The Sky Blessing ~Rabbit Edition~   作:ella_coat

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第43話 忠義の序曲(1)

 黄昏に染まる交易島の中央広場。茜色と群青色が混ざり合う空の下、一触即発の空気が張り詰めていた。冷たい夜風が少女たちの肌を撫でるが、そこにあるのは心地よさではなく、肌を刺すような殺気による悪寒だった。

 

 黒い翼を大きく広げた「茨の天使」レクシエル。彼女が可憐な唇を三日月のように歪め、開戦を宣言した――その刹那だった。バサリ、と黒い翼のはためく音が鼓膜を打つよりも早く、レクシエルの姿が掻き消えた。

 いや、消えたのではない。それは、今の三人が認識できる領域を遥かに超えた、異次元の加速だった。夕暮れの残光を引き裂くように、白いワンピースの残像だけが揺らめく。

 

「……やっぱ、速ぇな!」

 

 アキシャの本能が警鐘を鳴らす。彼女の琥珀の瞳が、目の前に迫る死の予兆を辛うじて捉えた。

 レクシエルの手にある夕焼けと黄金の輝きを宿した美しい剣が、真横に薙ぎ払われる。それはマナすら纏っていない、純粋な膂力と速度のみによる斬撃。だが、その鋭さは空気を裂き、空間そのものを断ち切るかのような圧力を放っていた。刃が通った軌跡に、遅れて真空の鎌いたちが発生する。

 

 三人は示し合わせたわけでもなく、本能的な危機感に従って同時に跳び上がった。ウサギの獣人特有の爆発的な脚力で地面を蹴り、散り散りになって後方へと回避する。

 直後、彼女たちが先ほどまで立っていた石畳が、斬撃の余波だけで深く切り裂かれた。轟音と共に砂塵が舞い上がり、噴水の水が衝撃波で激しく飛び散る。もし反応が一瞬でも遅れていれば……どうなっていたか、難なく想像できた。

 

 砂塵が舞う中、エクアルはいち早く着地し、乱れた黒髪を払う間もなく体勢を立て直す。彼女の理性的な判断力は、この絶体絶命の状況下でも失われていなかった。懐から素早く「見通しの書」を取り出すと、土煙の向こうに佇むレクシエルの姿へと掲げる。

 

「情報の読み取りさえできれば……弱点が……!」

 

 エクアルの琥珀の瞳が、必死に緑色の革表紙を見つめる。魔力を流し込み、相手の本質を暴こうと試みた。

 彼女の脳裏に流れ込んできたのは、期待していた敵の能力や弱点といった情報ではない。頭痛を引き起こすほどの分厚いノイズと、意味を成さない文字列の濁流だけだった。それはまるで、相手の存在の格が違いすぎて、こちらの干渉を拒絶しているかのようだった。

 

「っ……何も分からない!」

 

 驚愕に動きを止めたエクアルを、レクシエルは土煙の向こうから冷ややかに見下ろしていた。その光のない緑色の瞳は、獲物を値踏みする猛禽類のように鋭く、そして冷酷だ。

 

「無駄だよ。あたしに弱点なんてないし、そんな代物で解析できるほど、ヤワな存在じゃないからっ」

 

 鈴を転がすような可憐な声で、レクシエルは嘲るように言う。

 彼女が何もない左手を虚空にかざすと、そこへ集まるように黄金の光粒子が急速に収束し始めた。眩い光の中から現れたのは、先端に禍々しくも美しい紫色の宝玉を抱いた、荘厳な黄金の杖だった。

 夕暮れの光を受け、神々しくも恐ろしい輝きを放つその杖を、レクシエルは手慣れた様子で握りしめた。

 

「さてとまずは……アンタから消えてもらおうかな」

 

 彼女の持つ剣の切っ先を、一瞬の隙を晒してしまったエクアルへと向けた次の瞬間、レクシエルは再び地を蹴った。

 音の壁を突き破るような速さで迫りくるレクシエルに対し、エクアルは防御魔法を展開する時間も、杖を構える暇もなかった。迫る死の気配に身体がすくむ。

 

