ファミレス
芦戸と葉隠は正面の席に勢いよく座り、
その向かいのソファ席に、ビーム・デンジ・レゼが横並びで腰を下ろした。
「よーし! じゃあ何頼もうかぁ〜!」
芦戸がウキウキしながらメニュー表を広げる。
デンジは椅子に体を沈めつつ、メニューをチラ見しただけで眉を上げた。
「……俺ら、こういうとこ来るの初めてだわ」
「えっ! そうなの?」
芦戸は驚き、すぐ別のメニューをデンジへ差し出す。
「じゃあじっくり見て! この店メニューめっちゃ多いんだよ!」
「何があんだぁ……?」
デンジは渡されたメニューをバッと広げ――
「なんだぁこれ!!
滅茶苦茶ある!!
オイ見ろよレゼ! ビーム!!」
ページをめくるたび、料理写真が洪水のように押し寄せてくる。
レゼとビームが横から覗き込む。
「ほんとだ……いっぱいあるね」
レゼがくすっと笑う。
「美味そう!! 肉!! 肉!! パフェ!!ビーム全部食う!! 全部!!」
「いや無理だろ!」
デンジが即ツッコミ。
芦戸と葉隠は、楽しそうに顔を見合わせて笑った。
「デンジ君、普段こういうお店来ないんだね」
「来ねぇよ。飯は家だし……
こんだけ写真あるメニューとか初めて見た」
「新鮮〜! なんか良いなぁ、そういうの」
芦戸が身を乗り出す。
「へへ……うまそうだな、あ、」
デンジはレゼへそっと寄り耳打ちした。
「オイ……レゼ、今日どんくらい使っていいんだ」
レゼも小声で返す。
「今日は一人2千円なら大丈夫だよ」
「どうしたの二人とも?」
葉隠が首を傾げる。
「金の確認」
デンジが苦笑交じりに答える。
「なるほどね〜。この店、意外と安いから大丈夫だと思うよ」
葉隠がメニューを指差した。
デンジは思わず感心の声を漏らす。
「やっす……みろよレゼ」
「ほんとだねデンジ君。安心して頼めるね」
レゼが柔らかく微笑んだ。
「俺、肉食いてぇ。ハンバーグ、ピザ……」
「私は……これにしようかな」
レゼは和風ハンバーグを指差す。
「へぇ、レゼって案外そういうの選ぶんだな」
デンジが目を細める。
一方ビームは――
「ビームはこれ! これとこれとこれ!!」
「絶対無理だっての!」
デンジのツッコミに、周囲は笑いに包まれた。
芦戸がメニューを閉じ、手を叩く。
「じゃあ、こうしよ!みんな好きなの頼んで交換ね!」
「良さそうだねデンジ君」
レゼはデンジの腕にそっと触れながら頷く。
その瞬間――
「「ひゅ〜〜〜♪」」
芦戸と葉隠が揃って口笛を吹いた。
「やめろっての!!」
デンジは顔を真っ赤にして机を叩く。
レゼが困ったように笑いながら囁く。
「二人とも楽しんでるだけだから」
「分かってるけどよ……慣れてねぇんだよ……」
その照れた反応が可愛くて、芦戸は悶絶する。
「あ〜〜〜青春してる〜〜!!」
葉隠も透明な腕をぶんぶん振る。
「デンジ君、照れてるの可愛い〜!」
「うるせぇ……」
そこへ店員が注文を取りに来て、
テーブルはますます賑やかになっていった。
しばらくして、料理が次々と運ばれてくる。
全員が一口食べたところで、
ようやく会話が落ち着いた。
芦戸がふと、レゼへ視線を向ける。
「ねぇレゼちゃん。
さっき思ったんだけど……お金の管理、
全部レゼちゃんがやってるの?」
レゼは少し驚いたように瞬きをした。
デンジはスプーンを止め、横目でレゼを見る。
レゼは軽く息を吸って、昔を思い出すように答える。
「うん。昔から……デンジ君は私に任せてくれるから。私たち、ずっと一緒に暮らしてきたし……自然と、ね」
芦戸と葉隠は顔を見合わせる。
「え、ずっと? 小さい頃から?」
「一緒に暮らしてるって……どんな感じ?」
レゼは一瞬だけ視線を伏せた。
その小さな仕草だけで、空気が少しだけ静かになる。
デンジがゆっくりレゼを見る。
レゼは苦笑しつつ、少しだけ正直に続けた。
「……まあ、私たちずっとスラムで暮らしてたから。
最近、保護施設に入って……やっと普通の生活に慣れてきたとこ」
「俺達、義務教育とか受けてねぇからな」
デンジがボソッと付け足す。
芦戸の笑顔がふっと曇る。
葉隠も静かに肩を落とす。
空気が、ほんの少し沈む。
その気まずさを破ったのは――ビームだった。
「 レゼ様とチェンソー様は!!
