怪異の王と死なずの君   作:十二夜

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「もういや。みんな死んでしまう。みんな私のために死んでしまう。なのに私には誰も助けることができない。私が何かすればするほど、何か話せば話すほど、みんな死んでしまう。もう、私も死んでしまいたい」



第0話 LORDS OF VAMPIRES

天も無く

地も無く

 

人々は突っ走り

獣は吠え立てる

 

まるで彼の宇宙が一切合切咆哮を始めたようだ

 

消えろ、消えろ、束の間のともし火!

人間は歩き回る影法師

 

闘え

死ね

あとは全てくだらないものだ

 

死んでしまえばよい

消えてしまえばよい

 

きっと彼女は不倶戴天の仇人で

 

世界がその絶対応報に(こうべ)を上げたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「ああああああああああああああああああああああ嗚呼あああああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」

 

それは宇宙が砕けて天地粉々になったかの様だった。

 

たった一人に向かって百万の軍勢が押し寄せる。

 

槍を持ち、剣を持ち、弓を持ち、鉄砲を持ち、馬に乗り、鎧を纏い、一心不乱に押し寄せる。

 

それもただの人間ではなく、一つ一つが並みの吸血鬼程の力にまで強化されている。

百万の、吸血鬼。

 

たった一人に向かって『死の河』が流れ落ちる。

 

キスショットは三百六十度から迫りくるあまりの物量に身動きが取れずにいた。

 

いや、事態はもっと悪い。

 

(多い!余りに多すぎる!これは……儂の再生が僅かに間に合わない!!)

 

まるで(やすり)にかけられたかのように次から次へとキスショットの身体に傷が刻まれる。

それらが治ったとたんにまた新たな傷が増える。

それらが治らないうちにまた新たな傷が増える。

更に増える、増える。

 

串刺せ、串刺せ。

 

あの女を地獄へ、こちらへ。

 

死を、死を、死よ!!

 

遂に、キスショットの肌から一滴の赤い血が流れ落ちた。

 

死の軍勢が狂喜する。

更に勢いは増す。

 

腹の一部が抉られる。

再生している途中でまた抉られる。

 

腕が飛んだ。

滝のように血が流れる。

再生が追い付かない。

 

(まっ……ずい!不味い!!不味い!!!)

 

地獄の真っただ中でキスショットは見た。

 

かつての影を。

棺の傍に立つ亡霊を。

 

腐ってしまった影が、赤く流れるさまを、

腕を

腕を

腕を組んで、見つめている。

嗤っている。

笑っている。

 

ヴラド公が笑っている。

 

(なんだこの様は。負け?誰が?儂がか?負け?負けだと?この儂が負けるじゃと?誰に?あの伯爵に?不可能じゃ。有り得ん。儂は負けぬ。儂は鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼。ここで死ねん。ここでは死ねん)

 

キスショットの脳裏をよぎるのは、今は亡き一人の眷属。

 

自分の隣で笑っていた男。

自分を憎み、挑んできた男。

これ見よがしに自分の目の前で日光へ身を投げ、燃え尽きた男。

伸ばした手は、空を切った。

 

河に呑み込まれるキスショットが夜空に向かって手を伸ばす。

ドラキュラの眼に覆われた空ではなく。

その先で輝く月に向かって。

 

そうだ、あの夜も、あの夜もそうだった。

わたくしは二度願った。

ただ同じく、ひたすらに願ったんだ。

 

(わたくしはまだ、誰も助けていない!まだ、死ねない!)

