十四話
「予選通過一位の緑谷君!持ちポイント1000万!!」
全員が緑谷を獲物を追う肉食獣のような目で見る。
考えることは全員同じ、2位のコガネですらポイントの桁が違うこの状況で1000万という破格のポイント。
つまり――
(((緑谷からポイントを奪えれば勝てる!!)))
「制限時間は15分!!振り当てられたポイントの合計が騎馬のポイントとなり、騎手はそのポイントが表示された鉢巻を装着!」
「終了までにハチマキを奪い合い、保持ポイントを競うのよ!取ったハチマキは首から上に巻くこと、とりまくれば取りまくる程管理が大変になるわよ!」
「――そして重要なのはハチマキを取られても、騎馬が崩れてもアウトにならないってところ!」
これはつまり、42名からなる10組から12組の騎馬が試合中ずっとフィールドに残るということ。
ルール上、序盤にポイントを敢えて取られて身軽になるのも戦法としては問題ない。
個々の判断、能力……そして他人とのコミュニケーション能力が重要となる競技だ。
コガネはこれまでの情報、クラス内の個性、性格から戦法を考える。
(この競技の戦法は大きく分けて二つ。
(A組で遠距離が得意なのは『テープ』の瀬呂、『蛙』の蛙吹、『もぎもぎ』の峰田、身長的に峰田が騎手、瀬呂が右翼で蛙吹が左翼で私が騎馬の先頭で防御に徹すれば――)
その場にいる全員が戦略を考え、ザワザワと生徒たちの喧騒が響く中、コガネはふと、体育祭が始まる前に言われた言葉をふと思い出す。
『……気に食わねぇ。暴走して周り巻き込むような奴が、ヒーロー科でデカいツラしてんのがよ』
『――本当に強えのか、俺が確かめてやる』
(――爆豪も勝つためには当然緑谷を狙う……その他のチームからも狙われる緑谷を集団リンチ……)
(そんな勝負の仕方は、嫌だ)
しばらくその場で考え込んでいたコガネはある一点を見つめながら、その方向へ真っ直ぐに歩みだす。
そこにいたのは――
「――緑谷」 「デクくん!」
「「――ん?」」
コガネが話しかけたのは、現在絶賛孤立中の緑谷だった。
緑谷はただでさえ1000万ポイントを持っていて狙われやすく、それでいて個性も自らをも破壊する超パワーで安定性や安全性は皆無に等しい。
だからこそ、緑谷と同じチームになろうとするものなんていないだろうと思っていたがどうやら目論見がはずれたらしい。
「へ?麗日さん!?それに虫明さんも!」
「良かったら組まない?」
「……私も良かったら組んでほしい」
「い、いいの!?僕1000万だから超狙われると思うけど……!?」
目から滝のような涙を流しながら緑谷は言う。
そんな緑谷を見てコガネは少し心配になった。
(らしくない、という自覚はある。最適解ではないということも分かっている。だが、今回は正面から戦いたい)
「大丈夫!ガン逃げしたらデクくんが勝つし!それに、虫明さんもおるみたいやし、仲良い人たちとやった方が良い!!」
麗日は緑谷に向け、満面の笑みで言う。その純真無垢な笑顔はキラキラと輝いて見えるようだった。
「っ…っ!!」
「ど、どうしたの!?デクくん!」
「あ、いや直視できないくらいうららかで……コガネさんはどうして僕と?」
「別に。ただの因縁、面倒くさいけど」
コガネは吐き捨てるように言う。麗日はどういうことか分からなかったが、覚えがあった緑谷は気づいた。
「因縁――あ〜……かっちゃん」
「そういうこと。緑谷こそ大丈夫?私とチームを組むってことは確実に追われるけど、悪魔と相乗りする勇気、ある?」
そう言ってコガネは右手を差し出す。緑谷は少し気押されながら答える。
「っ!」
「っ、かっちゃんも虫明さんも皆んなも本気で勝とうとしてる!
