The Sky Blessing ~Rabbit Edition~   作:ella_coat

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第17話 常夏の戦い

 神器でひとしきり遊んだ翌朝。

 交易島の拠点にて、三人は古びた地図を広げ、次の攻略目標を選定していた。

 

「次に向かうべきは……ここね、『常夏島』。書物によると、一年中暖かくて、美しい砂浜と海が広がっている場所だそうよ」

 

 エクアルが、ヤシの木と太陽のようなマークが描かれた島を指差す。

 

「常夏島ねぇ……また暑そうな場所だな。まあ、黄金島よりはマシか」

 

 アキシャが、先日のマグマ地帯での暑さを思い出したのか、少しうんざりしたように言う。そんなアキシャとは対照的に、ラビリアはぱあっと顔を輝かせた。

 

「海……いいねー! 泳げたりしないかなぁ?」

「遊びに行くわけじゃないんだから、気を引き締めていきましょ!」

 

 エクアルが呆れながらも、釘を刺す。しかし、その声色も心なしか弾んでいるように聞こえた。常夏の響きは、やはりどこか心を浮き立たせるものがあるのだろう。

 三人は手早く準備を整えると、期待に胸を膨らませ、新たな島へと出発した。

 

 

※※※

 

 

 小一時間ほど島々を飛び移り、目的の「常夏島」へと到着する。

 そこは聞いていた通りの、息を呑むほど美しい場所だった。どこまでも続く、コバルトブルーに透き通った海。太陽の光を浴びて、ダイヤモンドのように輝く白い砂浜。そして心地よい潮風に葉を揺らす、ヤシのような見慣れない木々。

 島の中心にはなぜか巨大な砂岩で造られた立派な城が、まるで古代遺跡のようにそびえ立っている。

 

「うわー! すごい、本当にリゾート地みたい!」

 

 ラビリアは目を輝かせ、今にも服を脱ぎ捨てて海へ駆け出しそうな勢いだ。

 

「ねぇねぇ、ちょっとだけ泳いでいこうよー! ダメ? ちょっとだけだってばー」

「却下よ。私たちは島を浄化しに来たの。……まあ、攻略が終わった後なら、考えてもいいけれど」

 

 エクアルがやんわりと嗜める。その言葉に、ラビリアは「やった!」と小さくガッツポーズをした。

 しかし、そんな和やかな雰囲気を切り裂くように、砂浜のあちこちから、奇妙な魔物が姿を現し始めた。

 一つは、その身体自体が燃え盛る炎を纏った、人の子供ほどの大きさの蜘蛛。もう一つは、淡い水色の半透明な身体を持ち、背中に生えた小さな翼で空中を素早く飛び回る、小柄な人型の精霊だ。

 

「……早速お出ましね」

 

 エクアルは即座に「見通しの書」をかざし、魔物の情報を読み取る。

 

「蜘蛛の方は『イグニッションスパイダー』。接触すると燃え移る強力な炎を纏っているわ、厄介ね。そして、飛んでいる方は『エクトプラズム』。見た目は精霊のようだけど、攻撃を受けると魔力を吸い取られるみたい。注意して!」

「なるほど……面倒くせぇ特性だなぁ!」

 

 アキシャは舌打ちし、直接的な打撃ではなく、剣圧や衝撃波で薙ぎ払う戦法に変更する。イグニッションスパイダーの動きは、見た目に反して中々に素早い。だがアキシャはまるで猛獣使いのように、巧みな剣さばきで燃える蜘蛛を翻弄し、距離を取りながら確実に仕留めていく。

 一方で空中を高速で飛び回り、隙あらば魔力を吸い取ろうと襲いかかってくるエクトプラズムは、ラビリアが「サンダー・レイ」で迎撃する。

 

「んー……動きがトリッキーだねー。でも、狙えなくはないかな」

 