 

身動きの取れない身体が千切れるのも気にせず、無理やり振り上げた拳で地面を撃つ。

 

大地が割れ、氷が砕け、水飛沫が舞う。

 

海面の上に静かに降り立ったキスショットは、その美貌も相まって神話の一場面の様だった。

 

それでも薙ぎ払えたのは十万にも満たないほんの一部。

 

地獄の軍勢は衰えず止まらず、足音高く迫り来る。

 

ドレスは破れ、傷こそ治っているものの、肩で息をしているキスショットは目に見えて消耗していた。

 

それでも、キスショットは笑う。

 

凄惨に口を裂いて嗤う。

 

凄惨に笑う。

 

裂けた口に手を突っ込み、喉から取り出したのは二メートルにも及ぼうかという大太刀。

鞘は無く、鍔も無く、柄も無い。

キスショットは剥き出しの(なかご)を握り、軽く振る。

 

刃が水に触れるが、海面は静かなまま、まるで水が刃の存在に気づいていないかのように波紋も飛沫も上がらない。

 

「妖刀・心渡。あまりの切れ味に物質を切らず、怪異のみを切る刀じゃ。誇れよ、伯爵。うぬは儂にこの太刀を使わせるほど、儂を追い詰めた」

 

キスショットが辺りを睥睨する。

 

余裕などない。

しかし、その眼は未だ黄金にぎらついている。

 

そうして――ことごとく殺し尽くす戦が狼煙を上げる。

 

「来い。地獄がなにするものぞ。『怪異殺し』と儂が呼ばれる所以を見せてやろう」

 

まるで堰を切るように全ての方向から『死の河』が再び押し寄せる。

 

キスショットは左足を後ろに引き、右足を半歩前へ踏み出し、独楽(こま)に糸を巻くようにして身を屈め、右手に持った『心渡』の刃を水平に保つ。

 

それは、今は亡きとある武士の姿を彷彿とさせるものだった。

 

右足のつま先で地面をえぐり取りながら、渾身の力を込めて『心渡』を振り抜く。

 

澄んだ音が響き、世界が静止する。

 

一瞬の静寂の後、風が起こり、風が逆巻き、風が吹き荒れ、『河』が遥か地平まで両断される。

 

崩れた軍勢の間を一筋の金色の光が、ただ走り抜け、ただ刃を振るい、ただひたすらに殺し尽くす。

 

一つ、二つ、十、二十、百、二百、首をはね、胴を袈裟に斬り、岩ごと断ち切り、顎を掴んで頭を潰し、頭蓋を打ち砕く。

六つまとめて突き抜き、七つまとめて横一文字に斬り飛ばし、八つまとめて勢い任せに心の臓腑を粉微塵にする。

 

だが、まだ足りない。

まだ止まらない。

 

キスショットに勘が戻ってくる。

冴える。

技が冴える。

動きが冴え渡る。

 

全身の血が沸騰する感覚に襲われる。

 

「今この時よりは鏖殺の禍津刻、武器を持ってこの場に立った己が不幸と無力を呪うがよいわ」

 

大太刀を振るう腕は最早認識できず。

 

一振りで百を突き崩し、千の首が落ち、一呼吸で万の軍勢が消え失せる。

 

目指すのはただ一つ。

 

『王』の座す地獄の玉座。

 

千を蹴散らし、万を切り開き、その最奥へ。

 

敵が幾万幾億ありとても、

刃を振るい、全霊を振るい、

 

その後方へ、

その後方へ。

 

キスショットが左足を体ごとのめり込むようにして一歩踏み込ませ、背負い投げるように上段から『心渡』を体全身で振るう。

 

空が裂ける、音が割れる。

切っ先が長さという概念を無視して振るわれ、刃は『河』を、衝撃は背後の氷と山と遥かな先の雲を含めて真っ二つに斬り払う。

 

ドラキュラの命が恐ろしいほどの速さで失われていく。

 

瞬きする度に万の命が失われる。

そら、もう十万の命が消え失せた。

 

しかし、ドラキュラはその様を嬉しそうに眺めている。

 

甲冑を着込み、剣を下げた在りし日のヴラド公の姿で微笑む。

 

「……素敵だ」

 

それは確かに心から出た言葉に相違なかった。

 

だから、ドラキュラは『死の河』を回収した。

 

(このままでは奴を殺し切るよりも先にこちらが削り切られる。なんという女、なんという化物なのだ。まさか『死の河』を踏破して見せるとは)