「――だから本気で獲りに行く!」
そう言って力強く、コガネの右手を握る。
コガネをまっすぐ見据えるその目には覚悟と決意が溢れてるようだった。
横から見ていた麗日もウンウンと首を縦に振りながら頷いている。
「撤回、しないとな」
緑谷の言葉を聞いたコガネは周りには聞こえないように小声で独り言を呟いた。
「え?」
「何でもない。そんなことより早くもう一人決めないと」
「あっそうだった!麗日さんの個性ともう一人である策を考えてたんだ!」
そう言って二人は恐らく飯田の元へ向かって行く。
そして飯田の所行くと、早速飯田に話しかけ、四人は
「飯田くん!良かったら組まない?僕と麗日さんと飯田くんで騎馬を組んで麗日さんの個性で僕と飯田くんを軽くすれば機動性抜群!騎手はコガネさんで防御を補う、とにかく逃げ切りを可能にするにはこれくらいしか――」
しかし、飯田は緑谷の話に承諾する訳でもなく、突然顔を上げて言う。
「――流石だ、緑谷くん。だがすまない、断る。入試の時から君に負けてばかり、素晴らしい友人だが、だからこそ君についていくだけでは俺は未熟者のままだ」
飯田は振り返り、轟の方へと歩いていく。
「君をライバルとして見るのは爆豪くんや轟くんだけじゃない――俺は君に挑戦する!」
三人は轟の方へ歩いていく飯田をただ見ることしかできない。
「飯田くん……!」
(――そうだ……僕は今トップ、友達ごっこじゃいられない!)
「ど、どうしようデクくん、虫明さん!飯田くんが居ないと逃げ切りが――」
麗日は焦りながら二人に話した。
しかし、虫明と緑谷は冷静に思考を巡らしていき、コガネはある作戦を思いつく。
「――いや、あるよ。逃げ切りの方法」
「「え?」」
「時間がない、行くよ」
そう言ってコガネは今とは逆方向に振り返って迷いのない足取りで歩き出す。
そしてある人物の元へと辿り着いた。
◇
『さぁ起きろイレイザー!!15分のチーム決めと作戦タイムを経て、フィールドに12組の騎馬が並び立った!さぁ上げてけ鬨の声!血で血を洗う雄英の合戦が今!狼煙を上げる!』
プレゼント・マイクの熱い実況がスタジアム全体に響き渡る。観客の熱狂に包まれながら、生徒たちは緊張感ある表情で騎馬を組んでいる。
「麗日さん!!」
「っはい!」
「虫明さん!!」
「ん」
「蛙吹さん!!」
「ケロ」
コガネたちの騎馬は麗日が右翼、蛙吹が左翼、コガネが騎馬の先頭を担当している。そして騎手、1000万ポイントのハチマキを巻くのは緑谷である。
「よろしく!!」
緑谷は鼓舞するように叫んだ。
『準備はいいかなんて聞かねえぞ!いくぜ!残虐のバトルロイヤル、カウントダウン!3! 2! 1! START!!』
開始の合図と共に緑谷以外の11の騎馬全てが一斉に動き出す。
そして、それらが向かう先は一つしかない。
「実質
「ふっふふー!悪いけど貰うよ、緑谷くん!!」
「デク!!」
全員が獣ような目つきで1000万を狙う。
誰がどう見ても不利な状況。だがコガネたちがこのことを想定していない筈はなかった。
「早速来た!じゃあみんな!