 彼女の淡い桃色の瞳が、素早い精霊の動きを正確に捉える。放たれた雷撃が空を走り、次々とエクトプラズムを撃ち落としていく。撃ち落とされた精霊は、小さい断末魔の叫びを上げながら黒い灰となって消えていく。

 

「ふぅ……これで終わりか。しつけぇ奴らだったぜ」

 

 アキシャはひとつ深呼吸をすると、大剣についた灰を払い落とす。エクアルとラビリアも、ようやく武器を下ろし、安堵の息をついた。エクトプラズムの最後の断末魔が消え、浜辺には束の間の静寂が訪れる。雷撃の焦げ臭い匂いが、潮風に混じって漂っていた。

 

 こうして三人が一息つこうとした、まさにその時だった。

 ヒュン、という鋭い風切り音と共に、一本の鋭利な三叉槍が、アキシャのすぐ脇の白い砂浜に深く突き刺さった。

 

「「「!?」」」

 

 三人が驚いて海の方を見ると、波打ち際から水に濡れて青白く腐敗したゾンビのような敵が、次々と這い上がってきていた。その手には、同じく錆びついたトライデントが握られている。

 エクアルは流れるような動作で「見通しの書」を敵に向けてかざす。

 

「……『ドラウンド』。水中に生息するアンデッドの一種……トライデントによる投擲や近接攻撃を仕掛けてくるみたいよ!」

「海の中のゾンビか……珍しいじゃねぇか! 面白ぇ!」

 

 アキシャは新たな敵の出現に、むしろ嬉々として真紅の大剣を構え直した。彼女は迫りくるドラウンドの群れへと単身突っ込んでいく。ドラウンドたちは陸上での動きは鈍重で、アキシャの敵ではなかった。真紅の大剣で一閃するたびに、腐敗した肉体が断ち切られ、黒い灰となって潮風に攫われていく。

 

「おー、流石は脳筋ウサギ……」

「……なんか言ったか? ラビリア」

「んー、何も言ってないよー?」

 

 ラビリアの軽口を背中で受け流しながら、アキシャは最後の一体となったドラウンドを、まるで邪魔な小石でも蹴飛ばすかのように、大剣で力任せに海へと弾き飛ばした。水飛沫を上げて海中に没したドラウンドは、そのまま二度と浮かんではこなかった。あっという間に浜辺には静寂が戻る。

 

 

※※※

 

 

 砂浜の敵を全て掃討し終えた三人は、砂岩の城を中心に島を探索するが……『呪われた神器』らしきものは見当たらない。それどころか呪いの気配も、他の島に比べて希薄に感じられた。

 

「おかしいわね……神器がないのかしら? それとも、どこかに隠されている……?」

 

 エクアルが首を傾げながら思考を巡らせる。

 その一方で探索の途中、砂浜に打ち上げられた、プルプルとした奇妙な青いゼリー状の物体をアキシャが発見した。大きさは、彼女の拳よりも少し小さいくらいだ。

 

「なんだこりゃ? ゼリーみたいだな……食えんのか?」

「ちょっと待ってお姉ちゃん、変なものを口にしないで!」

 

 エクアルが慌てて「見通しの書」で確認すると、それは「ブルーゼリーの欠片」という名前の、食べると少しだけ魔力を補充できるという効果を持つ、れっきとした神器であることが判明した。

 

「へぇ、面白いもんもあるんだな。魔力が回復する……ねぇ」

 

 アキシャはそう言うと、悪戯っぽい笑みを浮かべた。そして、その冷たくてプルプルした青いゼリーを何の脈絡もなく、エクアルの白い頬にむにゅっと押し付けた。

 

「ひゃっ!? つ、冷たい……! な、何するのよ、お姉ちゃん!?」

 

 突然の奇行と頬に広がる冷たく柔らかな感触に、エクアルは驚き慌てふためく。急いでゼリーを引き剥がすが、頬にはゼリーの青い色がうっすらと残ってしまっていた。白いブラウスの胸元を僅かに上下させながら、姉を睨みつける姿は普段の冷静沈着な彼女からは想像もつかないほど、可愛らしかった。

