や、彼女達にしか分かり得ない悩みを相談する事で孤独感を軽減する狙いがある。

 そして元魔法少女にとっても、自らが規範となる意識を持たせる事で引退後の素行不良を大きく抑制する効果があると見られている。

 

 

 初期段階では守名氷織、花城舞、濡羽沙羅の3名がメンターとして魔法少女に付き、当該魔法少女達の経過観察を行う。

 

 

 以下はそれに当たっての守名氷織が出した声明である。

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 

 ────魔法少女は歪んでいます。と言っても、人間であれば皆そうだとは思うんですけど。それはもう仕方の無い事ですよね。

 

 

 

 ────独りよがりの優しさとか、腐ったような独占欲とか。寂しさを間違った方法で埋める人もいれば、子供じみた正義感を振り翳す人も。役割に縛られて後悔だけを募らせて、逆にその全てを忘れ去るように逃げ出したり。

 

 

 ────思い通りにいかない事って、沢山あります。でもそれすら飲み込んで、誰かの為に"真っ直ぐ"歪めるように。傲慢かもしれないですけど、それも私の歪みということで。ごほん、とにかく。

 

 

 ────それって、かなり清楚じゃないですか? 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 あの妄獣を倒して、氷織さん達と出会った翌日。

 学校に行くのも憂鬱だったけど、勇気を振り絞って行く事にした。

 氷織さんが「清楚なお姉さんは怖い事から逃げないんですよ」とかなんとか、よく分からない事を言うから仕方なくだけど。

 

 心配して声を掛けてくれるクラスメイトに笑顔を返しながらも、あたしはずっとそわそわしていて。

 そしてその時はすぐに来た。

 

「あ、久しぶり……天地さん。ちょっといいかな」

 

 教室へ入ってくるなり、宮藤くんはあたしの姿を認めると少し気不味そうにしながらこっちへ歩いてきた。

 

「う、うん」

 

 耳を塞ぎたかった。あたしにとって一番怖いのは誰かに拒絶される事だった。

 でも、深く息を吸って自分に言い聞かせる。清楚なお姉さんは怖い事から逃げない。

 

「分からない事って怖いから。すぐに返事はできなかったし、今もまだ難しい」

 

 そりゃそうだ、と俯く。告白ってただの確認作業。

 魔法少女である事を使わないって決めた以上、ただの女の子として見たあたしなんて大した魅力もないし。

 

「でも天地さんはあの日、魔法少女として僕に無理矢理言う事を聞かせる事もできた。けど、そうしなかったよね」

 

 顔を上げる。

 あの時と同じように、宮藤くんは困ったように笑っていた。

 

「だから、その……友達から、なら。まずは天地さんの事を知ってから考えてみたいんだけど」

 

「い、いいの!? えっと、はい……よろしくお願いします」

 

 

 魔法が使えても、思い通りになる事がそんなに多くないように。

 人の心が読めたって、この世界には分からないものばかりで。

 5分後の未来だって私には予想も付かない。

 目の前で儚げに微笑む彼と友達より先に進めるのか、それとも手酷い喧嘩別れをしちゃうのか。

 そもそもあたしは無事に魔法少女をやり切れるのか、そんな事さえ誰にも分からない。

 

 でもあたしも、いつか誰かに「次はあなたの番だから」って言えるようになれたなら。

 

 完璧じゃなくたって、それでも。

 あたしが氷織さんからそんな言葉を貰ったように、何度でも繋いで。

 そうやってこの世界は続いてきたし、これからも続いていくのかもしれない。

 

 まあ、とにかくマジで意味分かんないけど。

 ちょっとだけ目指してみようかな、清楚なお姉さんってやつ。

 

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 

 娘が寝入った後、二人でサブスクの映画を観るのがお決まりのルーティンだった。二人の時間ってのを大事にするのは夫婦円満の秘訣だろう、多分。

 

「守名朔、ねえ」

 

 更新した運転免許証を眺めながら、そうぽつりと呟く。

 柊木という姓を捨てる事に、葛藤は無かった。

 なんせこの世界は貞操逆転していて、魔法少女がいて。そもそも実家と折り合い悪いし。

 

 ポップコーンとジュースを用意してきた氷織が、隣に座りながら怪訝そうな眼差しを俺に向けてくる。

 

「どうしたんですか、朔さん。そんな物じっと見て」

 

「なあ、氷織。もしもの話だけどさ、魔法少女がいなくて。男の方が女性に積極的な世界があったとしたらどうする?」

 

 今夜観る映画を選びながら、そんな質問をしてみる。

 

「ええ……ちょっと盛りすぎじゃないですか? そんな焼肉とラーメンを一緒に食べるみたいな、胸焼けしちゃいますよ」

 

 どっかで聞いた事のあるような台詞に思わず咳き込む。夫婦ってのは思考まで似通ってくるもんなのか。

 

「戦わなくてもよくて、男の人から私達に寄ってくるって事ですよね。創作にしても都合良過ぎです」

 

 そう呆れたように言いながら、氷織が腕を回して組んでくる。

 

「でも私、仮にそんな世界に行ったとしても朔さん以外に見向きもしませんから。だから朔さんもよそ見しちゃ、駄目ですよ」

 

「……本当に可愛い奴だよ、お前は」

 

 降参だ、降参。

 

 結局の所、男女の比率が変わろうとも、人を害する怪物がいようとも、世界の前提が違えども。

 

 人が誰かの事を好きになる、それに勝る魔法はないのだ。

 きっと。

 

 

 

 





これにておしまい!
お気に入り評価感想推薦はもちろんのこと、ここすきも台詞選びの参考にさせてもらってました。
好きな台詞やキャラクターを教えてくれた感想、何度もしゃぶり尽くしていたので君が好きな台詞も教えてくれよな!
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