The Sky Blessing ~Rabbit Edition~   作:ella_coat

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第37話 狂騒曲

 アキシャが左手に掲げた神器「光照のランプ」が、唯一の光源としてぼんやりと周囲を照らし出す。

 「ピアノ島」内部は「空賊島」の船内よりも遥かに道が狭く、息が詰まるような圧迫感があった。壁や天井からは、グランドピアノの内部機構を模したかのように、無数の金属線が弦のように垂れ下がっており、ランプの光を不気味に反射している。そして耳障りなほどにはっきりと、あの優雅なピアノの旋律がこの迷宮全体に反響していた。

 エクアルが最後尾で呪いの気配を頼りに、かろうじて道案内を担当している。

 

「暗くて狭いな……こりゃ、戦うのも一苦労しそうだぜ」

 

 アキシャは狭い視界の中で、垂れ下がる無数の金属線を、真紅の大剣の側面で鬱陶しそうに払いながら、忌々しそうに呟いた。

 

「ピアノの中って、こんな感じなのかなー。思ったより不気味だねー」

 

 ラビリアも自慢のベージュのロングコートの裾や、淡いピンク色の髪が壁の弦に引っかからないよう、猫のようにしなやかな身のこなしで慎重に進んでいる。

 

 こうして三人がまた一つ、暗い角を曲がろうとした、その時だった。それまで最後尾で、呪いの気配を静かに感じ取っていたはずのエクアルが、前のめりによろめいた。彼女はまるで足元の感覚を失ったかのようにバランスを崩し、そのままアキシャの背中にドンと強くぶつかった。

 

「おわっ!? どうしたエクアル、足でももつれたか?」

 

 アキシャが背後の衝撃に驚いて振り返る。敵からの奇襲ではない、明らかに妹の体重がぶつかってきた感触に、彼女は怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「……ご、ごめんなさい……なんだか、無性に怖くって……。この暗闇が、ずっと続いてるみたいで……」

 

 エクアルはアキシャのコートの裾を掴み、その身体を小刻みに震わせていた。その琥珀の瞳はランプの光が届かない通路の奥の暗闇に、怯えているようだった。

 腕にしがみついてくるエクアルの様子は、アキシャから見ても明らかに普通ではない。

 

(どうしたんだコイツ……? いつものエクアルなら、こんなことで……)

 

 普段なら「暑苦しい!」と言って無理やり振りほどくところだったが……アキシャはそれをしなかった。なぜなら彼女自身も、先程スナイパーに狙われた時から感じていた胸のザワつき――得体の知れない焦燥感や不安が、この閉鎖的な暗闇と頭に響く旋律の中で、じわじわと増幅しているのを感じ取っていたからだ。

 

「……まぁ、今はくっついとけ。離れるなよ」

 

 アキシャはぶっきらぼうにそう言うと、エクアルの手を引くようにして再び歩き出した。

 エクアルの道案内で、三人は複雑な内部を進んでいく。しかしそれからというもの、エクアルの調子はさらにおかしくなっていた。呪いの気配を辿っているはずなのに、明らかに同じような場所をぐるぐると回っている。

 

「おいエクアル、こっちで合ってんのか? さっきもこの弦、見たぞ」

 

 アキシャは見覚えのある、弦の垂れ下がった光景に立ち止まり、自身のコートにしがみつくエクアルに声を掛ける。

 この閉鎖的な迷宮と不気味な旋律に、彼女自身も苛立ちと焦燥感を覚え始めていた。

 

「え? そ、そんなはずは……。だって、こっちから強い気配が……」

「……大丈夫、エクアル? ちょっと疲れてるんじゃない?」

 

 ラビリアがエクアルの額にびっしりと浮かんだ汗と、その琥珀の瞳が焦燥で揺れているのを見て、心配そうに声をかける。いつも冷静沈着なエクアルが、平常心を失っていることに、ラビリアもただならぬ不安を抱く。

 

「だ、大丈夫よ! 次こそは……!」

「あ……おいっ!」

 

