The Sky Blessing ~Rabbit Edition~   作:ella_coat

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第13話 勇気の試練(3)

 礼拝堂のような広間に、死者の軍勢が雪崩れ込んでくる。その数は尋常ではなく、退路であるはずの螺旋階段は、骨と錆びた武具で完全に塞がれていた。

 アキシャと、召喚されたばかりの小さな騎士ブレイブナイトが一丸となって、押し寄せる敵の波を食い止める。

 

「ちっ、流石にこの数を相手取るのは中々にキツいな!」

 

 アキシャの大剣が紅い閃光を描き、次々とスケルトンを薙ぎ払うが、すぐに新たな敵がその隙間を埋めていく。ブレイブナイトの小さな剣も、蒼い軌跡を残しながら奮戦しているが、多勢に無勢であることには変わりなかった。

 

「よーし、ちょっと派手にいこうかなー」

 

 彼女はそう呟くと、機械刀を構え直し、近くの壁を蹴って天井近くまで一気に跳躍した。そのまま落下速度を利用し、敵集団の中心に、まるで隕石のように強烈な一撃を見舞う。衝撃で数体のスケルトンが吹き飛び、骨を砕け散らせた。

 着地と同時に素早く体勢を立て直し、今度はフォトンフォースを連射。変幻自在の動きで敵を翻弄し、アキシャとブレイブナイトへの負担を少しでも軽減しようとする。彼女のベージュのコートが、戦場で舞う蝶のようにひらめいていた。

 

「はあああ!」

 

 ブレイブナイトも、その小さな身体からは想像もつかないほどの力と気迫で奮戦していた。彼はアキシャの足元をすり抜けるように、低空を高速で飛び回り、スケルトンたちの足や関節といった急所を、その小さな剣で的確に斬りつけていく。

 致命傷を与えることはできなくとも、確実にその動きを鈍らせ、アキシャへの攻撃を防いでいた。初めて組んだとは思えないほど、二人の連携は息が合っていた。

 

 

※※※

 

 

 三人が必死に時間を稼いでいる間、エクアルはこの広大な礼拝堂の中で、「呪われた神器」の気配を探していた。壁に掛けられた色褪せたタペストリーの裏、荘厳な祭壇の下、崩れた瓦礫の中……考えられる場所をくまなく探すが、あの禍々しい気配の中心は、どこにも見当たらない。

 

(おかしい……! 呪いの気配は、この部屋全体から強く感じられるのに……! 一体どこに……?)

 

 背後で激しさを増す戦闘音。アキシャの気合の声、ラビリアの射撃音、ブレイブナイトの甲高い叫び、そして骨の砕ける音。

 仲間たちの、悲鳴にも似た声が、エクアルの焦りを容赦なく煽る。

 

(早くしないと……!)

 

 彼女は心を落ち着けようと、その場で胸に手を当てながら深呼吸をして、改めて部屋全体を見渡した。

 ――そしてふと気づいた。祭壇の手前の床、一箇所だけ他の石畳とは違う、奇妙な模様が刻まれていることに。

 

(まさか……!)

 

 彼女は祈るような気持ちで、その石畳を、自身の全体重を乗せて強く踏みしめた。

 

 ゴゴゴゴ……。

 

 重々しい石の擦れる音と共に、祭壇の背後の壁の一部が、ゆっくりと横にスライドし始めた。壁の向こうには下へと続く、さらに暗い階段が現れた。

 そしてその階段の奥から、非常に濃い邪悪な呪いの気配が、まるで瘴気のように吹き出してくる。

 

「……見つけた!」

 

 エクアルは、躊躇なく隠し部屋へと続く階段を跳び下りた。

 その先には小さな円形の部屋があり、中央の簡素な台座の上に血のように鮮やかで禍々しい紅蓮の剣――ペンギン飛行船にあったものと同じ『呪われた神器』が突き刺さるように鎮座していた。部屋全体が、その剣が放つ邪悪なオーラで満たされている。

 彼女はすぐさま剣の前に膝をつき、目を閉じて、絆の神ルーモアへと意識を集中させた。

 

「ルーモア様、お願いします。この呪いを解いてください……!」

 

 エクアルの切実な祈りに応えるように、彼女の身体が柔らかな金色の光に包まれる。その光は呪われた剣へと、まるで清流が濁流を押し流すかのように流れ込み、剣を覆っていた禍々しい紫色のオーラを浄化していく。

 しかし、神器に込められた呪いの力は、飛行船のものより強いらしく……激しい抵抗を感じる。エクアルの額に玉のような汗が浮かび、その身体が小刻みに震え始めた。

 

(大丈夫……間に合う、きっと!)

