「生きてる? オ…本当かそりゃあ!!」
「……ええ、ウソップはそう言ってたわ」
アイスバーグの生存を知らされたフランキーは、安堵から息を吐く。ロビンはその様子を見て政府に知られないよう忠告した。
「しかしまァ“兵器”の設計図を持つおれと、存在する“兵器“を呼び起こせるお前。そして、さっき教えてもらった”怪物“になりえる小娘。これで政府は”古代兵器復活“に加え、とんでもない”怪物の誕生“への3つの鍵を手に入れたわけだ。そして実際にその力がこの世に出現した時、当然政府は海賊たちの時代を終わらせる」
「その後の事は予想が付きますね。持て余した軍事力は世界を揺るがし破滅させる。」
「おう、それくらいの脅威ある代物だ“古代兵器”は。ウチの師匠が設計図を守るために命をはったのは、そんなくだらん未来のためじゃねェ。おれはこのまま捕まる気はねェぞ。となりゃおれ一人逃げきれても意味はねェ、お前らも何とか麦わらたちのとこへ帰るんだ」
「ムリよ……私は一緒にいるだけで彼らを傷つける…!」
無念と恐怖を滲ませながらロビンがそう返す。思いつめたその考えに、フランキーはまっすぐに反論する。
「傷つけるのはお前じゃねェだろ? 政府の人間もお前らの存在を罪と言うが、どんな凶器を抱えてようともそこにいるだけで罪になるなんてことはねェ! なんだって、存在することは罪にならねェ!」
「わたくしも同感ですよ、ロビン。その恐怖はわたくしも同じですが、そこの判断をするのはあなた自身ではありません」
「……? クロユリさん、それはどういうこと?」
「ここ以外に言えるタイミングがなさそうなので言いますが『一緒にいることで傷つける』という事情であれば、わたくしも同じです。メリアは吸血鬼、人を食らうことで強くなる怪物。本来、人間と共存できる道理はありません」
「でも、あなた達は襲わないという選択を取れるでしょう!? 私は違う、私が彼らといる限り、世界が彼らの敵に回る……!」
海楼石の手錠に戒められた手を、ロビンは爪が食い込むほどに握りしめる。そこにマリーは、今までのロビンの苦悩が感じられた。
しかし、マリーもロビンに言うべきことがあった。隣に座るロビンに手を重ねて解かせながらマリーは続けた。
「そうでもないんです。確かに、血を呑まずにいることは出来ます。ですがそれは足手まといで居続けるという事。空想具現化を乱用したこの体ではもう、金を稼ぐために蜜を生産することも、敵を倒す怪力を振るうこともできない。それでは契約に反します」
ロビンの握りしめた指を解くマリーの手には、欠片の力も感じられない。
ロビンは昨日の朝の様子を思い返す。服を着ることにも苦労していた力の無い手。青キジを追い払った代償。それは確かに、マリーの体を削っていた。
「わたくしは何としても故郷に帰りたい。そのために血を呑み、怪物になる覚悟はできています。しかし、それはわたくし個人の話。あなた達麦わらの一味を巻き込むことは別問題です」
「巻き込む……?」
「ここに来る途中、あの白い島で見たでしょう。吸血したメリアが飢えを抑えられなくなると、周囲の人間を捕食してしまう。わたくしがそうなったとき、あなた達を巻き込まないという確証がない」
「………!!」
「定期的に血を呑むことで暴走を予防すること自体は可能ですが、その暴走を理性で抑えるということは困難です。あなた達をわたくしが殺すくらいならその前に死んだほうがマシです。そういう点では、貴女と同じだと言えますね」
「私と、同じ……」
「わたくしはその決断が出来なかった。……なので、少々ずるい方法を取らせていただくことにしました。今ここにいるのもその一環です。
ロビン。わたくしが今ここにいるのは、始めからあなたを助けるためです。」
「私を?」
「ほォう?」
思ってもみなかった言葉に、ロビンが目を瞬かせる。フランキーも驚いたようだがそれ以上に面白そうに笑みを浮かべた。
「ウォーターセブンに着いてすぐ、わたくしはあなたと同じようにCP9に交渉されました。『故郷に一度送る代わりに、その後は政府に身柄を委ねること』という条件で。その時に、貴女が政府と契約を交わしたことも聞きました。