 しかしこの瞬間こそ、彼女が狙っていたものだった。その琥珀色の瞳を動かし、ただチラリと横に視線を送る。

 それは長年の付き合いである幼馴染への絶対的な信頼を込めた合図――そしてそれを受けて、ラビリアが動き出す。レクシエルの死角へと滑り込むと、彼女は愛銃フォトンフォースを構え、その銃身に魔力を限界まで充填した。

 

「させないよ……!」

 

 鋭い気迫と共に引き金が絞られる。乾いた発射音と共に放たれた高出力の光弾は、一条の閃光となって夕闇を切り裂き、正確無比に突進するレクシエルのこめかみを捉えていた。

 距離、タイミング、角度。どれをとっても完璧な、誰もが直撃を確信した最高の一撃。

 

 

 

 しかし――レクシエルは、常軌を逸した反応速度でそれに対応した。

 

 光弾がその美しい顔を貫く寸前、彼女は突撃の速度をわずかに緩め、首をほんの数センチ、傾けるだけでそれを回避してみせたのだ。

 ジュッ、という湿った音がして、光弾の熱量がレクシエルの白い頬を掠める。数本の薄水色の髪がチリチリと焼け焦げて舞い、焦げ臭い匂いが漂うが、彼女の動きは止まらない。

 

「……ふふっ、残念」

 

 頬に赤い火傷の痕を作りながらも、レクシエルは楽しそうに笑う。

 勢いを殺さず、そのままエクアルの懐深くに踏み込んだレクシエルが、その剣を一閃させる。夕日の赤を纏った刃が、エクアルの身体を両断せんと迫った。

 

「あ……」

 

 斬り裂かれるのを覚悟し、エクアルが思わず目を瞑ったその瞬間。横合いから、黒い弾丸のような影が飛び込んできた。

 

「ぼさっとしてんじゃねぇ!」

 

 アキシャだった。彼女はエクアルの襟首を乱暴に掴むと、強引に自分の方へと引き寄せたのだ。

 

 ――ザシュッ!

 

 鋭い風切り音と共に、レクシエルの斬撃が通り過ぎる。エクアルの白いブラウスの腹部が横一文字に切り裂かれ、その下の白い肌に鮮やかな赤い筋が走った。痛みにエクアルが顔を歪めるが、幸いなことに致命傷には至っていない。鮮血が空中に散り、石畳に点々と赤い染みを作る。

 

 そしてエクアルを背後に放り投げるようにして庇ったアキシャは、レクシエルの前に立ちはだかると、一気に間合いを詰める。

 姉として、戦闘狂としての本能が、身体を突き動かす。アキシャは真紅の大剣を大きく振りかぶり、踏み込みの勢いを乗せた斬撃を放とうとする。

 

 だが、レクシエルはその動きすらも見越していたかのように、左手に持った荘厳な輝きを放つ杖をアキシャの眼前に突きつけた。

 杖の先端、紫色の宝玉が妖しく明滅し、瞬時に複雑な幾何学模様を描く紫色の魔法陣が展開される。

 

「燃えてしまえばいいわ!」

 

 レクシエルの可憐な声とともに、肌を焼くような暴虐的な熱量を持つ魔力が膨れ上がる。

 アキシャの野生の直感が、けたたましく警鐘を鳴らす。避けるべきだ、と。

 だが、背後には今しがた腹部を斬られ、体勢を崩しているエクアルがいる。ここで自分が横に跳べば、放たれる魔法の直撃を受けるのは間違いなく妹だ。

 

(……引かねぇよ!)

 

 迷いは一瞬たりともなかった。アキシャは回避という選択肢を捨て、歯を食いしばって正面突破を選んだ。奥歯が砕けそうなほど噛み締め、大剣の柄を握る手に渾身の力を込める。

 魔法陣から放たれた巨大な火球が、アキシャの視界をオレンジ色に染め上げ、彼女を飲み込まんとする。

 アキシャは裂帛の気合と共に、真紅の大剣を振り下ろした。その一撃は、物理的な質量と魔力の奔流によって、迫りくる火球を真っ向から叩き斬った。

 

 ――ドォォォン!

