The Sky Blessing ~Rabbit Edition~   作:ella_coat

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第23話 赤き森の死闘

 眼前に広がるのは、これまでのどの島とも比較にならないほど巨大で、禍々しいオーラを放つ異形の島。血のような深い赤色に染まった大地、赤黒く淀んだ空、そして生い茂る巨大な真紅のキノコ群。その光景は、美しいとは到底言えず、ただただ見る者に強烈な圧迫感と不快感を与えた。

 三人は華麗な身のこなしで「赤島」の端に着地する。その瞬間、生暖かくて硫黄のような……あるいは錆びた鉄のような不快な匂いが鼻をつき、アキシャが明確に顔をしかめる。

 

「……気色悪ぃな、おい」

 

 三人は警戒を最大限に高めながら、巨大なキノコが生い茂る森の中へと、慎重に足を踏み入れた。

 すると早速、キノコの影から、ぬるりと奇妙な魔物が姿を現した。

 一つは、赤黒く脈打つ血管のようなものが体表にびっしりと浮き出た、腐敗した人型の魔物。もう一つは、青白い血管のようなものが同じように浮き出た、人型の魔物。どちらも動きはゾンビのようにぎこちないが、その存在自体が、ドクン、ドクン、という不気味な脈打つ音を発しているかのようだった。

 

「……見たことがない新しい敵ね」

 

 エクアルは即座に「見通しの書」をかざし、その正体を探る。

 

「赤い方は『動脈』、青い方は『静脈』。どちらも脈打つ臓器を模したアンデッド……みたいね。武器は持たずに、近接攻撃を仕掛けてくるらしいわ。言っていた通り、能力的には……他と大差ないわね」

 

 幸いなことに敵はこちらにまだ気づいていない様子だった。いつもなら迷わず突っ込むアキシャだが……ウィ=キの警告を思い出し、ぐっと堪えて周囲の気配を探る。

 

(……ヤベェな、こりゃ。そこら中に敵の気配がしやがる……まともにやり合うのは流石に得策じゃないか?)

 

 いつもより比較的冷静なアキシャは、この状況での単独突出がいかに危険かを瞬時に理解した。

 

「どうする? さすがに真正面から突っ込むのは無謀そうだぜ」

 

 油断なく周囲のキノコの影へと視線を向けながら、アキシャは小声で二人に問いかける。

 

「ええ……。それに、これだけ呪いの気配が強いと、『呪われた神器』の場所を特定するのも難しいわ。まずは、迷わないように、島の中央を目指しましょう。できるだけ戦闘は避けて……」

 

 エクアルの方針提案に、ラビリアも銃を構え直し、静かに同意を示した。今は無用な戦闘よりも、目的達成を優先すべき状況であると、彼女もまた判断したのだ。

 しかし、三人が息を潜めて移動しようとした、まさにその時だった。巨大なキノコの傘の裏から、ふわりと赤い瞳――デーモンアイが姿を現し、三人の存在に気づいてしまった。

 

 ――キィィィィィッ!

 

 デーモンアイは、警戒音ともとれる甲高い叫び声を上げ、三人の存在を周囲に知らせてしまったのだ。

 

「……あーあ、見つかっちゃった」

 

 ラビリアがやれやれといった風にため息をつき、戦闘態勢に入る。

 

「仕方ねぇ! やるぞ!」

 

 隠密行動は失敗。三人は即座にそれぞれの武器を構えた。

 

 

※※※

 

 

 デーモンアイの警戒音を聞きつけ、周囲のキノコの影から動脈と静脈、そして他のデーモンアイたちが次々と現れ、三人に襲いかかってきた。

 

「数は多いけれど……一体ずつの強さは大したことないはず! 詰め寄ってくる敵だけを確実に仕留めて、森の奥へ進むわよ!」

 

 的確な指示を飛ばすエクアルに、アキシャとラビリアは賛同の意を示し、共に地を蹴って駆け出し始める。

 

「へっ、ちょうどいい! 新しいおもちゃを試させてもらうぜ!」

 

 アキシャは、これまでの戦いで入手していた神器の一つを取り出した。それは剣の柄の先に、石材をも容易に切断するという高速回転する円盤状の刃――石切台に酷似したパーツが取り付けられた、なんとも物騒な鈍器型の神器「イシキリブレード」だった。

 アキシャはそれを棍棒のように力強く振り回し、迫りくる動脈や静脈の群れへと突っ込んでいく。

 

「邪魔だ、どけぇ!」

 

 高速回転する円盤刃が敵の腐肉を、骨を、容赦なく断裁していく。文字通り「ミンチ」にしながら、アキシャは血路を切り開いて突き進んだ。その凄まじい破壊力は、大剣を振るった時とはまた違った爽快感があった。

 しかし、その時だった。一体の静脈がアキシャの振りかぶった腕に、その青白い腕で触れた。

 

「ぐっ……!? なんだ、これ……力が……!」

 

 触れられた箇所から、急速に力が抜けていくような感覚。アキシャの腕が重くなり、握っていたイシキリブレードを取り落としそうになる。

 

「お姉ちゃん!」

 

 エクアルが即座に援護の水魔法――鋭い水の刃を放ち、静脈を吹き飛ばした。

 

「んー……呪いを付与する効果でもあるのかな。だとしたら厄介だねー、あの青いの。優先して倒した方がいいかも」

 

 ラビリアは冷静に分析しながら、フォトンフォースで静脈を的確に狙い撃ち、その動きを止めていく。そして華麗に身を翻すと、背後から迫ってくる目玉の大群に「サンダー・レイ」の雷撃を容赦なく浴びせた。

 