 

「へへっ、なんか昔、似たようなことした気がしてな!」

 

 アキシャは悪びれる様子もなく、けらけらと笑う。

 そんな姉妹のやり取りを見ていたラビリアが、海をじっと見つめながら呟いた。

 

「……もしかして、神器、海の中にあるんじゃないかなー。陸の呪いが薄いのも、そのせいかも」 「……可能性は高いわね」

 

 頬を拭いながら、エクアルも同意する。

 

「水着、持ってくればよかったかなー」

「そうね……海の中でこの服装は流石に動きづらいでしょうし」

「んなもんいらねぇだろ!」

 

 迷う二人を尻目にアキシャは普段の戦闘着のまま「ザブン!」と勢いよく、青く透き通った海の中へと飛び込んだ。

 

「どうせ後で乾かせばいい!」

 

 水しぶきが上がり、彼女の黒いロングコートが海水を吸って重たげになる。

 

「もう、お姉ちゃんは……!」

 

 エクアルは深いため息をつくが、アキシャの言うことも一理ある。

 

「……仕方ないわね。魔法でなんとかなるでしょう!」

「だねー」

 

 ラビリアも頷き、二人もまた、服が濡れるのも構わず、美しい海の中へと飛び込んでいった。

 

 

※※※

 

 

 暫くすると……水中を探索するアキシャが、海底に不自然な洞窟の入り口を発見した。洞窟の奥からは陸上よりも遥かに強い、禍々しい呪いの気配が感じられる。

 

(こっちだ!)

 

 アキシャは二人に合図を送ると、泳ぎながら洞窟の中へと進んでいく。

 洞窟の中は、幻想的な光を放つ珊瑚や海藻が生い茂る、美しい鍾乳洞のようになっていた。水没している部分と、空気のある陸地が入り組んでいる。しかし、その美しさとは裏腹に、水の中にはおびただしい数のドラウンドが潜んでいた。

 三人が洞窟に入った途端、ドラウンドたちがまるで待ち構えていたかのように、一斉に襲いかかってくる。それは水中戦の幕開けだった。

 

「ここは私の出番ね!」

 

 エクアルが、先日手に入れた「渦潮の杖」を高々と掲げる。

 杖の先端から放たれた魔力が、洞窟内の水を激しく掻き回し、強力な渦潮を発生させた。ドラウンドたちは、抗う術もなく渦に巻き込まれ、身動きが取れなくなる。

 

「今よ!」

 

 動きを封じられたドラウンドたちを、アキシャとラビリアが容赦なく仕留めていく。アキシャは息継ぎをしつつ、水中でも衰えない剣技で敵を切り裂き、ラビリアは陸地からフォトンフォースで正確にその頭部を撃ち抜く。

 「渦潮の杖」の圧倒的な効果もあり、ドラウンドの大群は比較的容易に撃退することができたのだった。

 

「掃討完了……これで奥に進めるねー」

 

 洞窟の最奥部、空気のある広間にたどり着くと、中央の祭壇の上に、禍々しい紅蓮の剣――『呪われた神器』が鎮座していた。

 直ぐ様エクアルが祈りを捧げ、神器を浄化する。金色の光が洞窟を満たし、禍々しい気配が消え去っていく。そして浄化が完了すると、洞窟の外の海から、あれほど感じられたドラウンドたちの気配も、完全に消えていったのだった。

 

 びしょ濡れのまま、三人は洞窟を出て砂浜へと戻る。時刻はまだ昼過ぎ。空には太陽が輝き、海は穏やかな表情を取り戻していた。

 

「ふぅ、終わった終わった!」

「意外と楽だったねー」

「『渦潮の杖』のおかげね!」

 

 服を魔法で軽く乾かした後、彼女たちは美しい砂浜に座り込み、次の島についての相談を始めるのだった。

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