The Sky Blessing ~Rabbit Edition~   作:ella_coat

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第8話 新たなる使命

 異界の勇士たちの快諾を受け、神々の間に安堵の空気が流れていた。それを受けて、ウィ=キが冷静な声でこれからの道筋を語り始める。

 

「契約は成立した。では次に、君たちがトゥルタリアを討つための、具体的な手順を説明しよう」

 

 彼の言葉に、三人は再び真剣な表情で向き直る。

 

「トゥルタリアを直接討つのは、今の僕たちにも、そしておそらく今の君たちにも不可能だ。奴を討つには、まず僕たちの力を取り戻す必要がある」

 

 ウィ=キはそこで一度言葉を切り、抱えていた分厚い本を開いた。そこには、古代の文字や図形がびっしりと書き込まれており、彼はその一節を指でなぞりながら、静かに続けた。

 

「僕たちの力を取り戻す上で最も手っ取り早い方法は……やはり、奴が世界中にばら撒いた呪いの媒介――『呪われた神器』の浄化だろうね」

 

 ウィ=キの説明を引き継ぐように、フローラが消え入りそうな声で補足する。その声は、まるで風にそよぐ傷ついた木の葉のように、か弱く震えていた。

 

「呪われた神器がある限り……その島のマナは穢れ……魔物が生まれ続ける……。それを浄化すれば……島の呪いは解かれ……魔物も、現れなくなる……」

「その『呪われた神器』は、どう浄化すればいいでしょうか?」

 

 そんなエクアルの素朴で純粋な問いに、ルーモアが快活に答えた。

 

「やり方は簡単だよ! 『呪われた神器』のそばで、私たち五柱の誰かに、少しの間だけ祈りを捧げてくれればいいの。そうすれば、私たちの力が神器に流れ込んで、呪いを上書きできるから!」

「祈りぃ? 面倒くせぇな」

 

 話半分に聞いていたアキシャが面倒くさそうにぼやくと、ウルバンがそれを一喝する。

 

「形だけで構わん! 汝らの強い意志こそが、吾らの力となるのだ!」

 

 そのやり取りを横目に、エクアルは「お姉ちゃん……」と片手で頭を押さえながら呆れた声を出す。

 

「んー……てっきり、物理的に破壊するのかと思ったけど……まあ、理にかなってはいるよね」

 

 ラビリアは一人、納得したように頷いていた。

 彼女にとって、浄化のプロセスが破壊ではなく、神々の力の上書きであったことは、非常に興味深い事象だったのかもしれない。

 

「それと、君たちがこの世界で戦うための力も必要だろう」

 

 ウィ=キが理知的な声で、まるで人々に教えを説くかのごとく続ける。

 

「この世界には『神器』と呼ばれる、僕たちの加護を受けた魔道具が存在する。本来、神器を扱うには、対応する神への強い信仰が必要となる。だが……」

 

 そこでウィ=キの言葉を遮るかのように、ルーモアが大振りなジェスチャーと共に話を引き継いだ。

 

「今回は特別! 私たち全員があなたたちを信仰者として認め、祝福を授けます! いわゆる、超お得な初回限定キャンペーン、みたいな?」

 

 その神らしからぬ例えに、エクアルは少しだけ眉をひそめた。ルーモアの足元で、ニャプトフが静かにゆっくりと尻尾を揺らす。そのどこか偉そうな言葉が、三人の脳内に直接響いた。

 

「にゃー(面倒だけど、全面的に協力する以上、出し惜しみするのはよくないからね)」

 

 神々の祝福――その表現にピンと来なかったエクアルやラビリアが首を傾げた。

 

「祝福を授ける……というのは具体的にどんなことをするんですか?」

「吾らの神力は、人々の信仰のおかげで成り立っている! ゆえに吾らはお返しとして人々に力、すなわち祝福を授けているのだ!」

「なるほど。でも今回は特別……要するにトゥルタリアを倒すために力を貸してもらえる、というわけかー」

「正解ー! じゃ、そういうことだから、ちょっとそこでジッとしていね」

 

 五柱の神々が三人を囲むように立ち、厳かに、しかしどこか優しげに、その手を三人へと差し伸べた。

 フローラからは生命力に満ちた緑、ウルバンからは闘志を燃やす赤、ウィ=キからは深遠な叡智の青、ニャプトフからは気まぐれな橙、そしてルーモアからは温かな絆の金の光。五色の光の奔流が、三人の身体に降り注いだ。

 温かい光に包まれ、力が僅かに、しかし確実に内側から満ちてくるのを感じる。外側から抑えつけられていた力が、ほんの少しだけ解放されるような、心地よい感覚だった。

 

「おぉ! なんか力がみなぎってきた気がするぜ!」

「これで君たちは僕たちの祝福を受けたことになる。本来であれば、信仰した神に応じて何かしらの能力が開花するのだけど……」

「ここにいるのは、相反する力を持った神々ばかりだからね! その辺りはお預けかなー」

「その代わり、全ての神器が使用できるはずだ。トゥルタリアを倒すなら、神器の力は不可欠だからね」

 

 ウィ=キの説明が終わり、彼は懐から先端に赤い宝珠がついた、小さな杖を取り出した。

 

「試しにこれを使ってみるといい。『ファイアスペル』……最も基本的な攻撃用の神器だ」

「へぇー、これが神器って奴か。どう使うんだ?」

 

 アキシャが興味本位でそれを受け取り、おもちゃのように軽く振ってみる。すると、彼女の手元から突如として、大きなカボチャほどの大きさの火球が出現した。

 