ビームにとって光!! 光!! あの時助け――」
「やめろビーム!!」
デンジが慌てて押さえる。
(あっぶねー……昔やってた仕事は言っちゃダメだって言われてんだよ)
芦戸と葉隠がぽかんとし――
次の瞬間、ふっと柔らかく笑った。
「……そっか」
「なんか今ので分かった気がする」
芦戸は優しく微笑む。
「レゼちゃんもデンジ君も……ビーム君も。
大変だったのに、ちゃんとこうして笑ってるんだね」
葉隠が透明な手でテーブルをトントン叩く。
「うん。そんな状況からでもヒーロー目指すって……普通にカッコいいよ」
レゼは少し驚いて、そして照れくさそうに微笑む。
デンジは耳まで赤くしながら――
「……いや、別にかっこよくねぇよ」
と小さく呟いた。
その空気を切り替えるように、芦戸が手を叩く。
「よし! 暗い話おしまいっ! 過去より今でしょ今!じゃあデザート頼も!!」
「賛成〜! パフェいこパフェ!」
葉隠が元気に手を挙げる。
ビームも勢いよく両手を上げる。
「パフェ!! ビームは特大を所望!!」
「そんなのねぇよ!!」
デンジが即ツッコむと――
テーブルの笑い声が一気に戻った。
レゼはそんな4人を嬉しそうに見つめながら、
そっと微笑む。
「……ありがとう。みんな優しいね」
そして、ファミレスのテーブルには再び温かい笑い声が満ちていった。
帰り道
ファミレスを出ると、外の空気は少しひんやりしていた。
街灯の下、5人は並んで歩く。
店内でわいわい騒いでいたテンションも、外に出ると少しだけ落ち着いていた。
「じゃあ、時間も時間だし……この辺で解散しますか!」
芦戸が立ち止まり、くるっと振り返る。
「え〜、もうこんな時間か〜」
葉隠が空中で腕を伸ばすように背伸びをする。
「明日も学校あるし、今日は仕方ないね」
「今日はありがとう、二人とも」
レゼが頭を下げる。
「ご飯もおしゃべりも……すごく楽しかった」
デンジもポケットに手を突っ込んだまま、ぼりぼりと頭をかく。
「……まあ、その、なんだ。飯、マジでうまかった。
ありがとな」
「また来たい! 来たい!」
ビームは、なぜかその場でくるくる回っている。
「パフェ! 肉! また食う!!」
「ふふ、ビーム君も楽しんでくれたなら良かった〜」
芦戸が嬉しそうに笑う。
「私もだよ」
葉隠が、見えない笑顔を声だけで表す。
「そうそう! 学校終わって、そのまま真っすぐ帰らないでさ、友達と寄り道して、くだらない話して、ご飯食べて……」
芦戸は両手を広げてくるくる回る。
「なんか、すごく楽しかった!」
「……うん。私も」
レゼは少し目を丸くしてから、ふわっと微笑む。
「“普通の放課後”って、こういう感じなんだね」
その言葉に、デンジが横目でレゼを見る。
(普通、ね……)
ずっと自分たちには縁がないと思っていた言葉が、
今こうして隣にある。
「これからもさ」
葉隠が一歩前に出る。
「また一緒にどこか行こうよ。ファミレスでもカフェでも、何でも!」
「賛成〜!」
芦戸が元気よく手を挙げる。
「次は放課後カラオケとかどう? デンジ君の声、なんか出そうだし!」
「やだね」
デンジは即答する。
「歌なんか知らねぇし……」
「え〜ケチ〜! でもいつか連れてくからね〜!」
芦戸は楽しそうに笑う。
「……予定、合わせるね」
レゼが静かに言う。
「デンジ君と、ビーム君と、三人の都合も」
「チェンソー様、レゼ様が行くならどこへでも!」
「おう」
デンジは短く返す。
「レゼが行くなら、どこでも行ってやるよ」
その返事に、芦戸と葉隠は顔を見合わせ――
「「約束だからね〜!!」」
と声を揃えた。
小さな交差点で、自然と進む方向が分かれる。
「じゃあ、こっから先は私達、こっちだから」
芦戸が手を振る。
「また明日、学校でね!」
「気をつけて帰ってね〜!」
葉隠も透明な腕を大きく振る。
別れ際、芦戸がふと思い出したように言う。
「そうだ! デンジ君、レゼちゃん、ビーム君!
学校で困ったことあったら何でも聞いてね!
あと……学校の楽しみ方も教えてあげる!」
葉隠も続ける。
「うん! 特にクラスのことは任せて〜!」
「うん、二人ともありがとう」
レゼがぺこりと頭を下げる。
「サンキューな」
デンジも軽く顎を上げた。
「シャ! シャ!!」
5人は手を振り合い、芦戸と葉隠の背中が街灯の向こうへ消えていく。
少しだけ静かになった夜道に、
三人の足音だけが残る。
「……ふふ」
レゼが小さく笑った。
「なんだよ」
デンジが横目で見る。
「ううん。なんか……変な感じ」
レゼは夜空を見上げる。
「学校終わって、友達とご飯食べて、笑って帰ってきて――
それが、すごく嬉しいなって」
「シャ。レゼ様、嬉しいならビームも嬉しい」
デンジは頬をかきながら、ぼそっと呟く。
「……まあ、悪くはねぇな。こういうのも」
レゼはその言葉に、そっと微笑んだ。
三人の影が、街灯に照らされて長く伸びて、重なり合う。
その夜――
“普通の放課後”という、今まで知らなかった時間が、 静かに、三人の中へ刻まれていった。
書いていたら、部活終わりにファミマの駐車場で食べたファミチキとか、放課後にサイゼやマック、カラオケで過ごした思い出が一気によみがえって、書くの遅くなりました。