 エクアルは二人の静止も聞かず、アキシャのコートの裾から手を離すと、何かに取り憑かれたかのように次に見つけた通路へと駆け込んでいく。その様子は、もはや道案内というよりも、この息苦しい場所から一刻も早く逃れたいというパニックに近いものだった。

 

 刹那――その奥の暗闇が、まるで意志を持ったかのように揺らめいた。そこから音もなく、真っ白な人型の魔物が幽霊のようにスッと姿を現す。それは、焦って飛び込んだエクアルを待ち構えていたかのような、絶望的なタイミングだった。

 

「エクアル、下がって!」

 

 そんなエクアルを庇うように、ラビリアが即座に彼女の前に飛び出し、機械刀を構えた。

 エクアルは目の前に現れた魔物に「ひっ」と小さな悲鳴を上げたが、自分の役目を果たそうと震える手で「見通しの書」をかざした。

 

「あの敵は『虚闘者』、無属性のマナから生み出された魔物。剣、または弓矢で攻撃してくる……らしいわ」

 

 アキシャがパニック寸前のエクアルを庇うように、大剣を構えて前に出る。

 しかし、三人が複数体の「虚闘者」と対峙した瞬間、ピアノの旋律が耳奥をつんざくかのように一段と甲高くなった。途端に、三人は非現実的な感覚に襲われてしまう。忘れていたはずの過去の苦痛が、懐かしさすら伴う強烈な「恐怖」として、フラッシュバックしたのだ。

 

「ぐっ……!?」

「あ……あ……!」

 

 アキシャとエクアルの脳裏に直近で起きた最も悍ましい記憶が、明確な恐怖として蘇ってくる。

 天使ヘトゥケダゥに胴体を鷲掴みにされた時の、骨が軋む激痛。あの巨木の暗い底で、視界を奪われたまま無数のエンダーマンに囲まれた時の、絶対的な絶望。それらが彼女たちの平常心を容赦なく奪っていった。

 

 しかしこの旋律の影響を最小限に抑え込んでいる者が一人いた。

 

「……鬱陶しいね、この音」

 

 マイペースなラビリアは強く頭を振り、不快な記憶の奔流を無理やり断ち切る。

 そしてアキシャとエクアルが、過去の恐怖に囚われ、動けないと判断したラビリアは単身、「虚闘者」の群れへと突撃した。「虚闘者」は無言のまま、その白い身体に似つかわしくない、鋭い剣や弓矢を構えて襲い掛かってくる。

 ラビリアは先程構えた機械刀で、その剣戟や矢を、火花を散らしながら受け流した。

 

「アキシャ! エクアル! しっかりして!」

 

 狭い通路という地の利を活かしながら、ラビリアは「虚闘者」二体を同時に相手にする。壁を蹴ってアクロバティックに宙を舞い、一体の首を斬り飛ばす。しかしもう一体の「虚闘者」の剣までは回避しきれなかった。その剣はベージュのロングコートを切り裂き、その脇腹を浅く切りつけた。

 

「いっ……!」

 

 鮮血が飛び散り、ラビリアの口から鋭い痛みの声が漏れる。その声が、アキシャを悪夢から現実へと引き戻した。

 

「うぅ…………くそっ! エクアル!」

 

 アキシャはラビリアを援護しようと大剣を構えかけるが、それよりも先に隣でガタガタと震え、完全にパニック状態に陥っているエクアルの姿が目に入った。エクアルは熱に浮かされたように全身から大量の汗をかき、その白いブラウスを肌にびっしょりと張り付かせ、荒い呼吸を繰り返している。

 

「すまねぇ、ラビリア……持ちこたえてくれ! 私はエクアルをなんとかする!」

 

 このままではまずいと判断したアキシャは直ぐ様、その場に座り込んで震えているエクアルを抱き起こす。原因であるピアノの旋律を遮断するため、アキシャは応急処置としてポーチから医療用の包帯を取り出すと、震えるエクアルのウサ耳の根本、その耳の穴を塞ぐように、きつく巻き付けた。

