The Sky Blessing ~Rabbit Edition~   作:ella_coat

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第12話 勇気の試練(2)

 闘技場の中央、巨大な剣のオブジェの根本に開いた、暗く深い道。三人は意を決し、地下へと続く螺旋階段を慎重に降りていく。ひんやりとした湿った空気が肌を撫で、どこからか滴り落ちる水の音が、不気味な静寂の中に反響していた。壁に染み付いたカビの匂いが鼻をつく。

 

「……なんか、嫌な感じだな」

 

 アキシャが、背中の大剣の柄に手をかけながら呟いた。

 階段を降りきると、そこは予想以上に広大な地下空間が広がっていた。壁には松明が等間隔に灯され、奥へと続く石畳の通路をぼんやりと照らし出している。

 通路の両脇には、苔むした石棺がいくつも、整然と並べられていた。壁には、かつてここに眠っていたであろう騎士たちの肖像画や、勇壮な戦いの様子を描いたレリーフが刻まれている。ここが古の騎士たちが眠る、神聖な墓所であることは疑いようもなかった。

 

 しかし、三人がその神聖な空間へと足を踏み入れた瞬間、その静寂は破られた。

 ガタリ、ゴトン。鈍い音を立てて、石棺の蓋が次々と開き始めたのだ。中から現れたのは、腐敗した土と死の匂い――地上で戦ったものと同じ、ボロボロの鎧を纏った骸骨の戦士たちだった。

 

「うわっ、無茶苦茶でてきやがった!」

「とんでもない数ね……! まるで墓所の全てが目覚めたみたい……!」

 

 通路の奥からも、カシャカシャという骨の擦れる音と共に、次々とスケルトンが現れる。松明の灯りに照らされた幾多の空洞の眼が、生者である三人を一斉に見据えた。あっという間に、彼女たちはおびただしい数の死者の軍勢に包囲されそうになっていた。

 

「一旦下がるわよ!」

 

 エクアルの鋭い指示が飛ぶ。アキシャとラビリアは即座に反応し、近くにあった倒れた石柱を遮蔽物にして、応戦を開始した。甲高い音を響かせながら、スカルアーチャーの放つ骨の矢が硬い石柱に弾かれ、火花を散らす。矢の雨は止む気配がなく、遮蔽物から身を乗り出すことすら容易ではなかった。

 

「ちっ、鬱陶しい!」

 

 アキシャが舌打ちする。

 エクアルは、この状況を打開すべく、先ほど手に入れた神器「Log4Shell」を構えた。遮蔽物から素早く身を乗り出し、杖の先端に先程拾って集めておいた木箱の破片を近づける。魔力を込めると、木片は杖先に吸着し、瞬時に圧縮された。

 

「……これなら!」

 

 引き金を引くように魔力を解放すると、圧縮された木片の弾丸が、轟音と共に射出された。弾丸は正確に、後方で弓を構えるスカルアーチャーの胸骨を撃ち抜き、その骨格をバラバラに砕け散らせた。

 その隣で、ラビリアもフォトンフォースで応戦していた。彼女はその精密な射撃技術で、遮蔽物を盾にじりじりと距離を詰めてくるスカルソルジャーの足を砕き、その動きを止めていく。

 

「んー……硬いね、こいつら。一体一体は弱いけど……数が多いとやっぱり面倒だねー」

 

 彼女のゆったりとした口調とは裏腹に、その射撃は一切の無駄がなく、的確に敵の戦力を削いでいく。ベージュのコートの裾が、射撃の反動でわずかに揺れた。

 

「数が多かろうが関係ねぇ!」

 

 痺れを切らしたアキシャが、遮蔽物から飛び出した。迫りくるスカルソルジャーの群れに、真っ向から斬り込んでいく。黒いロングコートが、彼女の動きに合わせて激しく翻る。

 真紅の大剣が紅い軌跡を描き、骨を砕いて、敵を灰に変えていく。石斧を振り下ろす敵の腕を断ち切り、攻撃を防ごうとする敵を上から叩き潰す。鍛え上げられたしなやかな脚で大地を蹴って高く跳躍し、骸骨が放つ攻撃の数々を華麗にかわしていく。

 しかし、倒しても、倒しても、墓所の奥から次々と新たなスケルトンが湧いてくる。その数は、減るどころか、むしろ増えているようにすら感じられた。

 

「ちっ、埒があかねぇ!」

 

 アキシャの額に、汗が滲む。このままでは押され切ると思ったエクアルが決断した。

 

