嘘吐少女ノ魔女愛談   作:アリマリア

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或るものの重量について(5)

 

 

 

 マーゴの私室は、分厚いカーテンや薄紫のレースによって、四方を囲われている。

 

 まるで怪しげな占いの館のような装いだが……。

 実はこれは、ミオンに取り寄せてもらった防音性の布。

 しっかりと閉めれば、中の会話が外へ漏れないようにできる。

 

 過去の苦い経験から油断なく為した施策だったが、今回はそれが役立つこととなった。

 

 

 

「すまないな、時間を取ってもらって」

「構わないわ。ヒロちゃんが直に会ってするくらい、大切なお話なんでしょう?」

 

 深夜、マーゴの自室にやってきたヒロは、見慣れない様相に驚きつつも、勧められた椅子に座る。

 1周目のマーゴは、自分たちの独房にこれに似た装飾を施していたのだが……。

 あの世界では早々に退場してしまったヒロにとっては、これをその目で見るのは初のことになるか。

 

 そんなことを思いながら対面に腰かけたマーゴは、机に顎杖を突き口を開く。

 

「さて……いらっしゃい、ヒロちゃん。まずは景気付けに、占いでもどうかしら?」

「いらんいらん。君の性格からして、良い結果は出そうにないし」

「あら、手酷い評価ね♡」

 

 まあ、その判断は正しいのだが。

 

 マーゴは詐欺師。嘘を吐き、人を騙す者だ。

 当然ながら、占いだってその手段の一つ。

 【愛】を以て人を破滅させる、その為には占いの結果を偽装することもやぶさかではない。

 

 あるいは……まかり間違えていれば、あの魔女裁判の一件でも、彼女がそれを披露した可能性もあったかもしれない。

 そうならなかったことに、マーゴは内心、少しだけ安堵していた。

 

 

 

「さて、時間を浪費するのは正しくない。話を始めよう」

「いいけれど……確か、管理人さんのお話だったかしら。

 そういえばヒロちゃん、管理人さんのこと、大層信頼しているみたいね」

 

 からかい半分、マーゴはそう切り出す。

 

 二階堂ヒロは、自他共にかなり厳しい少女だ。

 【正しさ】を絶対とする彼女は、規則規範を乱す存在を許さず、また自分がそうなることも許さない。

 

 そんな彼女が、しかしミオンに対して、気安い微笑の交換を行っていた。

 そこには、確かな評価と信頼が感じられる。

 

 

 

 対し、ヒロは苦笑しながら頷いた。

 

「流石と言うべきか、良く見ているな。

 ああ……私はミオンを高く評価している。彼は極めて【正しい】人間だからな。

 力を持ちながら驕らず、常に弱者救済と事態収拾のために奔走している。そうできることじゃないだろう」

「確かにねぇ」

 

 樋口ミオンは、この魔女の絶滅した世界で、おおよそ唯一魔法を使える存在だ。

 それに、魔女因子による魔女たちと違い、行使し得る魔法は数多く、また効力も凄まじい。

 

 本気でやろうとすれば、国家転覆……。

 いいや、やりようによっては、世界征服さえも目ではないだろう。

 実際、最後の魔女たる月代ユキは、全人類を皆殺しにする計画を立て、それを完了させかけたのだから。

 

 けれど、彼はそうしていない。

 力によって他者をねじ伏せるのではなく、あくまで対等な立場から、相手を助けることを望んでいる。

 

 それはきっと、ヒロの【正しさ】に沿うものなのだろう。

 ……マーゴからすれば、共感できないものではあったが。

 

 

 

「先般彼が訪ねてきた際に、色々と話してな」

「ああ、火かき棒を振り回したっていう」

「いや、それは彼がいきなり……いや、もういい。あれは私が正しくなかった。非を認めるとも。

 とにかく、その時に色々と話して、彼は信頼できると感じた。

 君たちの残る牢屋敷の管理人になっても、おかしなことなどせず、君たちの助けになるだろうと。……まあ、私もその恩恵に預かることになってしまったが」

 

 ヒロの予測は的中していた。

 

 ミオンはたったの3か月で、牢屋敷の少女たちにとってなくてはならない存在になっている。

 いいや、それどころか……先程聞いたヒロの話が正しいのなら、彼は本土に戻った少女たちのサポートも行っているようだ。

 その働きは、確かに魔女だった少女たちを助けていた。

 

「実際、彼は上手くやれているだろう?」

「そこに関しては、なんら否定できないわね」

 

 ミオンの活躍は、おおよそ考え得る限り、最上のものだろう。

 仮に魔法というファクターを取り除いても、疑心暗鬼に陥っている少女たちと、殆ど敵対と言っていい関係性から、ほんの1か月で友好関係を築くに至ったのだ。

 

