The Sky Blessing ~Rabbit Edition~   作:ella_coat

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第53話 爆発四散!(2)

 「爆弾島」の上層部に位置する、巨大な円筒形の赤い岩山――遠目には「起爆スイッチ」そのものに見えていた場所の麓に、アキシャたちはたどり着いていた。

 周囲には、スイッチの基部を保護するかのように、半透明のクリスタルに似た美しい鉱脈が乱立していたが、それらはすでにアキシャの豪快な大剣によってあらかた粉砕され、ガラス片のようにキラキラと地面に散乱していた。

 

「わーい、いただきー」

 

 ラビリアは嬉々としてしゃがみ込み、粉砕された鉱脈の中から手頃な大きさの結晶を拾い上げている。太陽光を透かして虹色に輝くその欠片を、彼女は丁寧に愛用のポーチへとしまい込んだ。その瞳には、未知の素材に対する純粋な探究心と輝きが宿っている。

 

「どうやら、ここからが本番みたいだな」

 

 アキシャは背中に担いだ真紅の大剣の重みを確かめながら、目の前の岩山を見上げる。そこには、巨大な怪物が口を開けたかのような、ぽっかりとした暗い洞窟の入り口があった。硫黄と火薬の混じった刺激臭が、鼻腔を突き刺すように漂ってくる。

 洞窟の入り口付近には、先ほど遭遇した緑色の生物「クリーパー」に加え、新たな魔物がゆらりと徘徊していた。

 それは一見、普通のゾンビのようだが、全身に赤く明滅する物体――ダイナマイトのような危険な塊が、あちこちに取り付けられているという、極めて異様な姿をしていた。特に顔は原型を留めないほど、その危険な物体で覆われている。

 

「油断しないで……調べるわよ」

 

 エクアルが冷静に杖を構えつつ、懐から「見通しの書」を取り出して掲げる。緑色の革表紙が魔力で淡く光り、対象の情報を読み取っていく。

 彼女は脳内に送り込まれてきた情報を緊張した声で読み上げた。

 

「……名前は『自爆者』。爆発物を身に纏ったアンデッド。不用意に攻撃すると誘爆して……周囲を巻き込む大爆発を起こす、ですって」

 

 エクアルが説明を終えた瞬間、アキシャの口元が静かに吊り上がった。もうやることは決まっている、と言わんばかりの不敵な笑みだ。

 アキシャは両足を開いて腰を落とし、真紅の大剣を身体の脇で大きく引き絞るような構えを取る。全身の筋肉がバネのように収縮し、刀身に紅蓮の魔力が渦を巻いて集束し始めた。

 

「ラビリア、合わせろ! 手加減無用だ!」

「んぇー? 大事な素材が吹き飛んじゃうんだけどなー」

 

 ラビリアは口を三角にして不満そうな顔をするが、アキシャの合図には逆らわず、渋々とフォトンフォースを構えた。銃口に大量の魔力が注ぎ込まれ、七色の光が瞬き始める。

 

「ちょっ、待って! 二人とも何する気!?」

 

 二人の殺気立った背中を見て、エクアルが焦って制止しようとする。だが、一度火がついた導火線を止める術はなかった。

 アキシャとラビリアの視線が交錯し、タイミングを合わせる。

 

「派手にいかせてもらうぜッ!」

「失礼しますよーっと!」

 

 二人の絶叫と共に、必殺の輝きが解き放たれた。

 アキシャの大剣からは、全てを断ち切る紅蓮の「斬撃砲」が。ラビリアの銃口からは、全てを貫く虹色のレーザー「プリズム・バレット」が。

 二つの閃光は空中で激しく絡み合い、唸りを上げて洞窟の入り口付近に群がっていた「クリーパー」と「自爆者」の群れへと殺到する。

 

 

 ――ズガガガガガァァァァッ!!

