The Sky Blessing ~Rabbit Edition~ 作:ella_coat
デーモンアイ島での戦いを終え、三人は再び地図を広げて、次の目標を定めようとしていた。浄化が進むにつれて、地図上には新たな航路が示され、彼女たちの選択肢は広がっていた。
「この島の隣は……『黄金島』か。ずいぶんとまあ、分かりやすい名前だな」
アキシャが、金色の宝箱のようなマークが描かれた島を指差す。エクアルは、書庫で得た知識を補足した。
「ええ。記録によれば、その名の通り、島全体が黄金でできているかのような場所だそうよ。ただし、その黄金は邪神の呪いによって生み出されたもの……という説もあるみたいだけれど」
「へぇ、黄金の島かー。金銀財宝はあるに越したことはないけど……偽物ならいらないかなー」
あまり興味なさそうに、ラビリアが呟いた。今の彼女にとって、金銭的な価値よりも、未知の技術やロマンの方が遥かに重要だった。
「まあ、どっちにしろ行ってみるしかねぇだろ。どんな敵がいるか分からねぇしな!」
迷う素振りなど一切見せず、すでにアキシャは臨戦態勢だった。エクアルとラビリアも特に異論はないらしく、彼女の言葉に頷き合った。
「そうね。場所的にも、ここを浄化しておけば、『コーラスフラワー島』や『常夏島』にも行きやすくなると思うわ」
「それじゃ、決まりだねー」
三人は手早く準備を整えると、再び空へと飛び出した。
※※※
目的の島――「黄金島」が近づくにつれて、その言葉通りの眩い輝きが目に飛び込んできた。太陽光を乱反射し、島全体が強烈な黄金色に輝いている。まるで巨大な金塊が空に浮かんでいるかのようだ。自然の造形物は見当たらず、島のほとんどが人工物である上に全て黄金で作られているように見えた。
「うわ……悪趣味なくらいピカピカだな」
アキシャが、あまりの眩しさに目を細める。
先程のデーモンアイ島とは異なり、島への侵入は驚くほど簡単だった。見張りの姿はなく、敵の気配も感じられない。三人は黄金でできた滑らかな地面へと、容易に降り立つことができた。
足元には本物か、偽物か、判別できない金塊が無造作に転がっている。アキシャはそれを気にも留めず、まるで石ころかのように蹴飛ばしながら、黄金でできた遺跡のような回廊を進んでいく。
「なんだこりゃ、金ピカすぎて目がチカチカするぜ」
「本当ね……。落ち着かないわ」
壁も床も天井も……全てが黄金。その徹底ぶりは、ある種の狂気すら感じさせた。
黄金でできた奇妙な装飾が施された通路を進んでいくと、前方に豚のような鼻を持つ、二足歩行の生物が数体現れた。彼らは金色の宝飾品で飾られた、簡素な赤い腰巻を身に着け、手には同じく黄金で作られた剣やクロスボウを構えている。
「……新しい敵ね」
エクアルは即座に「見通しの書」をかざし、その正体を探る。
「名前は『ピグリン』。黄金に異常なまでに執着する、豚面の獣人……ですって。知能は高くないけれど、集団での戦闘を得意とするそうよ」
ピグリンたちは侵入者である三人の姿を認めると、敵意を剥き出しにして、甲高い奇声を発しながら襲いかかってきた。しかし、その動きはどこか鈍重で、統率も取れていない。
「へっ、見かけ倒しかよ!」
アキシャが先陣を切ってピグリンの群れに突っ込む。
だが面白いことに、ピグリンたちは目の前の敵である三人よりも、床に転がる金塊の方に気を取られている様子を見せた。仲間が斬り伏せられているというのに、慌てて金塊を拾い集めようとする者までいる始末だ。
「なんだこいつら、金にしか興味ねぇのか?」
アキシャは呆れながらも、容赦なく真紅の大剣を振るう。ピグリンたちの黄金の剣による攻撃は、彼女の大剣の前では子供の玩具も同然だった。次々とピグリンたちを薙ぎ払い、黒い灰に変えていく。戦闘に全く集中していない敵を倒すのは、赤子の手をひねるよりも簡単だった。
※※※
ピグリンたちを難なく退け、島の奥へと進むと……そこには明らかに人工的な罠がいくつも仕掛けられていた。
例えば、床一面に金貨が敷き詰められた部屋。しかし、金貨を踏みしめると、天井から巨大な金塊が落下してくる。あるいは、壁に埋め込まれた巨大な黄金の宝箱。しかし、不用意に開けようとすると、壁から毒矢が飛んでくる。全て、侵入者の強欲さを試すような、悪趣味で古典的な罠だった。
「……くだらねぇ」
しかし、金銀財宝に全く興味のない三人に、これらの罠はほとんど意味をなさなかった。
アキシャは、金貨の床を「足場が悪ぃ!」と文句を言いながら駆け抜け、落下してくる金塊を「邪魔だ!」と大剣で粉砕する。エクアルは冷静に罠の構造を見抜き、起動スイッチとなる感圧板やワイヤーを的確に見つけ出し、解除していく。
「んー、この罠……もっと効率のいい作り方があると思うんだけどなー。例えば、この矢の発射機構、火薬を使えばもっと初速を上げられると思うんだけど……火薬を使う技術がなかったのかなー」
ラビリアに至っては、罠を解除するどころか、その構造を分析し、改善案まで考え始めている始末だった。
