ごくフツーの少女、明仄 細波が訪れたマッサージ店は、客に麻酔ガスを嗅がせる怪しいお店だった……!?(※要検証)

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怪しげな店の話

 夏に戻ったり冬に飛んだりを繰り返す秋頃。

 明仄(あけぼの) 細波(さなみ)は、日曜日にマッサージ店を予約していた。

 

 ビル群から少し離れた歩道を歩き、スマホの地図に従って歩けば、そこはすぐ見つかった。

 医師免許とやらもいくつかあるらしい、信用できそうな店だ。

 

 街路樹の横を通り過ぎ、店のガラス戸を上げ、挨拶する。

 

 

「こんにちはー、11時予約の明仄(あけぼの)ですー」

 

 

 しかし、返事はない。

 ………休業中ではないようだ。

 

 予定では空いている時間だったが、先客が長引いているのかもしれない。

 

 予約表はあったので、そこに苗字とヨミガナを書き、待合用であろう丸椅子に座る。

 背中側の壁はやわらかい絨毯のような何かが貼られており、背もたれになりそうだ。

 

 まあ、どうせマッサージも受けるなら、数分ぐらいは背筋を伸ばしておこうかと、もたれずに座って待っていると、奥の扉にある窓の先が見えそうだと気づいた。

 

 ……歯医者などでよくある扉だ。

 もちろん、他の客から見えるところで際どいようなことはしないだろうし、少し予習程度に見ておこうか、と思い立つ。

 

 はたして、その扉の小窓の先では、ちょうど先客らしき人が寝台に座り、体を横たえるところだった。

 かばんや上着は棚にでも置いたのだろう。この時期にしては少し薄着だが、施術を受けるならむしろ厚着な方だろう。

 

 そして、その人が横たわるところを確認した、店員らしき人は、そのままその部屋の、さらに奥の部屋まで引っ込んでしまった。

 

 ……うん?

 と疑問を感じながら見ていると、天井の、換気扇のような場所から、薄紫、あるいはピンクのような、煙のような、というかガスのようなものが降ってきた。

 それは緩やかに客の人の頭にも降りかかり……やがて、客の人は、穏やかに胸を上下させ始めた。

 その動きは、明らかに、眠っている人のペースである。

 

 あれ、何かヤバい店かな、と少し迷っていると、ブオオオと換気扇が動き始め、そのガスは部屋の天井へ吸い込まれた。

 

 そして、奥の部屋から店員が出てくる。

 歯医者のような白いマスクをして。

 

 そういえば、部屋から出る時にも、耳元にそれらしき白い線が見えたような。

 

 その店員は、寝ている人に何やら一言、二言声をかけ……それが二、三度繰り返された直後。

 客はぱっと目を覚ますと、体の調子を確かめるように腕を回し、店員に向かって礼をして、壁際の荷物を取り始めた。

 

 慌てて待合椅子まで戻ったが……

 

 ……いや……

 

 あれ何???

 

 何だろう、座っていたのは姿勢を変えるためで、施術の大部分はもう終わっていたとか?

 いや、だとしても寝させて変なガスだけ嗅がせて返すのは何かがおかしい。流石にありえない。

 

 薬だとしても、ガスとして吸わせるのは、何か、絶対におかしいだろう。せめて飲ませるか塗るかだ。

 いや目薬とか色々あるけど、少なくとも吸わせるのはない。

 

 考えている間にも、その客は扉を開けて出てくる。

 変な匂いはしなかった。

 

 入り口でもう一度、奥に向かって「ありがとうございましたー!」と声をかけ、店を出ていく。

 

 ……うん。

 

 ……いや……うん。

 

 これは……

 

 

「催眠マッサージ……?」

 

「いやちょっと待ってください。

 話を、いや説明をします、話を聞きましょう。説明をしましょう。話を聞いてください。」

 

 

 奥から店員が出てきたのはその直後だ。

 

 

「あの人は……いや証拠の書類を見せてくるのでちょっと待ってくださいね?」

 

 

 そう言って、奥の部屋に引っ込む。

 いやでも、あの部屋に入ってからガスが出たんだから、尚更ヤバいような。

 

 

「いやすみません勝手に見せたらダメでした。

 いや簡単に説明しますが、あの人はプラシーボ効果がすごいんです。

 最初は普通に施術していましたが、施術していないところにも効果が現れてましたし、そのあとは施術の準備をしている間に、勝手に体がどんどん治って、整っていくんです。

 病院にも見せたら、ちゃんと証明もされました。何もしなくても勝手に生活習慣病ぐらいなら治せるすごい体なんです。」

 

「………」

 

「…………ですからその検証のためにも、ああして数秒だけ眠らせて、起きた直後に「もう施術はしましたよ」と言って帰らせて、それだけでどれほどの効果があるのか検証するんです。

 あの人はこのあと病院で検査を受けます。

 ……どうですか!? ね!? 問題ないでしょう!?」

 

「いや……」

 

 普通に睡眠ガスを使うのはダメなんじゃないでしょうか。

 というか、話の流れからして本人にも許可をとってなさそうだし。

 

 

「大丈夫ですあなたには普通の施術をしますから!

 変な音がしたらすぐ出ていってもらって構いませんから!

 スマホを持ちながら施術を受けてもらっても構いませんから!

 通報できる状態でも構いませんから!」

 

 

 必死すぎて逆に怪しい。

 

 

「ほらリラックスできるジュースもありますよ!」

 

「いやいりません」

 

「あっそうですよねこの状況では怪しすぎますもんね……」

 

 

 そして距離も近い。

 

 

「いや……ほら! 奥の部屋にも引っ込みませんから! 少しでもおかしいと思ったらやめて結構ですから! 誤解を解かせてくださいお願いします!」

 

「えぇ……」

 

 

 確かに言われてみれば、現実に催眠なんてあるわけないし、まだブラシーボ効果とかでの詐欺の方が信ぴょう性がありそうだけど。

 

 

「じゃあ……10分だけ」

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 

 この後めちゃくちゃマッサージした。

 とても気持ちよかった。


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