緑谷が騎馬に向けて叫ぶ。
「うん!」 「了解」 「ケロ!」
三人も緑谷の考えることがわかっているらしく、各々準備に取り掛かる。
麗日は自分含めた全員に触れ、無重力にさせる。
蛙吹とコガネは高く跳べるように両脚に力を込める。
「「「せー……のっ!!」」」
掛け声と共に、四人の姿が突如消える。
他の生徒たちは当然の如く頭上を見上げると、自分たちの頭上を飛び去る騎馬が一つ。
「
「耳郎ちゃん!」
「わかってる!」
葉隠と組んでいる耳郎の『イヤホンジャック』が頭上を過ぎ去ろうとする緑谷たちの騎馬を追う。『イヤホンジャック』でハチマキを取ろうとしているのだろう。
だが緑谷たちの死角をコガネの飛蝗が見張っている。
「くそっ!」
コガネの飛蝗の盾が『イヤホンジャック』の行手を阻み、耳郎の思惑を防いだ。
「すごいよコガネさん!この防御力、それを補って余りある全方位防御!本当にすごいよ!」
緑谷は興奮気味にコガネに話す。コガネは少し、ほんの少し照れくさそうに
「……はいはい。着地するから口を閉じて。舌噛むよ」
「あっごめん!」
緑谷は顔を伏せながら謝る。そんな中、先程のコガネの作戦のやり取りを思い出す。
――――――
――――
――
―
時は遡り、試合開始5分前。
三人は蛙吹を仲間に引き入れると、作戦を話し合っていた。
「――それで逃げ切りに必要なのが、私?」
蛙吹は自分の顎に人差し指を当てて首をかしげながら言う。
「そう。作戦は緑谷が考えてたのと同じ。麗日が私たちを軽くして、蛙吹と私の跳躍で高く飛んで逃げ切る。それだけ」
「ちょ、ちょっと待って虫明さん。確かにそれなら逃げ切ることも可能だろうけどそれじゃ飛んでる時は無防備になっちゃうんじゃ……」
緑谷が焦るように言うが虫明は淡々と返していく。
「問題ない、私が守る。ここにいる三人は一回くらい私が戦ってる所見たでしょ」
麗日が「確かに……」と関心しながら頷いていると蛙吹も無表情ながら作戦の穴を指摘する。
「麗日ちゃんの負担が大きすぎるんじゃないかしら。私とコガネちゃんで飛ぶと言っても騎馬が崩れないようにしながら高く飛ぶには麗日ちゃん自身も軽くしないと――」
「――確かに!酔う!」
蛙吹に合わせるように麗日が言った。
麗日の個性の『
だがこの指摘にはコガネは少し顔を伏せながら答えた。
「それは先に謝っておく、ごめん、麗日。この作戦麗日の負担が一番デカい」
「えぇ!?」
「――対策は考えてある。麗日が自分を軽くするのは飛ぶ瞬間だけ。飛んでる最中とか着地の時は蛙吹が舌で巻き付ける。着地の時は私の飛蝗が持ち上げて負担を出来るだけ減らす」
コガネの作戦を聞いて緑谷もぶつぶつと話し始める。
「確かにそれなら麗日さんの負担も最小限にできるし、コガネさんの全方位防御があれば飛ぶ回数も単純に減る……!」
「そういうこと、何回安全に飛んで他の騎馬との距離を離すかが勝利の鍵。だからおねがい、限界だと思っても――」
「――超えて,あなたにしか出来ないことだから」
――――――
――――
――
―
緑谷と同じく、作戦を思い出していた麗日は再び気を引き締めなおす。
(ここが踏ん張り所!皆んなのために!勝つために!絶対逃げ切る!)