「二人とも、ここは突破するわよ! 目的は敵の殲滅じゃない、呪われた神器の浄化よ!」

「了解!」

「オッケー!」

 

 三人はアイコンタクトで意思を疎通させると、一斉に動いた。エクアルが「Log4Shell」で前方の道を切り開き、ラビリアがグレネードで後方の敵を牽制する。その間隙を縫って、アキシャが先頭に立ち、道を塞ぐスケルトンを薙ぎ払いながら、一気に墓所の最深部へと駆け抜けていった。

 

 

※※※

 

 

 スケルトンたちの追撃を振り切り、三人は広大な空間へとたどり着いた。

 そこは、まるで礼拝堂のような荘厳な雰囲気に満ちていた。天井は高く、壁には勇壮な騎士たちの姿を描いた色褪せたタペストリーが掛けられている。空気はひんやりと澄んでおり、これまでの通路とは明らかに違う、神聖さすら感じられた。

 しかし、ここにも「呪われた神器」らしきものは見当たらない。代わりに部屋の中央にある石造りの祭壇の上に、一冊の古びた本がまるで誰かを待つかのように、ぽつんと置かれていた。

 

「本……? こんな場所に、どうして……」

 

 エクアルが訝しげに呟く。本は頑丈そうな灰色の革で装丁され、縁には水色の装飾が施されている。そして表紙には金色の箔押しで、剣と盾を組み合わせた紋章が刻まれていた。彼女が「見通しの書」でその本を調べようとした、まさにその時だった。

 

「お、なんだこの本? カッコいいじゃん!」

 

 アキシャが何の気なしに、その本に手を伸ばし、表紙の紋章に触れてしまった。

 

「あっ、お姉ちゃん! むやみに触っちゃダメよ!」

 

 エクアルの制止の声も間に合わず、アキシャの手が触れた瞬間、本が眩い蒼色の光を放ち始めた。

 

「うおっ!?」

「きゃっ!」

 

 強烈な光に、三人は思わず目を閉じる。

 やがて光が収まると、本の上空に、ふわりと小さな人影が浮かんでいた。

 どこか輝きを帯びた灰色の甲冑を身に纏い、右手には身体に見合った小さな剣を携えている……その姿はまるで騎士の精霊だった。身長はアキシャたちの腰ほどしかなく、幽霊のようにふわりと浮いている。

 小さくて頼りなさそうにも見えるが……その甲冑の胸元で蒼く輝く宝石と、その蒼い瞳には強い意志の光が宿っていた。

 

「僕はブレイブナイト! 騎士の精霊であり、君を守る盾だ!」

 

 突然現れた小さな騎士を、三人はきょとんとした顔で見つめたのだった。

 

 

※※※

 

 

 ブレイブナイトと名乗る精霊の出現に三人が驚き、言葉を失っていると……背後の通路から、先ほど振り切ったはずのスケルトンたちが、おびただしい数なだれ込んできた。

 

「うわっ、追いつかれちまったか……!」

 

 アキシャが忌々しげに舌打ちする。状況は最悪だった。袋小路、そして増え続ける敵。

 

「こうなったら……!」

 

 エクアルが叫んだ。その声には、覚悟が決まっていた。

 

「アキシャ、ラヴィ……! あなたたちで敵を食い止めて! その間に、私がこの部屋で『呪われた神器』を探し出して浄化するわ!」

 

 それは、仲間を心の底から信じていなければ成り立たない、あまりにも大胆な作戦だった。

 その様子を見て、呼び覚まされたばかりの小さな騎士の精霊――ブレイブナイトは一瞬、蒼い瞳を瞬かせた。

 

「なるほど、君が僕を呼び覚ました主達だね! このブレイブナイト、君たちを守るために戦うよ!」

 

 彼は三人に向かって、小さな身体で騎士の礼をとると、くるりと反転し、迫りくるスケルトンの大群へと向き直った。

 その頼もしい姿に、アキシャは不敵な笑みを浮かべた。

 

「おっ、一緒に戦ってくれるのか!? よしきた! ちっこいけど、頼りにしてるぜ!」

「まあ、やるしかないよね。それじゃ、お願いねー。ちび騎士くん」

 

 ラビリアも機械刀を構え直し、臨戦態勢に入る。

 次の瞬間、アキシャとブレイブナイトが一丸となって、迫りくるスケルトンの大群に立ち向かった。ラビリアもそれに合わせて、援護するように射撃と斬撃を織り交ぜて戦い始める。

 一方でエクアルは三人に背を向け、この部屋のどこかにあるはずの『呪われた神器』を探し始めたのだった。

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