その時に思ったのです。『ロビンはひどく混乱している、もしくは脅迫されている』と」
「なぜ?」
「政府の悪辣さは貴女も知っているでしょう?海賊相手の交渉なんて、政府からすれば騙すことが前提と思っていい。そんな契約に乗るなんて、絶対に何かしら裏があると考えました。ですので、確実に救出する手段としてわたくしに持ち掛けられた政府の契約に乗っかったふりをすることにしたのです」
実際わたくしは裏切られたし、という言葉は飲み込んで続きを話した。
自分で決断できなかったわたくしの、どうしようもない弱さを。
「わたくしは貴女の持つわたくし達への想いに、命を賭けたのです。貴女が助からないと、わたくしも死ぬ。そんな賭けを」
・
・
・
シュウゥゥゥ……と蒸気機関が止まる音が鳴り響く。海列車がエニエス・ロビーに到着し、迎えに来た海兵とスーツを着た政府の人間がCP9達を出迎える。
「アウ! そーーーっと扱えバカ野郎、おれを誰だと思ってやがる!!」
「ぎゃーーーっ!!」
駅に集まった海兵に、拘束されたままのフランキーが噛みついて暴れまわる。ガジ!ガジ! と歯を鳴らしながら威嚇するフランキーを尻目に、ロビンとマリーはCP9に連れられ歩き出す。
連れていかれるマリーとロビンの美貌に鼻の下を伸ばした海兵もいる。それもマリーとロビンは無視した。
「うおっ!! 何じゃあここは! 初めて入った……!!」
先に進むと驚愕の光景が広がっていた。海に不自然に空いた巨大な穴。そこに浮かぶように島の陸地が続いている。
重力にケンカを売るような造形の島の様子に、フランキーは「何じゃこりゃあ!?」と叫ぶしかなかった。
ルフィ達が到着したのか、後方から破壊音が響く中をCP9に連れられて進む。
そのまま司法の塔の一室にロビンとフランキー、マリーが通された。
鎖と手錠に繋がれた三人の姿を目にすると、CP9の司令長官であるスパンダムが抑える気もない歓声を「ワハハハハハ!」と上げた。
「世間の人間たちは今日の日の我々の働きがどれほど尊く偉大な仕事であったかを知らん。それが知られるのは事実上まだ数年先の話になるだろうな。おれに言わせりゃ今の政府のジジイ共の正義は生ぬるい! 犠牲を出さねば目的は果たせねェ。こちとら全人類の平和のために働いてやってんだぜ!! そのおれ達の邪魔をする愚か者共は大きな平和への犠牲として殺してよし!! おれ達がよこせという物すら大人しくよこさねェ魚人も正義への謀反者として殺されて当然だァ!!」
「………! トムさんが命を懸けて設計図を守ったのは、てめェみてェなバカがいるからだろうがァ!!」
鎖によって自由に身動きが取れないフランキーは、海列車から降りた時に海兵たちにしたようにその大きな顎でスパンダムの頭にガブゥ! と嚙みついた。CP9は悲鳴を上げるスパンダムをしれっと眺めながらも、彼が助けを求めたとたんに意気揚々とフランキーを取り押さえた。
CP9の一人、クマドリの錫杖によって床に打ち付けられたフランキーの頭を足蹴にしながら、スパンダムは得意げに告げた。
「あの時から気性は変わってねェようだなカティ・フラム……もっと早くにお前が生きてて設計図を持っていると分かっていりゃこうも苦労する事ァなかった……お前なら過去の罪でしょっぴく事も容易いからな!!」
最初に古代兵器の設計図を持っていると思われたアイスバーグに、今日まで実力行使できなかった理由。
それはウォーターセブンの造船所をまとめ上げ大会社を組織し、“世界政府御用達“の地位を確立。やがてウォーターセブンの市長にまで上り詰め、政府にとって必要不可欠な存在となることで、政府の人間から政府の設計図を守ったのだ。
「頭のいい男
「!」
「おれは気を落ち着かせるため一杯のコーヒーを飲んでバスターコールの許可を含む全ての状況を作戦に組み込んだ!しかもついさっき追加の吉報が届いた……捕らえたメリアの王族はなんと! 世界政府が恐れた怪物の遺伝子を受け継ぐだけでなく、それそのものになりえるという! つまり! 古代兵器に並ぶ怪物そのものを手に入れたにも等しい!