「うおっ、すげぇ! こんな簡単に出せるのか!」

 

 アキシャが驚きの声を上げると、ウィ=キは一瞬だけ目を見開くが……すぐに冷静さを取り戻し、その現象を分析する。

 

「……なるほど。本来なら、拳程度の火球しか出ないのだけど、君たちは元々からマナへの適性が高いから、神器の効果も増幅されるようだね」

 

 その言葉に、他の神々も感心したように頷いてみせた。

 

「うむ、頼もしい限りだ! これならば、トゥルタリアの軍勢とも渡り合えよう!」

「そうだね……君たちが……この世界の希望の光だよ」

 

 フローラは儚げながら、力強い眼差しで三人を見つめる。

 そして最後に、ルーモアが皆を代表するように明るい声で締めくくった。

 

「話は以上だよ! これからのあなたたちの戦いに、私たち神々の祝福があらんことを!」

 

 こうして一通りの説明と儀式が終わり、神々との会合は幕を閉じたのだった。

 

 

※※※

 

 

「エルドにも話を通しておかなきゃね!」

 

 ルーモアが三人を伴って、再び交易島へと戻るためのゲートを開く。

 

「なぁ~ご(まあ、死なない程度に頑張りたまえよ。あっ、たまに魚とか持ってきてくれないかな)」

「汝らの活躍、期待しているぞ!」

「あなたたちの行く道に……花の祝福のあらんことを……」

 

 神域を去る間際、神々の言葉が彼女たちの背中を押した。

 その言葉を受けて彼女たちもまた、手を振りながら笑顔を返したのだった。

 

 ゲートを抜けると、そこは先ほどまでいた交易島のゲート前だった。心配そうに待っていたエルドが、ルーモアたちの姿を見て安堵の表情を浮かべる。

 ルーモアが、主人公たちが神々の代行者として邪神と戦うことになった旨をかいつまんで説明すると、エルドはしばらくの間、驚きに目を見開いていたが、やがて深く頷いた。

 

「……話はわかりました。それならば、皆様方が不自由なく過ごせるよう、ワシが拠点を用意いたしますぞ。島の少し外れに、ちょうど良い空き家があってのぅ」

 

 

※※※

 

 

 エルドに案内されて、三人は少し古いが広く清潔な空き家に訪れていた。石造りの壁と、木の温もりが感じられる、落ち着いた雰囲気の家だった。

 

「ここであれば、寝泊りも問題なくできるはずじゃ」

「ありがとうございます……でも本当にいいんですか? こんなに素敵な家をお借りして」

「構わん、構わん。それに皆様方はワシらにとっての勇者様じゃ、ぞんざいに扱うわけにはいきますまい」

 

 そう言うと、エルドは少しだけ寂しそうな顔をしながら微笑んで言った。

 

「この家は、もともとワシの息子夫婦が使っておったものじゃが……今は見ての通りでのぅ。空けておくよりは、皆様方のような勇者様に使ってもらった方が、この家も喜ぶじゃろうて」

「……ありがとうございます。大切に使わせていただきます」

 

 彼の言葉に込められた想いを受け取り、エクアルは改めて深く頭を下げたのだった。

 

 エルドと別れた後、三人はそれぞれ荷物を解き、用意されていた簡素な綿の寝間着に着替える。久しぶりの、ふかふかとした柔らかなベッドに、アキシャは我慢できずにダイブした。

 

「うおー! 中々に寝心地がいいじゃねぇか!」

 

 ベッドの上で大の字になるアキシャ。エクアルとラビリアも、それぞれのベッドに腰を下ろし、長い一日の疲れを癒すように、大きく息を吐いた。

 

「いやー、しかし、いきなり邪神討伐のために神様と契約しちまうなんてな。話が早くて助かるぜ!」

「んー……でも、ちょっと話が出来すぎてる気もするけどね。神様たち、何か隠してないかな?」

「ええ、私もそう思うわ。でも、私たちの目的と、彼らの目的が一致しているのも事実。今はこの流れに乗るのが得策かしら」

 

 エクアルが冷静にまとめる。真面目な話をしていると、アキシャのお腹が再び「ぐぅ〜」と可愛らしい音を立てた。

 

「……シチュー、もう一杯食いたかったな」

「お姉ちゃん、あれだけ食べたのにまだ食べる気なの……?」

 

 呆れるエクアルの隣で、ラビリアがくすくす笑う。

 

「アキシャの胃袋は宇宙に繋がってるからね。仕方ないね」

「んだとラビリア!」

 

 アキシャはベッドから起き上がると、ラビリアのベッドに突進し、その柔らかい頬をむにーっと引っ張った。

 

「ふにゃー、やめてよアキシャ、伸びちゃうー」

「もう、寝る前なんだから静かにしなさいー!」

 

 エクアルが二人の間に割って入り、じゃれ合う姉と幼馴染を引き離す。その光景はどこにでもいる、仲の良い姉妹と友人のそれだった。

 

 やがて、三人はそれぞれのベッドに潜り込む。

 窓の外には、手が届きそうなほど近くに、満天の星が輝いていた。地上とは違う、どこまでも澄み切った夜空。時折、光る鱗粉を纏った夜行性の虫が、窓辺を横切っていく。眼下に広がる雲海は、月明かりを浴びて銀色に輝き、まるで静かな海のようだった。

 明日から始まる、本格的な冒険への期待と、少しの不安。そして、この美しい世界を守りたいという、新たな決意を胸に、三人は静かに眠りにつく。

 こうして、空島世界での長い一日は、終わりを告げたのだった。

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