宝生マーゴと【愛】に向き合う話です。
対戦よろしくお願いします。
本作は男性のオリ主が登場し、場合によっては恋愛感情or恋愛関係も生まれ得ます。
カップリングを不用意に乱すつもりはありませんが、解釈違いにはご注意ください。
牢屋敷の新管理人(1)
宝生マーゴは、本日何度目になるかもわからない溜息を吐いた。
月代ユキと氷上メルルが中心となって起こった、魔女裁判に纏わる事件。
地獄のようなあの一件が片付いてから、おおよそ1か月の時間が経った。
牢屋敷の島には、未だ数十名の元魔女たちが残されている。
宝生マーゴ、城ヶ崎ノア、夏目アンアン。
あの事件を終わらせた当事者たちである、三人に加えて……。
なれはてとして冷凍保存されていた元魔女たちが、社会復帰のためのリハビリや研鑽、あるいは戸籍情報の改ざんの時間待ちをしているのだ。
全員が思春期の年頃の少女である。元魔女たち。
そんな彼女たちを取り仕切っているのが、誰あろう宝生マーゴだ。
若干15歳でありながら弁舌が立ち、思慮深く……良くも悪くも、人を信頼しない。
故にこそ、この混沌としかねない元魔女だらけの牢屋敷を取り仕切ることができたのだ。
マーゴ自身、そこに不満はない。
「私なんかより、エマちゃんやヒロちゃんの方が向いてるわよねぇ」と思わなくもないが、彼女たちは本土へと戻って行ったし……。
結局は誰かがしなければならないことであるため、日々トラブルの解決や仲裁、元魔女たちへの仕事の分配に追われている状態だ。
幸いなことがあるとすれば、ノアやアンアンがマーゴに協力的だったことだろう。
魔法という力こそ失ったが、あの地獄のような日々の中で培ったものは、確かにあったらしい。
気まぐれで芸術家気質の強い彼女たちではあったが、マーゴの仕事に無理が出る頃になれば、何気なくその一部を奪っていく。
……結果として更に状況が混沌とすることもあったが、そういう時でも、マーゴの心は不思議と軽くなったものだ。
そんな、いつかは嫌っていたはずの、平凡で平和な日常。
けれどそれは、元魔女たちと共にある今、何故だか彼女の心を癒してくれていた。
……が。
そんな平穏な日々に、一昨日、亀裂が走った。
【明後日、牢屋敷に管理人が向かいます】
そんな、国からの通達が届いたのだ。
……【管理人】。
その言葉を思うたび、マーゴの脳裏には苦々しいものが過る。
おおよそ1か月前まで、この牢屋敷には管理者がいた。
その名を、ゴクチョー。
氷上メルルの使い魔であったという、おかしな鳥モドキ。
マーゴたちは、アレに大きなストレスを負わされた。
苛立ち、苦しめられ、精神を追い詰められた。
だから、表にこそ出さないものの、マーゴとてあの鳥に思うところがないわけではない。
特に一周目──彼女たちがそう呼んでいる、絶望ばかりだったあの記憶を思えば、到底【牢屋敷の管理人】に良い印象は抱けない。
そんな【管理人】が牢屋敷に来るというのだから、彼女たちの困惑と警戒もむべなるかな。
急激な環境の変化に弱いアンアンは勿論、普段は能天気で気ままなノアでさえ、「どんな人が来るのかなぁ」と不安げに視線を揺らしていた。
魔女の呪縛を打ち破った彼女たちですらそうなのだ。
元なれはてである被害者たちの中には、無根拠に「あの日々が、魔女裁判が戻って来るんじゃないか」と恐慌に陥る者まで出て来る始末。
マーゴは昨日、アンアンやノアと共に、その始末に殆ど丸一日走り回ることになった。
そんな経緯もあって、マーゴの内心での不信感は、もはや爆発寸前であった。
もっとも、彼女は元より誰も信じてはいないのだが……一線を越えようとしている、という表現が正しいか。
表面上は飄々としているマーゴではあるが、彼女もまた15歳の少女だ。何があってもストレスを感じない、というわけではない。
むしろ、ここしばらく精神的に落ち着いていたこともあって、急激な負荷は彼女の精神を軋ませる。
内心に不安な感情を抱いたのは、むしろ自然なことと言えただろう。
勿論、表情の取り繕いに長けたマーゴだ。
動揺を露骨に表に出し、少女たちの不安を煽るようなことはなかった。