そうしてシナリオに多少の変更はあったものの……見ろ!! 古代兵器復活の引鉄が二人、そして兵器に並ぶほどの怪物そのものに成り得る女すら今ここにいる!! わかるか!? 世界中の風は今おれに向かって吹いているんだ!! 望めばどんな大国も支配できる程の力が今おれの手中にあるんだ!!」
スパンダムは「わはははは!!」と大笑いした。窓から差し込む光の荘厳さが、男の下種さとかみ合わないにもほどがあった。
「まったく、メリアの王族の特性は思いもよらない吉報だったぜ。お前をバラして徹底的に研究し尽くし、残響の獣の遺伝子のみを抽出した人造生命を作ることで兵器を作る予定だったが……まさかお前自身が残響の獣を呼び起こすカギだったとは、このおれの頭をもってしても予想できなかった! お前はこれから残響の獣へと変貌させられ、洗脳されたうえで政府の兵器となる! かつての政府を苦しめた敵が味方になれば心強い!」
(……彼らの計画はともかく、おそらく今ここで吸血させられることは無い。それさえなければ、船長さんたちに吸血を
スパンダムが計画をつらつらと喋るのを白けながらマリーは聞き流す。
ルッチにも言ったが、その計画はあまりにも実現が難しいと言わざるを得ないのに。
「……青キジは何故あなたに”バスターコール”の権限を?」
「……!? んん!? このおれに質問をするなァ!! 無礼者めがァ!!」
「アウッ!!」
バキィン! という音を響かせて、スパンダムがロビンの頬を殴った。突然の暴力に、マリーはフランキーと共に息を呑む。
「ワッハッハッハッ! 悪魔の土地オハラの忌まわしき血族め!! 貴様の存在価値などおれが見い出してやらねば無に等しいものだったんだ!! おれには十分感謝するんだな!!! なおこの先お前は幾度も死んだほうがマシだと思う程の苦しみを味わうことになるが、覚悟しておけ……痛めつけて……! 利用して……! 海へ捨ててやる!! お前の存在はそれほど罪深い!!」
「……!!」
「ワハハ……ああ、そういえば……さっきそんなくだらねェお前らを取り返しに来たバカがいたなァ」
「!!? まさか……!!」
「なァに今頃全員捕まってる頃だろうが……! “麦わらのルフィ”とその一味だ……! このエニエス・ロビーの一万の兵力の前にはゴミ同然だったようだな!! まァどうせ監獄の船を出すとこだ。手土産にちょうどいい。このままインペルダウンへと連行するつもりだ」
「待って…約束が違うじゃない!! 私があなた達に協力する条件は、彼らを無事に逃がす事だったはずよ!! マリーは彼女自身の契約があったみたいだから何も言わなかったけれど、彼らは違うでしょう!?」
ロビンが血相を変えて叫ぶ。マリーは目の前で行われた協定違反――ニコ・ロビンに暴力を振るわない――を認識し、怒りを覚えた。
「何を必死にイキリ立ちやがって……。ルッチ、我々が出した条件を正しく言ってみろ」
「ニコ・ロビンを除く麦わらの一味の七名が無事ウォーターセブンを出航する事」
「ああ、そうだな。あいつらはウォーターセブンを無事に出航して……ここへ来たんじゃねェのか!?」
「………!! 何ですって……!? まさかそんなこじつけで、協定を破る気じゃ……!!」
「……っ、どうしようもねェクソだなコイツら。仁義の欠片も持っちゃいねェ」
「何だと? 黙れコノクズ共ォ!!」
「いい加減にしなさい!」
「ギョア………ア˝、ア˝ァ……!?」
「……アーウ、いい蹴りだな」
ロビンとフランキーの言葉に激昂したスパンダムが二人を蹴りつけようと足を上げた瞬間、マリーがそこに滑り込み思いっきりスパンダムの股間を蹴り上げた。
蹴られたスパンダムは痛みに呻き、股間を抑えながら後ずさった。
フランキーは一瞬そんなスパンダムを哀れに思ったが、スパンダムからの暴力から解放されたためお礼代わりにマリーを褒めるのだった。
残り少ない生命力を消費しながら一時的に力を取り戻したマリーは、拘束されたまま足を振り回しスパンダムの側頭部を蹴りぬき床に転がす。床に倒れたスパンダムの顔のすぐ横を踏みつけ、「ヒィ!」と悲鳴を上げるスパンダムの胸元をもう片方の足で踏みつけた。