 

 

 直撃を受けた先頭の敵が爆発し、その衝撃と熱量が隣の敵を誘爆させる。連鎖的な大爆発が次々と発生し、洞窟の入り口周辺の岩壁ごと、全てを跡形もなく吹き飛ばした。

 もはや戦闘や殲滅というレベルではない、純粋な地形の破壊だった。もうもうと立ち込める土煙が晴れると、そこには半壊して大きく口を広げた入り口と、黒焦げになって燻る地面だけが残っていた。敵の姿はどこにもなかった。

 

「ふぃー、スッキリしたな! よーし、行くか!」

 

 アキシャは肩を回してコリコリと音を鳴らすと、満足げに息を吐く。その顔には、一点の曇りもない晴れやかな笑顔が浮かんでいる。

 

「ふぅー……。ま、たまにはこういうのも悪くないねー」

 

 ラビリアも銃口から立ち上る硝煙をふっと吹き飛ばし、何事もなかったかのように平然とした顔で歩き出す。

 そして……残されたエクアルは、瓦礫の山と化した入り口を呆然と見つめるしかなかった。

 

「はぁ……。もう、何も言う気になれないわ……」

 

 エクアルは盛大なため息をつき、頭を抱えながら、楽しそうに進んでいく二人の背中を追った。彼女の黒いコートの裾が、無力感を表すように力なく揺れた。

 

 

※※※

 

 

 破壊された入り口から内部へ進むと、そこは意外にも比較的単純な構造の一本道だった。だが、壁や天井のゴツゴツとした岩肌からは、常に不穏な熱気と鼻をつく硫黄の匂いが立ち込めている。時折、遠くから「ボムッ」という小さな爆発音が聞こえ、この場所が不安定であることを主張していた。

 

「お、これはよさそう」

 

 ラビリアはちょくちょく立ち止まっては、懐から取り出したピッケルで壁の鉱石を削り取っていた。赤く明滅する危険な鉱石だが、彼女の手際は熟練の職人のように鮮やかで、爆発させることなく器用に採取していく。その真剣な横顔は、技術屋としての知的な魅力に溢れている。

 

 一方のアキシャは、通路にまばらに現れる「クリーパー」や「自爆者」を相手にしていた。

 

「おらよっと」

 

 今度は誘爆させないよう、慎重かつ大胆に。真紅の大剣の腹で器用に頭部を叩いて気絶させたり、爆発物がついていない急所を一撃で突いて機能を停止させたりと、その剛腕に見合わぬ繊細な剣捌きを見せる。

 エクアルもハイドロスタッフを構え、うっかり爆発しそうになった敵がいれば、即座に冷たい水魔法で包み込み、強制的に冷却して爆発を防いでいた。

 

「ふぅ……ねえ、二人とも。『黄金島』のことを覚えてる?」

 

 エクアルが、歩きながら前方の二人に問いかける。

 

「あの島の黄金は、呪いによる偽物だったわよね。浄化した途端、ただの黒い石になってしまった……」

 

 かつての冒険の記憶。煌びやかだった黄金の宮殿が、一瞬にして色あせた廃墟へと変わった光景が蘇る。

 

「もしかしたら……この島の爆発物や鉱石も、同じ原理かもしれないわよ? 『呪われた神器』を浄化したら、全部ただの石ころに戻っちゃうかも」

 

 その冷静な指摘に、採掘の手を止めたラビリアが、露骨に嫌そうな顔をした。

 

「えー……。それじゃあ、苦労して持ち帰っても意味ないじゃーん」

 

 ラビリアが子供のように唇を尖らせる。ポーチに詰め込んだ鉱石が、ただの重りになってしまうかもしれない徒労感。

 

「仕方ないでしょ、それが呪いの影響なんだから」

 

 エクアルが諭すように言う。

 そんな会話をしていると、先頭を歩いていたアキシャが突然足を止め、前方を鋭く睨みつけた。

 

「おっ、新しい敵だな。ストップ」

 

 アキシャの視線の先。通路の向こうから、全身が溶岩のように赤熱し、燃え盛るような輝きを放つ人型の魔物が、一本の剣を構えてジリジリと迫ってきていた。その剣もまた、高熱を帯びて陽炎のように揺らめいている。

 

「多分……虹島で戦った『氷妨者』や『雷弄者』と同じ系統の魔物だが、属性が違うな。エクアル、確認頼む」

「ええ、任せて」

 

 エクアルが慣れた手つきで「見通しの書」を掲げる。

 

「……名前は『炎延者』。火のマナから生み出された魔物よ。燃え盛る剣での攻撃が命中すると、周囲を爆発させ、激しく炎上させる……!」

「うわ、危険だねー。ここで爆発されたら空洞が崩壊しちゃうよー?」

 