 三人はこれまでに手に入れた様々な神器も駆使しながら、次々と現れる敵の波状攻撃を凌いでいく。エクアルは「Log4Shell」でストックしてある木片を弾丸として飛ばし、ラビリアは「シンプルグレネード」で敵の集団を爆破する。アキシャは時折「ファイアスペル」で牽制し、あるいは「イシキリブレード」で道を切り開いていった。

 しかし踊るように舞いながら、敵を殲滅していく三人だったが……体力の消耗もそれなりに激しかった。

 

「このペース……大丈夫か?」

 

 額の汗を拭いながら、素早く水分補給をしたアキシャが性に合わない弱音を口にする。

 

「アキシャらしくないよー? でも……むやみに体力を使いすぎると、後で息切れする原因になりそうだね」

 

 奇妙な動きで近づいてくる動脈を華麗に斬り伏せたラビリアも、また彼女と同じ心配をしているようだった。灰色のミニスカートがふわりと翻り、汗ばんだ太ももを顕にする。

 

「エクアルとラビリアも小休憩は挟めよ? 休憩中は私が庇ってやるから」

 

 普段の猪突猛進な彼女からはあまり考えられない言葉にエクアルとラビリアは、少しだけ目を丸くした。だがそれが「本来」の彼女が持つ優しさであることに気づき、微笑みながら頷いたのだった。

 

 

※※※

 

 

 森を奥へと進むにつれて、新たな敵が戦闘に加わってきた。

 それは、白い骨格だけの身体を持ち、巨大なキノコの上など、高所から弓矢で狙ってくるスケルトンに似た魔物だった。

 

「……また新しいのが来たわね」

 

 エクアルが「見通しの書」で確認する。もはやその動きは、とてつもなく洗練されたものになっていた。

 

「『白血球』……アンデッドの一種。矢に当たると、身体が脆くなる呪いを受けるみたい! 厄介な能力持ちばかりね、この島は……!」

 

 白血球は巨大なキノコの上という有利な位置から、正確無比な射撃で三人を狙ってくる。三人は的確な狙撃を躱そうと、必死に敵の動きを観察しながら相手を翻弄するように動く。

 

「いった……!」

 

 しかしそれでも、ラビリアが肩口にかろうじて矢を受けてしまった。矢自体は彼女が着ている特殊なコートで弾いたものの、着弾の衝撃と共に奇妙な脱力感が身体を襲った。

 

「ん……言っていた通り、コイツも呪い持ちだねー。なんか、身体が重くなってきた……」

「ラヴィ、無理しないで!」

 

 エクアルが叫ぶ。高所の敵は厄介だ。アキシャが跳躍して叩き落とそうとするが足場が悪く、なかなか距離を詰められない。

 

「くそっ、あいつら鬱陶しいな! エクアル、あれ使ってみるぞ!」

 

 アキシャが、氷でできた美しい杖を腰から取り出した。それは先の島攻略で手に入れた、ふざけた名前の神器「氷はもうこーりごり!」だった。

 

「えっ!? お姉ちゃん、それは……!」

 

 エクアルが何か言いかけるが、アキシャは既に杖に魔力を込めていた。

 杖がまばゆい冷気を放ち始め、それと同時にアキシャの口が、彼女自身の意思とは関係なく、勝手に動き出す。

 

 

「アイスで冷やす? ああ、いいっすね!」

 

 

 次の瞬間、杖から凄まじい冷気が放射され、アキシャの周囲にいた動脈や静脈、そして頭上のキノコに陣取っていた白血球までもが一瞬にして凍りついた。

 更には「それ」を近くで聞いていたエクアルとラビリアすらも、居心地の悪い妙な寒気を感じたのだ。

 

「うおっ、すげぇ威力! ……けど、なんだ? 私、今、変なこと口にしなかったか……?」

 

 アキシャは自分の口から飛び出した、意味不明なダジャレに困惑する。

 

「そ、そういう神器……らしいのよね、それ……」

 

 エクアルが苦笑いを浮かべながら、そう説明したのだった。

 

 

※※※

 

 

 新神器の予想外な力を借りながらも、三人は必死に戦い続ける。しかし、敵は倒しても、倒しても、赤い森の奥から次々と現れる。まるで、この森自体が魔物を生み出し続けているかのようだった。

 赤島の呪いはこれまでのどの島よりも強力なようだった。戦闘開始から、既に数時間が経過しており、三人が倒した敵の数は、ゆうに五十体を超えている。しかし、終わりは見えない。

 

「はぁ……はぁ……キリがねぇ……!」

 

 さすがのアキシャも、息が上がり始めている。その白いウサ耳は、疲労で少し垂れ下がっていた。

 

「流石にちょっと……疲れちゃったかも……」

 

 ラビリアの動きにも、いつもの軽快さがなくなり、射撃の精度も落ちてきている。

 

「もう少し、頑張って……!」

 

 そう言うエクアルも、魔力の消耗と精神的な疲労で額に汗を浮かべていた。白いブラウスは汗で透け、青いスカートの裾も、泥と敵の赤黒い体液で汚れてしまっている。

 

(このままじゃ、こっちが先に倒れるわね……)

 

 皆の状況を鑑みて……エクアルは苦渋の表情で決断した。

 

「二人とも、聞いて! これ以上の戦闘は危険よ! 一旦、安全な場所を探して、休みましょう!」

「……ちっ、仕方ねぇか」

「……賛成」

 

 アキシャとラビリアも、悔しそうな表情を浮かべながらその決断に頷いた。

 三人は押し寄せる敵の波を一時的に魔法と神器で押し返すと、休息できる場所を求めて、疲れた足取りで周囲の探索を開始するのだった。

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