……ただ、天性の直感により人の嘘に敏感なノアだけは、「大丈夫?」とマーゴを気遣ってくれたが。
ともあれ、牢屋敷の元魔女たちに、新たな管理人の受け入れ態勢が整っていたとは言い難く。
まともに心の準備を整えられもしないままに、その日は来てしまった。
* * *
牢屋敷の周囲を囲っていた、巨大な塀。
これは魔女の呪縛を解き放ってすぐ、政府の協力の元、取り壊された。
無論、牢屋敷の島において、彼女たちが囚われていた要因はそれだけではない。
洗脳されたなれはてによる看守の恐怖、そして広大な海という地理条件もまた、彼女たちを苛んでいたのだが……。
魔法のかかった巨大な塀は、彼女たちに目に見える形で心理的圧迫感を与えていた。
故にこそ、これを打ち破り、海の彼方の地平線まで睥睨することは、彼女たちに明確に「解放されたのだ」という実感を与えたのだ。
……そうして、今。
打ち壊された塀の先、地平線の彼方から、一台のクルーザーが島に向かって来る様が見えた。
世間から切り離されたこの島のことは、極々一部の人間しか知らない。
迷いのない進路から、そのクルーザーが政府……国の関係者であることは明白だった。
最初にこれを発見した元魔女の少女は、すぐさま他の少女たちに伝達し……。
クルーザーが浜辺に寄せられる頃には、少女たちは殆ど全員、牢屋敷の前で、まるで敵を待ち構えるかのような雰囲気で並んでいた。
無論、その先頭に立つのはマーゴ。
そのすぐ傍には、アンアンとノアが控えている。
そして、彼女たちの殆どが「もしも」を考えて、武器になるものを隠し持っている。
【そんなこと】はないと、信じたいが……。
彼女たちは既に一度、国に裏切りられ、こんな場所に送り込まれたという過去を持っていた。
信じるのならば、この場にいる自分と同じ境遇の少女たちであり、国から送り込まれた管理人ではない。
「大丈夫……だよね?」
「安心せよ。ノアも、マーゴも、わがはいが守る」
不安そうに呟くノアの手を、アンアンがきゅっと握り、微かに微笑みかけた。
その瞳の中に、けれど誰より強い恐れの念があるのを見て取って……マーゴはいつもの余裕の笑顔を顔に貼り付けて、言った。
「ふふ……アンアンちゃん、そう言いながらも不安そうね?
いいわぁ、あなたみたいな可愛い子のそういう表情、食べちゃいたいくらい素敵よ♡」
「かっ、揶揄うな、マーゴ!」
「わあ、アンアンちゃんまっかー! 蝶々になっちゃうよ?」
「その魔法はもうなくなっただろう……!」
顔を赤くするアンアンとからから笑うノアに、マーゴはくすりと笑みを漏らす。
かつてのように、一人ではない。
共に不安を共有し、それでも共に立ち向かおうとする……仲間が、いる。
それは何も、ここにいる元魔女たちだけではない。
あの地獄の日々を共に歩み、最後には共に大魔女と対峙した者たちがいる。
彼女が信じたいと思えた少女が、彼女を信じていると言ってくれた少女が……。
もしかしたら、彼女たちなら自分を裏切らないんじゃないか、と。
そう思えた少女たちがいる。
だから、宝生マーゴは戦うだろう。
もしも彼女たちが害されるようなことがあるのなら、どんな手を使ってでもその障害を取り除こうと。
……実際、今からそうなるかもしれない、と。
彼女は、後ろ手に隠し持つ儀礼剣を、きゅっと握りしめた。
* * *
そうしてついに、その時が来る。
クルーザーから、一つの人影が降りて来て。
警戒を露わにした少女たちに、歩み寄る。
果たして、その人影は……。
「や、どうも、元魔女因子持ちの子たちだよね。
これからあのお屋敷の維持管理と衣食住の提供、各種雑務、それから政府と君たちの窓口を担当することになる、樋口ミオンだ。
ま、どうぞ程々によろしくね」
恐らくは、彼女たちと同じくらいの年頃らしい……。
穏やかな笑みを浮かべた、白い髪の少年だった。
毎日一話投稿していきます。
でもストックが切れたらゆっくりになります。
【作者に計画性なんてないよ!】
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