 

 斬られた火球が爆ぜ、爆風と炎がアキシャを包み込む。

 炎の舌が黒いロングコートを舐め、袖口を焦がし、白い頬や腕を容赦なく焼く。ジリジリと焼ける皮膚の痛みと熱波に顔をしかめながらも、彼女はその炎の幕を突き破り、レクシエルの懐へと強引に踊り込んだ。

 

「おらぁぁぁっ!!」

 

 炎の中から飛び出したアキシャの姿は、まさに鬼神の如き迫力だった。

 煤と火傷で顔を汚し、コートから煙を上げながらも、その琥珀色の瞳だけは揺るぎない闘志で輝いている。渾身の力で振り下ろされた真紅の大剣が、レクシエルの脳天を砕かんと迫る。

 しかし、レクシエルは表情一つ変えず、忠誠の剣を軽く頭上へ掲げただけで、それを受け止めた。

 

 ――ガギィィィン!!

 

 凄まじい衝撃音が広場に響き渡り、火花が激しく散る。アキシャの大剣とレクシエルの片手剣が、互いの顔の目の前で激しくせめぎ合う。

 アキシャは全身の筋肉を軋ませ、全体重を乗せて押し込もうとするが、レクシエルの細腕は微動だにしない。華奢な少女のどこにこれほどの怪力があるのか、まるで巨岩を相手にしているような絶望的な硬さだった。

 

「わぁお、まさか正面を突っ切ってくるなんて……やるじゃん?」

 

 至近距離で、レクシエルが感心したように微笑む。その余裕綽々な態度に、アキシャのこめかみに青筋が浮かぶ。

 

「へっ……口数が多いな!」

 

 だが、力が拮抗したその一瞬こそが、彼女たちが待ち望んだ好機だった。

 アキシャが正面で注意を引きつけたその裏で、レクシエルの完全な死角――その真横から、いつの間にか機械刀に持ち替えたラビリアが、疾風のごとく迫っていたのだ。

 

「私のこと、忘れちゃ困るなー?」

 

 ラビリアの声と共に、流れるような動作で放たれた逆袈裟の斬り上げ。それは夕闇の中で黄色の軌跡を描く、鋭い一閃だった。

 

「なっ……!?」

 

 流石のレクシエルも、この完璧なタイミングでの挟撃には反応が遅れる。アキシャの大剣を強引に弾き飛ばしつつ、左手の杖で防御しようとするが、コンマ数秒、間に合わない。

 ザクリ、と機械刀の刃が、レクシエルの白いワンピースごと、その脇腹を切り裂いた。

 

「ぐぅっ……!」

 

 神聖な天使の身体から、人間と同じ鮮やかな赤い鮮血が噴き出し、石畳を汚す。苦悶の声と共に、レクシエルの顔が初めて歪んだ。

 

 手応えありだ……!

 即座にラビリアが追撃を加えようと機械刀を返すが、レクシエルは傷を押さえもせず、背中の黒い翼をはためかせ、真上へと高く跳躍して逃れた。

 

 空中に浮遊するレクシエルは、脇腹の傷から血を流し、純白のワンピースを赤く染めながらも、口元に不敵な笑みを浮かべていた。その緑色の瞳には、痛みによる苦痛よりも、狩りを楽しむ捕食者のような、ゾクリとする色が宿っている。

 

「やっぱり……ヘトゥケダゥを倒しただけあるわね。ちょっとだけ、痛かったよ?」

 

 彼女は眼下のアキシャとラビリアを見下ろし、杖を突き出した。そして、空中には幾重もの魔法陣が展開される始める。

 

「じゃあこれ……お返しね」

「ま……マズッ!?」

 

 アキシャが息を呑む。頭上から降り注ごうとしているのは、明らかに先程の火球の比較にはならない魔法。ラビリアとアキシャは距離を取ろうとするが、魔法陣の輝きが増す速度の方が遥かに速い。

 

(あのままじゃ、回避が……間に合わない!)

