The Sky Blessing ~Rabbit Edition~   作:ella_coat

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第10話 ペンギン船強襲

 交易島を後にしてから、およそ半刻ほどが過ぎた頃。

 三人の少女たちは、眼下に広がる雲海をものともせず、点在する浮島を次々と飛び移っていく。神々の祝福を受けた身体は、昨日よりも明らかに軽く、意のままに動いた。

 目指すは、先日交易島を襲撃した盗賊団のアジト。エルド長老から受け取った地図によれば、もう目と鼻の先のはずだった。

 

 やがて、目的の島が視界に入ってくる。それは交易島よりも遥かに小さく、植物もほとんど生えていない、荒涼とした岩肌の島だった。そして、その島の傍らには、先日見たあの巨大なペンギン型の飛行船が、翼を休めるように停泊している。

 

「間違いないな、あれがアイツらのアジトだ」

 

 アキシャが、獲物を見つけた狩人のように、好戦的な笑みを浮かべた。

 三人は島の物陰に音もなく着地し、慎重に様子をうかがう。船の周りには数人の見張りが立っているが、その動きは緩慢で、緊張感に欠けていた。

 

「あの見張り……やる気ないねー。まぁ、奇襲するまでもないか」

 

 ラビリアが呆れたように呟く。しかし、彼女たちが動くより先に、こちらの気配を察知したのか、見張りの盗賊たちが声を張り上げた。

 

「敵襲だー!」

「あのウサ耳……昨日の奴らだ!」

 

 石の剣を手に十人弱の盗賊たちが、何の連携もなく、ただがむしゃらに襲いかかってくる。

 

「バレちゃったら仕方ねぇ!」

 

 アキシャはそう言うと、背中のクリムゾンチェインブレードを抜き放った。

  戦闘が始まる直前、エクアルが緑色の革表紙を持つ「見通しの書」を、敵集団へと素早くかざす。すると直ぐ様、彼女の脳内に読み取った情報が流れ込んできた。

 

『名前:盗賊』

『説明:人々から物資及び神器を略奪する。腕力は常人を上回るが、知能は低く、総じて弱い』

 

「二人とも、聞いて! この本によると、敵はただ腕力が強いだけの、知能の低い雑魚らしいわ! 油断は禁物だけど、連携さえすれば問題ないはずよ!」

 

 エクアルは即座にその特徴をかいつまんで二人に伝えるが、返ってきたのはあまりにも気の抜けた返事だった。

 

「んなの見りゃ分かる!」

「だよねー」

 

 アキシャとラビリアは、既に大地を蹴っていた。その背中に向かってエクアルは「人の話を最後まで聞きなさい!」と叫んだが、二人の耳に届いているかは定かではなかった。

 

 アキシャが先陣を切り、敵陣の真っ只中へと突っ込む。黒いロングコートが嵐のように翻り、その手にした真紅の大剣が、薙ぎ払うような一閃を描いた。石の剣を振りかぶっていた盗賊が、為す術もなく吹き飛ばされ、岩肌に叩きつけられて黒い灰と化す。

 その後方から、ラビリアがフォトンフォースを構え、アキシャの死角を的確にカバーする。アキシャの背後を取ろうと回り込んでいた盗賊の腕を光弾で貫き、黒い灰に変えてしまった。

 エクアルは戦況を冷静に見極め、的確な指示を飛ばす。

 

「お姉ちゃん、左右から二人、挟み撃ちを狙ってるわ!」

「ラヴィ、左側が手薄よ!」

 

 交易島での戦いよりも、明らかに三人の動きは洗練されていた。神々の祝福を受けたこと、そしてこの世界の法則に慣れてきたことが、彼女たちの力を着実に引き出していたのだ。

 アキシャの一撃はより重く、ラビリアの狙撃はより速く、そしてエクアルの慧眼はより的確に。数分も経たずに、島にいた盗賊たちは全て黒い灰となって消滅してしまったのだった。

 

 

※※※

 

 

 盗賊を殲滅した後に三人は島を探索するが、呪われた神器らしきものはどこにも見当たらなかった。あるのは、盗賊たちが寝床にしている粗末なテントや、略奪品が雑に積まれた木箱だけだった。

 

「おかしいわね……神様曰く、島に『呪われた神器』があるはずなのに、呪いの気配すら察知できないわね」

 

 エクアルが首を傾げる。ラビリアは、巨大なペンギンの飛行船を見やりながら、ある可能性を口にした。

 

「もしかして、この島じゃなくて、あの船にあったり……とか?」

「……ありえるわ。あの船が、この島そのもの。いわば『動く島』なのかもしれない」

「なるほどな! じゃあ、あのデカいペンギンをぶっ壊せばいいってことか!」

 

 三人は顔を見合わせると頷き、巨大な飛行船への侵入を決意した。

 

 船内に侵入すると、そこは薄暗く、油と鉄の匂いが立ち込める、狭い通路が入り組んだ迷路のようになっていた。

 アキシャが斥候として先頭を進む。その白いウサ耳は、僅かな物音も聞き逃すまいと、ぴくぴくと絶えず動いていた。角を曲がった瞬間、待ち伏せていた二人の盗賊が、雄叫びを上げて斬りかかってくる。

