The Sky Blessing ~Rabbit Edition~ 作:ella_coat
呪われた神器を浄化し、ペンギン型の飛行船の機能が停止してから、半刻ほどが過ぎていた。船内を支配していた禍々しい気配は嘘のように消え去り、今はただ油と鉄の匂い、そして静寂だけが残されている。
三人は手分けして、船内の物資を調べていた。幸い、盗賊たちが溜め込んでいた食料や、交易島で役立ちそうな資材が、手付かずのまま残されていた。
「お、こいつは上等な干し肉だな! 後でじっくり味わってやるか」
「おー……こっちの布は、質がいいね。何かの素材に使えそう。あとこの歯車も貰っておこうかなー、歯車は……ロマンの塊!」
アキシャとラビリアがそれぞれの戦利品を吟味していると、船長室らしき豪華な部屋を調べていたエクアルが、二人を呼んだ。
「お姉ちゃん、ラヴィ。ちょっと来て」
部屋の中央には、天蓋付きの立派なベッドが鎮座している。その枕元に、二つの見慣れない神器が、まるで持ち主を待っていたかのように、静かに置かれていた。
一つは、先端に奇妙な歯車のような機構が取り付けられた、節くれだった木の杖。もう一つは、鈍い金属光を放つ手榴弾が複数収められた、頑丈な革のポーチ。どちらからも、神々の祝福を受けた、清浄な魔力が感じられた。
エクアルは早速「見通しの書」をかざし、それぞれの神器の情報を読み取る。
「……なるほど。こっちの杖は『Log4Shell』。木材を魔力で圧縮して、弾丸として撃ち出す神器だって。威力もそこそこ高いみたい」
「へぇ、面白い機構だね。でも、フローラが見たら、すっごい嫌な顔しそう」
ラビリアが興味深そうに杖を手に取ってマジマジと観察する。
どうにも落ち着かない奇妙な名前、そして魔法の杖とは思えない奇妙な構造、異様な雰囲気を感じずにはいられない神器だった。
「そして、こっちのポーチの中に入っているのが『シンプルグレネード』。自身の魔力を込めることで複製できるそうよ。投擲すると小規模な爆発を起こすみたい。構造が単純だから、暴発の危険性も低いらしいわね」
「魔力で複製できること以外は……私がよく使うグレネードと大差はなさそうだね」
それぞれの神器を見て、ラビリアがどこか楽しげに感想を漏らした。
一通りの探索を終えると、三人は飛行船の甲板で地図を広げ、次の目的地を決める。
「よし、じゃあ次はこの『剣の遺跡島』に行ってみようぜ! 名前からして強そうな奴がいそうだ!」
アキシャが、地図に描かれた剣のマークを指差して楽しそうに言う。
そしてエクアルとラビリアも彼女の言葉に頷いて、その提案に同意した。
「ええ、交易島への通り道にもなっているし、早めに浄化しておくのが得策ね」
「そうだねー。それじゃあ、準備ができたらちゃっちゃと行こうか」
三人は手に入れた食料や資材をそれぞれのポーチに手際よく詰め込むと、互いに顔を見合わせて頷いた。
※※※
三人は飛行船を後にし、次なる目的地「剣の遺跡島」へと向かう。 島に近づくにつれて、その異様な光景が目に飛び込んできた。島の中心には、そこそこ大きな剣のオブジェが突き刺さっており、その周囲は闘技場のような作りになっていた。闘技場の外側には朽ち果てた樽や、誰が開けたのか、中身の空っぽな宝箱が無造作に置かれていた。
「うわぁ……なんというか、物悲しい雰囲気の島ね」
「ああ、なんというか……一昔前の騎士たちが腕と技を競い合うための場所、みたいだな」
眼下に広がる、今は使われていない闘技場の跡地を見下ろしながら、エクアルとアキシャは感傷的な言葉を交わす。しかし、そんな二人とは対称的にラビリアは違うものに目を輝かせていた。
「おーーー! あの剣のオブジェ、すごいね。巨大構造物でありながら、剣身の重心バランスが完璧に計算されてる。デザインも……うん、悪くない。材質は何だろ……これはちょっと本気で解析してみたいかも」
自身のマギスフィアを望遠鏡に変形させて、オブジェを分析し始めるラビリアにアキシャとエクアルは呆れたように顔を見合わせた。
「お前は本当にブレねぇな……」
「うん……まぁ、ラヴィらしいと言えば、らしいのだけど」
そんなこんなで、彼女たちは静かに島へと降り立った。
……のだが上陸した瞬間、この世界でこれまで感じたことのないような禍々しい気配が、彼女たちの肌を粟立たせた。
「……思っていた以上に、重たい雰囲気の島だな」
アキシャは大剣の柄を片手で握りしめると、周囲を鋭く観察しながら様子を伺った。