 ラビリアが天井を見上げて眉をひそめる。ただでさえ不安定なこの場所で爆発を起こせば、生き埋めになるリスクが高い。

 

「アキシャは下がってて。私が遠くから撃ち抜くから」

 

 ラビリアがアキシャの前に出る。彼女はフォトンフォースを構え、取り付けたスコープを覗くと照準を定めた。

 トリガーを引き、数発の光弾が放たれる。正確に「炎延者」の急所を捉え、数体の魔物が黒い灰となって霧散した。

 だが、通路の奥からはさらに多くの「炎延者」が湧き出てくる。それを見て、アキシャはニヤリと笑い、一歩前に出た。

 

「いや、私でも行けるぜ? 見てな」

 

 アキシャがおもむろに腰のホルダーから取り出したのは、いつもの大剣ではなく、青白く冷気を放つ片手斧――神器「アイスアックス」だった。

 刃の部分が氷でできており、周囲の空気を凍てつかせる冷気を纏っている。彼女がかつて扱った「激流の剣」とはまた違った魔力が、その神器には込められていたのだ。

 

「これならどうだ!」

 

 アキシャは一気に距離を詰め、「炎延者」の懐へと飛び込む。

 「炎延者」が反応し、燃え盛る剣を振り下ろしてきた。それに対し、アキシャは冷気を纏った斧を両手持ちで構え、下からかち上げるように全力で振り抜いた。

 

 炎と氷が激突し、凄まじい勢いで白い湯気が立ち込める。視界が白く染まる中、一瞬の力の拮抗があった。

 だが、勝ったのはアキシャの「アイスアックス」だった。

 

 

 ――パキパキパキッ!

 

 

 硬質な音が響き渡り、「炎延者」の剣身が急速に凍りついていく。その冷気は魔物の腕へと伝播し、赤熱していた身体を青白く染め上げていく。

 

「終わりだ!」

 

 動きの止まった魔物の胴体を、アキシャは斧の刃で容赦なく粉砕した。爆発や炎上が起きることなく、魔物は静かに黒い灰となって消滅した。

 

「へっ、楽勝だろ?」

 

 アキシャが斧を担ぎ直し、得意げに振り返る。その顔には、してやったりの笑みが浮かんでいた。

 

「……お姉ちゃん、すごい」

 

 エクアルが感心したように呟く。相性の良い武器を適切に選び、爆発のリスクを回避して敵を倒す。脳筋に見えて、戦闘に関するアキシャの判断力はやはり天才的だった。

 

「思っていたより、虹島や空賊島ほど敵の数が多くないから、比較的安全に進めているわね。……もっとも、一回でも爆発させたら終わりだけど」

 

 エクアルは緊張を緩めることなく、周囲の警戒を続けた。

 

 

※※※

 

 

 敵を退けながらさらに奥へと進み、三人はついに洞窟の最奥部へとたどり着いた。

 そこはドーム状に開けた広大な空間だった。天井は高く、壁一面に爆発性の黄色い鉱石が埋め込まれている。そして空間の中央には、見慣れた灰色の台座があり、そこに禍々しい瘴気を放つ「呪われた神器」が突き刺さっていた。

 

「思ったより呆気なかったな。もっとドカンと来るかと思ったのに」

 

 拍子抜けしたようにアキシャが言う。今までの苦戦に比べれば、今回はあまりにも順調すぎた。

 

「油断しないの。さっさと浄化して、ここから出ましょう」

 

 エクアルは慎重に周囲を見渡し、罠や伏兵がいないことを確認すると、神器の前へと歩み寄った。

 彼女は静かに神器の前に膝をつき、祈りを捧げる。

 金色の光がエクアルの身体から溢れ出し、神器を優しく包み込む。そしていつも通り、剣が本来の清らかな輝きを取り戻していき、島全体を覆っていた重苦しい呪いの気配が霧散したのだった。

 

「ふー、これでいっちょ上がりだな!」

 

 アキシャは大きく伸びをして、凝り固まった身体をほぐすと、リラックスした様子で一歩を踏み出した。

 

 

 ――カチリ。

 

 

 静寂の中に、小さく、しかし確実にスイッチの入る音が響いた。アキシャの足元からだ。

 

「ん?」

 