 

 一方、礼拝堂ではアキシャたちが苦戦を強いられていた。

 ブレイブナイトの小さな身体には既にひびが入っていて、ラビリアのコートも所々が破れ、息を乱している。そしてアキシャは――

 

「くぅっ……!」

 

 一体のスケルトンを斬り伏せた瞬間、死角から振り下ろされた石斧が、彼女の左腕を浅く、しかし確実に切り裂いた。黒いロングコートの袖が破れ、鮮血が迸る。

 

「……やらかしちまったな。エクアルは……まだか?」

 

 鋭い痛みにアキシャが少しだけ、顔を歪めながらそう呟いた、まさにその瞬間だった。

 祭壇の奥から眩いほどの金色の光が溢れ出し、礼拝堂全体を昼間のように明るく照らし出した。

 すると襲いかかってきていた凶暴なスケルトンたちが、一斉に動きを止め、まるで陽光に晒された雪のように、サラサラと黒い灰へと変わって崩れ落ちていったのだ。

 

「おっ、やったみたいだな!」

「……だねー、思ったより苦戦しちゃった」

「極度の能力制限を受けてんだから、しゃーねぇよ。はぁ……」

 

 そう言うと、アキシャは壁を背にしてその場に座り込むと、腕の傷をキツく抑えながら深呼吸をした。

 

「……アキシャ、大丈夫そう?」

「気にすんな、こんなの少し休憩すればすぐに治る……ただまぁ、私の身体が想像以上に柔くてびっくりしたな」

「そうだねー、そこの辺りも考えつつ、立ち回ったほうが良さそうだね」

 

 暫くすると……エクアルが隠し部屋の階段を駆け上がってくる。そして辺りを見回すやいなや、腕を負傷したアキシャを見て目を見開き、彼女の傍らに駆け寄る。

 

「お姉ちゃん! ごめんね、遅くなって……! すぐ治すわ!」

 

 エクアルが回復魔法をかけると、アキシャの傷は淡い緑色の光と共に、みるみるうちに塞がっていく。

 

「……別に、これくらいどうってことねぇよ」

 

 アキシャはぶっきらぼうに答えるが、その声には少しだけ安堵の色が滲んでいた。

 その様子を見守っていたラビリアは、少しだけ意地悪そうな笑みを浮かべると、治りかけの傷口をつつく。

 

「ほっとしたくせに素直じゃないなー。ほら、ツンツン――」

「痛ぇ!」

 

 アキシャが反射的に手刀でラビリアの頭を軽く叩いた。「いたっ」というラビリアの小さな悲鳴が響く。

 その後、三人はふわりと浮いているブレイブナイトに向き直り、深々と頭を下げた。

 

「ありがとう、助かったぜ!」

「うん、君がいなかったら、ちょっと危なかったかも」

「どういたしまして! 君たちこそ、素晴らしい戦いぶりだったよ!」

 

 ブレイブナイトは、少し照れたように頭を掻きながら微笑んだ。そんな不思議な存在に、エクアルが尋ねる。

 

「あなたは、一体……?」

「僕は『ブレイブブック』に宿る精霊さ。この本はね、神器なんだ。そして僕を呼び出せるのは『真の勇気を持つ者』だけなんだよ」

「真の勇気……」

「だから呼び出されたのすっごく久しぶりでさ……急すぎてびっくりしちゃったんだ」

 

 ブレイブナイトの言葉をきっかけに、三人の脳裏にいくつもの光景が断片的に蘇る。

 絶望的な状況の中で、それでも決して諦めなかった仲間たちの顔。

 世界の存亡をかけた戦いの中で、互いを信じ、支え合った日々。

 それは途方もなく長くて、激しい戦いだった……だがそれを乗り越えたからこそ、今の三人はここにいる。あの悍ましい災厄によって滅びる世界を少しでも救うために。

 

 ブレイブナイトは、そんな三人の様子を察したのか、優しく語りかける。

 

「君たちなら大丈夫。君たちの心には、本物の勇気が宿っているから」

「僕はこの本がある限り、君たちの力になれる。また危険な戦いになったら、いつでも僕を呼び出してよ! そうすれば、一緒に戦って、君たちを精一杯守るよ!」

 

 そう言うとブレイブナイトは敬礼し、再び蒼い光となって『ブレイブブック』の中へと戻っていった。

 

 本を拾い上げたエクアルの表情は、どこか晴れなかった。自分が呪われた神器を探している間、仲間を危険に晒してしまったという罪悪感が、彼女の心を重くしていた。

 そんな妹の様子に気づいたアキシャが、その頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

「気にすんなって。お前は、お前のやるべきことをやったんだ。私たちは、それを信じて戦った。それだけだろ?」

「お姉ちゃん……ありがと」

「ん、私も次はしょうもない怪我しねぇように頑張るからよ」

 

 アキシャのぶっきらぼうだが、温かい励ましにエクアルの顔にようやく笑顔が戻った。

 そしてラビリアが、場の空気を変えるように提案する。

 

「とりあえず、今日のところは交易島に戻ろっか。アキシャも怪我したし、色々報告もあるしね」

 

 アキシャとエクアルは頷き、三人は浄化された遺跡を後にしたのだった。

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