 

時が巻き戻るように、『河』が流れに逆らってドラキュラの棺に収まる。

 

それは驚くほどの速さで終わった。

 

かつて百万在った命。

そして、今や十万にも満たない命。

 

72653。

 

それがドラキュラに残された命だった。

 

ドラキュラは長剣を抜き、遠く離れたキスショットに視線を向ける。

 

キスショットの目とドラキュラの目が合う。

 

もはや二人の間を遮るものは何も無かった。

 

 

「来い。ここまで来い、キスショット。私とお前、命を削る一騎打ちだ」

「言われずともそのつもりじゃわい」

 

 

声は頭上から響いてきた。

 

既に距離を詰め終わっていたキスショットが、頭上に掲げた『心渡』を振り下ろす。

剣筋に合わせてドラキュラの剣がその一撃を受け止める。

 

激突。

 

世界が吹き飛ぶような轟音が鳴り響き、衝撃が辺りを埋め尽くす。

足元の大地が粉々に割れ、砕ける音は地球が耐えられないと悲鳴を上げているかのようだった。

 

「随分と懐かしい恰好じゃのう!!少し老けたか?ヴラド・ドラクリア!!!!」

「ドラキュラと呼べ!キスショット!!私はドラキュラ伯爵だ!!!!」

 

まるで二つの流星のように二人は縦横無尽に駆け回る。

 

地上で、地下で、空中で。

 

太刀を、剣を、拳を、異能を。

 

切り合う二本の刃は百の衝撃を生み、千の閃光を咲かせ、万の火花が走る。

 

受け流し、反転し、迎撃し、追撃し、心のままに切り結ぶ。

 

力と速度ではキスショットが勝り、手数ではドラキュラが勝る。

 

実力は完全に五分。

 

均衡状態に入ろうとしていた。

 

だが、それを許さない吸血鬼が二人。

 

「カ「カカッ「クカカカカカッ「カカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!」

「は!「クハッ「クハハハハハハハハ!「ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

戦闘が更に加速する。

二人のボルテージがさらに一段階上がる。

 

ついに戦いの跡は光の尾を引き、複雑な幾何の模様を描き出した。

夜空に新たな星を加えるように、幾億もの光が散っては消える。

剣戟の閃光が、摩擦の火花が、打撃の衝撃が、一分の隙も無く世界を埋め尽くす。

 

ドラキュラはもはや、身体を異形に変化させることも出来ないほどに弱り。

キスショットは既に、再生に要する時間が数秒を超えていた。

 

それでも苛烈な剣戟は止まらない。

 

全ては目の前の敵、ただ一人を殺すためだけに。

 

「人間では無いお前に私は殺せん!キスショット!!なぜお前は人間では無い!!お前が人間であったのならばどれだけ素晴らしいかったか!どれ程美しかったか!!!何故、何故!!!」

「逆にうぬは何故そうまで人間に拘る!?何がうぬをそうまで突き動かすのじゃ!!」

 

二人は揉み合いながら一筋の光となって大気圏から墜ちる。

 

元の姿を跡形も残していない南極大陸に降り立ったキスショットとドラキュラは、一瞬お互いの視線を交差させる。

 

「人間とはまるで夢の様だ。人間は弱い。人間は老いる。人間は死ぬ。しかし、人間は私たち化物よりずっと気高い。どれ程の絶望を与えられようと、それに食らいつき、乗り越え、私に迫る。人間だけが『諦め』を踏破し、人道を邁進する。万年先か億年先か、いつの日にか私を殺し切れる人間が必ず現れる。必ずな。人間とはまるで夢の様だ。だから、()()()()()()()()()()()()()()は、人間によって討ち斃されなければならない。化物を殺すのは何時だって人間だ。人間なのだ。人間だけなのだ!」

 

血を吐くようなその独白をキスショットは静かに聞き届けた。

その上で、微塵も共感することは無かった。

 