暫くの間、その場で佇んでいると……どこからともなく、カシャカシャ、と骨の擦れる音が聞こえてくる。なんと地面の下から、ボロボロの鎧を纏った骸骨の戦士たちが、次々と姿を現したのだ。
初めて見る敵の姿――エクアルは即座に「見通しの書」で確認する。
「……『スカルソルジャー』に、『スカルアーチャー』。間違いないわ、アンデッドよ!」
彼女たちがその名を認識するや否や、骸骨たちは錆びついた石斧や骨でできた弓を構え、一斉に攻撃を仕掛けてきた。
「今度は骸骨か……面白ぇ!」
アキシャは嬉々として真紅の大剣を抜き、両手で構えた。その瞳は、新たな敵との出会いを心から喜んでいる様だ。
「知能は低いみたいだけど、統率の取れた動きをするそうよ……盗賊たちとは訳が違う、気をつけて!」
エクアルの鋭い警告が、戦場に響き渡った。そして、それを合図にアキシャとラビリアは間髪を容れずに地を蹴り、敵軍の前に飛び出したのだった。
※※※
スカルアーチャーから放たれた骨の矢が、雨のように降り注ぐ。ラビリアの桃色の瞳は、その骨の矢一つひとつを的確に捉え、鮮やかな身のこなしでそれら全てを完璧に回避してみせる。
「んじゃ、ちょっとだけ本気、出しちゃおっかなー」
彼女はそう言うと、愛用しているフォトンフォースを背中に回し、代わりにマギスフィアを手に持った。魔力を込めるとそれは瞬時に変形し、美しい黄金色の刀身を持つ機械刀となる。
――次の瞬間、彼女の姿が掻き消えた。
跳躍したラビリアは、アクロバティックな動きで敵陣の真っ只中へと切り込んでいたのだ。
スカルソルジャーが振り下ろす石斧を、紙一重で身をかがめて回避し、その勢いを利用して敵の背中に跳び乗る。そのまま別の敵へと跳躍し、空中で身体をひねりながら矢をかわし、着地と同時に滑り込んで、別の敵の足元を斬りつける。彼女の羽織るコートが激しくはためき、灰色のスカートが彼女の変幻自在の動きに合わせて、花のように開いては閉じる。
彼女の目的は、敵を殲滅することではない。敵の注意を一身に引きつけ、その統率された陣形を、内側から巧みにかき乱していくことだった。
そして彼女が作り出したその一瞬の隙を、アキシャが見逃すはずもなかった。
「そこだ!」
ラビリアに気を取られているスカルソルジャーの背後からアキシャが現れる。
彼女の引き締まった脚の筋肉がしなやかに躍動し、大地を力強く蹴った。そして重力に身を任せながら、骸骨の背中に強烈な一撃を叩き込む。大剣が唸りを上げ、骸骨の鎧を骨ごと粉砕した。甲高い破壊音と共に、スカルソルジャーが崩れ落ち、黒い灰となって消えていく。
一方、エクアルは後方で先程手に入れた新たな神器を手にして、攻撃の機会を伺っていた。
「こっちも、色々試してみようかしら……!」
彼女は、先ほど手に入れた「Log4Shell」を構え、近くに転がっていた木箱の破片を、杖の先端に吸着させる。魔力を込めると、木片は瞬時に圧縮され、鋭い弾丸となって射出された。弾丸は正確に、遠くで弓を構えるスカルアーチャーの頭蓋を撃ち抜き、粉砕する。
さらに、密集している敵集団に向かって、「シンプルグレネード」を生成し、投擲。青いスカートの裾を翻しながら、美しいフォームで投げられた金属球は、放物線を描いて敵陣の中心で炸裂した。
小規模ながらも確実な爆発が、敵の陣形をさらに崩していく。
※※※
三人の見事な連携の前に、数で勝るはずの骸骨たちは成す術もなく、一体、また一体と崩れ去っていく。そして最後の一体をアキシャが斬り伏せると、闘技場に静寂が戻った。
束の間の休息を取りながら、三人は闘技場を探索する。すると闘技場の中央、巨大な剣のオブジェの根本に、地下へと続く螺旋階段が、ぽっかりと口を開けているのを発見したのだ。
階段の奥からは、先ほどの飛行船でも感じた、あの禍々しい呪いの気配が、淀んだ空気となって漂ってきていた。その濃度は、飛行船のものより間違いなく濃かった。
「……間違いない。この下に、『呪われた神器』があるはず」
エクアルがゴクリと唾を飲み込みながら、階段の先に続く暗闇を見つめていた。
「上等だ! どんな奴が来ようが、全員ぶっ飛ばしてやる」
「ふふっ、遺跡探索をしていた冒険者時代を思い出すねー」
アキシャは不敵に笑い、ラビリアはどこか懐かしむように呟いた。三人は顔を見合わせると、覚悟を決めたように頷き合い、暗く深い遺跡の奥底へと歩を進めていくのであった。