そんな中、通路の脇にひときわ大きく、形がとても綺麗で、美しい輝きを放つ金塊が転がっていた。それを見つけたラビリアが、その金塊を興味深そうに拾い上げた。
「ねぇアキシャ、これ、綺麗じゃない?」
「ああ? ただの石ころだろ、そんなもんより手強い敵はいねぇのかよ」
アキシャは彼女の拾い上げた金塊に一瞥もくれず、欠伸を噛み殺している。
「もー、アキシャはそういうのに無頓着なんだから。これ、加工したら良いアクセサリーになると思うよー。素材は最高峰なのに、もったいないなー」
ラビリアはそう言うと、アキシャの腕に甘えるように抱きつき、その身体を預けるように引き寄せた。ベージュのコート越しに、少女の柔らかな感触と温もりが伝わってくる。
「ね、今度作ってあげるからさー。アキシャに似合う、カッコいいやつ」
「ひっつくんじゃねぇ! ……まあ、お前が作るってんなら、別に……断りはしねぇけどよ」
アキシャは、顔を赤らめながら、照れ隠しにラビリアの頭を軽く小突いた。そのやり取りを、エクアルは微笑ましそうに見守っていた。
※※※
島の深部へと進むと、通路の雰囲気が一変した。壁や床の黄金は、まるで溶けかかったかのように歪み、むせ返るような熱気が三人を襲う。目の前には、煮えたぎるマグマの川が流れ、周囲の黄金の岩壁を不気味な赤色に照らし出していた。
「うわっ、あっちぃ……!」
アキシャが額に滲んだ汗を、黒いロングコートの袖で乱暴に拭う。熱気で白いブラウスが肌に張り付き、彼女の身体のラインを露わにしていた。
その時、眼下のマグマの中から、まるで陽炎のように、炎を纏った異形の存在が複数、ふわりと浮かび上がってきた。それは人間の上半身のような形をしており、核となる本体の周囲を、燃え盛る棒状の物体がまるで衛星のように回転している。
「……新しい敵!?」
エクアルが即座に「見通しの書」をかざす。
「名前は『ブレイズ』。炎と煙で構成された浮遊する精霊……高熱の火球を放って攻撃してくるそうよ! 二人とも、火球に気をつけて!」
エクアルの警告と同時に、ブレイズは身体を発火させながら、灼熱の火球を連続で放ってきた。火球は不規則な軌道を描きながら、三人めがけて飛来する。
「うおっ! 連射してくんのかよ!?」
アキシャが大剣で火球を弾き飛ばすが、その熱でコートの裾がわずかに焦げ、チリチリと音を立てた。
「お姉ちゃん、危ない!」
続け様に放たれた火球がアキシャに迫る。エクアルは咄嗟にハイドロスタッフを構え、水の障壁を展開し、アキシャを庇った。ジュウウウッ、と激しい音を立てて水と炎がぶつかり合い、濃密な水蒸気が立ち昇る。水蒸気でエクアルの黒髪が濡れ、白い肌に張り付いた。
「……ナイス、エクアル!」
「ん、ナイス援護ー!」
エクアルの水魔法による援護を受けながら、アキシャとラビリアが反撃を開始する。アキシャは足場から足場へと飛び移りながら、ブレイズに接近し、斬撃を見舞う。ラビリアはフォトンフォースで回転する棒状の物体を狙い撃ち、その動きを封じていった。
ブレイズは炎の攻撃こそ強力だったが、水には滅法弱かった。エクアルの的確な水魔法で動きを封じられ、アキシャの斬撃とラビリアの射撃によって、次々と核である本体を破壊され、黒い灰となって消滅していく。
そして最後のブレイズを倒すのと同時に、周囲を観察していたラビリアがマグマ地帯の奥に巨大な黄金の扉を発見した。
「……ここが、最奥部かしら」
扉を開けると、そこは広大な玉座の間だった。部屋全体が眩いほどの黄金で装飾され、中央には巨大で豪華絢爛な玉座が鎮座している。その威容は、まるで神話の時代の王宮を思わせた。
そしてその玉座の前に、まるで最初からそこにあったかのように、一本の禍々しい紅蓮の剣――『呪われた神器』が突き刺さるように鎮座していた。
「あった……!」
エクアルは『呪われた神器』に駆け寄ると膝をついて、神々に祈りを捧げる。金色の光が紅蓮の剣を包み込み、その禍々しいオーラが打ち消されていく。
そして浄化が完了した、その瞬間だった。部屋全体で、パキパキとガラスが割れるような、奇妙な音が鳴り響いた。見れば、あれほど輝いていた黄金の壁や床、更には玉座そのものが急速に輝きを失い、メッキが剥がれるようにただの黒い鉱石へと変貌していく。
「……なんだ、やっぱり全部偽物だったのか」
アキシャが、黒い石ころとなったかつての金塊を、つまらなそうに蹴飛ばす。
「んー……まあ、メッキが剥がれた、ってことかな。ちょっと残念ー」
ラビリアが少しだけ肩を落とす。アクセサリー用に採取した金塊も……残念ながら黒い鉱石へと変わってしまっていた。
「でも……これはこれで味があるかも」
微笑みながらそう言うと、ラビリアはそれをポーチの中にしまうのだった。
あっという間に、豪華絢爛だった玉座の間は、ただの薄暗い洞窟へと姿を変えてしまった。呪いが生み出した虚飾の輝きは消え、島は本来の姿を取り戻したのだ。
三人は、黒い鉱石の洞窟と化した島を後にし、今日のところは交易島へと帰還することにした。