ほんの僅かな例外を除き、キスショットにとって人間とはただの食用動物に過ぎない。

吸血鬼に成った以上、その価値観の変遷は必然であり、そうでなければ生きていけない。

 

それをドラキュラも分かっているからこそ、余計な言葉は無くただ静かに剣を構える。

キスショットもそれに応えるように『心渡』を強く握りしめる。

 

ドラキュラに残された命は既に一万を割った。

キスショットも既に、目に見えて動きが鈍っているほど衰弱し切っている。

 

両者ともに理解していた。

終わりが近いことを。

 

二人は静かに歩み寄る。

一歩一歩を噛み締めるように踏み出し、遂にその時に辿り着く。

 

「――ッ!!」

「ッッ!!」

 

限界まで研ぎ澄まされた太刀の切っ先が、ドラキュラの左胸を的確に穿つ。

 

また一つ命が消えたことを気にも留めずキスショットの突きに沿うように刃を滑らせながら踏み込み、弾いた後の振り下ろし。

 

更に斬り下ろしから跳ねた剣が、正確に刃を見切ったキスショットの顎付近を空振りする。

 

それとほぼ同時に、キスショットはドラキュラの胴体に大太刀を薙いでいた。

 

「甘いわッ!!」

 

「チィ――ッ」

 

続けてキスショットがもう一回転し、追撃するドラキュラの太刀を弾く。

 

そこで二人は止めていた息を吐き、深く呼吸をする。

 

そして再び激突する。

 

時間が経つにつれ二人の戦闘範囲は狭まり、その分一瞬の駆け引きはより濃厚なものになる。

 

永遠とも思える一瞬を重ね続け、二人は極限の剣戟を続ける。

 

海に浮かぶ巨大な氷山の中心で、一歩も譲らずかち合う刃が絶え間なく激音を鳴らす。

 

想像を絶する程に濃密な数瞬が繰り広げられ、剣同士が散らす火花の煌めきや、閃く刃は背筋が凍るほどに美しい。

 

ここに至って、二人は更なる遥か高みに登っていく。

 

隔絶された世界で、その手にある並ぶ者なきとする技を振るう。

 

そして、いよいよ果てが見えてきた。

 

一度距離を取った二人は、是が非でも決する覚悟で、互いに刃を翳す。

 

「終わらせてやろうぞ、伯爵。儂とうぬ、決着をつけるとしよう」

 

「人間以外に終わらせられるものか。この私の夢の()()()は」

 

刃先を下ろしたまま駆け出したキスショットに応じて、ドラキュラも同じく切っ先を下げて走り出す。

 

互いの距離は刹那の内に埋められる。

 

「シィィッ!!」

「おぉおお!!」

 

疾走した勢いを乗せ、示し合わせたかの如く切り上げ、暴風が水面を掬い上げる。

 

高波がぶつかり合い、一瞬の拮抗の瞬間に振り上げた刃で斬り付ける。

 

渾身の剣戟に鬩ぎ合う高波が弾け、海の上で球状に拡散していく。

 

その後、両者技巧と力を尽くして十九度の剣戟を差し込む。

 

それは幾億と刃を交えた時より遥かに少なく、しかし遥かに重たい。

 

「ッ!?」

 

鍔迫り合いの最中、不穏な気配にキスショットが大きく跳び退く。

 

その気配を知っていたからこそ、引いた。

 

「――――」

 

残る力を振り絞り、ドラキュラは再び身体を闇へと変化させる。

 

魔犬が、百足が、蝙蝠が、無数の攻撃が四方八方に広がる。

 

キスショットが素早く行動を起こす。

 

こちらへ迫る闇を、少なくとも一瞬の内に二回切らねばならないと見切っていた。

 

『心渡』を腰へ添わせ、身体ごと独楽(こま)を引き絞るように強く内へとねじり込む。

 

そのまま一息に渾身の力で『心渡』を真一文字に薙ぎ払う。

 