 細やかな気配りと配慮、未来予知じみた地雷回避、適切な仲の取り持ち。

 長い時間をかけて形成したのであろう、確かな人心掌握の手管を感じさせた。

 

 

 

 語りながらも、マーゴは取っておいた紅茶を淹れた。

 

 刺激の多い本土と比べ、この離島は穏やかで、しかし時に退屈にもなる。

 彼女はそれに心を窶さないよう、紅茶を筆頭とするいくつかの趣味を持っていた。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

 

 ヒロはそれを一口、温かい微笑みを浮かべ、頷く。

 どうやら、その御眼鏡に合うだけの味だったらしい。

 

 ……そして、それを区切りとして。

 彼女はそれまでの軽妙な雰囲気を収め、本題を切り出した。

 

「……さて。そんなミオンに関してだが。

 まずは、こう聞こう。どこまで知っている?」

 

 意味深でありながら、直球でもある言葉。

 マーゴはその意図を素早く読み取り、返答を投げ返した。

 

「管理人さんの正体については聞いたわ」

「なるほど、安心した。私と殆ど同じだけの認識だな」

 

 頷くヒロ。

 どうやら、ヒロもミオンの正体……彼が原初の魔女の子孫であることを知っているらしい。

 

 

 

「あなたにも伝えていたのね。もしかしたら私だけかもしれない、なんて思っていたけれど」

「私も正直、そう思っていたよ。本土に帰った者の中では、私だけが知らされているらしいしな。

 察するに、ある程度落ち着いて物を考えられる者を選んで伝えているのだろう。

 無用に伝えても混乱を生むだけ。ある程度みんなを落ち着けられる者には真実を、と」

 

 マーゴは、なるほど、と頷きつつ。

 同時、「その点で言えば、きっと私よりヒロちゃんの方が評価が高いのでしょうね」とも思う。

 

 マーゴはミオンから、すぐに出自を聞かされたわけではない。

 1か月管理人室に通いつめ、ようやく聞き出すことができたのだ。

 

 対し、先程の話からして、ヒロには最初に会った時に話しているらしい。

 ミオンはヒロを、とても高く評価しているのだろう。

 

 そしてそれは、当たり前でもある。

 なにせ、ミオンも追っていた魔女因子の事件は、彼女によって解決されたのだ。

 

 自らの【禁忌】を踏み越え、憎悪を捨て去り、あの日の嘘を本当にして、彼女は事を為した。

 それにどれ程凄まじい自制心が必要なのか……正直なところ、マーゴからすれば想像に絶する。

 そんな彼女だからこそ信頼を置かれ、ミオンから事情を打ち明けられたのだ。

 

 ……少しだけ、目の前の【正しい】少女が、眩しく思えた。

 

 

 

 しかし、ヒロが事情を知っているのなら好都合だ。

 ヒロがマーゴに話があるように、マーゴもまた、ヒロに相談したいことがあったのだ。

 

 このところ、ずっと胸につかえている事実。

 あの日の夜に言われた言葉について。

 

 どうやら今回の主題は、ミオンの正体について知っているかの確認、そして情報共有だったのだろう。

 「君には知らせておくべきだと思ったんだ。知っているなら問題はない、時間を取らせてすまなかったな」と言うヒロに対して。

 マーゴは、言葉を投げかける。

 

「あのね、ヒロちゃん。私も一つ、相談に乗ってもらっていいかしら」

「ん……構わないが」

 

 少々意外だと言いたげに、ヒロは片眉を上げる。

 

 マーゴとしても、柄にもないことをしている自覚はある。

 相手への何かしらの思考誘導でもなく、自らの不安を誰かに明かすなど、全く以てマーゴらしくない行動といえるだろう。

 

 けれど、今回に関しては、それをする必要があった。

 彼女だけでは、どうしても答えの出せない悩みだったが故に。

 

 

 

「彼のルーツを聞いた時、私はもう1つ……彼の目的を訊いたのよ。

 短期的な目標ではなく、最終的な目的。何のために私たちをサポートしているのか」

「ふむ……それは私も聞いていないな」

 

 例えばそれに、「金のため」と答えられたなら、マーゴは安心していただろう。

 逆に言えば、金の切れ目が来るまで、縁も切れることはないのだと。

 

 あるいは贖罪と言われたら、それも良かったかもしれない。

 この行為を通して自分の心を救うためだと、あくまで利己的なものなのだと言われれば、マーゴにも理解し得る範囲のものだったから。

 

 もしくは、単に国からの命令だからと、そう答えられても良い。

 ただ命令に従うだけで自分の意思がないというのなら、それもまた御しやすいのだから。

 

 けれど……ミオンの答えは、そのどれでもなかった。

 

 

 

「【愛したい】、んですって。私たちを」

 

 

 

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