 アキシャが動きを止める。

 直後、ジジジジジ……という、導火線の燃えるような音が、彼女の足元の床下から響き渡り始めた。

 

「……あ、これ、ヤバくね?」

 

 アキシャの背筋に、冷や汗が伝う。戦闘中には決して見せないような、焦燥に満ちた顔で足元を見下ろす。

 エクアルとラビリアもその異変に気づき、目を丸くしてアキシャを見た。

 

「アキシャ……何踏んだの?」

「え? 嘘でしょ……?」

 

 ラビリアの問いと、エクアルの絶望的な呟き。

 それに応えるかのように、地面の微かな振動が、急速に大きくなっていく。ドドド……と大地の鼓動のようなリズムが刻まれていく。

 

「すまねぇ……逃げるぞ!!」

 

 アキシャの絶叫と共に、三人は脱兎のごとく駆け出した。浄化したばかりの神器に背を向け、来た道を全力で逆走する。

 

 

 ――ズガアアアアアンッ!!

 

 

 背後で、世界の終わりかと思うほどの凄まじい爆発音が轟いた。

 それを合図にするかのように、壁に埋め込まれていた爆発性の鉱石や、床下の爆薬が連鎖的に起爆を始めた。

 ドカン! ズドン! と轟音が背中に迫り、通路の壁が崩落し始める。天井から巨大な岩塊が雨のように降り注ぐ。

 

「何してんのよ、バカお姉ちゃん!!」

 

 走りながらエクアルが叫ぶ。その顔は煤で汚れ、涙目になっている。

 

「踏んじゃったもんは仕方ねぇだろ! とにかく走れ!」

 

 アキシャも必死に足を動かしながら、逆ギレ気味に叫び返す。後ろを振り返れば、爆炎の波がすぐそこまで迫っているのだ。

 

 その時、走っていたラビリアがふと足を止めた。彼女のピンク色の瞳が、崩れ落ちてきた天井の岩塊に含まれる、光る鉱石に釘付けとなる。

 

「……あれ? そう言えば、呪いが解けてるのに爆発してるねー。ってことは、この爆発物って本物?」

 

 ラビリアは崩落の轟音の中で、冷静に分析した。呪いによる幻影であれば、浄化後は消えるはず。だがこれは消えていない。つまり、本物の資源だ。

 

「いただきっ!」

 

 彼女は崩落の最中だというのに、懐からピッケルを取り出して猛烈な勢いで採掘を始めた。

 カンカンカンッ! と軽快な音が響く。

 

「ラビィも何してんのよ!?」

 

 先行していたエクアルが慌てて戻り、ラビリアのコートの襟を背後からガシッと掴んで強引に引きずる。

 

「わー、待ってー、あとちょっとで貴重な素材がー!」

「命の方が大事でしょ!」

 

 ジタバタと抵抗するラビリアを引きずりながら、エクアルが走る。迫りくる爆風と崩落。三人はもつれ合うようにして、出口の光を目指して疾走する。

 間一髪……洞窟の入り口が崩れ去る寸前、三人は外へと飛び出した。

 そのまま止まることなく島の縁まで走り抜け、眼下に広がる雲海へとダイブする。

 

「おらよッ!」

 

 アキシャが空中で「羊の加護」を発動し、足場を作る。三人はどうにかそこに着地し、崩壊する「爆弾島」から距離を取った。

 安全圏まで逃げ切った三人は、肩で息をしながら、轟音と共に爆発し、内側から崩れ落ちていく島を見つめた。赤いキノコ雲が空に立ち上り、爆風が髪を揺らす。

 

 アキシャは額の冷や汗を拭いながら、ニカッと笑った。白い歯が眩しい。

 

「いやー、最後のは流石にヒヤッとしたけど、面白い島だったな!」

「だねー。素材も手に入ったし、結果オーライかな」

 

 ラビリアも、ポケットに入れた鉱石の感触を確かめて満足げに頷く。服は煤だらけだが、その表情は晴れやかだ。

 そんな二人の能天気な言葉に、煤だらけになり、スカートも破れかけたエクアルが、空に向かってありったけの不満を叫んだ。

 

 

「もうやだぁぁぁ!!」

 

 

 彼女の悲痛な叫びは、爆音にかき消され、澄み渡る空の彼方へと吸い込まれていった。

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