そして、()()()

 

手放した直後、宙にある太刀を逆手に掴み、切り上げた。

 

闇が四つに割れ、裂けた残滓がキスショットの両側を通り過ぎる。

 

「それが本命かッ!」

 

闇に隠れるようにして、ドラキュラが既にキスショットの懐へ潜り込んでいた。

 

一撃必殺にもなり得たであろう攻撃を、目くらましのためだけに使う。

 

互いに瞬時に踏み込み、激しく刃を合わせるも、キスショットが咄嗟に剣を側面へ受け流した。

 

――海面が割れる。

 

ドラキュラの長剣の切っ先の軌道上が、荒々しく割れた。

 

まさかのこの局面において、ドラキュラの力は『死の河』を踏破した時のキスショットに迫りつつあった。

 

「礼を言おう、キスショット。どうやら私はまだ()()()ようだぞ?」

「どこからそんな力が湧くのじゃまったく……どうかしておるぞ」

 

故にキスショットは短期での決着に臨む。

 

二度、三度と、互いの後方の海が派手に割れる。

 

自然と激化する剣比べ。

 

――嗚呼、愉しいな。

 

やがて、『心渡』がドラキュラの剣にヒビを刻む。

 

その瞬間を待っていたかのように、両者ともに上段で構える。

 

キスショットもドラキュラも分かっていた。

これが最後の駆け引き、幕切りであると。

 

「――ッ!」

「―――!!!」

 

思い切り振り下ろされた刃がぶつかる。

 

小細工も仕掛けも無く、理想そのものの振り下ろしが鎬を削る。

 

――ここに来て武器の性能差が勝敗を分けた。

 

いくらドラキュラの武器とはいえ、ただの剣が『心渡』に競り勝てる道理も無し。

 

ドラキュラの長剣が悲鳴を上げて砕け散る。

 

あとは丸腰のドラキュラを、たったの数百回切り刻むのみ。

 

いくら弱っているとはいえ、キスショットなら僅か数秒の間に終わる。

 

「オォオオオオッッ!!」

 

だが、『心渡』が肩に触れようかという瞬間、ドラキュラは残った長剣の柄を使ってキスショットの太刀を跳ね上げた。

 

「キスショット!!!!」

「ドラキュラァアアアアアア!!」

 

両者共に出せる全てを出し切った。

 

事ここに至っては、もはやなりふり構わず勝利を求めるのみ。

 

キスショットが拳を握り、ドラキュラが抜き手の構えを取った時だった。

 

 

闇が引き、空が白み始める。

 

 

二人をあざ笑うかのように太陽が顔を出した。

 

 

吸血鬼達の長い夜は遂に終わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わり……か」

「違う。立てキスショット。まだ何も終わってはいない。立って私と闘え、キスショット!」

「いや、終わりじゃ」

 

一気に力が抜けたようにキスショットが地面に座り込む。

疲れ切った顔でドラキュラを見上げた。

 

「太陽が昇った。忌々しい太陽が。これで儂の再生力は焼かれた肌の再生に全て回される。今ならば儂の心臓を抉り取るだけで儂は再生が追い付かずコロッと死ぬじゃろうな……じゃが伯爵。うぬに残された命は幾つじゃ?千か?百か?」

「…………百十四だ」

 

ドラキュラが苦々しい顔で答える。

 

「試してみるかの?心臓を抉り取られた儂が、死ぬまでの間にうぬを百十四回殺せるかどうか」

「いい。これほど戦ったんだ。私もお前も結果は分かり切っている」

 

ドラキュラも分かってはいた。

 

太陽が昇るまでがこの戦いのタイムリミットだったと。

太陽が昇った時点で、戦いの結末は相討ち以外に有り得ない。

 

ドラキュラはあまりに命を失いすぎた。

キスショットはあまりに血を失いすぎた。

 

ここでドラキュラがキスショットの心臓を穿った所で、キスショットにとって、血を全て失って死ぬまでの間に『心渡』を拾い、丸腰のドラキュラを殺し切ることなど造作も無いだろう。

