人になりたい獣とソイツに従う悪魔ども   作:焼き鳥の悪魔

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ホモ・サピエンスとは「賢い人」という意味

産まれて、生きて、気付けばくだらない理由で死んでいた。

起きたら扉と異形だらけの空間だった。

 

後で知ったことだがそこは『地獄』と呼ばれている場所らしい。

 

如何にもこうにもめでたく二度目の人生を手に入れたわけなのだが、私はどうしようもない化け物で、でも心は人間でありたい畜生であった。

 

運が良いことに私は長いこと死なずに、ふわふわしたどっちつかずの生き方を続けながら、地獄と現世を歩いている。

悪魔に溢れた世界をあっちに行ってこっちに行って。時折人の見方をして。たまに悪魔と一緒に遊んだりして。

 

おそらくこの生き方は永遠に変わらないだろう。

 

それでも私はこの世界を生きている。

 


 

20世紀の終わり頃、私は日本の東京、そこでの散歩の途中で見つけた適当なカフェでコーヒーを飲んでいた。

 

近頃は好景気らしく、この日本全体が賑わっている。

今後の経緯がどうなるかは、前世の記憶がすでに擦り減ってしまった身としてはわからないけど、長命な人外としては人類の発展を身に感じることができて「素晴らしいなー」って思っている。

 

まあなんとも陳腐な感想だけれども、友達みたいな詩的な感想を出すこともできないし、奥ゆかしい言葉や賢そうな感じの感想なんて考えつくこともできない。

生まれながらに凡人なんだ、私は。

 

地獄から現世にやって来て知ったことではあるけれど、こちら側では私たちのことは『悪魔』と呼ばれているらしい。

人類が思っている恐怖、それが地獄へと集約されて悪魔、となるんだとか。

 

初めて友達となったデビルハンターが言うには、『悪魔を構成する概念、そこに向かう恐怖が強ければ強いほど、その悪魔が持つ力は強くなる』らしい。

 

例えば私が今飲んでいるコーヒーを例に例えれば、『コーヒーの悪魔』なんていても対して強くないだろう。コーヒーを怖がる奴なんて、コーヒー恐怖症の人間くらいしかいないに違いない。

でもこの店舗のすぐ脇にある路地裏だったら、『路地裏の悪魔』だったらどうだろう。路地裏なんてなんか出てきそうで、ジメジメしていて、虫もいそうで少し怖い。しかも最近、路地裏にうら若き女性が引き摺り込まれた、なんて事件も紙面に乗っている。これだったら相当強い悪魔になりそうだ。

 

そんな感じで一つの概念への恐怖が集約して生まれるのが悪魔、って言うわけ。

そしてそれぞれの悪魔が、その概念に合った異能を持ち合わせている。

 

『未来の悪魔』だったら未来を見通せるし、『狐の悪魔』だったら不意にどこからともなく現れるだろう。『死の悪魔』がいれば、対象を殺せるんじゃないかな。

 

そんな感じの悪魔だけれど、私はとても、とっっっっっっても弱い。

長く生きてるなら強くなっていくのが普通だけど、私の権能はずっと弱いまんま。身体能力とかもそこらの男子高校生どころか男子中学生にすら負けそうな筋力しかない。

 

なんとかヒィコラ言いながら地獄を生き抜いて、いくつものトラウマを抱えながら、『地獄の悪魔』と契約してこちら側にやってきた。

絶対に、絶対に地獄には帰りたくない。

 

・・・いや、たまに悪魔友達に会いたいから帰るけどさ。

 

ともかく今はコーヒーを飲んで、雑誌を読んで、音楽を聴いてスイーツを食べるような一般的生活を謳歌している。

なんと窓ガラスの近くで陽光を浴びながら、ケーキを食べる余裕すらあるのだ。

この悪魔による脅威で溢れた世界であるけど、この国は比較的安全らしくて最高に楽しい。優秀なデビルハンターが沢山いて嬉しいと思うべきか、危機感を覚えるべきか。

 

