ネタバレ等は1ミリも無いので気軽に読んで頂ければ幸いです。
「ハンナさん!私と勝負をしましょう!」
「……はい?」
穏やかな昼下がりの午後。それぞれの予定が重なり、偶然にも他の利用者が居ないアトリエを広々と使い、一人でのんびりと趣味に没頭していたハンナの元に、静寂を切り裂くように
「何を言っているのかさっぱり分からねぇですけど、見てわかる通り、わたくし今はお裁縫で忙しいのですけれど?」
「えー!良いじゃないですか、ちょっとだけですよ!お裁縫なら、私も後でお手伝いしますし!」
「えっ」
あれはいつの事だったか、ハンナ達が作業をしていた布地を、シェリーがその有り余るフィジカルを活かし、それはもう盛大に引きちぎった記憶が、彼女の脳裏を過ぎった。
「け、結構ですわ!貴方に触られるとちょっと所か全てが無に帰す可能性だってありますもの!」
「お願いしますよー!私、今すごーーーく暇なんです!」
「だからわたくしは暇じゃねぇですの!人の話を聞きやがれですわー!」
このまま行っても平行線。そして最後には自分の方が折れて彼女の望み通りになる事を、他の誰よりも理解していたハンナは、それなら少しだけ付き合ってさっさと終わらせるかと思考を切り変えた。
「はぁ、まぁいいですわ。それで?何をやりたいんですの?」
「お!やる気になりました?も~、本当に素直じゃ無いんですから~!」
「頭引っぱたきますわよ」
ハンナは、自身の頬をツンツンと指でつつくシェリーの手を払いのけ、鬱陶しさを包み隠す事なくそう言うも、シェリーはそんなハンナの様子をまるで意に介す事なく、冗談ですってば~!とニコニコと笑った。
「ハンナさんには、私が出す問題に答えて欲しいんですよ」
「問題ぃ?それってとーっても難しかったり、訳の分からない謎掛けだったりしないですわよね?」
自称名探偵を名乗るシェリーは、一体何時何処で使うんだ?というような無駄な知識を多く保有し、その上シェリー自身の頭の回転も無駄に早い為、素人には手出し出来ないような問題を思い付きで投げつけてくる事はこれが初めてでは無かった。
「違いますよ~。今回のは誰でも、いえ!寧ろハンナさんにしか出来ないと言っても過言です!」
「過言なんですわね」
「勿論!誰にでも出来ますし!」
そう言ってころころと笑うシェリーを見て、ハンナは小さくため息をついた。
わたくし、なんでこんなのと仲良くしているんでしょうか……。
これも、惚れた弱み──って!べべべ別にわたくしは惚れてなんてねぇですわ?!
湧いて出た思考を振り払う様に、ブンブンと頭を振るハンナを見て、シェリーは静かに首を傾げていた。
「こほん、それで?その問題というのは?」
「えーっとですね、まぁ試しに少しやってみましょうか」
そう言うシェリーは何故か視線をどこか遠くへと泳がせたが、どうせ碌でも無いことを考えているのだろうと、ハンナは気づかぬふりをした。
「例えば、そうですね。
「ふむ、ではこの場合は
「そうですね!エマさんでも、
出題する方も気を付けて問題を出さなければ、楽にクリアされるか、はたまた自らの首を絞めることになる為、いい塩梅を探す必要がありそうだった。
「なるほど、完っ全に理解しましたわ!」
五月の珠とやらが一体全体何なのかは知らないが、いつもの無駄知識だろうとハンナはスルーした。
「それじゃあ、いきますよ!負けた方は罰ゲームで良いですよね?」
「えぇ!さっさとかかってきやがれ、ですわ!」
先程までの気怠げさは何処へ行ったのか。ハンナ自身も気付かぬ内に、ハンナはすっかりシェリーのペースに乗せられていた。
「第一問!
「すから始まってき、ですわね?す、す……?」
「おや?わかりませんか?」
「ちょ、ちょっと待ちやがれですわ!すー、す!