 

闘争は終わってしまった。

宴は終わってしまったのだ。

 

「ここで儂に殺されるのも、うぬの本望ではないじゃろう。何より相討ちなどという終わり方を儂は認めん」

「チッ、興が削がれた……私は帰る」

 

元の姿に戻ったドラキュラが踵を返す。

が、ふと足を止めてキスショットの方へ振り返った。

 

「キスショット。お前は私を吸血鬼としての誇りが無いと詰ったな。我々吸血鬼に、化物に誇りなんてものが、本当にあると思っているのか?」

「あるに決まっておるじゃろ。化物には化物なりの矜持と誇りがある。それがうぬの言う『気高き人間』への、せめてもの敬意じゃ」

 

納得したようなしないような顔をしてドラキュラはキスショットに背を向ける。

が、今度はキスショットがその背中を呼び止めた。

 

「のう、伯爵。儂はたとえ世界を相手に切り結ぼうと、吸血鬼に成った己を恥じぬ。じゃがな、うぬが言ったように、こんな化物になどならずに済むなら、それが一番だとも思うのじゃ」

「―――ッ」

「それだけじゃ。儂は疲れたから寝る。うぬもとっとと帰って寝るが良い」

 

それだけ言うとキスショットはその場にゴロンと寝転がった。

ドラキュラは今度こそ背を向けて歩き出す。

 

そしてキスショットから見えなくなったところで無数のコウモリとなり、カルパティア山脈の麓へ帰っていった。

 

「怪異の王」と「死なずの君(ノー・ライフ・キング)」。

 

たった一夜の激闘で交わった二人の王は、それ以来今日まで再び出会うことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

今回のオチというか、後日談。

 

 

 

 

 

 

 

四百年後、そのまま南極で暮らしていたキスショットは、ふとかつてのドラキュラの言葉が頭をよぎり、死に場所を人間に求めて四百年ぶりに日本に降り立った。

その後の「物語」を詳しく語る必要はないだろう。

六百年の時を経て、彼女はやっと己に捧げられたちっぽけな命を初めて助けることが出来たのだった。

 

 

 

二百年後、相も変わらず孤独な城で暮らしていたドラキュラのもとに、ロンドンから一人の青年が訪ねてくる。

その後のお話を詳しく語る必要はないだろう。

たった一人で単騎ロンドンに攻め込んだ伯爵は、そこで誇り高き吸血鬼として、夢にまで見た『人間』によってやっと討ち斃されたのだった。

あいにく死に損なったのだが。

 

 

 

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードは阿良々木暦の下で「忍野忍」となり、

ドラキュラ伯爵はヘルシング家の下で「アーカード」となった。

 

 

 

死に場所を求めた吸血鬼はたった一人と共に生きることを選び。

神の国を求めた狂人は遂に仕えるべき国を見つけた。

 

 

 

二人の道は完全に分かたれ、二度と顔を合わせることはない。

 

 

 

だが、共に六百年前から始まった永い旅は、一度の交差を経て、今ようやく一息ついたのだった。

 

 

 

これが今回の後日談兼オチ。

 

だから、この物語はきっとハッピーエンドということになるのだろう。

 

 






拙い文章を最後までお読みいただきありがとうございました!

多少設定などがガバっているのは自覚してます、すみません。
この話は3話できっぱり終わらせようと最初から決めていました。
引き延ばすとラブコメになっちゃいそうで、、、、
アーカードとキスショットのラブコメなんて需要ないでしょ。

ところで1~3話ではなく0~0話にしたのは、物語シリーズの第壱話は「ひたぎクラブ」で、ヘルシングの第一話は「VAMPIRE HUNTER」のみだという思いがあったからです。
この話はあくまで語られることの無い遠い昔の話ですから。

誤字、脱字、その他ご指摘お待ちしております。
それではみなさん、またどこかで。
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