現状抱えている問題は三つ。

一つ目は私が長寿すぎて、価値観やら考えが古臭いって言うこと。初めてこっちにきた時と二回目の時が違いすぎて降り立った街で異端扱いされて、祓魔師に殺されかけた、なんてこともあったっけ。

二つ目は一つ目と非常に似通っているかもしれないけど、時代の流れに追いつけないっていうこと。この世界は常に悪魔に脅かされ続けているからか、人々は常に生き急いでいる感じがする。最近はこっちでできた知り合いたちからお婆ちゃん扱いされていて大変不服です。

 

三つ目は目の前にいるこの子達。

 

『王よ、このような場所は貴方様に不適でございます。陛下が、この・・・、侘び寂びがある場所を好んでおられるのは重々承知でございますが、少しばかり警備が厳重でないかと。できることならばこちらの我輩が保有する侘び寂びを追求して作らせた古城にーーー』

【君主よ、私としても、このゴミクソバカアホキモトカゲの意見に賛同することは大変不服ですが、提案自体には賛成です。警備だけではなく絢爛豪華な、例えば北欧の、私が保有する小高い丘に作られた庭園はいかがでしょうか。視界に入れるべきでない廃棄物爬虫類の愚案と比較していただければーーー】

『おい、クソ人形!王の前で我輩らの喧嘩を見せるべきでないと先刻決めたばかりではないか!その頭蓋は先刻の協定も守れぬのか!!』

【それでしたら地を這いずり回り万物に不快感を与える底辺のゴミ様、約束を守らなかったのは貴方が先でしょう。君主への提案に私情を挟まないと互いに契約したではありませんか】

『ふん、”我らが王の身を思って”、だ。そこに少しの私情混じれど公私は混ぜておらん。貴様こそ私情を混じらせておるだろう!』

『えぇ、そうですとも史上最低最悪の産業廃棄物殿。私もまた”君主様の御心が少しでも幸せになれば”と考えていたのみです』

『なんだとこのーーー』

【なんですかこのーーー】

 

私がコーヒーのマグカップを置いているテーブルの上で、ギャーギャーと喧しく罵り合っているミニチュアサイズの悪魔たち。

 

よく見れば片方は小さな蜥蜴のような見た目をしていた。

鱗は金で、目は虹色の宝石で、額には小さな黄金の王冠を被りながら、小さな口を大きく開けて尊大な喋り方をしている。

そして彼が、豪華で小さな指輪をはめた指を向けている先には一体の動く人形がいた。

 

視線をそちらへ移してみれば完全な線対象で作られている、白磁でできたような美しい人形が視界に映る。

二頭身のような躯体をしながらも、どこか美しさと恐ろしさを見たものに思わせるこの人形は、蜥蜴とは反対に大きく口を開けることもなければ目を大きくかっぴらくこともなく。

しかし蜥蜴にに対する憎しみを隠そうともせずに、罵詈雑言を言っていた。

 

この子達は私が現世に行くと言った時に、反対しながらもついてきてくれた私の眷属たち。

私にはとてもじゃないが似つかわしくない可愛い子達だ。

 

私のことをすっごい尊敬してくれているけど、とてもじゃないけど誰かと間違えているんじゃないか、って常々思っている。

 

多分だけど間違ってると思う。うん。

 

だって私そんなに偉い悪魔じゃないもん。なんだよ「王」とか「君主」とか「御身」って。

私王族でもなければ貴族でもないって。

根源的恐怖の悪魔ではあるけれども・・・

 

ぼーっとしながら、喧嘩を見ていれば

 

『だいたい貴様はいい加減だ!我と貴様の契約を曲解し、捻じ曲げ!挙句の果てには契約を忘れて無かったことにした時は怒りを通り越して呆れ果てたぞ!』

【何を昔のことを。これだから貴方は頑固で融通が効かないと呆れられるのです】

『あれは100年と少し前だ!馬鹿者め。もういい、10年振りの戦争と行こうではないか!!』

【えぇいいでしょう。今度こそ貴方を首吊りにしてあげます。前々から君主の従者として貴方は相応しくないと思っていたのです】

 