 

 腹部を押さえながら立ち上がっていたエクアルが、即座に反応した。彼女は自身の痛みを無視すると、必死の形相で魔力を練り上げる。

 

「お願い、間に合って……!」

 

 ハイドロスタッフを振り上げ、アキシャとラビリアの頭上に、巨大な水の塊を生成し、発射する。それは攻撃のためではなく、あの魔法を可能な限り相殺するための盾だった。

 直後、魔法陣から放たれた魔弾が石畳に着弾し、凄まじい爆発が巻き起こった。

 

 ――ズドォォォン!!

 

 爆炎と衝撃波が二人を襲う。だが、エクアルの放った水の塊が爆心地で弾け飛び、瞬時に大量の水蒸気となって爆炎の威力を抑え込んだ。

 それでも完全に防ぎきることはできず、爆風によってアキシャとラビリアは木の葉のように吹き飛ばされ、地面を激しく転がった。

 

 朦々と立ち込める爆煙の中から、ふらつきながらもアキシャとラビリアが立ち上がる。

 アキシャの自慢の黒いロングコートは半分以上が焼け焦げてボロボロになり、そこかしこから肌が覗いている。ラビリアの灰色のスカートも爆風で大きく裂け、美しい太ももには痛々しい擦り傷が走っていた。二人とも煤と泥に汚れ、肩で大きく息をしている。

 

 対するレクシエルは、脇腹の傷こそ痛々しいものの、空中から音もなく優雅に舞い降り、その呼吸すら乱れていない。白いワンピースの赤く染まった部分さえも、彼女の異常なまでの美しさを際立たせる装飾のように見えた。

 

「あはっ、まだまだ始まったばかりだよ? もっとアンタ達の力を……見せてみなさいよ!」

 

 レクシエルは楽しげに笑うと、荘厳なる杖を無造作に振るった。それだけで、地面に展開された無数の魔法陣から、紫電を帯びた雷柱が一斉に立ち昇る。

 

「ちっ、休ませてくれねぇかなぁ!?」

 

 アキシャは悪態をつきながら、直感と反射神経を極限まで研ぎ澄ます。降り注ぐ落雷の隙間を縫うように、地面を蹴ってジグザグに疾走する。一瞬でも足を止めれば黒焦げになるという極限状態の中、それでも彼女は前へ出ることを選んだ。

 

 ラビリアもバックステップで距離を取りながら、雷の雨をかいくぐり、フォトンフォースを連射してアキシャの突撃を援護する。銃声が絶え間なく響き、光弾がレクシエルを狙うが、全て紙一重で躱されてしまう。

 

「お姉ちゃん、今よ!」

 

 後方のエクアルはハイドロスタッフを振りかざし、アキシャの進路を塞ごうとする雷撃を水の刃で相殺し、道を切り開く。

 そしてついに雷撃の檻を強引に突破したアキシャが、レクシエルの懐へと深く踏み込んだ。

 

「捉えたぁッ!」

 

 真紅の大剣に全身全霊の力を込め、渾身の横薙ぎを放つ。筋肉が悲鳴を上げ、傷口が開くのも構わず放たれた一撃。

 しかし、レクシエルは慌てる素振りすら見せない。右手に持つ煌めく剣を軽く片手で掲げ、アキシャの剛剣を涼しい顔で受け止める。

 

 ――ガギィィィン!