 

「おし……行けるぞ!」

 

 アキシャは、ぐったりとしたエクアルの身体を慎重、かつ素早く背中に担ぎ上げる。意識のない妹の重みが、自らの疲労した身体にずしりとのしかかった。

 一方でラビリアも、アキシャがエクアルを保護するまでの時間稼ぎを終え、荒い息を繰り返しながら合流した。彼女も脇腹の切り傷から血を流し、その顔色は悪かった。

 

「で……どうすんだ! エクアルがこれじゃ、道も分からねぇぞ……」

 

 アキシャは、苦しそうに浅い呼吸を繰り返すエクアルの重みを感じながら、焦りを露わにした。一刻も早く、この不気味な旋律が響く迷宮から脱出しなければならない。

 

「ごめん……こっちも、なんか頭がクラクラしてきた……。この音、かなりヤバいかも……」

 

 ラビリアも機械刀を杖代わりにして、かろうじて立っている状態だった。脇腹の傷口を押さえる指の隙間から、ベージュのコートを少しずつ赤黒く染めていく。

 そして二人が打開策を考えようと焦っているその間にも、通路の奥から「虚闘者」がわらわらと、音もなく現れた。

 

「……アキシャはエクアルを守ってて。ここは、私がやるから」

 

 アキシャとエクアルを背後に庇うと、ラビリアは深呼吸で旋律に抵抗しながら、迫りくる「虚闘者」の群れを食い止めるべく、機械刀を構え直した。そのピンク色の瞳には、憔悴とは裏腹の仲間を守るという強い意志が宿っていた。

 

 「虚闘者」の剣が、ラビリアの脇腹の傷を狙うかのように、無慈悲に振り下ろされる。

 

「……っ!」

 

 ラビリアは脇腹に走る激痛と頭に響く不協和音に耐えながら、その剣を紙一重でいなす。カウンターで機械刀を逆手に持ち替え、敵の首筋を切り裂き、黒い灰へと変えた。しかし、一体倒しても、すぐに次の「虚闘者」がその隙間を埋める。

 今度は通路の奥から弓矢を構えた「虚闘者」が、無音で矢を放ってきた。

 

「危ないっ!」

 

 アキシャたちに矢が向かわないよう、ラビリアは自ら壁を蹴って矢の射線に割り込む。放たれた矢を機械刀で弾き飛ばすが、その衝撃で傷口が開き、ラビリアの顔が苦痛に歪んだ。彼女の息が荒くなり、焦点が定まらなくなっていく。ピアノの旋律が、脳髄に直接響き、理性が掻き消えていくような悍ましい感覚に襲われる。

 

(ダメだ……集中できない……。頭が……ボーっとする……)

 

 思考が鈍ったその一瞬。ラビリアの敵の剣をいなす動きが、わずかに鈍った。その隙に差し込むかのように「虚闘者」の剣が彼女の肩をめがけて振り下ろされる。

 

 しかしその剣はラビリアの肩を斬り裂くことはなかった……直前に彼女の手前で抜き放たれた大剣がわずかに火花を散らして、「虚闘者」の剣を弾き飛ばす。

 

「ラビリア! もういい、一旦下がるぞ!」

 

 アキシャはラビリアの腕を掴み、強引に後方へと引きずり、敵から距離を取った。

 

(落ち着け、私。こういう時……どうすりゃいい?)

 

 つい数日前に「空賊島」で自分が斬撃砲を使って船室の壁を破壊した時のことを思い出す。

 エクアルが行動不能な以上、この迷宮をまともに攻略してはダメだ。なら壁を破壊して、そもそも「迷宮ですらない状態にしてしまう」という選択肢も……ある。

 

(私が「斬撃砲」を撃ってもいいが……エクアルを庇いながらの状態じゃ、制御が難しい。それに私も旋律のせいで……万全な状況とは言い難い)

 

 それなら……別の可能性に賭けるとしよう。

 アキシャは足を止めると、ふらつくラビリアを立たせて言った。

 