蜥蜴はギシギシと音を立てながら肥大化していく。次第に背中の辺りから大きな羽のようなものが生え始めていた。

一方人形はというと、こちらも肥大化しながら、虚空から本といくつかの道具を取り出し、そして腕が2本から6本へと増えていた。

そして肥大化するにつれてみしみし揺れる机。

 

「ウォル、ラビ!ストップ!私のティータイムが消えるだろ!」

『む』

【あら】

 

そう私が言った途端、シュルシュルと小さくなる蜥蜴、ウォル。それと道具類を虚空へとしまう白磁の人形、ラビ。

 

『申し訳ありません、王よ。御身の憩いの時間を奪ってしまい・・・』

「いいよ、私のためを思って言っているわけだし。もう少し静かにしてほしいけど」

【このクソ蜥蜴が迷惑をかけてしまいなんと申し上げればいいか…、このラビは深く反省しております】

「ラビ、君も反省ね」

【…はい】

 

しゅんとした二人・・・、二体を横目にこぼれかけていたコーヒーを一口飲み込む。

この二体は優秀で、私よりも数百倍強くて、忠誠心も相当高いんだけど、仲が悪いのが最大の傷。これがなければどれほどよかったか。

でもなんとなくだけどこの二体の制御にはなれてきた。

 

私を絡めればいいのだ。

これで大抵のことはなんとかなる。

 

制御できない例外としては、私の命の危険のときとかーーー

 

 

 

突如窓ガラスが割れる。

 

「ひ、ひひっ!俺は運がいい!デビルハンターから逃げてきたら、ちょうどいいところに若い人間の雌がいるじゃねえか!よし、逃げんなよ、俺の血肉になれることを光栄に思うといい!」

 

外から現れたのは一体の化け物だった。

ぎょろぎょろとした馬鹿でかい目を持ち、異様に長い手を持つ5mほどの大猿。名付けるならば「猿の悪魔」だろうか。

 

私は瓦礫の中で現実逃避ばりに考えた。

 

『王よ、ご無事ですか!』

「あぁうん、大丈夫。ラビが咄嗟に守ってくれたっぽいし」

 

そうだ、思い出したけどこの子達には一つ大きくて少し傍迷惑な共通点がある。

 

【私たちの尊大なる君主になんてことを…、これは極刑に値します】

『そうであるな、人と見間違うことも、ましてや御身を害しようとすることなど愚弄の極み!!』

 

私が怪我しそうだったりしたら、めちゃくちゃ怒り出す。

それこそ私のお願いを忘れてしまうくらいには。

 

『【万死に値する】』

 

「できればカフェは破壊しないでもらえると助かるなぁ〜、って・・・」

 

彼らはもう聞こえていないらしい。

破れた雑誌と割れたコーヒーカップを見ながら瓦礫にもたれかかる。

 

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

なんて聞きなれてしまった音楽を聴いて私はため息をついた。




オリ主
相当長生きなお婆ちゃん。
最近(ここ100年)のブームは散歩。
スイーツが大好き。最近の悲劇は大好きなお菓子が販売終了になったこと。

蜥蜴くん
オリ主からは愛称としてウォルと呼ばれている。至上の宝物と思っている本名もあるらしい。
煌びやかなものが好き。王は煌びやかさそのものと思っている。
日本に古城を保有している。

人形ちゃん
オリ主からは愛称としてラビと呼ばれている。悪魔生における一番の誇りと思っている本名があるらしい。
美しいものが好き。君主は美しさの体現だと思っている。
北欧に庭園を保有している。


なんかウィスキーを持ったおっさんに、酒瓶で殴り殺されかけてた。
権能である感覚潰しを使って逃げてきたあと、普通に殺された。そこそこ強い。

おっさん
公安に勤めている酒好きのおっさん。
好きな女性が外国に行ってしまったので未だに引きずっている最中だったから、ヤケクソで殴ってた。視覚聴覚の両方を封じられたが頑張って追えば余裕で殺せたけど、嫌な予感がしたから追わなかった。
時間をおいて向かってみれば、ぐちゃぐちゃの猿の悪魔の死骸があって「おー」って言った。
強い。
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