 

 重たい金属音が広場に響くが、レクシエルの足は一歩も下がらない。

 

「んー、筋はいいんだけどねっ」

 

 彼女は受け止めた大剣をまるで羽でも払うかのようにいなすと同時に、空いている左手の杖をアキシャの無防備な腹部へと向けた。杖先に赤熱した火球が瞬時に生成される。

 

「っ!?」

 

 至近距離からのゼロ距離射撃。アキシャは咄嗟に大剣の腹を盾にするが、爆発の衝撃までは殺しきれず、後方へと弾き飛ばされる。地面を削りながら後退するアキシャの足元がおぼつかない。

 

 その攻撃の直後、今度はラビリアが機械刀を構えて側面から肉薄する。変則的な軌道を描く斬撃の嵐。同時に、後方のエクアルが「Log4Shell」を使い、高圧縮した木片弾丸をレクシエルの死角へ向けて撃ち出す。

 物理と魔法、多角的な同時攻撃。彼女たちの連携は完璧なはずだった。

 

 しかしレクシエルは、まるで背中に目があるかのように優雅に回転し、忠誠の剣が描く残像の壁で、すべての攻撃を弾き落としてみせたのだ。

 

「……っ! 全然、隙がないねー」

 

 ラビリアの頬を冷や汗が伝う。

 レクシエルの動きは舞踏のように美しく、そして残酷だった。彼女が剣を振るうたび、夕焼け色の軌跡が空間に残り、それがそのまま鋭利な刃となって三人を襲う。

 アキシャが再び吼えながら斬りかかるが、レクシエルは翼をはためかせてふわりと宙に浮き、アキシャの頭上を取る。そのまま重力を乗せた踵落としを見舞ってきた。

 アキシャは大剣を頭上で構えてガードするが、そのあまりの重さに膝が砕けそうになり、石畳にめり込む。

 

「ぐ……なんなんだコイツ、化け物か?」

 

 三人の必死の連携攻撃は、確かにレクシエルを攻め立てている。だが、その白い肌には先ほどの奇襲でついた脇腹の傷以外、新たな傷一つつけることができない。攻防のたびにこちらの消耗だけが増えていく。

 

 レクシエルはふわりと距離を取り、退屈そうにあくびを噛み殺す仕草を見せる。

 

「ねえ、もっと本気出してよ。あたし、まだ汗ひとつかいてないんだけど?」

 

 その言葉通り、彼女の白いワンピースは汚れ一つなく、余裕の笑みは崩れていない。圧倒的な実力という絶望的な壁が、三人の前に高くそびえ立っていた。

 

※※※

 

 放たれる火球と降り注ぐ雷撃、そして荘厳な剣による斬撃の嵐。

 戦いは一方的な蹂躙の様相を呈していた。三人は必死に防戦するが、徐々に追い詰められていく。

 アキシャの大剣が弾かれ、体勢を崩したところに鋭い蹴りを叩き込まれる。ラビリアが射撃で牽制するが、全て紙一重で躱され、逆に火球の魔法で反撃を受ける。エクアルは二人の回復と防御に追われ、攻撃に転じる余裕すらない。

 

 確かに一撃は入れた。だが、レクシエルはまだ本気を出してすらいないように見えた。その事実は、三人の心を折るのに十分すぎるほどの重みを持っていた。

 荒い息を吐き、肩で息をする三人。ボロボロの服、血と泥に汚れた肌。一方で、レクシエルは涼しい顔で剣についた血を払い、小首を傾げる。

 

「どうしたの? もうおしまい? トゥルタリア様に刃を向ける覚悟って、その程度だったの?」

 

 その言葉は、失望を含んだ冷たいナイフのように突き刺さる。

 だが――三人の瞳から、闘志の火は消えていなかった。

 アキシャが、乱れた呼吸を整えながら、口元の血を手の甲で乱暴に拭う。

 

「……はぁ、はぁ。煽ってくれるじゃねぇか」

 

 彼女は、隣で膝をつきかけているエクアルと、銃身が焼き付きそうなほど加熱したフォトンフォースを構えるラビリアに、鋭い視線を送る。

 エクアルも、痛む腹部を押さえながら顔を上げ、力強く頷き返す。ラビリアも、不敵な笑みを浮かべてマギスフィアを握り直した。

 言葉はいらない。長年連れ添った、生死を共にしてきた「運命共同体」だからこそ通じる、一瞬の目配せ。

 

(まだだ。まだ、手はある)

 

 三人は同時に頷くと、力を振り絞るように武器を構え直した。

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