 

「悪いが……全部お見通しだ!」

 

 アキシャは迫りくる石剣を、大剣の腹で受け流してそのまま回転。遠心力を乗せた刃が、二人の盗賊をまとめて薙ぎ払い、黒い灰に変えた。真紅の大剣が、狭い通路の壁に火花を散らし、甲高い金属音を響かせる。

 彼女はまるで踊るかのように、敵の攻撃を最小限の動きでいなし、的確に急所を打ち抜いていく。赤いリボンで結われた編み込みが、彼女の激しい動きに合わせて、残像のように揺れていた。

 

 一方でラビリアはアキシャの後方を固め、左右の分岐路や後方から回り込んでくる敵をフォトンフォースで的確に処理していく。彼女は壁を蹴って宙を舞い、逆さまの姿勢から正確無比な射撃を見舞うなど、その身軽さを存分に活かしていた。ベージュのコートと灰色のスカートが、彼女のアクロバティックな動きに合わせて、花のように開く。

 

「アキシャ、右の通路から二人!」

「了解!」

 

 ラビリアの警告に、アキシャは振り返ることなく、大剣を背後の壁に突き立てる。それを足場に跳躍し、右の通路から飛び出してきた敵の頭上を取り、そのまま二人の首筋に強烈な蹴りを叩き込んだ。

 二人の息の合った連携は敵を一切寄せ付けない。そんな彼女らに指示を飛ばしつつ、エクアルは船内の構造やマナの流れを分析していた。

 

「この船、動力源は魔力みたいね。しかも、かなり歪な流れ方をしているわ。そして船の中心部から、ひときわ強い力の気配を感じる……最深部よ、急いで!」

 

 エクアルの案内に従って、三人は船の最深部――だだっ広い機関室のような場所にたどり着いた。部屋の中央では、巨大な歯車がゆっくりと回っている。そしてその傍らに血のように鮮やかで禍々しい紅蓮の剣――呪われた神器が、灰色の台座に突き刺さるように鎮座していた。

 そしてその神器を守るように、両手に石の剣を構えたひときわ屈強な盗賊が一人、立ちはだかる。

 

「き、貴様ら……よくも……! よくも俺たちの邪魔をぉぉぉ!」

 

 男は恨み言を叫びながら、武術もへったくれもない、ただがむしゃらな突撃を仕掛けてくる。

 

「……うるせぇな、静かにしとけ」

 

 アキシャは突進してくる男を冷めた目で見据え、真紅の大剣を静かに構える。そしてすれ違い様にただ一閃、目に留まらぬ速さでその剣を振り抜いた。

 男は何かを叫ぼうとしたが……その声は音になることはなく、身体が真っ二つとなり、黒い灰となって崩れ落ちた。

 

「今ので最後だったんじゃないかしら?」

「そうだねー。それで呪われた神器というのは、多分あの剣のことで間違いないかな」

「ええ、そうね。近づくことすらはばかれるような、強くて邪悪な魔力を感じるわ」

 

 エクアルが「呪われた神器」の前に進み出て、静かに目を閉じる。彼女は、神域で交わした約束を思い出し、絆の神ルーモアへと、心の中で静かに祈りを捧げた。

 すると、エクアルの身体が柔らかな金色の光に包まれ、その光が呪われた神器へと、まるで清流のように流れ込んでいく。紅蓮の剣から放たれていた禍々しい紫色のオーラは、温かな光に上書きされていき、やがて剣そのものから、美しい光の粒子が漏れ出すようになった。

 

「……ふぅ、これでいいのかしら?」

 

 祈りの体勢を解いたエクアルが額に滲んだ汗を拭き取ると同時に、彼女の脳内にルーモアの明るい声が直接響いた。

 

『――よくやったわね、エクアル! さすがは私たちが見込んだ勇士だよ!』

 

 ルーモアの声が脳内に響き渡ると同時に、浄化された神器から温かく、そして力強い光が溢れ出した。その光は機関室全体を満たし、三人の身体に染み込んでいく。

 じわり、と身体の芯から熱が生まれるような感覚。無理やり抑えつけられていた力が、内側から枷を押し広げ、解放されていく。それは、失っていた自分の一部を取り戻すような、心地よい解放感だった。

 

 その感覚が落ち着いた頃、ラビリアは手早く懐から魔道具を取り出し、自分たちの状態を確認する。円盤に浮かび上がる数値を見て、彼女は満足げに頷いた。

 

「能力解放度、上昇……! まだ全然だけど……うん、確実に強くなってる」

「よし! この調子で、どんどん浄化してやるぜ!」

 

 アキシャが不敵に笑うと、エクアルとラビリアも笑みを漏らしながら頷いてみせた。

 そして島々の浄化が、自分たちの本来の力を取り戻す鍵となることを確信した三人は、次なる島へと向かう計画を立て始めるのだった。

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