「ラビリア、お前の『ロマン砲』でなんとかならないか!? なんか……デカい爆弾とか持ってんだろ?」

「え……? あー、なるほどね……流石はアキシャ、発想が脳筋だねー」

 

 ラビリアは、アキシャのあまりにも強引過ぎるアイディアに、この状況で思わず笑みをこぼした。

 しかしそれこそが、この迷宮と精神汚染を同時に突破する唯一の活路であると、彼女は確信した。

 

「じゃ、お構いなく使わせてもらおうかなー。私のロマンの塊を……!」

 

 ラビリアは脇腹の痛みに耐えながらも、そのピンク色の瞳をわずかに輝かせた。

 懐から球体状のひときわ大きな魔法グレネード――「ノヴァ・ボム」を彼女は取り出した。そしてラビリアは、今の彼女が扱える魔法グレネードの中でも最も威力のあるその爆弾に、ありったけの魔力を込め始める。

 

「おいおい、やり過ぎるなよ!? 生き埋めはごめんだぜ!」

「一か八かの状況でそんなこと構ってられない! アキシャは先に離れてて!」

 

 ラビリアは焦燥感を露わにしながら叫ぶ。

 迫りくる「虚闘者」の群れと、エクアルが最後に指し示した方向の迷宮の壁に向かって、彼女は「ノヴァ・ボム」を力任に投擲した。直後、アキシャと共に、別通路の物陰へと急いで退避し、地面に伏せたのだった。

 

 

※※※

 

 

 凄まじい轟音と衝撃波が、ピアノ島内部を激しく揺るがした。

 グレネードによって迷宮の壁が数枚単位で吹き飛び、巨大な風穴が穿たれる。天井から弦や金属片が降り注ぐが、幸い、大規模な崩落は起きず、生き埋めにはならなかった。

 爆発の衝撃で、耳障りだったピアノの旋律が一瞬だけブツリと途切れ、不協和音のようなノイズが走った。

 

「……やったか!?」

「アキシャ、その言葉はまずいよー?」

 

 爆煙の中から顔を上げたアキシャに対して、ラビリアがお約束のツッコミを入れる。そして煙が晴れるよりも早く、エクアルを背負ったアキシャとラビリアは「ノヴァ・ボム」によって破壊された壁の穴の奥へと進んだ。

 

 そこは薄暗く、しかしこれまでの通路とは比べ物にならないほど広大な、大広間だった。

 不幸中の幸いか……その中央には、灰色の台座に突き刺さった「呪われた神器」――赤黒い瘴気と、不気味な紫色の輝きを放つ、いつもの紅蓮の剣が鎮座していた。

 

 しかし神器を守るかのように「虚闘者」が、これまでにない数で群がっていた。今まで一筋縄ではいかなかったように……今回も簡単に浄化させてくれるつもりはなさそうだ。

 

「よし……ラビリア、分かってるな? アイツら全員ぶっ潰して終わりにするぞ!」

 

 アキシャはエクアルを背負い直すと、大剣一本で「虚闘者」の群れへと突撃した。

 

「了解ー!」

 

 ラビリアも、脇腹の痛みをこらえながら機械刀を握り直し、アキシャの隣に並走する。

 

「うおおおおっ!」

 

 エクアルの重みを背中に感じながら、アキシャは床を強く踏みしめた。いつもの華麗な機動は望めない……しかしその一歩は重戦車のごとく力強く、大広間に群がる「虚闘者」の群れへと真正面から飛び込んでいく。

 「虚闘者」の先頭集団が、無音のまま剣を振りかぶった。

 

「させるかぁっ!」

 

 アキシャは回避を最小限に留め、迫りくる幾多の剣を真紅の大剣の剣身で真正面から受け止めた。

 ガギンッと甲高い金属音が大広間に響き渡り、火花が激しく散る。背中のエクアルに衝撃が伝わらないよう、アキシャは膝を深く沈めてその重い衝撃を殺す。

 

(くぅ、重い……!)