飢えと渇きに襲われ、自分の命が削られていく感覚に息を切らしながら、マリーは怒りのままにスパンダムを蹴り倒した。
「ふーっ、ふーっ……! わたくしへの約束が破られることは分かっていた。だが、ここまであからさまに破ってくれるとは思わなかったな。さらにロビンとの協定までこじつけで破るとは……。伴侶のこと以外でここまで怒りを覚えるのは初めてだ。その礼に、このままお前の心臓を踏み抜いてやろう……!お前の血は、飲むのに値しない粗悪品だ……!」
スパンダムの胸の上に置いた足に力を籠める。肋骨をへし折り心臓を破裂させるつもりで足を打ち下ろそうとした、が。
「くっ、う!?」
一瞬、全身に重りが取り付けられたかのような感覚に陥る。その衝撃に、心臓を踏み抜こうとした足から力が抜けた。
足だけでなく全身から力が抜けたせいで、崩れ落ちる形で床に倒れこむ。その拍子に膝がスパンダムの顔面に抉りこみ「フゲェ!!」と呻くのを他人事のように聞いていた。
(生命力が本当に尽きましたね……体がさっぱり動きません)
意識はあるものの、指先をピクリとも動かせない。感覚も聴覚だけが機能しており、残していたはずの触覚も消え失せ、冷たいはずの床の温度すら感じられない。
「ぐっ、こいつ……! よくもこのおれを足蹴にしやがったなァ……!? このっ、このォ! 世界で一番悍ましい種族、人食いの吸血鬼の分際で! 人間らしい扱いが受けられると思うんじゃねェ!」
ゴンッ! ガンッ! と硬いものがぶつかる音が耳に届く。踏みつけられているのか、頭を床に打ち付けられているのか。触覚が機能しない中、音しか聞こえない状態では判断がつかなかった。
「はっ、あの海賊どもも哀れだよなぁ? 天竜人も欲しがった美貌にでも惹かれたのか知らねェが、その中身が怪物じゃあ浮かばれねェってもんよ! お前らがなぜここまで忌み嫌われるか知ってるか!? 人間の血を求める本能、飲んだ分だけ強くなれる点だけじゃねェ! それはな、メリアは
「!!」
スパンダムの言葉にロビンが息を呑む。
「漂白に巻き込まれた人間は二度と元には戻れねェ! 光に変えられた人間が外に出るには、メリアに変えられるしか道はねェ。しかもそうやって変貌させられた人間は始祖のメリア……すなわち残響の獣には逆らえない。」
「じゃあ、あの漂白された島は……」
「
スパンダムは、得意げにメリアの恐ろしさを並べ立てる。マリーはその言葉を、そのとおりだ、と納得しながら聞いていた。
「この星に生きる人類すべての敵と呼ばれる所以がこれだ! 人間を食らった分だけ強くなる特性! 土地ごと無に帰す漂白と言う能力! 挙句の果てに、漂白した大地はそこにいた人間ごと怪物の所有物となる! こんな生き物、生きているだけで大罪だ!」
しかし、最後の発言だけはいただけない。痛みを感じ取れない体のまま、マリーは口を開いた。
「言葉の大半は否定しない。メリアと人類は不倶戴天。自然と共に生きる我らは、自然を乗り越えてきた人類とは価値観が合わない。ですが、罪人扱いされる謂れはない」
「………アァン?」
「単に、メリアは人類というものにとって脅威であるというだけだろう。出来るならば共存したいという我らの願いを踏みつけにして、我らの命と力を搾取しているのはそちら側だ。蜜だけでなく遺体が質のいい医薬品になると乱獲したことも、力が強いからと奴隷にしたことも忘れていないぞ。存在が罪だというのなら、それを利用することも罪だろう。随分と都合のいい頭だ。
「きっ、貴様ァ……!」
「マリー!!」
ロビンの悲鳴と、パァン……という破裂音が部屋に響く。
触覚も痛覚も相変わらず機能していないが、音からしておそらく撃たれたらしい。どこを撃たれたのかは分からないが、ロビンの声から察するに重要な箇所かもしれない。
「あなた、よくも!」
「ははっ、メリアはこの程度で死にゃあしねェよ。では衛兵! この三人を鎖でつないでおけ! ニコ・ロビンの海楼石の錠は決して外すなよ。 カティ・フラムはインペルダウンへ、ニコ・ロビンは海軍本部へ。マリーは政府の研究施設、エッグヘッドだ。護送船の準備が出来次第”正義の門”をくぐり出航する! CP9は各々部屋へ一旦戻り一息入れておけ。」