「着地する!」
コガネの飛蝗が着地のタイミングで全員の服を引っ張り上げて着地の衝撃を吸収して軽減させる。
これにより作戦通りに他の騎馬との距離を離した。
――だが着地先にも新たな騎馬がいる。それも因縁深い奴らが。
「デク!!俺に上に行くんじゃんねぇ!!」
「かっちゃん!?不味い!」
(避けきれな――)
切島を先頭に近づく、爆豪の騎馬。
爆豪は既に緑谷目掛けて右手を振りかぶっている。
「!?」
しかし、爆豪の爆破は金属の壁に阻まれる。
「浅はか」
「ハァ"!?」
「単純すぎて欠伸が出る」
煽りともとれるその言動に爆豪は当然怒る。
コガネは爆豪を怒らせ、冷静を奪う。
「バッタ女…ッ!!」
爆豪もそんなこと分かっている。むしろ、昔からこんな性格だ。同じようなことは何度もやられてきたのだろう。
だが爆豪は――
「絶ッ殺す!!!」
それが分かっていて、怒る。
いや、勝利への執念を更に大きく、強大なモノに変えていく。
「死ね!!」
今度は両手で更に大きな爆破を繰り出す。爆煙が爆豪の視界を狭めていく。
しかし、コガネとの間を阻む金属の壁はびくともしない。
「なっ――!?」
爆煙が晴れ、そこにあったのは金属の壁だけで、緑谷たちの騎馬は既に遥か上空に飛んでいた。
「クッッソがっ……!!追え!!」
◇
一方、緑谷の騎馬はノンストップで移動し続けていた。
「ハッ……ハッ……!」
「待てェ、A組ィ!!逃げられると、ンガッ!?」
「んぎゃ!?」
近づいてくる騎馬たちの行先をコガネは壁で阻み、攻撃を壁で防いだ。
「蛙吹!」
「梅雨ちゃんと呼んで!!」
蛙吹は向かってきていた騎馬たちの頭のハチマキ目掛けて舌を伸ばした。
「うわっ!?」 「うおっ!?」 「あぶねっ!」
緑谷たちは守っているだけで逃げ切るとは考えていなかった。特に蛙吹の舌は操作性も自由度も高い中距離攻撃、他の騎馬にとっては充分な脅威となり、コガネと同じく他の騎馬の動きを少し止めた。
そうして少しずつ大勢と距離を取りながらここまで逃げてきている。
――しかしこの作戦にも綻びが出始めている。
「ふーッ……!点数持ちが少なくなってきた」
気づけば周囲には頭にハチマキのついてない騎馬が多くなってきていた。そこから導き出される結論は
「僕たちを狙うのに紛れて別の騎馬を狙ってる騎馬がある……?」
「ギョフノリ……!」
移動し続ける騎馬の上で緑谷と麗日はハッと気づいたように言った。コガネはそれに肯定する。
「多分。もう私と蛙吹の攻撃を気にする騎馬も少なくなる。周りの脚を止めるのが難しくなってきた」
「ってことはもう飛んで逃げるしか……!」
「麗日ちゃん,大丈夫?」
「う,うん!だいじょう,うっぷ。まだまだいけるよ!」
麗日はすでに個性の過剰使用による酔いが回ってきていたが,心配させまいと着丈に振る舞う。そんな麗日を見てコガネは考える。
(まずいか,次に麗日が個性使って飛べば動けなくなる可能性が高い。それは絶対に避けないと。それに,私も消耗してきた……目が霞む)
コガネはスタートから現在に至るまで騎馬の死角はもちろん,全方位を見えるように飛蝗を配置し,その全てと視覚共有を行なっていた。更に全方位から向かってくる攻撃への対処には予想以上の体力を消耗してしまっていた。
『さぁ残り時間半分を切ったぞ!!!』
「でもみんな!それなら全部が僕たちを狙う騎馬ってことじゃない!持ってるハチマキが多くなればなるほど管理は難しくなる!」
鼓舞するように緑谷は叫ぶ。緑谷の話を聞き取りながら蛙吹も答える。
「ということはこのまま点数持ちが狙いにくるなら,こちらが攻撃する余地もあるということね」
「そう!皆んな,これで逃げやすく——」
少しだけ希望が見えた。そんなコガネたちの前にこそ,
「——そろそろ獲るぞ,一千万」
轟たちの騎馬が,コガネたちの前に現れた。
轟の視線がまっすぐ,緑谷たちを見つめていた。
お久しぶりです。体調を崩しておりました。これからなんとか少しずつ投稿頻度を戻していきたいと思います