名前だけは少し聞いた事のある物を適当に言ってみただけだったが、シェリーが何も言わないのでこれは言葉として正しい物なのだろう。好きを焼くという事は、お好み焼きの仲間か何かなのだろうとハンナは解釈していたが、如何せん未知の物であるが故、それが正しい言葉なのかどうかの自信はあまり無かった。
胸を撫で下ろすハンナに気を使ってなのか、はたまたただのパフォーマンスなのか、シェリーは大げさなリアクションを取り、おぉ~!と感嘆の声を上げた。
「流石はハンナさんですね!それでは第二問!条件はそのままで三文字!」
「三文字?す、
ハンナがそう答えるとほぼ同時、シェリーが興奮気味に割って入った。
「では最後の二文字!」
「す、き?」
「私も好きですよ」
柔らかな笑みを浮かべるシェリーに、コイツは突然何を言っているんだ?と一瞬だけ訝しんだハンナだったが、それからすぐに自分の発言を、そしてこのゲームの意図に気が付いた。
「あ、貴方!最初からこれが目的だったんですのね?!」
「はて?なんの事でしょう?」
「すっとぼけても無駄ですわよ!その証拠に、貴方耳まで赤くなっているではありませんの!」
「えっ?!」
「嘘ですわよ」
咄嗟に被っていたキャスケット帽を用い、耳を隠そうとしたシェリーだったが、ハンナの嘘という言葉に動きを止め、恨めしそうな目で見つめていた。
「ず、ずるいですよハンナさん!変な嘘までついて!」
「はぁ~?それを言ったら変なゲームまで用意してきた誰かさんの方が、余程卑怯だと思いますわよ?」
「そ、それは!……そうかもしれませんけど……」
それから暫くの間、アトリエには静寂が訪れ、少し言い過ぎてしまったか?と不安になるハンナだったが、この空気に耐えられなくなったのか、はたまた覚悟を決めたのか、シェリーは弱々しくも重い口を開いた。
「好きって、言って欲しかったんです」
指をもじもじさせ、可愛く頬を膨らませたシェリーがそう呟いた。
「はい?」
「私は!ハンナさんに!好きって言って欲しかったんです!ハンナさん、私がどれだけ好きって言っても相手にしてくれなくて、それで、その……」
確かに、シェリーからの好意を受け止める機会は何度かあったが、ハンナはその度にはぐらかす様な言葉を用いてきた。だがそれはハンナなりの照れ隠しであり、シェリーもそれを理解しているのだと、ハンナは思い込んでいた。
言葉にすれば、この関係が変わってしまうかもしれない。それがどうしようもなく怖かった。そんな自身の逃げが、知らず知らずの内にシェリーを傷つけて居たと知ったハンナは、今にも泣き出しそうなシェリーをそっと抱き締めた。
「ハ、ハンナさん?もしかして怒ってます……?」
「おばか。そんな訳無いでしょうに」
小さい頃からハンナは、恋に恋する乙女であった。恋だの愛だのは漫画や物語の中にあるもので、自分とは遠い場所にあるものだと思っていた。
けれど、彼女は出会った。自分に恋を教えてくれる人。自分に愛を与えてくれる人。自分に手を差し伸べてくれる人。絶望の闇を振り払う、希望の光を持った人。それは、ハンナにとっての初めての出会いであった。
「シェリーさん」
「は、はいっ」
「好きですわ」
未だ緊張が解けないのか、上擦った声で返事をするシェリーの頬を手を当て、ハンナはゆっくりと囁くように恋を唄った。
「世界で一番、貴方の事が好き。他の誰でもない、シェリーさんの事が好きなんですの」
「……もう一回、言ってください 」
「あら、何度だって言いますわよ?貴方が好き。大好きですわ」
「私も、大好きです……」
「ふふっ、知ってますわ。もう何度も聞きましたもの」
「えへへ、そうでしたね……」
はにかみ笑いを浮かべるシェリーが愛おしくて、ハンナはゆっくりと唇を重ねた。一瞬驚いた様な表情を浮かべるシェリーだったが、逃げる様な素振りは見せず、永遠にも感じられる一瞬を二人で過ごした。
「その、ごめんなさい。今まで、素直になれなくて。これが、わたくしの気持ち、ですわ……」
流石に恥ずかしさが勝ったのか、顔を真っ赤にしたハンナを見て、シェリーは笑った。
「良いんです。私はもう、こんなにも幸せなんですから!」
そう言って向日葵の様な絵柄を浮かべるシェリーを見て、この笑顔には勝てそうに無いな、とハンナは思った。
これも、惚れた弱みというものかしら?
これからも、彼女に振り回されながら日々を過ごすのも、悪くは無い。そう思うハンナなのであった。
尚、一部始終を見ていた少女達によって、このゲームが屋敷内で流行り、それを知ったハンナが赤面するのは、また別のお話……。
すごい個人的な意見なんですけど、シェリーちゃんに依存するハンナちゃんって構図も良いですけど、ハンナちゃんに依存するシェリーちゃんって構図も凄く良くないですか?!
元ネタ(橘繋がり)
https://youtu.be/QSTVfry3z6k?si=DARVwDGx5ia1H--H
これめちゃくちゃ好き。