そう言って、CP9は部屋を出ていった。
立つこともできないマリーは物のように別の部屋へ引き摺られ、床に打ち捨てられる。その間も痛みは無いため、マリー自身は大した苦痛もなかった。
無音の時間が続く中で、ロビンが口を開いた。
「クロユリさん、大丈夫?」
「生命力が枯渇したせいで、今全身の触覚が機能しておらず……。体のどこを撃たれたかも分からないから、なんとも言えません。ロビンは大丈夫ですか? 顔、痛くないですか?」
「……私の事は、いいのよ。クロユリさん、心臓を撃たれてるのよ? 自分の事を心配して頂戴……」
「あー…心臓ですか。通常時ならともかく、生命力が枯渇してるので回復には時間がかかるでしょう。死にはしませんから、安心してください。頭じゃなくてよかったです」
「っつ………! いい加減にして! 私を助けに来たことといい、今回の作戦といい、なんでそこまでするの!?」
……なんで、なんでときたか。そんなもの。
「それは、船長さんに聞いてください。死んでも仲間をやらないと叫んだのはあの人でしょう」
「なっ……!?」
「貴女はわたくしの仲間です。仲間は守るものだと教わりました。好悪の感情はわたくしにはすこし難しいものですが、貴女を害する者を許せないという感情はわたくしにもあります。
理由はそれだけです。わたくしは、あなた達を傷つける者を認めない。そのためなら命と尊厳をかけて戦える。戦わなければ、それ以上のものを失う予感がある。それだけなのです」
マリーとロビンの目線は合わない。それでも、ロビンはマリーに真正面から向き合っているかのような緊張感を覚えた。
意味が分からない。マリーにとってロビンは、ただの都合のいい足だったはずだ。故郷に帰るまでの船に乗る、利害関係で結ばれた一人。
でも、マリーもあの船の人たちに希望を見たのだろうか。ただの隠れ蓑として麦わらの一味に押し掛けた自分と同じように。
「ああでも、ちょうどいいです。ロビン、その手錠で床を叩いてみてくれませんか?」
「……床を? いったい何のために? この錠はその程度じゃ壊れないわよ?」
「まあまあ、今後のためにです。いいから早く」
「………??」
言われるままに、床に打ち付ける。途中マリーから、「もう少し強く」「弱めに叩いてみて」と指示が入りながらも、ロビンは手錠で床をコツコツと叩いた。
「なんだ、脱出の悪あがきかァ? 無様だなァニコ・ロビン!」
「「!!」」
しばらくそんなことを繰り返した後、部屋にスパンダムが笑いながら入ってきた。その顔には嗜虐的な笑みが浮かんでおり、なにか企んでいることは明白だった。
聞いてみればエニエス・ロビー本島から緊急の通信があったようだ。それをルフィ達の敗北ととらえたスパンダムが、ルフィ達の末路をロビンに伝えようとわざわざやってきたらしい。
受話器の向こうでは何やら大騒ぎが起こっているようで、スパンダムは笑いながら「情報は要点を短くまとめ大きな声ではっきりと伝えろ!!」と指示を出す。それに従って、受話器の向こうの男は叫んだ。
「海賊たちが裁判所前広場に到達した!!」
「は?」
その言葉に、スパンダムは口を開きっぱなしになり、ロビンとフランキーは目の色を変えて受話器を見つめた。
スパンダムはいまだ叫び続ける受話器を放り出し窓へと走る。そこでルフィとの対決を続けるブルーノを見やった後、「今この島で何が起きてるんだァ~~!!」と叫んだ。
しかし腐っても司令長官の肩書は伊達ではないのか、すぐに役人たちに指示を飛ばす。
海賊たちの目的を奪うため、“正義の門”の向こうにマリー達を移動させその向こうで護送船を待つつもりらしい。
「さァ立てお前ら! 地獄へと早急に飛び立とう! 海賊達はそのあとじっくり追い込んでやる! わはははははは!!」
役人たちがロビン達を取り囲み悔しげに顔を歪めるのを見て、スパンダムがそう嘲笑う。
正義と名を冠しながら、弱者を甚振る事に愉悦する声にマリーはため息をつく。
そうして息を吐いた瞬間、マリー達のもとに望んでいた船長からの声が届いた。
「ロ~~ビ~~ン!! マ~~リ~~!! 迎えに来たぞ~~!!」