 

 しかしアキシャは力任せに大剣を押し返すと、拮抗状態から脱すると同時にカウンターで敵の胴体を薙ぎ払った。アキシャがこじ開けた、その一瞬の隙間。

 

「隙ありだよー」

 

 アキシャの剣の影から、ラビリアがまるで稲妻のように飛び出した。彼女は脇腹の傷の痛みをこらえ、アキシャの周りを華麗に舞いながら、的確に「虚闘者」の首筋を斬り裂いていく。

 そんな中「虚闘者」の一体が、アキシャが庇い続けているエクアルを狙おうと回り込んだ。

 

「……させない」

 

 ラビリアの機械刀が、その「虚闘者」の首筋を逆手で正確に切り裂いた。

 しかし敵の数はまだ多い。大広間の奥からは弓矢を構えた「虚闘者」の部隊が、アキシャを目掛けて無音の矢を放ち始めた。

 

「うおっ……厄介だな。ラビリア!」

「うん、分かってる! ちょっと眩しいかもよー!」

 

 弓兵部隊の足元に、ラビリアは手持ちの閃光弾を正確に投擲する。カッ、と大広間が白く染まり、「虚闘者」たちの動きが一瞬止まった。

 

「ナイスだ!」

 

 それを合図にアキシャは、背中のエクアルの存在を忘れるほどの集中力で、敵陣のまっただ中に再び踏み込む。彼女が装備した神器のアクセサリーたちが、獲物を求めるように冷たく輝き始めた。

 

「おらぁっ!」

 

 大剣が一体を粉砕して、黒い灰へと変える。敵の核から溢れた魔力が、アキシャの身体に吸い込まれ、疲労した筋肉がわずかに回復するのを感じた。

 

(これなら……!)

 

 背中にエクアルを背負ったままだが、アキシャは防御主体の戦法を捨てた。敵の剣を大剣で受け止め、そのまま押し込み、壁に叩きつける。ラビリアもそのアキシャの覚悟に呼応して、目にも留まらぬ速さで雷を纏わせた機械刀を振るった。

 「虚闘者」の群れを、アキシャが「剛」の力で中央突破し、ラビリアが「柔」の速さで両翼を刈り取っていく。二人の決死の連携の前に、大広間を埋め尽くしていた「虚闘者」の群れは、確実に数を減らしていき……最終的にはほぼ壊滅させたのだった。

 

 大広間に、アキシャとラビリアの荒い息遣いだけが響き渡る。

 

「……ラビリア、今のうちに!」

 

 アキシャが、背中のエクアルを支えながら叫ぶ。

 

「……うん!」

 

 エクアルが行動不能で、アキシャはそんな彼女を背負っている……この状況で浄化できるのはラビリアしかいない。

 ラビリアは機械刀を収めると「呪われた神器」へと駆け寄った。紅蓮の剣の前で静かに膝をつくと、エクアルがいつもやっていたように目を閉じて、精神を集中させ、祈りを捧げ始めた。

 金色の光がラビリアの身体から溢れ出し、神器を覆っていた赤黒い瘴気と紫色の輝きを、優しく包み込んでいく。

 やがて剣が本来の清らかな輝きを取り戻し――島全体を包んでいた、あの不気味なピアノの旋律が、プツリと完全に鳴り止んだ。

 

「これで……終わったね」

 

 ラビリアが安堵の息をゆっくりと深く吐き出した。

 しかし旋律が止んでも、エクアルの意識は戻らなかった。アキシャの背中の上で、包帯で耳を覆われたまま、苦しそうに浅い呼吸を繰り返し、びっしょりと汗をかいている。

 

「はぁ……浄化は出来たが、エクアルが……」

 

 アキシャが、背中の妹の様子に、焦りを滲ませる。

 

「……早く拠点に戻って、ちゃんと休ませないとね」

 

 ラビリアも、脇腹の傷を押さえながら立ち上がった。

 こうしてアキシャとラビリアは、エクアルの危険な状態を鑑み、一刻も早く交易島に戻ることを決意したのだった。

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